軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百六十八話 トドメを刺そう

それはまさしく激闘であった。

『ううぅぅううりゃあああああ!!!』

魔王アスラ・カザネリアンとも呼ばれる風音搭乗のロクテンくん阿修羅王モードが、ドラゴンイーターマザーとの戦闘に入っていた。

黄金の翼を羽ばたかせ、背全体を纏うマントまでを炎で覆う三メートル半もある黄金巨人。その六本の腕から繰り出す大太刀と、足にはめ込まれたドラグホーントンファー、さらには黄金翼の攻撃を合わせた十連続斬撃『天翼十斬』によって敵の攻撃を削り取っていく様はまるで掘削機のようでもある。

対するドラゴンイーターマザーは成竜三体の集合体。内一体はすでにレームの狙撃によって活動を止めているため、現在動いているのは二体のドラゴンとマザーのみではあるが、その戦力でも魔王アスラ・カザネリアンの攻撃に耐え続けていた。

風音が十の攻撃を一度に繰り出すならば、ドラゴン二体に加えて植物のつるや枝をも武器として出せるマザーの攻撃もまた風音と同数以上に繰り出すことはできる。いや、繰り出さなければ負けてしまう。風音の勢いを覆すほどの力をマザーは持っていない。堪えるしかない。

それにしてもドラゴン二体分の脳を接続し並列思考で処理することでどうにか為している状態だ。三体めが初手で倒されたことは思いのほかマザーにとって痛手であった。

そして風音はスキル『キックの悪魔』によるコンボダメージ増加とスキル『直感』に加えて、スキル『イーグルアイ』によって視界内の空間把握能力が格段にあがっていた。今の風音は敵の変則的な攻撃にもガッチリと対応できるのである。そして危なげなく攻撃を続ける風音の周囲の状況だが……

「やっちまえケイローン!」

直樹の声に応えて、タツヨシくんケイローンが再びランスにファイアドリルを宿らせて寄生トゥースドラゴンへと突撃する。その寄生トゥースドラゴンは、さきほど 這い寄る稲妻と(ライトニング) 捻れた炎の(フレイム) 螺旋撃(ドリル) にはね飛ばされてダメージを受けた個体で、すでに動きにも精彩がない状態だった。もうケイローンのファイアドリルも満足に避けることができず、その身体に大きな風穴を開けられていた。

『チッ、やるなあ。おうりゃっと』

それを見てヴァラオンは地中に拳を殴りつけて、力を大地に流し、鋭い刃のような木の枝を生み出して、うずくまる寄生トゥースドラゴンへと攻撃を仕掛けるが、

「グガァアアアッ」

その攻撃はトゥースドラゴンの身体から生えているトゲによって相殺されるに留まった。

『くぅ、俺はまだこの木竜の力ってのが使いこなせてねえんだよな』

「だったらなんで参加したんだよ」

直樹のツッコミにヴァラオンが『うるせえ』と返す。直樹のコミュ力によりすでにふたりは軽口を叩き合うほどの仲になっていたのである。

『ドラゴンってのは単純にブン殴るだけでも人間よりも強いんだぞ。なめるんじゃねーぜ』

「ま、そりゃそうか」

ヴァラオンの言葉に頷きながら、直樹はもう一方の闘いの場に目をやる。

「しかし、あっちはあっちで派手だな」

『黄金の水晶竜。正直、見惚れるな。あれでドラゴンイーターに耐性まであるってんだから反則だろう』

ヴァラオンの言葉にあるように、残りもう一体の寄生トゥースドラゴンの方にはスキル『竜体化』で成竜となったユッコネエがいた。また、白き翼で周囲を飛び回りながら黒い棍棒で寄生トゥースドラゴンをブッ叩きまくる狂い鬼もともにいた。

『にゃーにゃーにゃー』

ユッコネエがにゃーにゃー鳴きながらトゥースドラゴンに攻撃を仕掛けている。『ドラゴンフェロモン』をスキルセットしてドラゴン形態でも匂い耐性のあるユッコネエはドラゴンイーターにとっては天敵に等しい存在だ。黄金の高熱ガスブレスは触るだけでトゥースドラゴンを覆うドラゴンイーターを燃やし、それを避けようとすると空を飛んでいる狂い鬼が棍棒でブン殴ってくる。

