軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百七十五話 久しぶりの人に会おう

「師匠だと? 何を言ってるんだ。お前たちは」

若いジンライらしき男がそう言って甲冑馬から下りてきた。そして甲冑馬は横でヒヒーンと鳴いているのでやはり生きてはいるようである。

(んー、けどなんだろう? 『犬の嗅覚』から感じるのは魔力体に近い感じの匂い。召喚獣かな?)

風音は若いジンライらしき男の乗っていた馬を見て、そのように判断した。そもそも目の前にいるヤングジンライだが……

(匂いは似てるけど別人だよねえ。つか、誰この人なんだろう?)

風音が首を傾げて目の前の男を観察する。服装はジンライの好むものと似ていて、髪型なども同じである。もっとも背負っている槍は一本で、竜気は感じないが強力な獣の魔力を放つ槍のようである。

(それも真新しい感じだね。最近造られたのかな?)

さすがに弓花のムータンには見劣りするが、見事な槍である。ともあれ、よく見ればやはり目の前の男はジンライとは別人であるのだが、横にいる弓花は若返ったジンライという驚きが強く、そこまで気が回っていないようだった。

「む?」

そうして風音が観察していると、男の視線が弓花の背負う槍に止まったのが分かった。

その弓花の持つ聖者の槍ムータンは、今は赤い布に巻かれていた。むき出しにしておくのは少々情操教育に良くないということで、竜の里で貰った竜血布という力を封じる赤い布を巻いて放たれる神聖気と呪気を抑えつけているのである。

それを見た途端にジンライっぽい男の視線が険しいものとなる。

「お前っ」

「……はぁ?」

弓花が首を傾げる。師匠であるジンライが聖者の槍に執着するような目を向けなくなってから久しい。なので、その反応に弓花は首を傾げるばかりだった。

「そこまで封印を施すほどのシロモノを使いこなすのか。俺と勝負してはくれないか?」

「俺と? ええ、いいですけど……ここでですか?」

日々、早朝特訓から夕方の特訓まで常時模擬試合も組んでジンライと闘っている弓花にとっては、師匠が勝負というのであれば特に断る理由もない。しかし、問題なのは場所である。対してジンライっぽい男もそう言われて「そうだな」と言葉を返す。そしてどうしようかとジンライっぽい男が考えているところに、男がやってきた。

「お、姐さん。何してるんですか?」

それは『 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) 』の傘下扱いとなっているパーティ『ドドリアン』のメンバーであった。

「あ、ジャクソンさん。いや、師匠がここで闘いたいっていうんだけどね。こんなところで勝負って迷惑だよね?」

「まあ、常識的に考えれば迷惑でしょうね」

「だよねえ」

大通りである。むろん、通行人の邪魔以外の何者でもないし治安的にもよろしいわけがない。警護兵がやってくること間違いなしである。弓花もそう思っていたのだが、

「白き一団の『 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) 』が師匠の猫騎士とやりあうってよ」

「またあのドドリアンたちをやった皆殺しが見れるのか」

「けど、ありゃジンライじゃねえぞ」

いつの間にやら弓花たちの周囲には人が集まってきていた。

「あららら」

「にゃー」

風音とユッコネエも周囲を見回すがすでに人だかりである。昼も過ぎてある程度の通行量のある大通りである。その上に、ここはもう冒険者ギルド事務所のすぐ近く。事務所や酒場からも冒険者たちが、騒ぎを聞きつけて集まってきていた。

「姐さん。この裏に冒険者ギルドの施設がありますんで、そっちでやったらどうです? さすがにここじゃあ捕まっちまいますし」

「んーそうですね。じゃあ師匠。そこでやります?」

弓花の問いに、周囲の騒ぎに困惑しつつもジンライっぽい男が頷いた。

「師匠……というのは分からないが、まあ試合えるならば問題はない」

そう言って弓花とジンライっぽい男はジャクソンに連れられて路地の方へと進んでいった。

「あー、弓花勘違いしたままだよね。あれ」

「にゃーお」

そう相槌を打ち合う風音とユッコネエの前はもう弓花たちの後をついて行こうとする人の群れとなっていた。そして風音が、ここをどう通り抜けようかと思案しているところに声をかけてくる男がいた。それは風音の知る匂いの人物であった。

「おやおや、なにやら騒がしいと思えばカザネさんですか?」

「あれ、ルネイさん? どうしてここに?」

風音が振り向くとそこにはルネイ・キャンサーがいたのである。ルネイはルイーズの息子のひとりであり、ミンシアナ王国の冒険者ギルドのマスターでもある。普段はミンシアナ王国の王都にいるはずの男が何故か今風音の目の前にいたのだ。

「カザネさんたちが出掛けている間のことでしたので挨拶が遅れましたが、このたび私がここの支部長を兼任することになったんですよ。よろしくお願いします」

「うん、よろしく。あれ、以前の支部長さんは? 色々とお世話になったし、良い人だったんだけど?」

風音の言葉にルネイが苦笑しながら答える。

「ええ、彼はその……少し疲れたとのことでして、しばらく静養するそうです。私はその代わりに来たというわけですね」

「まあ、ダンジョンが変わったり、人が増えたり大変だもんねえ。仕方ないか」

元凶がうんうんと頷いている。

「まったくですね。それで今日は、お母様は一緒ではないのですね?」

「えーとね。確かジンライさんとメフィルスさんとお出かけしてるはずだね。夕食はいいって言ってたから飲みに行ったんじゃないかな」

なおティアラの努力の結果、 炎の騎士団長(フレイムナイトリーダー) から鎧を脱いだ炎の魔人形態になったメフィルスも味を嗜む程度はできるらしい。ティアラにも少しだけフィードバックされるのが問題ではあるが、このことによりメフィルスも嗜む程度には酒が飲めるようになったのである。急激なレベルアップに呼応するように、ここ最近のティアラの進歩は目覚ましいようだった。

