軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百八十三話 爆弾を落とそう

カールの話を出した途端に白き一団の顔が固くなった。

その微妙な空気はオロチたちにも当然伝わったようで、オロチは首を傾げながらミナカの方を見たがミナカは肩をすくめて首を横に振って返した。

そのことから少なくともミナカには白き一団のリアクションの意味が分からないようではあったが、ともあれカールの件で何かしら思うところがあったのだろうとオロチは考えた。それはつまり、カールの対応に問題があったということであり、オロチは風音に再度向き合って頭を下げた。

「すまないな。カールについてはあなたがたが呆れるのも無理はないのだろうが、あいつも悪いヤツではないんだ」

「ええと、うん。そうだね。悪い人ではないと思うよ」

血は争えない……というだけのことなのだ。話がかみ合ってないと感じたが説明すると面倒なことになりそうだとも思った風音は、やむなく話題を変えることにした。

「そんで依頼の方はこちらも承知したからね。さっきの馬車でオロチさんたちも現地まで送る予定だから到着時間についても問題はないと思うよ」

「しかし、我々にも馬車が……」

風音の言葉に反応したのはオーボエだったが、それには横からミナカが口を挟んだ。

「カザネたちの馬車の速度はタケチカよりも速いですよ。タケチカに無理に走らせる意味もありませんし、ご好意は受けておいた方が良いでしょう」

そのミナカの言葉にオーボエとロイが驚きの顔をする。ハイプラズマパンサーのタケチカが牽く高速馬車は他の馬車よりも遙かに速い乗り物で、レイブンソウルの自慢のひとつでもあった。

ふたりは先ほどのサンダーチャリオットの物々しさに驚いていたのだが、よく考えてみればよほどの速度で移動していなければこの時間帯にミナカたちがここに着いているはずがないのだ。元々ミナカとカールの帰還予定は早くとも今日の夕刻頃であったはずなのだから。

対してオロチの方はすでに白き一団の情報を得ていたのだから、そのこと自体には特に驚きは見せなかった。白き一団の街と街の移動日数は冒険者ギルドなどでも記録されているし、実はそうした情報から白き一団のおおよその移動速度も割り出されてもいた。

「分かった。そちらの馬車に乗せていただこう」

「うん。よろしく」

風音の言葉にオロチが深々と頭を下げる。

「よろしく頼む。それで、先ほどの挨拶でも見なかったのだが、そちらはジンライさんは今はここにはいらっしゃらないのか?」

「ああ、後でくるよ。弟が『 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) 』を持ってるからね」

風音の言葉にオロチが目を細める。横でロイやオーボエ、ミナカがなんのことだか分からずに首を傾げているがオロチだけは「なるほど」と言葉を返した。それから両腕をあげてジャラリとした黄金の鎖を見せた。

「ということは、これのことも当然知っているのだろうな」

「 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) 。私の 紅の聖柩(クリムゾン・アーク) と同類のアーティファクトだよね」

風音が腰に下げている 紅の聖柩(クリムゾン・アーク) を持って、オロチに見せる。

「おい、オロチ? どういうことだ?」

「どういうというか……彼女と、そちらのユミカさんもかな? 彼女らは俺と同郷の異邦人……ということのようだ」

ロイの問いにオロチが答えると、レイブンソウルのメンバーが驚きの顔で風音と弓花を交互に見た。

(おんや?)

その反応からどうやらロイたちもオロチの方の事情は多少知っていたようだと風音も気付いた。それはオロチがそうした事情を明かすほどに仲間を信頼している証でもあった。またオロチの方も動揺のない白き一団の反応から同様の感想を得たようであった。

「ふむ。どうやら似たような境遇のようだな、俺たちは」

「ん、そうかも」

オロチの言葉に風音も同意する。

「とはいえ、この境遇の話となると少しだけ込み入ったことにもなりそうだ。同郷人同士だけで少し話し合ってみたいと思うのだがどうだろうか?」

「うん。いいよ」

オロチの提案には風音も間髪入れずに快く頷き、その横にいる弓花も風音の反応を見てから頷いていた。それにはミナカが若干の緊張した顔でオロチを見る。それはオロチが白き一団に対して何かしらの懸念を抱いていることを知っているからこその反応だが、オロチの方は少しだけ笑って「大丈夫だ」と口にした。