また、両者の攻撃のタイミングは異様なまでに絶妙だった。その理由はユッコネエがもうひとつセットしているスキル『情報連携』にある。実は現在ユッコネエは嫌々ながらもスキル『情報連携』で狂い鬼と接続していたのである。

それは互いに協力しあうためではなく、互いに邪魔をし合わないために相手の行動を把握する目的で使用されていた。

以前に邪魔をし合って練習にならなかった両者に対して風音がキレて以来、彼らはこうして戦闘中に互いの領分を侵さないように対処しあっているのである。それが結果として協力プレイのようにも見えていたのだ。

また、丘へと向かった寄生地竜もその多くがすでにルイーズ指揮の元で駆逐されつつあった。

ドラゴンイーターマザーの支配していた群れはもはや全滅寸前であったのだ。

**********

その状況にドラゴンイーターマザーは当然焦っていた。

もはやマザーにとってこの地は理想の環境ではなくなっていた。地竜の群れに遭遇し急速な繁殖を続けてきたマザーだったが、今や地竜たちは多くが駆逐され、寄生したドラゴンやトゥースドラゴンたちも次々と殺され、残りのドラゴンにしてももう間もなく討伐されかけているところである。つまりマザーの命はもう風前の灯火であった。

『どうりゃっ!』

そして目の前の六本腕の黄金巨人の攻撃は留まることなくマザーを襲い続け、逃げ出す隙はどこにもない。さらにマザーにはもう猶予がない。これ以上、黄金巨人の攻撃を受け続ける余力はもうほとんどなくなっていたのだ。

ならば……と、マザーはすでに死んでいるドラゴンの死骸を分離させた。

『むっ!?』

そのことに黄金巨人が呆気にとられた声を出しながらも目の前に押し付けられたドラゴンの死骸を攻撃する。もっとも、すでに死んではいるがドラゴンの身体だ。盾としては非常に優秀であり、それに合わせてマザーは一気に後ろへと走り出した。

『あ、待てっ!?』

巨人から声が発せられる。しかしマザーは巨人の言葉の意味など理解していないし、待つつもりも当然なかった。そのままドラゴンの足だけではなく、植物の枝を伸ばして無数の足を造り、ただ速度をあげることだけを考えて逃げ出していった。

『ええーい、旦那様フルバースト!!』

直後に背後から七色の光が大量に放たれる。

一撃一撃が強力な光線に、マザーはやむを得ず先ほどの闘いで切り刻まれて損傷の多い方のドラゴンの身体を背にして盾とした。

激しい衝撃が走り、盾にしたドラゴンの身体が破壊されて、その間を抜けて樹体の方にも接触し深刻なダメージをもらったが、それでもマザーは走り続けた。止まることはすなわち死であるのだ。

そして光線が収まると、マザーは盾にしたドラゴンを投げ捨て身体をさらに軽くして森の中へ向かっていった。森の中へと逃げ切れば助かると……そう残り一体のドラゴンの脳で考えた直後に、唐突に真横から三頭首の巨大な狼が飛び出した。

「グガァアアアアッ」

突然の攻撃を受けて最後のドラゴンが断末魔の悲鳴をあげる。激突した三つ首の銀狼の頭に生えた角がドラゴンの『竜の心臓』に直撃したのだ。

すでに先ほどの七色の光でほとんど死に体であった最後のドラゴンはそのまま何をすることもできずに生命活動を終えた。つまりドラゴンイーターマザーは寄生主をすべて失いついに己の樹体のみとなってしまったのだ。

しかし、マザーはそのことに絶望も感傷も感じていない。そもそも感じられる脳もなくなったのでそうした感情のブレも発生しなくなっていた。故に生存本能に身を任せるままに死亡した最後のドラゴンからも離脱し、さらに逃走を続けようとしたのだが、

「ウォンッ」

マザーが進もうとした先に三つ首の銀狼がすかさず回り込んで吠えた。マザーよりも目の前の狼は確実に速い。マザーは己がこのまま逃げ出すことはできないということを理解せざるを得なかった。

