作品タイトル不明
第五百五十八話 盟友と再会しよう
『あ、いや……なかなかに立派なドラゴンを従僕にしたと思ってな。本当に見事な竜よ。さすが我が后だと我も鼻が高いぞ』
目の前に突如現れた盟友を前に、ナーガは己の動揺を隠しながらそう答えた。そのナーガの言葉には風音が「えへへぇ」と照れ、タツオが誇らしげにくわーっと鳴いた。一緒にグリグリも「グルルゥ」と鳴いて笑っている。明らかに分かっている感じの笑いである。その盟友の様子に再度チラッとだけ視線を向けたナーガだが、今はそれから頭を切り離すことにした。
原因は分からぬが目の前の盟友がカザネのペットとして振る舞っている以上は何かしら考えがあるのだろうと思い、敢えて無視を決め込んだのである。
「それじゃあ改めてお久しぶり旦那様。タツオもこんなに立派になったよ」
風音が頭の上にいるタツオを持ち上げて、ナーガの前へと差し出した。いつもの黒竜偽装はされていない、素のままのタツオがくわーっと両手を上げてナーガに鳴いた。
『うむ。以前よりも強い力を感じる。肉体も竜気も、そしてその意志の強さもかつてとは比較にならぬほどに強くなっておるな』
ナーガは嘘偽りなく、己の感じたままを言葉に紡ぐ。
タツオはその大きさこそ里を出たときとはそれほどの違いはないが、角は二本から三本へ変わり、七色の輝きも以前よりも強く、身体を覆う水晶の殻も増えていた。
『小さな身でありながら、光線とゴーレムの術を用いて幾多の敵を葬ってきたと聞く。その年の幼体の竜としては恐らくもっとも強大なる力を持った存在であろう。立派になったなタツオよ』
『父上ーーー』
タツオが感激のあまり、飛び上がってナーガの顔へとベトッと抱きついた。
『ふむ。飛行も思うがままか。まったくできた息子だ。さすが我が后の教育というべきか』
「私だけじゃないよ。みんなもいてくれたし、最近じゃあタツオはレームと仲良しだしね」
そう言って風音はレームを見た。レームが「え、ここで私に振るのか? マジで?」という顔をするが、ナーガはレームの方を向いて頭を下げた。
『息子が世話になっておるようだな。感謝する』
「あああ、いやいや、こっちこそマジで助かってるっていうか、助けられてるっつーかよ。まあ、さすが竜の大将の子供っていうか」
レームがしどろもどろに言うところに、タツオがくわーっと鳴いた。
『レームのゴレムスキャノンは凄いのです。母上と親方のお力でとても凄くなって、それを操るレームも凄いのですよ父上』
タツオの言葉にナーガが目を細める。
『ジンライの 雷神砲(レールガン) に並ぶ 雷王砲(レールキャノン) か。カザネは本当に色々なものを生み出してくるのだな』
「まったくですね。最近ではポータルなるモノも造り出したのでしたっけ」
アオの言葉に風音は頷いた。
「うん。けど、ポータルは昔ダンジョンに設置してあったらしいし、旦那様たちにはなじみのあるモノなんじゃあないの?」
『いや、我はダンジョンなるものにはあまり興味はなくてな。人間たちの地でそうしたものができたことは知ってはいたし、我らの同胞が時折ダンジョン内で生まれ変わることもあるとは聞いていたが、ポータルに関しては昔、聞いたことがあるかもしれぬ……程度にしか覚えてはおらぬな』
「無理もありませんよ。なにしろ私がこの世界に来たときにもうありませんでしたね」
アオがこの世界にきたのは八百年ほど前辺りのこととのことである。そしてダンジョンが発生したのは千年前、つまりはゲームのメインシナリオに該当する魔王との戦いが終了した後にダンジョンはできたようなのだ。
「……恐らくは、ダンジョンが生まれてから二百年の間になくなってしまったんでしょうね」
アオの言葉になるほどと一同が頷く。
「とはいえ、新しく再現されたポータル。かなり革新的なもののように思えますが、アレは風音だけが生み出せるものなのですか?」
その問いに風音が少し悩んだ後に口を開いた。
「うん。今はまだ私しか造れないね。けど、将来的には私なしでも同じモノは造れるようになるはずだよ」
現在もユウコ女王の指示の元、親方たちはポータルの単独製造に向けての計画を立てている。
