軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百六十四話 木々を燃やそう

◎東の竜の里ゼーガン 東の草原

『こりゃあ、ひでぇな。一体何があったんだ?』

『これは神竜皇后様のご友人がドラゴンイーター用に使う術を試し撃ちした後だそうだ』

話し合うドラゴンたちの目の前には一面の焼け野原があった。草木は炭となり、土や岩が溶けていた。それはもう酷い惨状である。

『こりゃあ、スザ様の朱雀炎よりも強力そうだな。皇后様のご友人っていうと人族だろ? まったく皇后様は恐ろしいお方だな』

ようやく数十年前に成竜に届いたばかりの若いドラゴンたちは口々にそう言って、戦々恐々とした気持ちを胸に仕舞いながら目の前の状況の後始末を行い始めた。

それは木々のない、草原であった場所。上空から見れば、放射状に焼けた跡がクッキリと残っているのが見えたことだろう。そして、その跡こそが風音が求めた結果のひとつであった。

◎モルフォド山脈近辺 ジルカの丘

白き一団の陣取っている丘の上では、真っ赤な炎の渦が立ち上がっていた。それはまるでストロンチウムの炎色反応のような濃い赤色、そして併せて黒い炎も立ち昇っていた。

そんな炎の中に白き一団とヴァラオンはいたが、炎は彼らには燃え移っていなかった。それは魔力の炎であり、世界に顕現されていないものなのだ。

その炎の中心には風音と手を繋いでいるティアラ、またふたりの前には幼体のグリフォンが四本足で立っていた。幼獣の中からはすでにメフィルスの意識は消え、本来のルビーグリフォンの意識が目覚めていた。

「では『ルビー』。頼みます」

ティアラがかつての主によって名付けられた名を口にするとルビーグリフォンはうなり声をあげて、周囲の炎を一気に燃え上がらせてその身へと吸い込ませていく。

「炎が消えていく?」

「いや、グリフォンの体の中に入っているんだ」

エミリィの問いに直樹が答える。

そして、渦巻いた炎のすべてがグリフォンの体の中へと収まったとき、風音たちの前には巨大な赤と黒の配色となった鷲獅子『ルビーグリフォン』が出現していた。

「グルゥゥ」

それはかつて悪魔の策略により闇属性を得たことにより、ユッコネエの太陽属性と対となる日蝕属性とも言える存在へと昇華した新しいグリフォンであった。その姿を見て風音が眉をひそめながらティアラを見た。以前に召喚したときよりも強い力を感じたのだ。

「ティアラ?」

「大丈夫です。ルビーも大丈夫だと言っています」

風音が苦しそうな顔をしているティアラに声をかけるが、ティアラは風音の手をぎゅっと握って微笑みで返した。併せてルビーグリフォンも「グルゥ」と吠える。

ティアラの現在のレベルは28。予定のレベル30ではないためにひとりでルビーグリフォンを喚ぶのはかなりの負担といくつかの条件を必要とするはずなのだが、今のティアラは風音のスキル『友情タッグ』の恩恵を受けてブーストされているために問題なくルビーグリフォン召喚が可能となっていた。

さらにはティアラの背にあるのは大型蓄魔器である。風音が計測したところでは魔力値523をプラスできる個人装備品としては最大クラスの蓄魔器であった。その上に蓄魔器は装備していないと魔力を蓄積できない。外すと魔力が蓄魔器から放出されてなくなってしまうため、常に身につけておく必要があるのだ。

そのため、この依頼を受けてからティアラはずっと大型蓄魔器を背負い続けていた。割れ始めた腹筋を持つティアラにはその所持が可能であったのだ。

「ティアラはずっと頑張ってたもんね」

風音がティアラの、今は服に隠れている腹筋を見ながら頷く。その言葉にティアラが嬉しそうに笑いながらギュッと風音の手をさらに握り、その手触りを感じながら視線を正面に向けて口を開いた。

「ええ、その成果をここでお見せしますわ」

またルビーグリフォンの出現には少しだけ戸惑っていたドラゴンイーターに寄生された地竜たちだが、今は再び走り始めて白き一団のいる丘へと向かってきていた。例え火系統の召喚獣が出ようと物量で圧せば勝てると踏んだのだろうが、それが甘い判断であるか否かはここからのティアラにかかっていた。

「ティアラ、分かるね?」

「はい。見えていますわ」

風音の言葉にティアラは頷く。風音が遠隔視で見ている上空からの光景をスキル『情報連携』でティアラに送っているのだ。

『やべえ。連中が来るぞっ』

ヴァラオンが叫ぶが、それでもティアラはまだ動かない。ティアラ本人と蓄魔器で併せて魔力値は700以上あるはずだが、 魔力の川(ナーガライン) との接続なしの状態で全力で撃てるのは一発だけだ。だから慎重に狙う。すべてを射程内に捉えて一撃で燃やし尽くそうと……