オロチにも目の前のチンチクリンに害意などないぐらいが見ていて分かっている。それに最大の懸念であった 真実の目の額飾り(ホルスアイ・サークレット) の所持者でもないと判明したのも大きかった。アーティファクトを見せたのは風音だけだが、弓花も 神狼の腕輪(フェンリルリング) を特に隠さずに身につけていてオロチにはそれもすぐに分かったのだ。

◎レイサンの街 セスの宿屋 二階部屋

「まあ、掛けてくれ」

「ここ、オロチさんたちが泊まってる部屋?」

「そうだ」

オロチの誘いにより、風音と弓花のふたりは彼らの泊まっている部屋へと案内された。他のメンバーは一階で待機中である。

「一応言っておくと、うちもプレイヤーのことは知ってはいるよ」

この世界においてのプレイヤーの立場、遠い場所より来た異邦人ということはレームにも教えている。

「ああ、そうだろうな。それとお前たちはこの一年内にここに来たようだな」

「よく知ってるね」

「白き一団の噂から考えてそう判断しただけだ。弟の方はそれ以前から話題にはあがっていたようだから違うのだろうが」

その言葉に風音が「なるほど」と頷いた。白き一団の活躍はここ一年内に集中しているのだから分かりやすい推測ではある。

「それで話って何かあるの?」

「いくつかあるが、その前に確認をとらせてもらいたい。お前たちが王族を人質にとってるというのは本当か?」

ブフォッと風音と弓花が噴いた。

「何それ?」「どゆこと?」

唐突な話に風音と弓花が目を白黒とさせているところに、オロチが意外そうな顔で尋ねる。

「知らなかったのか? そういう噂があがっているぞ。白き一団はツヴァーラとトゥーレとハイヴァーンの王族を人質にとって権力を己のものとして振るっていると」

「えーと、ハイヴァーンに王族はいないはずだけど?」

「次期大公候補だ。確か名はライル・バーンズと言ったか」

「大公候補……そういえばそんなことを言っていたような」

東の竜の里に行った際、ジライドがライルにハイヴァーンの重要な役職に就かせるとかそんな話をしていたのである。ライル本人がめんどくせーと口にしていたのは風音も憶えていた。

「えーと、その情報ってどの程度広まってるの?」

「上級貴族の一部と言うところだな。昔、仕事で得た伝手から聞いたものだ」

「なるほどー。まあ、誤解になりそうな状況ではあるけど」

実際にメンバーにいるのは事実である。ついでにいえば、レームに関しては実態はどうあれ、そこまで的外れな認識ではない。

「それはどういうことだ?」

「うーん。同じプレイヤー相手でも話せることと話せないこともあるよね。特に政治やらなんやらメンドイ話が絡むから、私はあまり触りたくないし、オロチさんもその情報源の出元を教える気はないでしょ?」

そうした面はきっちり線引きする必要がある。ついでにいえばプレイヤーであるゆっこ姉がユウコ女王である点に関してはやはり風音からは明かせられない。他にも神竜皇后や魔王のことなどプレイヤー同士とはいえ容易に話せないことも多々ある。風音は謎めいた秘密の多い女なのだ。

「まあ、それは分からないでもないが」

「ま、こっちに後ろ暗いとこはないけど、あまり探ってると刺されるかもしれないから気をつけてね」

その言葉にはオロチも若干ひるむ顔を見せたが、風音の忠告もまた、国が絡む以上ただの事実でもある。対してオロチも風音たちに対する信頼度こそ下げたものの「何かしらあくどいことをしているからそう言うのではないか?」などと短慮に走ることもなかった。

「それと、こちらからも質問したいんだけど良いかな?」

「なんだろうか?」

「うん。オロチさんってゴルディオスの街のA級ダンジョンを攻略してるけどさ、それって元の世界に戻るためかな?」

その風音の言葉にはオロチも目を見開いたが、すぐに平静を取り戻して強く頷いた。

「それも知っているのか。そうだな。俺は元の世界に戻るためにダンジョンに潜っている」

そう言ってから少し考えてから、オロチはさらに話を続ける。

「実は俺は今までふたつのダンジョンを攻略していてな。今回でみっつめのダンジョンとなるのだ」

その話には風音と弓花も身を乗り出した。

「最深層で元の世界への扉だか穴だかがあるって話だけど、これまでのダンジョンには穴はなかったの?」

「いや、ひとつめのC級ダンジョンでは見つけた。穴と言えば穴か。天井にポッカリとここではない世界が広がっていた。が……そこは俺たちの世界ではなかった。この世界とも少し違うようだったが、少なくとも別の何かだった。戻ってこれる確証もなかったから入りはしなかったがな」

