作品タイトル不明
続・養殖のじゃーさんが行く
金翼竜ゴーラ。
それは、かつて西の竜の里を治めていた猛き黄金の竜の名である。一度生まれ変わってからはクロフェと名を変えたのだが、金翼竜ゴーラと金翼竜妃クロフェは同じ者を指している。
そのクロフェが久方ぶりの知己と出会っていた。
相手の名はカルラ王。かつてカルラ族と鷲獅子竜たちを率いて大陸全土の支配へと乗り出したが、数奇な運命の末に一族ともども最後には討ち滅ぼされたはずの男であった。
「ダンジョンマスターになったとは聞いていたのじゃが、どうやら意識は生前のままのようなのじゃー」
クロフェの言葉にカルラ王がフッと笑う。
「そうだな。しかし、お前の方は随分と変わったようだな。かつて暴竜と恐れられた男が何とも可愛らしい姿になったものだ」
「ワシも一度死んだのじゃー。けど優秀な部下が生き返してくれたのじゃー。代償として姿は変わってしまったのじゃーがなー」
その言葉にカルラ王が「なるほどな」と頷いた。
「竜の心臓は我々のコアよりもゴーレムに近いものであったな。便利なものだ」
「とは言っても魂を 魔力の川(ナーガライン) に流されずに心臓に固定し続けるのは気の遠くなるような感じだったのじゃー。少なくともワシ以外では復活に成功した者はほとんどおらんのじゃー」
クロフェはそう言い返す。実際に竜族だから竜の心臓が残っていれば復活できるなどという甘い話は存在しない。
竜の心臓の確保。 魔力の川(ナーガライン) へ流されぬための魂の固定。さらには復活を可能とした優秀な部下までが揃って初めてクロフェの復活はあったのだ。
「そして蘇生後はその幼子の姿になったと。竜体も同じなのか?」
「そっちもそうなのじゃー。5メートルほどのちっさい感じなのじゃー。けど性能自体は衰えておらんから困ってもおらんのじゃー」
クロフェの言葉にカルラ王が興味深そうに頷きながら、クロフェの全身を眺めた。
見た目はただの幼女だが、内側より発せられる力強い竜気は確かにかつてのゴーラに感じていた猛々しいものと同じようだった。むしろ、若さと老練さのふたつを手に入れたことで以前よりもその存在は強大になったようにすら感じられる。見た目は幼女だが。
「まあ良い。立ち話もなんだし中に入るぞ。ここには珍しい湯が湧いているので私は気に入っているのだ」
「ほー、温泉か。それはワシも浸からせてもらいたいのじゃー」
「いいだろう。久方ぶりにともに入るか」
カルラ王が白の館の中へと入っていき、クロフェも一緒に付いていこうとする。しかし途中でその場にいた二人に気付いて振り向いた。
「それじゃあの、そこの獣人たち。ここまでありがとうなのじゃー」
「お、おう」
「そんじゃあ……な?」
突然のカルラ王の登場とそれに親しげに話す幼女。それらの状況にポカンとしているギャオとジローの前で、クロフェはそのまま白の館の中へと入っていってしまったのである。
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「はー、疲れたぜ」
ギャオたちがなんだかよく分からない顔で白の館から立ち去った頃、白の館の隣にあるバトロイ工房の中では親方ことジョーンズ・バトロイが額の汗を拭いながら一息ついていた。
「親方。お疲れさまです。ていうか、もしかして昨日から工房に篭もってませんか?」
王都から戻ってきたモンドリーがくつろいでいる親方に声をかける。
「応よ。ちーと、こいつの作成に集中しちまっててな」
そう言って親方が目の前の金属製の馬を見た。それは親方の愛機となる予定のセリオンハンマー二号である。すでに軍の手に渡ってしまったセリオンハンマー一号よりも巨大でトゲトゲも多く、動力には大枚はたいて購入した60階層クラスのチャイルドストーンを使用する予定であった。
またこの二号はヒヒイロカネ製の魔導線も使用することで各部位への伝達速度も向上し、より繊細な動きが可能となる仕様である。風音の方もその想定で今、ゴーレムメーカーを使ってセリオンハンマー二号用のデータの準備を行っているはずであった。
「へっ、軍に盗られた一号よりもよっぽど強力にしてやったぜい」
「親方。仕事もちゃんとしてくださいね」
モンドリーが呆れながら親方に言う。セリオンハンマー二号は仕事ではなく、親方の私物で完全に趣味である。マジリア魔具工房の工房長アガトに対する文字通りの対抗馬でもある。
「わーってるっての。そんじゃあ、ちーとひとっ風呂浴びて少し寝たらそっちも手を付けるさ」
親方はモンドリーに笑って言いながら、どっこらしょと立ち上がって奥にある転送装置へと向かった。それは風音が造りだした試作転送装置で、白の館の大浴場内の転送部屋へと繋がっている。
オルトヴァもダンジョン内に潜っていないときはその転送装置を解析しているのだが、現在はモンドリーとともにやって来た王都の魔術師たちもその解析に加わっていた。
「おう。使わせてもらって良いかい?」
「あ、親方。ええ、どうぞ」
その場にいた解析班の魔術師に断ってから親方は転送装置を使う。そして一瞬の魔力光が発生し親方の視界を塞ぐと、光が消えたときには別の光景が目の前にあった。
「おーし、相変わらず妙な浮遊感がありやがんな」
