作品タイトル不明
第五百六十五話 熱き血潮をまき散らそう
土煙舞う焼け野原からウゾウゾと何かが這い上がってくる。
それはドラゴンイーターに寄生された地竜の群れだ。さきほど地中に潜ったドラゴンイーターマザーに取り憑いていた寄生地竜とドラゴンイーターの根に地面に引きずり込まれていた寄生地竜が、地上からの侵攻とは別に地面の中に穴を掘り続けて移動していたのである。それは 雷神砲(レールガン) 対策としての奇襲の予定ではあったのだろうが侵攻速度が遅く、また大地の中であったということもあって結果としてルビーグリフォンの『滅の炎』は寄生地竜たちまでは届いていなかったようである。
その寄生地竜の群れが風音の戦艦トンファーによる爆発によって掘っていた穴の先を破壊され、やむなく地上へと飛び出してきたのである。
また、飛び出してきた群の中にはドラゴンイーターマザーの姿もあった。もっともその姿は先ほどの大樹のような格好ではなく、三つの首を持ったドラゴンのようであったが。
「あれは……三つ首かよ!?」
ゴレムスキャノンの中でレームが声をあげる。見た目は確かに三つ首のドラゴンのようである。内ひとつはレームに頭部を破壊されたドラゴンであることは、首より先のない姿を見てすぐに分かった。
もっともゴレムスキャノンの上に乗っているタツオには他の二つの首のドラゴンと、さらにはレームに破壊されたドラゴンも実際のところはそれぞれ別のドラゴンであることに気付いていた。発せられる竜気の質の違いから、三つの首がすべて別のドラゴンだとタツオには把握できていたのである。
『違いますレーム。三つの首を持つドラゴンではありません。ドラゴンイーターによってドラゴンが束ねられているのです。あれは酷いです』
タツオが怒りに震えながらそう口にする。
正面に見えていたドラゴンと合わせてドラゴンイーターマザーは三体のドラゴンをひと纏めにして寄生していたのであった。その姿にさらにドラゴンイーターに寄生された地竜たちがまとわりついていたが為に大樹のようなシルエットに見えていたようである。
「マジかよ。なんでもありだな、ありゃあ」
レームが苦い顔をしながら、すぐさま 雷神砲(レールガン) モードの準備を開始する。こうした長距離戦闘ではレームはもはや要のひとりあった。
一方でルイーズはドラゴンイーターマザーの周囲にいる見たこともない寄生されたドラゴンたちに目を向けていた。
「マザーのそばにドラゴンがいるわね。何かしら、あれ?」
『ありゃ、トゥースドラゴンだ。全身が歯みたいなギザギザしたトゲで覆われている連中だよ』
ルイーズの問いにはヴァラオンが答えた。そのヴァラオンの表情から楽な相手ではないことをルイーズは感じながら、そのトゥースドラゴンの情報を続けて尋ねる。
「どういうドラゴンなのかしら?」
『闇の森付近に住んでいるドラゴンどもさ。まあ、いる場所が場所だから人間にゃあほとんど縁がない連中なんだが、やたら凶暴でね。成竜になっても知性が宿る個体はいないし、同じ竜種をも容赦なく喰い殺すタイプだ。ブレスは吐かないし翼もねえから飛びもしないが、素早いしパワーもあって倒すとなるとかなり厄介だ』
ヴァラオンが吐き捨てるように言った。
このようにヴァラオンはトゥースドラゴンを嫌っているようだが、竜族の同族基準というものは実に曖昧なところがある。基本的な差違は知性の有無か、或いは己に従うか否かであり、竜種であるか否かにもそれほど拘ってもいないのだ。
正しく言ってしまえば人間の知識を得たことで人間の社会生活を模倣している魔物が神竜帝ナーガを始めとする竜の里に所属するドラゴンなのだ。そのため彼らの基準においては野良竜よりも己と関係性のある人の国を優先するし、害竜の討伐も積極的に行う。
しかし世の中には決して竜の里のドラゴンたちとは馴染むことのないドラゴンも存在している。そうした絶対的に同胞となり得ぬトゥースドラゴンは竜族にしてみればただの敵でしかなかった。
『それも随分とでかいな。成竜になってるか。ありゃあ強いぜ』
眼を細めながらヴァラオンが言う。そのトゥースドラゴンが三体いて、ドラゴンイーターマザーの周囲に護衛のようについている。ドラゴンイーターの木々に覆われながらも鋭い牙のようなトゲを全身から突き出し、白き一団のいる丘と上空の風音を睨んでいるのだ。