「……そうなんだ」

風音と弓花が少しだけ肩を落とす。

「二つ目のダンジョンでは穴は出てこなかった。だから今度はA級という、より深いダンジョンを選んだのだ。繋がる異世界はひとつではないと聞いているから状況の違うダンジョンならと思ったのだが」

その言葉に風音も「なるほどね」と頷く。それは確かに以前に聞いた情報とも一致する話であった。そして風音の方も知っていることを告げることにした。

「とりあえず情報源は伏せるけど、少なくともあのダンジョンは私たちの世界に繋がってたことはあるみたいだよ。実際に見た人がいるから」

その言葉に今度はオロチが身を乗り出す。

「それは確かか?」

「うん。見たのは確からしいよ。だから私たちは最深層を目指してるわけ」

「元の世界に戻るために……か」

「今更あっちの生活に戻ろうとも思ってないんだけどね。お母さんやお父さんに、友達とかもいるし話もしたいから」

そう風音は言った。今の風音は以前よりもこの世界にいることを強く考えるようになっていた。いくつものしがらみも増えている。それはもう弓花にしても同様だった。

「そんなわけで私としてはこのクエストだけではなく、ダンジョンの方でも共闘を望みたいんだけどね。どうかな?」

「それは抜け駆けしてしまわないようにということか?」

ダンジョンというものは最深層の心臓球を入手、或いは破壊してしまうと消失する。異世界に繋がる穴がどういった現象なのかは不明だが、ダンジョンのコアである心臓球がなくなれば、おそらく消滅するのではと予測されていた。

「まあそういうことだね。後は私たちがあっちの世界にいけた場合、こっちの世界との移動も可能になるから、優先的に行かせて欲しいってのもあるよ」

直樹か、 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の刻印を刻んだ風音、或いは刻印を刻んだ誰かが穴に入れれば良いのだ。それが両世界の移動を前提とした、風音たちの帰還の絶対条件であった。

「それは……いや、 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) か。それが可能だというのか?」

そして、自らの推測に動揺するオロチに風音が頷く。

「ハイヴァーンの神様であるノーマンさんのお墨付きだから大丈夫だと思うよ。ダンジョンが存在する限りは繋がるって言ってた」

「つまり神は元の世界を認識していたということか」

オロチは唸る。風音の話は貴重な情報だった。それからオロチは少しだけ考えて、口を開いた。

「考えさせてくれ。共闘するからには仲間たちとも話す必要がある」

オロチにとって、風音たちは『まだ』信用のおける相手ではなかった。オロチの見る限りはその性根は悪くないと思えたが、何しろ秘密が多い。どこまで信用していいのかが分からないというのが正直なところだった。対して風音もオロチの言葉には特に悪感情もないようで、笑顔で頷いた。

「うん。別に急いだ話でもないよ。まだダンジョン攻略は半分にも届いていないし返事は後でも良いから」

風音はそう言いながらダンジョンのことを思い出し、またもや遠出する状況に怒っているカルラ王の顔を思い浮かべた。

(まあ、レイブンソウルを連れて帰るためと考えれば……いいか)

そう自分を納得させてから再度オロチの方を見る。

「ところでさ」

「なんだ?」

ここに来るまでに気になってたことがあるのだ。

「これはもしかすると的外れな質問かもしれないんだけど、聞いてくれる?」

「ふむ……?」

オロチが訝しげな視線を向けると風音が言葉を続けた。

「あの豹の名前で少し気になったんだけど……」

「む?」

なぜかオロチの動悸が早くなった。その先はいけないとオロチの『直感』が発動する。しかし、オロチが手を挙げて制止しようとしたがもう遅かった。

「もしかして、オロチさんってあのネットアイドルのひめ蛇子ちゃんじゃない?」

そして、オロチの黒歴史の扉が風音によって情け容赦なく開かれたのであった。