軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百八十二話 合体進化を見せよう

◎ミンシアナ王国 レイサンの街 セスの宿屋

「はぁ、カールが問題を起こしていなければいいんだけどなぁ……」

ゴルディオスの街より南にあるレイサンの街。そこのとある宿屋の食堂ではパーティ『レイブンソウル』の面々が昼の食事に入っていた。そして癒術師のロイがヒロシマ風オコノミヤキ餅入りをフォークとナイフで切り分けながら、そんなことを口にしていた。

それには魔術師のオーボエが苦笑しながら、口に運ぼうとしていたカリーフォルニアロールを止めて「大丈夫では……ではないでしょうね」と返す。

「最近はダンジョンが変化したことで冒険者たちの出入りが激しいと聞きますし。それなりの強者も増えているでしょうからね。そもそも、あの憧れのジンライ殿がいればそれこそ抑えが利くとは思えません」

今彼らの間で話題にあがっているレイブンソウルの前衛一番槍カールはその実力こそ確かではあるのだが、強い者を見ると見境なく手合わせしたくなる悪癖があった。

ましてや村を飛び出すキッカケとなった憧れのジンライ・バーンズがいると聞いては闘わずにはいられないだろうとふたりとも考えていたのである。

そんな仲間たちを見ていたオロチがやはり苦笑しながら口を挟む。

「ともかく、待つしかないだろう。ミナカが出て三日、順当に行けば今日の夕方か明日には戻ってくるはずだ。そのジンライという方がたしなめてくれるか、或いは上手くやってくれていれば問題はないのだが……な」

そう言葉にしたオロチにロイとオーボエのふたりが揃って苦笑いをする。何しろ「そんじゃあジンライ・バーンズに会ってくるぜ」と言って仲間たちをおいてとっとと先に行ってしまうほどの男なのだ。

とはいえだ。カール自身の実力もここ最近目に見えて上昇しているし、実際に勝負となった場合、ジンライに勝ってしまう可能性もあるのでは……ともオロチは考えていた。冒険者の実力など噂だけでは分からないものだし、実際に闘ってみると予想と違うことなども多くある。

(若返ったとは聞いているが、その実力のほどまでは分からない。槍を二本から一本に替えてからはあまり目立った噂も聞かなくなったという話だしな)

オロチがカールから聞いたり自分の情報網から仕入れた話によれば、ジンライ・バーンズという槍使いは何年か前に槍を一本折ったことで二槍使いを止め、その後は祖国にも帰らずミンシアナの地で修行に明け暮れているという話であった。それが白き一団に加入し、秘薬により若返り、二槍も復活し、今は銀と黒の縞の巨猫に乗って活躍しているのだという。

最近では猫おじさんとしても親しまれ、すでにゴルディオスの街ではグッズ展開にも着手されているほどの人気ぶりのようである。悪評の多い他のメンバーとは違い、その実力も確かであり、周囲からその人格などにおいても高い評価を受けているジンライは白き一団の『良心』とも呼ばれている人物だった。

(そんな相手に喧嘩を売るとなると、こちらの評判がガタ落ちにならなければいいんだが)

オロチはまだ話し合っているロイとオーボエの前でそんなことを考えていた。オロチはことさらに人の評価というものを気にするタチであったのだ。

大柄な身体に寡黙そうな外面に似合わず、悪評などを気にしやすいオロチは、情報をより集めて分析して物事を対処することに長けていた。

今ではチェインマンのふたつ名を持つランクA冒険者の彼だが、その大柄な風体の通りの生粋のパワーファイターであるだけではなく情報屋としての一面も持っているのである。

もっともそんな懸念を抱いていても今のオロチに何かできるというわけではない。目を瞑り、何事も起きぬようにと祈るばかりである。そして、そんな風にレイブンソウルの面々が過ごしていた昼時ではあったが、突如として轟いた雷鳴によって穏やかなる時間は終わりを迎えた。

「な、なんだ?」

「雷? けれど空はまだ青いですし」

ロイとオ-ボエが言い合う中、オロチはすぐさま立ち上がって外へと走り出した。明らかに音が近かった。その上にまだ継続している。明らかな異常事態にオロチの持つスキル『直感』が何かあると反応していた。

◎ミンシアナ王国 レイサンの街 セスの宿屋前

オロチと、その後ろをロイとオーボエたちが追って宿屋の外に出ると、雷鳴はどうやら街の正門から轟いてきているようだった。住人たちも突然の轟音に驚き、家の外に出て空を見てから首を傾げている。

また時間が経つにつれて音は小さくなっていったが、音の発信源の方は次第に近付いてくるのがオロチには分かった。

「なんだ。あれは?」

そのオロチの呟きと共に、それは姿を現した。

「デケエ……」

ロイがそう口にする。正門側の通りから三メートル半はあるであろう 全身甲冑(フルプレートメイル) の巨大な 半人半馬(ケンタウロス) が、金属製の蹄を地面に叩きつけながら歩いてきたのだ。

また、先ほどの音の正体は、 全身甲冑(フルプレートメイル) 半人半馬(ケンタウロス) が牽いている、まるで装甲列車とでもいうような長い馬車の車輪から発せられているものだった。

