軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十七話 黒歴史を語ろう

「よし、ジンライさん。これでいいかな?」

風音はゴーレム・テバサキさんを使って穴を掘り、冒険者の亡骸を埋めていった。

「魔物に掘り起こされるかもしれんがな。ギルドカードを持って帰って後はギルドの連中に任せるしかないだろうよ」

「了解。ディアボの方はやっぱり素材とかなし?」

風音の目の前には不定形の黒い固まりがあった。数刻前までディアボと名乗った悪魔の『死骸』だった。

「死骸といってもいつかは復活する。残念だが封印してもらうのが一番良いのさ。『ディアボを倒したルイーズ姉』にな」

そうジンライは言い切った。その横にいるルイーズも頷く。二人はソレを疑っていない。

「こっちもエルダーキャットの毛皮の回収終わりましたよ師匠。ちょっと穴が開いてるけど」

「その程度なら問題あるまい。死体は燃やしておけ。ゾンビ化されたら洒落にならん」

「わっかりましたー」

そう言って弓花はティアラとメフィルスのいるエルダーキャットの死骸の方に戻っていく。

「ティアラもちゃんとやってるみたいだね」

「お姫様だからと言ってパーティメンバーに遠慮はできないからな。メフィルス様もそれは分かっている」

ジンライの言葉に風音も頷く。

「あとはこのチャイルドストーンね。一応調べたけどやっぱり親が風音に変更になってるみたいよ」

ルイーズがそう言ってチャイルドストーンを風音にかざす。するとチャイルドストーンがわずかに光った。

「やはりか」

そういって口元を押さえ考え込むジンライに風音が尋ねる。

「なんかマズいの?」

「いや、心臓球と違いチャイルドストーンは個人所有が認められている。宿主に選ばれるのも珍しいが悪いことではない。問題はないだろう。ただエルダーキャットがこちらまで来た理由が気になってな」

「なんか引っかかることでも?」

「恐らく奥の階層にかなり強力なチャイルドストーン持ちの魔物でも出たのでこちら側に縄張りを移したんだろうよ。拡大期が本格的に起きているということだな。ルイーズ姉、そのチャイルドストーンは風音に渡してくれ」

「はいな。風音、なくさないようにね」

「大丈夫だよ」

そう言って風音は受け取る。するとその球体の石が淡く光る。

「好かれているようだな。カザネ」

「そうなの?」

その光が妙にくすぐったく感じる。

「ああ、そいつがあればさっきのエルダーキャットが呼べる」

「召喚獣だね」

風音は目を輝かせる。

「そうだ。親が変更になったことでエルダーキャットも召喚主に合わせた存在に変わっているだろうが基本的にはさっきのように直感を頼りに戦うタイプなのは変わってないはずだ」

「なるー、まあ後で使ってみるよ」

風音はそれをアイテムボックスにしまう。

「それじゃあ今日はもう帰ろっか?」

「そうだな。さすがに悪魔を相手にするのは疲れた。正直ルイーズ姉がいなかったらと思うとゾッとするな」

「まああたしはそのために呼ばれたところもあるからね」

2人の会話はルイーズがディアボを倒したという前提でのものだった。この場にいない弓花やティアラも同じ同様の答えが返ってくるだろう。

『これで良いのかの』

「うん、お爺ちゃん。あんがとね」

その横で風音はメフィルスとひそひそと会話をしていた。

ディアボはルイーズが倒して解決した……という風にねじ曲げたのは風音だった。それはディアボが倒された直後に行われた。

◎オルドロックの洞窟 第四階層一時間前

ギャハハハハハハ……とそれは笑い転げていた。

あれからの戦いはもはや戦いと呼べるものではなかった。一方的なただの虐殺、ただの蹂躙。ディアボはまるで虫けらのごとくなぶられ、謝罪の言葉も、憎悪の呻きも、嘆きの悲鳴すらも発せられず、恐怖のみを与えられて殺された。