「なるほど。でしたら今日は白の館に出向いてもお会いできそうにはないですね」

「うん。けど明日の朝には戻ってくるだろうし、私の方から話はしておくよ」

「はい。大抵は事務所にいますし、明日は仕事を終えたらこちらから出向きますとお願いします。で、これは何の騒ぎなんです?」

駆け足で冒険者ギルドの訓練場へと向かう人々を見ながら、ルネイが風音に尋ねた。

「なんかね。ジンライさんっぽい人と弓花が勝負することになったんだよ」

「ジンライですか。けど、ぽい人?」

「ん、すごく似てる。格好も雰囲気もね。でもジンライさんと違ってまだ二十かそこらくらいの人だったと思う」

そう風音に言われてルネイは少し考え込んでから、口を開いた。

「そうなると、それはカールかもしれません。確かジンライと同郷の冒険者のはずです。パーティ『レイブンソウル』のメンバーで『暴風』のふたつ名を持つ冒険者ですよ」

「へえ、そうなるとレイブンソウルが帰ってきたってことかな……と、もう弓花も行っちゃったし、私行くね。ルイーズさんには話しておくから。そんじゃ、ユッコネエ」

「にゃー」

風音はユッコネエと共にスキル『空中跳び』で飛び上がると人の多い路地の上の建物の壁をスキル『壁歩き』を使って、駆け抜けていった。

「まったく戻ってきて早々に騒がしい方々ですね」

ルネイは悪態付きながらも、とはいえ自分も興味を引かれたので進んでいく人々の中に紛れてギルド訓練場へと向かっていくことにした。

◎ゴルディオスの街 冒険者ギルド事務所裏 訓練場

「うわーなんか大事になってるし」

そして、流されるままに弓花が進んだ先にあった訓練場の周りは、今や冒険者やゴルディオスの街の住人たちが所狭しと集まっていた。

弓花の取り巻きであるドドリアンや熊殺し団や、他にもここ最近来た冒険者たちも目を光らせて見ている。

彼らは興味や関心、または敵情視察的な意味でも白き一団の『 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) 』、暴力の化身として知られる少女の実力の一端を掴もうとしていたのである。また、対戦相手が猫騎士とも一部では猫オジサンとも呼ばれているジンライ……ではないと気付いている者も少なくはなかった。元よりゴルディオスの街にいる者にとってはジンライよりも、かつてのエースパーティである『レイブンソウル』のカールの方が有名ではあったのだ。

「またあの獣になった姿が見れるのか?」

「肉球触りてえ。でも殺されそう」

「おいおい、新旧のエースパーティの槍使い同士の対決かよ。どうなっちまうんだ、一体?」

「分かんねえ、全然分かんねえよ」

口々に話す冒険者たちの中で、ひとりの老戦士が「フッ」と笑った。

「この闘いの意味するところ……それがお前等には分からないのか。まぁ、まだ若いからな。それも仕方のないことかもしれないが……」

「あんたはっ!?」

「隻眼の……バルザーが動いているだと!?」

道を開ける冒険者たちをゆっくりと横切りながら、隻眼の老戦士バルザー・イゴットが鋭い目で訓練場中央にいるふたりを見ながら口を開いた。

「連中は本気みたいだな。ワシには分かるよ。若い頃にはよくあったものさ。つまりは同じ狩り場に狼は二匹はいらない……という闘いの本能が奴らを駆り立てているのさ」

そして冒険者たちが息を飲む中で、老戦士はまるで予言をするかの如く呟いた。

「この戦いが終わったとき、恐らく……どちらかが死ぬ。それは避けられまい。そういう運命に奴らは生きている」

その言葉に冒険者たちが声を張り上げる。これから起こるのは殺し合い。強者たちの命を懸けた宴だと確信したのだ。血がたぎらずにはいられなかった。そんな中で老人は酒の入った杯を持ち上げて……

「願わくば、熱き血潮流れる魂の決着を……」

一気に酒を煽ったのだった。

「うるさいなあ」

盛り上がるギャラリーに眉をひそめながら弓花にジンライっぽい男が声をかける。

「怖じ気付いたか?」

「いえ、師匠、それでどうしたんですか? 若返ったし、その腕も? 腕?」

弓花が目の前の男をよく見ると、その右腕は生身のようだった。というか、服装も見たことがないものだし槍も竜牙槍とは違っていた。弓花は自分が何か抜けていたことに気付いたのだ。

「あれ?」

つまりはほとんど気配だけで把握していた弓花はここにきて、ようやく目の前の人物がジンライとは別人だと気付いたようだった。よく聞けば周囲からは弓花の名前と共にカールと名らしきかけ声も挙がっている。

「ええと、あなたは……カールさん?」

「ああ、そうだったな。まだ名乗っていなかった。俺はランクB冒険者、暴風のカールと言われている者だ」

そう言ってカールは背から取り出した槍を構えた。その槍は赤黒い、何かの骨でできた得物のようである。それも妙な威圧力があり、かなりの業物であることが窺えた。

「いくぞっ、ユミカとやら」

「あーもう、ワケ分かんないけど」

すでに場は闘争の空気だ。己も半ば同意したのは事実であり、弓花も止むなしという顔をしながら己の槍ムータンから封印の布を解いた。

そして槍から放たれる気が、周囲に狂騒とも呼べるような興奮を呼び起こす。純真と束縛の気配混ざり合う背徳的なパトスの目覚めがそこにはあった。

封印し抑圧されていたソレが解放されたことで彼らの熱気は一気に爆発し、その場がギャラリーの雄叫びによって覆い尽くされたのだ。