軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百六十三話 兵器を使おう

モルフォド山脈。そこはハイヴァーン公国と隣国であるゼルフィール帝国との国境ともなっている山脈である。

この近辺には闇の森もあるために魔物の数も多く、地竜などといった下位竜も多く存在している。それ故にモルフォド山脈周辺はあまり人の立ち入らない地域であった。

もっとも正確なことを言えばこのフィロン大陸内における人類の生息域はそう広いわけではない。沿岸を中心に魔素の薄い地域のみに国を造り繁栄しているのがフィロン大陸における人間たちの実態であり、モルフォド山脈はちょうど人と魔物の生息域の境界に近い場所であった。

そんな山脈の麓には今、ドラゴンイーターマザーと呼ばれる魔物が住み着いていた。

「グォォオオン」

力ない悲鳴が聞こえる。その声は地核竜と呼ばれる地竜の上位種のものであった。それに木々が絡みつき、苦痛と快楽の中で地核竜は鳴き続けているようだった。

その様子を見ながら『心地良い』とドラゴンイーターマザーは考えた。植物でありながら寄生主であるドラゴンの脳を得たことでドラゴンイーターマザーは思考を手に入れていたのである。

もっともそれは己の習性を基準とした酷く歪なものであり、主に嗜虐心を満足させることぐらいにしか現在までは使えてはいなかった。

そして、数日前に近付いた獲物については惜しかったとドラゴンイーターマザーは考えた。巨大な苗床がこの地域に少しだけ近付いて、またすぐさま引き返して去っていったのを感じていた。

あれが手に入ればさぞかし己の力を増すこともできただろうと理解していた。

しかし、だからといってドラゴンイーターマザーが慌てることも焦ることもない。元々が植物なのだ。待つことには慣れている。

それにもう次の獲物も近付いてきたことに気付いていた。それはドラゴンイーターマザーの領域の一歩手前まで近付くと止まったようなのだ。

ドラゴンイーターマザーには相手がこちらを意識しているのが分かった。立ち止まり窺っているのが理解できた。ならば迎えに行くか、と……己の手足となる眷属たちを動かそうと考えたときのことである。

『ガッ!?』

寄生しているドラゴンの口から思わず声が漏れた。腹に穴が空いていた。ぽっかりとした穴が……それはとてつもない速度で飛んできた何かが貫通した跡であった。

そのままドラゴンイーターマザーの後ろで土塊が爆発したように吹き飛んだ。貫通した何かがドラゴンイーターマザーの身体を突き抜けた後に地面に接触して土を巻き上げたのだ。

同時に今のものと似たような何かが幾つも飛んでくるのがドラゴンイーターマザーには分かった。

『グガァアア?』

寄生しているドラゴンの口から鳴き声が漏れる。

周囲を土塊が舞っていく。どうやら一射目以降の命中精度はガクンと落ちているようで、周辺にいる眷属たちは次々と吹き飛び死んでいくのだが、ドラゴンイーターマザーへの直撃は最初の一発のみである。

周囲の被害は甚大で確かに驚異ではあるが、しかしマザーへのダメージは未だに……

次の瞬間に、ドラゴンイーターマザーが寄生されたドラゴンの頭部が続けて破壊された。

◎モルフォド山脈近辺 ジルカの丘

「ヒット」

レームがそう口にする。ゴレムスキャノンから伸びた左側の 雷神砲(レールガン) モードの 雷王砲(レールキャノン) からは煙があげている。さらには『右側』の伸びた 雷王砲(レールキャノン) からもたった今、アダマンチウム製の弾丸を射出したことでその膨大な熱により煙があがっていた。

「ドタマに完璧に命中したな。この鷲の目のネックレスってのはすげえな」

レームがゴレムスキャノンの中で感心してそう口にする。鷲の目のネックレスで強化されたレームの視界はドラゴンイーターマザーと呼ばれる個体が寄生しているドラゴンの頭部を二発目で完全に撃ち砕いたのを目撃していた。

『やりましたか?』

「おうともよー」

横にいるタツオに、レームはゴレムスキャノンの腕を動かしてサムズアップをする。

それより少し離れたところではジンライが高笑いをしながら 雷神砲(レールガン) をひたすらに撃ちまくっていた。恐ろしい勢いで眼前には土煙の柱が轟々とあがっていて、このままでは地図が書き換えられそうな勢いである。

「あー、ジンライのおっさんは今までで一番生き生きしてるように見えるな」

ジンライの様子を見てレームが呟き、タツオがくわーっと鳴いて同意した。ちなみにレームの 雷神砲(レールガン) モードの弾丸はアダマンチウム製だが、ジンライの方の弾丸は風音の指示によりスザが急いで造り上げた鋼鉄製となっていた。時間ギリギリまで造られて二百発ほどはあるその弾丸をジンライは弾数をまったく気にせずにぶっ放し続けているのだ。

「うわっははははははははっ」

もはやジンライのテンションはマックスを通り越しているように見えた。このまま血管がブチ切れて死ぬかも知れない状態である。その周囲ではシップーが「なーごなーご」と荒ぶって飛び回っている。こちらもテンションがヤバい。ひとりと一匹がウォーモンガーと化している。そこには非常に近付きがたい空気があった。