「レベルアップ。スキルは『致命の救済』ってのが手に入ったのか。これがディアボが倒したはずなのに倒せなかった理由なのかな?」

風音がウィンドウを開いて自分のレベルアップと追加したスキルを確認する。『致命の救済』、そのスキルは文字通り致命的な状態を強制的に救済するスキル。ティアボが自嘲気味に答えていた体質や特性とはこのことだった。自分がやられるときにしか発動しないというパッシブスキルでこれが発動するということは相手の力が自分を上回っていたことの証明でもある。発動自体がディアボのプライドを傷つけるシロモノだったわけである。

『どういうことなのか説明はもらえるんだろうな。カザネよ』

その横にいるのはメフィルス、目の前にはディアボの死骸らしき黒い物体と背後には倒れている仲間たちがいる。この仲間たちを倒したのは、風音のセカンドキャラクターであった。あの化け物のような姿のアバターはディアボを倒した直後に仲間たちを忘却の魔眼を使って意識を奪っていた。

「私もこいつがいきなりやったのは驚いたけど、多分自分に関する記憶を消したんだと思う」

『消した?』

メフィルスの問いに風音は頷く。

「私なら……そうだね。ルイーズさんがあのディアボを一度倒した攻撃直後からの記憶を削除したんじゃないかな」

「イエース、オーグゥゥウッド」

セカンドキャラクターがそう言った。

「目が覚めたらルイーズさんがディアボを倒したってことで話がまとまると思うからお爺ちゃんも話を合わせてくれると嬉しいな」

『なぜそうする必要があるのだ?』

そのメフィルスの言葉に風音はセカンドキャラクターを見て悲しそうに微笑んだ。

「このこは私の黒歴史。触れてはいけない禁断の過去、本来許されるべきではない、あってはならない存在なの」

そう口にしてメフィルスを見る風音の目に光はなく、それは奈落の底を思わせた。

「弓花にだけは知っていてほしくはないんだ」

(なんという目だ……)

メフィルスはゾッとした。そしてひとりの少女にここまでの何かを背負わせた異質なる存在に恐怖した。だが、目の前の少女がそう口にするのであればコレ以上は踏み込むべきではないともメフィルスは判断した。

『分かった。ティアラたちに問題がないのであれば余もなにも言うまいよ』

「ありがとうお爺ちゃん」

そう、風音は寂しそうに笑う。そしてセカンドキャラクターが光になって消えていくと共に仲間たちは次々と目を覚ましていった。

◎オルドロックの洞窟 第四階層 現在

(ふー、あいつがみんなに忘却かけたときにはどうしようかと思ったけど魔眼の効かないお爺ちゃんも説得できたしこれで問題ないよね)

実際にディアボを倒した風音は大きな安堵に包まれていた。あれは風音にとっては恥部そのもので、特に弓花の追及だけは避けねばならないモノだったのだ。

ひとつ話をしよう。

ゲーム・ゼクシアハーツの中でプレイヤーたちのなかで囁かれる噂の一つに『復活する本棚』というものがある。これはステータスアップ用の強化本を使用した後、再度この本棚に入れて整頓するとまた強化本が復活しているというバグ技だ。ハイヴァーンの農家のヨンばあさんの家の本棚がそうだと言われているが実際に試してできたという報告は非常に少なく最終的にはデマだと結論付けられた噂だった。

だが、実のところそのバグ技は存在する。ただしそれはヴァージョン1.02以降となる通常の製品版ではなく負荷テスト用に先行発売されたヴァージョン1.00のみで使える裏技なのである。

製品版メディアに入っているのはヴァージョン1.02であるため、ほとんどのプレイヤーが実質不可能な幻の技なのだが先行版をインストールしアップデートファイルを更新しないか削除してプレイを開始してからこの裏技を使用すればわずか数時間で強化本で増やせるすべてのステータスをカンストすることすら可能なのだ。そして、その技があることを知るプレイヤーのほとんどが『使った人間はクズ』と罵倒するほどの悪質な行為として伝わっている。これは先行版所有者の特権意識の増長を嫌ったこととアペンドディスクとして発売したMMO版ゼクシアハーツへの本編からのキャラクターコンバート不正チェックに引っ掛からない点を危険視したためと言われている。