『しかし、あの三体だけでも厄介そうなのに、地竜のドラゴンイーターも結構多いな』
すでに寄生された地竜たちの進攻も続いている。上空の攻撃の届かない風音を無視してまずは白き一団全体を狙おうと動いているようだった。
「こりゃあ、ヤバいな。さっさと攻撃再開と行くぜ。レームとジンライ師匠は、さっきみたいに 雷神砲(レールガン) でドバーッと」
状況を遠隔視で見ていた直樹がそう口にしてレームに、それから先ほどまでジンライがいた場所へと視線を向けた。しかし、肝心のジンライとシップーがそこにはいないことに直樹は気付いた。
「頼みって……あれ、いない?」
「任せよッッッッッ!!!」
それからジンライの叫ぶ声がこの場の全員に響き渡った。その声は白き一団の陣取っている場所のさらに後方から聞こえてきたのである。
そして直樹やヴァラオンたちが振り向くと、そこにドラグホーンランスを構えて完全に戦闘モードになっているタツヨシくんケイローンと、さらにはケイローンに連結された二台のサンダーチャリオットが置かれていた。
『し、師匠?』
弓花はその場所を見て疑問の声を投げかける。
そのタツヨシくんケイローンとサンダーチャリオットは戦闘前にすでに準備がされていたものであった。今回の風音は英霊を出す予定はないものの、自分たちのほぼ総戦力で事に当たるつもりだった。タツヨシくんケイローンは 雷神砲(レールガン) 、ルビーグリフォンに続く第三の切り札であった。
「任せよッッッッッッッッッ!!!!」
そして、サンダーチャリオットの御者席にはいつの間にかジンライがドンッと座って叫んでいた。さらにはそれぞれのサンダーチャリオットの屋根の上ではユッコネエとシップーが四本足で威風堂々と立って、ジンライの声に呼応して「にゃー」と「なー」と鳴いていたのである。
『えーと師匠?』
その様子を見て弓花が心配そうな表情をしながら声をかける。明らかにジンライの様子がおかしい。さきほどの 雷神砲(レールガン) 乱射から一旦は正気を取り戻したようにも見えていたのだが、それは完全な勘違いのようだった。
自分の師匠がそんな自制のできる人間ではないということは弓花が一番知っていたのに、完全に見誤っていたのである。
『なんか目がヤバいですよ。鼻血とか出てますし。ていうか、大丈夫ですか? やっぱり駄目ですか?』
「ウワッハハハハハハハハ、ユミカよ。その通りだ! あんな雑兵ども。ワシがブッ飛ばしてやろう!」
「わ、師匠に言葉が通じていない?」
「任せろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッ!!」
さらにブチンと血管が切れたジンライが奇声にも近い叫び声をあげる。そう、ジンライの精神は今や完全に新しいステージへと上がっていたのだ。戦いは容易く人の心を壊してしまう……そんな狂気をもはらんでいる。ジンライは僕らにそうした非日常にある恐ろしさをその身を持って教えてくれたのだ。
また、そんなジンライの意識と同じように『這い寄る稲妻』もまた新たなるステージに上がっていた。
タツヨシくんケイローン、ユッコネエ、シップー、さらにはユッコネエのスキル発動による二台目の『サンダーチャリオット』をも合わせたことでかつて以上の出力を発揮することが可能となっていたのだ。
その名は 這い寄る稲妻と(ライトニング) 捻れた炎の(フレイム) 螺旋撃(ドリル) 。大地を切り裂く雷と炎の超特急ドリルである。
「準備は良いかああッ!!」
「ォォオオオン」「なー」「にゃー」
ジンライの叫び声に、ケイローンの中にいるモンデールやユッコネエ、シップーからも返事の声があがる。
するとケイローンの構えたドラグホーンランスに二重の炎の螺旋が渦巻いていく。その背後には紫電結界が張られ、ドリルの螺旋に共鳴し、炎と雷が混ざり合わさりながらケイローンからサンダーチャリオットを覆っていった。
「それでは突貫だぁあああ!」
そして、炎と雷が渦巻く巨大なドリルが白き一団の陣地から一気に飛び出していったのであった。