軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百七十二話 別れを告げよう

◎大竜御殿 中庭

『朱雀炎ッ』

発動の言霊と共に赤い炎が舞う。南赤候スザが己のブレスを強化させた炎の一撃が青い水晶竜、風音ドラゴンに向かって突き進んでいく。

『風音、その炎は打ち返せるよッ』

『よっしゃー』

一方で白き炎を纏わせた巨大な刀から声が響き、風音ドラゴンは振りかぶって朱雀炎に対して構える。

『うーりゃあああ』

そして、風音ドラゴンの振った神炎の大太刀『 焔弓花(ほむらゆみか) 』が朱雀炎に向かってジャストミートする。

『私の炎を弾いたですって!?』

スザの目の前で、刀から発せられる白い炎によって朱雀炎が反射された。その炎はスザとは離れた位置にいた東青候セイへと弾き飛ばされる。

『チィッ』

護剣の四竜の中でも神竜にもっとも近しいスザの『朱雀炎』。それがよもや弾かれるとは思わなかったセイがとっさに氷炎を吐いて氷の壁を生み出した。

『避けなさいセイ!』

しかし、氷の壁で防ごうとするセイに対してスザが叫んだ。

『やべえっ』

『愚かな。セイには私の炎は防げないでしょうが』

スザの悪態に返す言葉もなくセイは瞬時に跳び下がった。朱雀炎は氷の壁を容赦なく打ち砕いていくが、それでも壁に遮られたわずかなタイムラグはセイの身を救った。

『にゃーっ』

しかし、どうにか朱雀炎を避けたスザに対し上空から猫の声を出す黄金の竜が唐突に飛び込んでくる。

『どこから来やがった?』

いきなり現れたユッコネエドラゴンの姿にセイが思わず叫び、そして身構えた。

今のユッコネエは猫の姿の機動性を再現するために『身軽』をスキルセットしていた。そのため10メートルを超える巨体であるにも関わらず、ユッコネエは変化前の元の猫に近い動きをドラゴンの身で体現して動いていたのだ。そのユッコネエドラゴンのドラゴン離れした動きに、セイの目がついてこれなかったのである。

『チッ、ドラゴンになって間もないようなヤツにな』

しかし、セイとて並のドラゴンというわけではない。護剣の四竜と呼ばれるだけの実力の持ち主ではあるのだ。

『そう簡単にやられるわけにゃーいかねーんだよ』

そう声をあげながらセイは迫るユッコネエドラゴンに己の尻尾を振るってカウンターの打撃を与えた。

『にっ、にゃーーー』

そして、テールアタックが直撃したユッコネエドラゴンがまるでゴム鞠のように宙に弾き飛ばされていく。

『へっ、どうだい……って、なんだと!?』

しかし、次の瞬間にはセイの目が丸くなった。宙に舞ったユッコネエドラゴンがその巨体を空中で回転させると、そのまま何もない宙を蹴ってセイへと再度飛び込んできたのだ。

『空中を蹴っただと?』

セイが驚きの顔をするが、それは前回の戦いで風音が手に入れた竜系統の『空中跳び』スキルの力だ。トゥースドラゴンより手に入れたスキルは従来の『空中跳び』と効力こそ同じだが竜属性であるためにスキルセットせずともドラゴンの姿で使用することが可能であった。

『くそ、防げねえッ』

思わぬ反撃に隙を見せたセイの懐へとユッコネエドラゴンは一気に飛び込み、それをセイは抑えられない。

『にゃっにゃにゃー』

ユッコネエドラゴンはそのままセイを押し倒して、その両腕をガッチリ掴んで押さえつけた。

『なんだ。ふりほどけねえ?』

セイが顔を歪めるが、ただでさえ強力なドラゴンの腕にユッコネエドラゴンは『猿の豪腕』もセットして強化していたのだ。その馬鹿力にはセイもふりほどくことはできない。

『セイッ!』

『スザさん、仲間の心配をする前にっ』

『自分の心配をしときなよ』

スザがセイを見て声を荒げているところに風音ドラゴンと『 焔弓花(ほむらゆみか) 』が迫る。『友情タッグ』によって強化された風音ドラゴンはスキルセットした『ブースト』の急激な加速と『空中跳び』の変則機動によってわずかな時間でスザの背に回り込んだ。