しかし当時中学二年生だった風音は、その禁断の技に手を出してしまった。

それは一周目をクリアしてもう二周目だし少しくらいハッちゃけてみても構わないだろうという、風音曰く『若さ故の過ち』によるものだった。

タガが外れた中ニは止まらなかった。道具屋の倉庫と連動している謎の空き家の宝箱を漁りまくったり、連射パッドで一晩中放置してカジノのコインをカンストしたりした。

さらに壊れた中二は暴走する。そこから実績解除のためにヒールプレイにも手を出し始めていた。既に実績を手に入れるだけの存在だった風音はもはや感情を失ったキリングマシーンだった。

七夜をかけ、七つの街を焼き払い、人々の呪いの言葉を一心に受けたアバターは血の涙があふれ出した。同盟を結ぼうとやってきた魔王に対し英霊召喚の指輪で呼んだジークに爆弾を持たせて特攻自爆させたりもした。なお、その際の印象が強かったので風音の中でのジークとセカンドキャラクターの関係性は「オイじーく、ちき丸クン買ッテコイヨ」「サーイエッサー」的な感じである。ヒドいカースト制度だ。なにが最強(笑)であろうか。

そして風音が正気を取り戻したとき、すべては手遅れだった。

彼女の愛するゼクシアハーツの世界は崩壊していた。

人類を滅ぼし不死属性のユニークNPCをすべて井戸に放り込むという実績を解除した風音はその場で呆然と立ち尽くした。そんな実績を用意した開発陣も開発陣だが、そもそもよく審査が通ったものだ。

後日、風音は半狂乱となり、とりあえず達良くんに謝って許してもらおうと考え、達良くんの自宅の前で土下座を敢行する。誰でもいいので許しが欲しかったのである。ゆっこ姉はその手のことに厳しいので「ゆっこ姉は許してくれないだろうなあ」という打算があったことも否めない。

そして最初にドアを開けて発見した達良くんの母ちゃんが度肝を抜かれたのは間違いなかった。達良くんが意味も分からず母ちゃんに怒鳴られたのもやむを得まい。そして当時の風音の精神状態を考えれば、ネコミミを付けろと、メイド服を着ろと、たとえ全裸で土下座をしろと言われても風音はしただろう。達良くんがそれをスマフォのカメラで激写しても罰として受け止めただろう。だが達良くんは逮捕されていただろう。

逮捕はされなかった。

達良くんの良心は悪に打ち勝った。いやそもそも達良くんはそんなこと考えてもいなかったのでこの書き方は印象操作を狙った節がある。ヒドい時代だ。そして達良くんは母ちゃんの厳しい視線にさらされながら自室に泣き続ける土下座少女を連れ込み、事情を聞いた。

風音の行いを聞き、クラウドにセーブされていた実績達成前後のリプレイ動画を見て達良くんも完全にドン引きしていたが(キルカメラよろしくNPCが「あーーー」と言いながら井戸に落とされる映像。井戸の入り口が遠ざかり風音のセカンドキャラクターが扉を閉めて終わる)、というか(やばくね)と思ったりもしたが、なにしろ中二である。そういう多感な時期だと結論づけ、第三の人生を歩めばいいじゃないかと達良くんは風音に説得した。

それでも納得ができなかった風音に達良くんは「なら殺してしまった人たちの為に生きなさい」「彼らを豊かにしなさい」「街に花を植えなさい」「争いをなくし平和な世界を作りなさい」と諭した。ゼクシアハーツは交渉プレイと街発展プレイも内部処理的に行われている。時間をかければそうしたプレイも可能なのだ。地味でバランス調整が難しくプレイヤーへの利益還元率も低いのであまりやる人も少ないが。

そして風音は三周目をラブアンドピースで通すことに決めたのである。ちなみに荒廃した国の王にラスボスの魔王はとり憑くのですべての国が一定以上繁栄している状況だと魔王は出現せずクリアはできなかったりする。

ともあれ風音は達良くん以外にはソレを話してはいない。ゲーム好きというアイデンティティを殺される恐れがあるそれを風音は忌避し続けていた。故にあのセカンドキャラクターも存在自体が黒歴史なのである。

(弓花にバレなくて良かったなあ)

そう風音は安堵して、帰りの道を歩み始めた。