「つか、マジであのおっさんヤバいんじゃねえの?」

顔をひきつらせたレームはそんなことを口にするが、作戦行動ではあるので止めはしない。そしてレームは一区切りついたところで現状を振り返った。

今は東の竜の里を出てから二日目の昼である。

白き一団はドラゴンイーターの上位種であったドラゴンイーターマザーがいる地域内ですでに配置を整え、攻撃を開始していた。

「しっかし、圧倒的だな。あれ、お前らにとっては天敵ってやつなんだろ?」

『そうらしいですね。私は耐性がありますが父上でも危険だそうです』

レームの言葉にタツオがそう返す。

ドラゴンイーターというものはドラゴンにとっては天敵であり、近寄ることすらも危険な寄生植物系の魔物だ。そのため、神竜帝ナーガにしても普段であれば竜族を遣わさずにハイヴァーン公国かゼルフィール帝国に討伐を要請することになるのだが、今回はドラゴンイーターの繁殖速度が早く予断を許さない状況となっていたために、やむなく白き一団の投入を願い出たのである。

なお白き一団には竜の力を持つ者も多いが風音やユッコネエ、タツオ、狂い鬼はドラゴンイーターの臭いに耐性があり、弓花の方も神狼化か刀身化によって対処が可能であった。

また、木竜であるヴァラオンも今回は戦闘参加となっていたのだが、今はお座敷の猫状態のようであった。

『ひぇーー、なんですか。この状況は?』

ヴァラオンはその場で待機しつつも目の前の光景に怯えていた。その惨状はもはや戦争と言ってもいいのに、すべてが白き一団の 一方的な攻撃(ワンサイドゲーム) となっているのだ。ジンライとレームの放っている 雷神砲(レールガン) の威力にヴァラオンは驚愕するしかなかった。いや攻撃そのものもそうなのだが、それが人間の、使用者をほとんど選ばないような兵器によって長距離から砲撃されていることにヴァラオンは冷や汗をかかざるを得なかった。ドラゴンという力の象徴が崩れ去る恐れすらあった。

そんなことを考えていたヴァラオンの前で、レームはゴレムスキャノンの 雷神砲(レールガン) モードのチャージが完了しそうなのを感じ、タツオに声をかける。

「うし、もーそろそろ撃てそうだし、弾込めてくれ」

『ラジャッです』

レームの言葉に頷いたタツオが二門の 雷王砲(レールキャノン) にアダマンチウム弾を込め始める。

現在のゴレムスキャノンはデスソードレインのチャイルドストーンを使用して 雷王砲(レールキャノン) 一門ずつにチャイルドストーンを装備していた。つまりは二門とも 雷神砲(レールガン) モードが可能となったのである。

その上に鷲の目のネックレスでの視力強化によりレームの命中精度は非常に高まっているのだから、その脅威度は見方によってはジンライの 雷神砲(レールガン) よりも上であるかもしれなかった。

「よーっし、ファイア」

タツオがアダマンチウム製弾丸を入れ終わるとレームが再び射出を開始する。今度はドラゴン部分の竜の心臓に狙いをつけた。まず初弾は調整の一発。続けて思考速度を落とすために頭部を、その次はその能力を落とすために竜の心臓を……というのが今回の風音のオーダーであった。

最初にコアである竜の心臓の破壊を優先した方が良いようにも思えるが、竜の心臓を止めればドラゴンイーターマザー本体の戦闘力は低下するだろうが、マザーのコアを破壊しない限りはその活動が止まることはないのだ。

それに今回の敵は眷属であるドラゴンイーターを大量に抱えているために、まず風音はマザーの知力を削ぐことで指揮能力を先に奪うことを選択していたのである。

「チッ、ずれたか」

三発目の狙撃は外れ。レームは眉をひそめながらその結果に舌打ちする。レームの狙いが外れたのはドラゴンイーターマザーが動き出したためであった。

「カザネ。あいつ、地中に潜ってくぞ」

叫ぶレームの言葉通りに、ズルズルと大木にも似た魔物が大地に沈んでいくのが他のメンバーにも見えた。その正体は樹木と地竜たちの集合体ではあり、大きく膨れ上がり、酷くグロテスクであった。

「姉貴。周辺の敵さんもこちらに一斉に動き出してるみたいだ。連中、やる気だぞ」

風音の隣にいて遠隔視で全体を見通していた直樹がそう報告をする。その言葉に彼らの中心人物である風音は「まあ、おおむね予定通りだね」と口にした。そのまま風音は続けての指示を出す。

「レーム。当たらなくても良いからドラゴンイーターマザーに攻撃を続けて。居そうな場所にぶち込んじゃって。そんで、ジンライさんはそのまま撃ち続けていていいや」

「応よっ」

「ワハハアハハッハハハ」

レームは風音の指示に答えたが、ジンライの方はもう駄目になっているようだった。新しい戦争の形はジンライという熟練の戦士すらもただの 戦争狂(ウォーモンガー) に変えてしまうのである。恐ろしい。

そして、そんなジンライの様子に肩をすくめる風音の後ろにいたティアラが一歩前に出て風音の手を握った。

「カザネ。やれますわよ」

そう口にしたティアラは、ランドセルのような四角い物体を背負っていた。重量はあるようだがそれをティアラは苦にはしていない。ここに至るまでに鍛え続けた成果が出ていたのである。

「お爺さま」

『うむ。思う存分にやるが良い』

また、ティアラの右手は風音の手を掴んでいたが左手は幼体グリフォンのメフィルスを抱えていた。これから為す事のためにはメフィルスは必要な存在だった。

「そんじゃあ、見せつけようか」

決意を固めているティアラを見ながら風音は笑みを浮かべた。その顔には自信がみなぎっている。そして、風音は口を開く。

「殲滅魔獣って謳われたルビーグリフォンの本当の力ってヤツをさ」

広域戦闘型召喚獣ルビーグリフォン。

ツヴァーラの守護獣にして、かつて神竜戦争においてはタツヨシ王の隣にいたミンティア王妃が使役し、竜帝ガイエルの使役竜たちを一網打尽にしたとして知られている伝説の魔獣。

その美しい姿から紅玉獣とも呼ばれる召喚獣の本気が今、この場で解き放たれようとしていた。