『もらったッ!』

そして、風音ドラゴンが両腕に持つ神炎の大太刀『 焔弓花(ほむらゆみか) 』と黄金剣『黄金の黄昏』を振り下ろす。

『いえ、皇后様。特に心配するようなことはございませんよ』

『なっ?』

しかしふたつの刃に手応えはなく、切りつけたと思ったスザの姿はスーッと消えていった。それはユッコネエも使う炎の幻影技『蜃気楼』の幻であった。

『技量は見事。しかし己の体躯に合わせた感覚を掴みきれていないとこうして隙を突かれやすいのですよ』

『あちゃー』

風音の背後に存在する何もない空間からユラリとスザが現れ、その手から伸びている赤い炎の剣は風音ドラゴンの背へと向けられていた。

『やったぜスザ』

その様子にセイが喝采を挙げるが、スザは苦々しい顔で倒れているスザとユッコネエの方を見て口を開く。

『はぁ、あなたは負けです。護剣の四竜たる者が情けない。後でお仕置きですからね』

『マジかー』

セイが納得いかないという顔をするが、ユッコネエの高熱ガスブレスはドラゴンの防御力を超える熱量を持つ。組み付かれてふりほどけない状態であるセイの打てる手は氷炎ブレスを吐くことだけだが、それではユッコネエの高熱ガスブレスは防げないため実質的に詰みであった。

そして風音ドラゴンとセイは共にリタイアとなり、勝敗はユッコネエドラゴンとスザの一騎打ちに委ねられることとなる。その闘いでもユッコネエドラゴンは健闘したのだが、地力の差は大きく結局スザの勝利は揺るがなかった。

そして、模擬試合が終了したところでそれを見ていた神竜帝ナーガやアオ、その他大竜御殿に住まうドラゴンたちが喝采を挙げた。

護剣の四竜二体に勝つことこそできなかったが、風音とユッコネエは己の実力を大竜御殿のドラゴンたちに十分に見せつけることに成功していた。それは風音が神竜皇后という名だけでなく、その実力においても彼らに認められた瞬間でもあったのだ。

こうして東の竜の里ゼーガン滞在最後の日の早朝特別訓練となる模擬試合は終わりを告げたのである。

◎大竜御殿前広場

「そんじゃあ、忘れ物はないね」

そして昼を過ぎ、ゴルディオスの街へと戻ろうということになった風音たちは大竜御殿の前の広場に集まっていた。

『先ほどの戦い、見事であった。カザネもよくぞ、そこまでの実力をつけたものだ』

「負けちゃったけどねえ」

風音の言葉に「にゃー」とユッコネエがすり寄って鳴いた。自分だけ勝って申し訳ないという感じの顔だが、風音は「ユッコネエの方はよく勝てたよねー、偉いねー」とその頭を撫でている。

なお、見送りに来ているのはシンディにジライドに騎竜のモルド。それに神竜帝ナーガ、グリグリにアオとビャクで、護剣の四竜であるセイとスザの姿はない。セイはスザに連れられて今は地獄の特訓中のはずであった。

『それにユッコネエ。セイに勝利した実力は見事であった。これからもカザネをよろしく頼むぞ』

「にゃー」

頭を撫でられ気を良くしたユッコネエが胸を張って鳴いた。

「うんうん。それじゃあ、グリグリも達者で。といってもまたすぐに迎えに来るけどね」

「グルゥ」

風音の言葉にグリグリが鳴いた。この竜の勇者ラインハルトことグリグリの今後については協議の結果、東の竜の里に住まうのではなく、カザネ魔法温泉街とコーラル神殿のあるアルゴ山脈に建設予定のカザネーパレスに住まわせようという話になっていた。

ゆくゆくは温泉街の守護竜に就職する予定であり、コーラル神殿の監視も兼ねることとなるのだ。

そのためのお勉強を里で行い、風音がカザネーランドを建設する段階で呼び寄せる算段となっていた。

なお、以前から問題になっていたカザネ魔法温泉街の天使教についてはゆっこ姉が手を回したことで一応の落ち着きを見せていた。それによりマッカの精神状態も徐々に良くなっていっているようで、現在の温泉街のステータスも変化していた。