「かなり強固そうな装甲だが、動きそのものは機敏なようだな」

オロチが感心した顔でケンタウロスと後ろで牽かれている馬車を見る。

紫色の放電が走り、近寄りがたいその馬車はどうやら二台の馬車が連結されているようでもあった。よく見ればちょうど半分のあたりで接続されているような跡があるのだ。

もっともそう言われれば……というぐらいなもので、外見上は一台の巨大な列車を模した馬車と言ったシロモノであった。

「ぱからぱからー、到着だー!」

そんなトンでもない外見の馬車の御者席にいるのは、ゴツい鎧を来て白いマントを纏ったチンチクリンな子供であった。

「さあ、野郎ども。おりやがれー!」

ノリノリで腕を振りながら叫ぶ子供の後ろでは馬車の横のドアが上にせり上がって開き、そこから鉄の板が飛び出してきて、さらにガコンガコンと折れ曲がりながら階段となって地面についた。それから驚きの周囲の視線を集めながら、中から人が降りてきたのである。

それは赤い布を巻いた槍を背負う少女であったり、幼竜を頭に乗せた小さい少女だったり、グラマラスなお姉さんだったり女性率が高く、続いて降りてきた中にはオロチたちの知っている人物と魔物もいた。

「確かに快適でしたねタケチカ」

「ガォンッ」

それはパーティ『レイブンソウル』のミナカと、ハイプラズマパンサーのタケチカであった。

◎レイサンの街 セスの宿屋

「いやー、走ってる途中でサンダーチャリオットのスキルレベルが上がってさ。連結していたユッコネエのサンダーチャリオットと合体しだしたもんだから慌てたよ」

久方ぶりのセスの宿屋の食堂でそう話す風音の顔は晴れやかであった。すでに召喚解除はしているが、緊急クエストを受けてゴルディオスの街からこのレイサンの街に行く途中でサンダーチャリオットがパワーアップしたのである。ここ最近はユッコネエのサンダーチャリオットと連結していたことも多かったし、 這い寄る稲妻と(ライトニング) 捻れた炎の(フレイム) 螺旋撃(ドリル) などの新技も増えたためにいつの間にか経験値がたまっていたようである。

そしてそんな風音の周囲には白き一団が、テーブルを挟んで正面にはオロチとロイ、オーボエに加えて自分のパーティに合流したミナカがいた。

「ごめんね。ちょっと驚かせちゃったみたいで。緊急だったから全速力でブッ飛ばしてきたんだよ」

「まあ、確かに驚いたが……話には聞いていた。あれが白き一団のゴーレム馬と召喚馬車ということか」

オロチの言葉に風音がてへへと笑う。

「うん……多分聞いてる話から少し形変わっちゃってるだろうけどね」

ヒポ丸くんは今はタツヨシくんケイローンでいる状態の方が多いし、サンダーチャリオットも外見装甲列車、中身豪華列車へと姿を変えている。

また、サンダーチャリオットが大きくなった分馬車は遅くなっていそうなものだが、自力走行こそできないもののスキルレベルの上がったサンダーチャリオットにはアシスト機能がついているようで、タツヨシくんケイローンの負荷は以前よりもむしろ軽減しているようだった。

「それでは、話に移らせてもらいたいのだが」

オロチの言葉に白き一団一同が頷く。なお、この宿屋の食堂に入る前に白き一団はレイブンソウルとの挨拶を終えていた。

そして今、風音の目の前にいて話している男がレイブンソウルのリーダーであるオロチである。老けて見えるが二十前半の若い男であるとのことだ。

そのオロチが纏っているのは竜鱗と竜骨などを組み合わせた 全身甲冑(フルプレートメイル) で、両腕には黄金の鎖を巻いていた。

オロチの左隣にいるのは二十代半ばくらいのロイという青年である。こちらはメイスを背負って軽鎧を身につけており、武装神官という風体であった。さらにオロチを挟んで反対側に座っているのはオーボエという三十代の痩せた中年の男でこちらは魔術師である。この三人にミナカとカールが揃ってレイブンソウルとのことであったのだが……

「つまり、カールはこられないということか」

「ええと、ごめんなさい。やりすぎました」

ため息をつくオロチに弓花が深々と頭を下げた。それにオロチは首を横に振る。

「いや、話を聞く限りではカールの方にも問題があったのだろう。いつものことだ。気にしなくて良いし、槍が進化するほどの戦いだ。恐らくはアイツにとってもプラスになったのだと思う」

オロチはそう返す。それからさらに言葉を続ける。

「どうやらカールはそちらのパーティのジンライさんに憧れているようでね。彼の武勇伝に続きたくて村を飛び出したほどだが、どうにも落ち着きがない男なのだ。まったくそちらのジンライさんを見習って欲しいものだ」

そう言いながらため息を再度ついたオロチの言葉には、白き一団の全員が何ともいえない顔をしていた。

「落ち着き……ジンライくんに落ち着きねえ」

「うん、そうだね。落ち着きって大切だよね。私もそう思うよ」

「師匠……」

彼らは落ち着きとは何か……そう考えざるを得なかった。奇声を発しながら敵に突っ込んでいって興奮しすぎて血管切れてぶっ倒れた実年齢60に届こうかという男は多分落ち着きはないと思うというのが白き一団の総意ではあったが、それを風音たちは口に出すことはできなかったのである。