親方が光の眩しさに瞬きをした一瞬で転送は完了し、その身は白の館の左館である大浴場施設の中に移動しているのであった。
親方や工房員は風音に許可を得て、風呂掃除をする代わりにこの浴場を使用させてもらっているのである。
「ん、まーたカルラ王の野郎がいやがるのか」
親方が脱衣所に入るとすでに顔なじみとなったダンジョンマスターの衣服があった。それを見て親方が苦笑する。とはいえいつものことでもあるので、もう特に気にせず親方も服を脱いでそのまま浴場へと入っていった。
「しゃー、入るぜー」
そして全裸の親方が中に入ると、全裸のカルラ王と全裸の幼女がいたのである。全裸祭りである。しかも全裸の幼女は全裸のカルラ王に抱き抱えられていた。それを見て全裸の親方が目を丸くする。
「なるほどな。確かになかなかの造形だ。これもプレイヤーのあの不可思議な制御力によって生み出されたのか。相変わらず異常な力だな」
「のじゃー」
(……やべえ)
親方は思わず顔をひきつらせながら、それを見た。
カルラ王が抱き上げた幼女の身体をジロジロと眺めている。激しく犯罪の臭いがした。
親方は思考を停止させたい思いに駆られたが、しかし聞かずには入られない。目の前でひとりの少女が魔物の餌食となろうとしている。人として、それを見過ごすことはできない。
「てめえ、そのガキは何だ? さらって来たのか?」
いきなり叫んで浴場へと入った親方に当のカルラ王とクロフェは面食らったが、カルラ王は親方の言葉を吟味してから口を開いた。
「私がこれをか? それは難しかろうな。少なくともこの街が確実に灰と化すのは避けられまい」
「のじゃー」
「のじゃー?」
親方が首を傾げる。カルラ王の言葉も分からなかったが、この状況で平然としている幼女の様子もおかしかった。
「も、もしかしてお前の妹か、何かか?」
金髪同士であるし、ともに整った顔立ちでもある。似ているかと問われれば微妙ではあるが、兄妹であるかと言われれば否定もできない。
「何をバカなことを。こいつは……いや、口にしてはいけないのだったか?」
「そうなのじゃー。しばらくはここにいる予定だからあまり知られるのは望ましくないのじゃー」
のじゃーという言葉の連発に苛立たしげな顔をしたカルラ王だが、大きく息を吐き、気を取り直して親方へ顔を向けて口を開いた。
「まあ、これはそれなりに名の知れた者でな。人の基準から見ても高い地位の存在だろう」
そう言われて親方がクロフェを見る。対してクロフェは「のじゃー」と応えた。
「ここへはカザネたちに会いに来たらしい」
「そうなのじゃー。お忍びなのじゃー」
そう言われて親方もようやく冷静になり「へ、へえ」とだけ言って頷いた。
どうやらカルラ王は目の前の幼女と知り合いである。
また、その幼女は相当に偉い人物らしく、風音たちに会いに来たとのことであった。
(確実に厄介ごとだな)
親方は直感した。自分の手に負える話ではないと。良くない事態ではないことに安堵した親方は、さきほどから気になっていたことを口にする。
「それで、そののじゃーってのはなんなんだ?」
「のじゃー」
親方の問いにクロフェはそう言って少しドヤ顔だった。カルラ王が肩をすくめながら代わって親方に答える。
「私もよくは知らないが人の世の高貴な身分の言葉遣いだそうだ。知っているか?」
「いんや、俺は庶民一筋だからな」
「ふふん。知らなくとも仕方ないのじゃー。そして知る機会に巡り会えた幸運に感謝するのじゃー」
何故だか自慢げなクロフェに親方も返す言葉がない。とはいえ、疑問の答えも返ってきたのでひとまずは話題を元に戻すことにした。
「そんでカザネたちに会いに来たんだったか?」
「そうなのじゃー」
「そうか。けど、あいつらもいつ戻るかは分からないって言ってたしな。一ヶ月はかからんとは思うけどよ」
親方の言葉にクロフェが少し考え込みながら答える。
「ひとまずは戻ってくるまでここにいるつもりなのじゃー。なので寝床とかを紹介してもらえると助かるのじゃー」
「つってもお偉いさんじゃあ下手なところに泊めるのも拙いよなあ」
「適当に岩場とかに置いておけばよいと思うがな」
「いやいやいやいや」
カルラ王の言葉に親方が首を横に何度も振った。クロフェはドラゴンなのでそれはそれで特に気にもしないのだが、親方は知恵を振り絞って口を開いた。
「ま、順当な話でいえば領主様んところで預かってもらう方がいいだろうな」
「お任せするのじゃー」
とりあえず寝れる場所があればよいクロフェは親方の判断に委ねることに決めて、話が終わったのでそのままカルラ王は湯船に入っていった。話をするよりもまずは風呂に入りたかったようである。それから親方もクロフェも一緒に風呂に入ったが、やはりのじゃーのじゃーうるせえなと親方は思ったという。
なお、その後親方に連れられてクロフェは領主の元へと預けられ、頼られた領主は風音の客人とだということに怯えながらも白き一団が戻ってくるまでもてなし続けることとなる。
途中でユウコ女王の使いを名乗る女が「無礼があったら死刑って陛下が言ってたっすー」と伝えに来て、領主のストレスがマッハで上昇し、後にその正体を知ったときにはその場で倒れ込んだりもしたのだが、それは語られることのない悲しいお話であった。