『よくやったねクロマル』

そして、最後に一匹の狼がやってきたのである。

それは先ほどもいた、人間のような格好をした二本足で立つ銀色の狼だった。全身を光り輝く銀色の鎧で覆い、手に持つ槍から凄まじい力を放ち、槍の先からは神聖力の輝きが固定された巨大なエネルギーの刃を発生させていた。

それを見てマザーは全身が震え、命の危機を感じた。

透き通るような銀の毛並みに、煌めく金色の瞳。

その深淵に宿るのは命の存在しない荘厳なる死の世界そのもの。何者をも立ち入らせない神々の領域だ。その場に踏み込んだ者を容易に喰い殺す姿を幻視させるような死の獣を前に、マザーは植物でありながら恐怖という感情に支配されていた。そして、マザーはとっさに走り出したのだ。

『そう。やる気みたいだね』

狼の言葉はマザーには理解できないが、逃げ出せないことははっきりと分かっていた。だからマザーに残された道は目の前の脅威に排除されるか、或いは排除することだけ。殺さなければ殺されるのだと魔物の本能が疼き、ならば敵を討ち滅ぼそうと樹体の全身を広げて銀の狼へと飛びかかったのである。

『ォォオオオオオオオオオオオオオオオン!!』

しかし、同時に狼の巨大な裂けた口から何もかもを恐怖で凍り付かせるような遠吠えが響き渡った。

その咆哮はマザーの樹体をも一瞬で硬直させた。そして出鼻を完全にくじかれた形となったマザーに対して狼は一歩を踏み出した。

『まずはひとつ』

そのまま槍を回転させて円を描き神聖力を固めた円刃を生み出すと、まるでスローモーションのように解き放って、マザーの樹体を切り裂いていく。

しかしマザーも植物だ。樹体を切り裂かれようと痛みを感じはしない。己が切り裂かれることを認識しながらも、それをチャンスと捉えた。このまま攻撃を終えた狼に大量の枝の槍を突き出して殺すのだ。そうマザーが判断したのと同時であろう。狼がさらに一歩を踏み出して槍の柄を円刃へと接触させたのは。

『ふたつめ』

直後に樹体を切り裂いていた円刃が激しくブレた。別のベクトルから与えられた力により回転していたエネルギーは揺らぎ、その形を保てずに拡散して周囲へと破壊の衝撃波を発生させ樹体全体を引き裂いていく。

そして、そんな攻撃を受けてはマザーにはもう枝の槍など生み出す余力などあるはずもなかった。全身がバラバラになっていくのをドラゴンイーターマザーは感じながら、それをつなぎ止めようとして、

『そんでみっつめ』

狼はその言葉とともに七つの強力な突きを放ち、そのままドラゴンイーターマザーの樹体を完全に破壊したのである。

『はい、終わり。あー疲れた』

狼はそう言って槍の構えを解いて座り込んだ。極大攻撃の三連発は狼の力を大量に消費していたのである。

その一連の攻撃の名をドラゴンイーターマザーが知るはずもないが、目の前の狼……つまりは完全神狼化した弓花の放った技はバーンズ流奥義『 三種の神器(トリニティ) 』というものであった。

それはかつて凶刃イジカとの死闘で見せたものではない完成された『 三種の神器(トリニティ) 』。闘気の円刃を放つ『斬玉』、それをあらゆる攻撃を弾く『反鏡』を押し付けて暴発させて解き放ち、最後に『七閃』による強力な七連続の突きでトドメを刺したのだ。もはや死に体であったドラゴンイーターマザーがそれに耐えきれるはずがなかったのである。

こうしてドラゴンイーターマザーはジンライの愛弟子『 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) 』の弓花によって倒されることとなった。

それは本人がようやく己のふたつ名を受け入れた新たなる『 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) 』伝説の幕開けでもあったのだが、

「あー私のスキルがー」

『あ、やっちゃったんだぜ?』

今は近付いてきて『私のスキルがー』と悲しそうな顔をしている親友のフォローの方に忙しいようであった。