「ティアラッ!」

「いきます!」

風音の声とティアラの声が重なった。上空からの視界に映る敵の配置と、東の竜の里で燃やした草原の炎の跡が一致した。

そして、ティアラの意志を受けてルビーグリフォンが翼を広げて口を開く。タイミングは完璧だった。そのままルビーグリフォンの魔力が集中し、幾重にも重なる魔法陣の中に赤い炎に包まれた黒いエネルギー球が生まれていく。

「デカイッ!?」

「なー」

その光景に気付いたジンライが 雷神砲(レールガン) を止めた。白き一団や寄生地竜たちの目の前でエネルギー球は大きく膨れ上がっていき、

『グルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

ルビーグリフォンの叫び声とともに、寄生地竜に向かって凄まじい量の炎がエネルギー球から噴き出されていく。

それはもはや炎の津波であった。辺り一面すべてを燃やし尽くす『滅の炎』。かつてのものとは違い、闇の色の濃いルビーグリフォンの炎は範囲が狭まり威力が向上したものとなっているようだった。

そうした性質の違いを理解しながら、ティアラは的確に己の射程を事前の試射で測り、今最高のタイミングで撃ち放ったのだ。

そして『滅の炎』は一気にその場の木々を燃えあがらせ、寄生した地竜とともにマザーの眷属たるドラゴンイーターたちをも焼き尽くしていく。そのまま白き一団へと攻めてきていたドラゴンイーターたちはその場で全滅していったのであった。

『ひええええ』

放たれたのは魔力の炎。継続時間が短いために僅かな間に炎が消え目の前には黒こげの焼け野原がすぐさま現れていた。それを見てヴァラオンが悲鳴をあげる。例えヴァラオンがドラゴン属の中でも稀少な種類の上位存在であってもグリフォン属の最高位にいるルビーグリフォンとは格が違う。その力に圧倒されていた。

もっともヴァラオンのような悲鳴こそあげなかったものの、彼の思いに近いものは他の白き一団のメンバーにもあったことだろう。それほどまでにルビーグリフォンの炎は強力だった。

「すごいな」

「ええ。あれが守護兵装に選ばれるほどの存在の力なのね」

直樹の言葉にエミリィが同意する。

ともあれティアラは狙った敵をすべて燃やし尽くし、己の役割を完遂した。

「こりゃ、全部カタついたりしちゃったかしら?」

「いんや。そういうわけにもいかないみたいなんだよね」

ルイーズの問いに風音が難しい顔をしながら返事をする。

風音は目を細めながら慎重に目の前の光景を見ている。同時に鼻をクンクンと動かしながら、状況を把握していった。

『んー気配がおかしい?』

すでに刀身化して全身が刃でできた 全身鎧(フルプレートメイル) を纏っているかのような姿の弓花が眉をひそめている。

「ふぅう、ふぅう……ふむ。連中、きおるか」

正気を取り戻したらしいジンライも 雷神砲(レールガン) から義手を元に戻しつつ、正面を見ている。何かが迫ってきているのを三人は感じとっていた。それも気配は地面の下から来ているようである。風音がその様子を『友情タッグ』で強化している『犬の嗅覚』でおおむね把握したところで、ティアラの手を離した。

「ティアラ、あんがとね。ここからは私たちの出番だから」

「お、お願いしますわ」

ティアラがそう返しながら、名残惜しそうに風音の指からほどけた手を自分の左手で握りしめる。大型蓄魔器はすでに空で、自分の魔力も精々がメフィルス一人分の召喚で打ち止めだろうと理解している。つまりティアラの役割はここまでだった。

「え……何か、来る?」

地面からの振動に気付いたエミリィが声をあげるが、風音は難しい顔をしたまま目の前の焼け野原を見る。

「とりあえずはやってくるのを地上に引きずり出すよ」

そう言いながら風音は黄金翼を生やして空へと飛んだ。そして、風音がそのまま上空へ上がって見下ろしてみれば敵の状況は一目瞭然であった。徐々にこちらに近づいてくる盛り上がった土塊が見えているのだ。風音はその先頭近くまで飛んでいくと両手を天に掲げてスキルを発動させる。

「スキル・戦艦トンファー」

その言葉とともに天にふたつの魔法陣が浮かびあがった。そこから二十メートルはある戦艦が二隻召喚されて、そのまま落下していって焼け野原の、盛り上がった土塊の道の最先端に見事に激突した。そのことを確認した風音が力の限り叫ぶ。

「爆ぜろっ」

その言葉とともに戦艦トンファーの魔導エンジンが自爆し、戦艦そのものを吹き飛ばすほどの大爆発がふたつその場で起きた。それはもう戦艦でもトンファーでもなんでもなかった。

『来る!?』

その爆発の様子を見ながらも弓花が眉をひそめる。

それは戦艦トンファーの扱いの悪さにではなく、爆発した地面から迫る何かを感じたためである。空中にいる風音にしても同様に気配を感じて眉をひそめた。

「こりゃあよくないね。全員戦闘準備急いで! 思った以上に『数がいる』!」

その風音の声と同時に戦艦トンファーの爆発のあった場所からドラゴンイーターに寄生された地竜たちの姿が見えた。そして、地中より攻めてきていた寄生地竜たちが地上へと大量にあふれ出てきたのであった。