名前:カザネ魔法温泉街

特産:魔法温泉・天使教

人口:2412人

領主の評価:信仰の対象

問題:【人口の急増】【狂信】

連絡:えへへ、たのちいな。

これにカザネーランドとグリグリを追加することで街の状態を盤石なものとし、風音はマッカの負担をさらに軽くする予定であった。

「そうだ、風音。少しお話ししたいことがあるのですがよろしいですか?」

「うん? 何かな」

すでに話さなければならない内容については滞在中に終えているとカザネは考えていたのだが、アオは「さきほど西の竜の里から連絡がありまして」と切り出してきた。

その言葉には風音だけではなく、白き一団やナーガたちも初耳のようで皆一斉にアオの言葉に耳を傾けた。

「実はですね。我々西の竜の里ラグナの長、金翼竜妃クロフェ様がおそらく今ゴルディオスの街にいるようなのです」

「え、なんで?」

もっともな疑問を風音は口にする。それにはアオは少しだけ苦笑しながら口を開く。

「まあ、一応の予想はつくのですが……特に何も理由は言わずに里を出て行ったようなので真意については不明です。私から切り出して良いものかは測りかねておりますので、できればご本人からお聞きになられていただければ……と思います」

歯切れの悪いアオの言葉に風音は首を傾げながら尋ねる。

「うーん、そお? それで、私たちはどうすればいいの? 何しにきたのか聞けばいい?」

「いえ、そのですね。できれば里に戻るように説得をお願いできればと思います」

「はー、説得ねえ」

よく分からない顔でそう口にする風音の横で、ジンライが一歩前に出て尋ねる。

「つまりはクロフェ様に出会えたら、里に帰るようにと伝えればよいのですな?」

「ええ、無理強いはしなくても良いので。私がいければよいのですが、今のゴルディオスにあまり厄介ごとを持ち込むのもよろしくないですしね」

アオが懸念しているのはゴルディオスの街に様々なものが集中し過ぎていることである。クロフェがすでにいるらしいという時点で手遅れという感じもあるが、それでも波紋は少ない方がよいだろうとアオは考えていた。

「了解した。まあ、どうしようもなくなったらナオキにアオ様を運んできてもらえば良かろう」

すっかり気力を取り戻したジンライがそう答えると直樹も「了解です」と返した。

「あなた。金翼竜妃クロフェ様といえばナーガ様と双璧を為すお方ですよ。失礼のないようにしてくださいね」

「お前はワシをなんだと思っておるのだ。さすがにクロフェ様と一戦などとは考えておらんよ」

『マジで頼むぜ。一族郎党なんて目だけは勘弁だぜ』

「モルドよ。そこまで心配せんでも大丈夫だろう」

シンディの後ろでは本気で心配そうな飛雷竜モルドと苦笑するジライドがいる。

『いや分かんねえぜ。このジジイもどきは本当に気分屋だからな。今だって一昨日まで死にかけみたいなツラしてたくせに今じゃあもう元に戻ってやがるんだぜ?』

モルドの言葉通り、ドラゴンイーターマザー討伐後の気力を無くしていたジンライはもうどこにもいなかった。それは風音から聞かされた竜帝ガイエルに殺魅一号の話に触発されたものである。どうやらレイサンの街で殺魅二号と闘えなかったことがかなり悔しかったようで「血がたぎるわい」と言いながら、話を終えた頃には戦闘モードであった。

「あなた、それではまた」

「ああ、その子が産まれる頃には顔を見せにくる。何、アオ様に頼んで人形を運んでもらえれば一瞬であるしな」

シンディに笑顔を見せたジンライは、そのまま背を向けて仲間たちの輪に戻っていった。アオも話を終えたとばかりに一歩下がり、そして別れの時間となる。

「それじゃあ旦那様にみんな。まあすぐに会えると思うけど、まったねー」

その風音の言葉に続き、仲間たちが次々と別れの言葉を交わし、そして直樹が 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) を発動させると光の柱が白き一団を覆い、光が消えたときにはもうその姿はなかった。

風音たちはゴルディオスの街へと帰っていったのである。