素材に関してもチャージボックスは親方だけで作製が可能ではあるし、水晶に当たる部分には魔鋼での代用が可能なことも判明している。後はテレポートの魔術とゴーレムへの魔術付与ではあるが、テレポートに関してはオーリング所属のオルトヴァだけではなく、ミンシアナ王国所属の魔術師たちも派遣されて研究に乗り出すとのことであった。ゴーレムへの魔術付与に関しては風音自身の解析と、ゴーレムメーカー協会の方での研究が同時に進められることとなっているが、現在の風音はそこまで熱心にゴーレム魔術の解析に熱心ではないし、魔術を付与したゴーレムの現物は渡してあるので協会の方の結果に期待というところであった。
そこまでの話を聞いてアオも頷き、グリグリを見てから、続けてナーガへと視線を向けた。
「それではナーガ様。風音たちもここまで来るのに疲れて……は、いないでしょうが」
なにしろ風音たちは直樹の手によって来たので街の外に出るよりも簡単にやってきたのである。アオもそれに気付いたが、そのまま言葉を続けることにした。
「ひとまず一旦は我々だけでそちらのグリグリと、ドラゴンとしてのお話をさせていただきましょうか? まあ、面談みたいなものですが」
「お話? グリグリはしゃべれないよ」
風音が「うん?」という顔で首を傾げるが、後ろに控えているグリグリが「グルゥ」と鳴いて同意しているようである。なので風音も「んー、グリグリもいいなら」と納得し、白き一団はグリグリを残して神竜皇后の間へと向かうことになったのであった。
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『それでどういうことなのか説明してもらおうかラインハルト』
そして風音たちが去った神竜帝の間では、ナーガの鋭い視線がグリグリこと 鷲獅子竜(ドラグリフォス) 族の勇者ラインハルトへと突き刺さっていた。それにはラインハルトも一言「グルゥ」と鳴いた後に口を開いた。
『どうも何もない。我が輩は主の従僕である故に』
そして、普通に人語を話し始めたのだ。
「やっぱりしゃべれたんですね。まったく、さきほどからどう話を切り出そうかと凄く悩みましたよ」
アオが肩をすくめる。アオも人竜戦争の生き残りであり、つまりはラインハルトとも面識があったのである。
もっとも当時のアオはナーガほどラインハルトと親しいわけでもなく、六百年という長き月日もあってここまで確信が持てないでいたようだった。
『黙れ小僧。しかし、貴様がまだ生きているとはな』
「お陰様で。それであなたは生き返ってきたんですね。人竜戦争の際に死んだはずだったのですが」
どちらも悪態に近い言い方だが、悪感情はないようである。そしてラインハルトがアオの言葉を聞いて少し考えてから再度口を開いた。
『 魔力の川(ナーガライン) に吸収された魂の情報を使われたのであろうな。どうやらカルラ王めが我が情報を降ろしてきたのだろう』
その言葉にナーガが感慨深く呟いた。
『まあ、あやつと縁深き者であったからなお前は』
『何百年前のことよ。もっともあやつが再生されたのもそれほど昔のことではないそうではあるし、そうだな。遠くない過去なのであろうがな』
過去を懐かしむようにラインハルトが答える。
ラインハルトはかつてのカルラ一族の守護竜であったこともある。人竜戦争まで生き永らえたラインハルトにとっては何百年前の過去だとしても、カルラ王にとっての認識ではほんの少し前のことなのだろうと理解した。
『しかし、友よ。よくぞ戻った』
『ナーガよ。お主こそよくぞまだ生きておったな』
グッと手をつかみ合い、握手をする
『で』
しかし、続けてナーガの腕の力が強くなる。
『 何故(なにゆえ) に我が后の 愛玩動物(ペット) に興じておるのか説明をいただきたいものだな』
『グッ、バカ力め。というよりもだな。我が輩の知っているお主とイメージが違うのだが。これも年月によるものか?』
「いえ。ナーガ様は最近、魔王のコアを移植されましてね。イメージが変わったのはつい最近のことで、この六百年の間それほど変化はありませんでしたよ」
『六百年!?』
アオの言葉の中で六百年という言葉にラインハルトは衝撃を受けていた。その様子にナーガが手を離し、呆れたようにラインハルトを見る。
『知らんかったのか?』
『ああ、いや。それなりに経っているとは思ってはいたが……しかし、そうなると我が輩の持ってきた情報はもしや意味がないものであったかな』
ラインハルトのその言葉にナーガとアオが眉をひそめた。
『情報とは?』
『ふむ。我が主があのお嬢さんであるのは変わりないが、この話は慎重に扱いたかったのでな。我が輩も心は痛むモノのしゃべれないフリをさせてもらっていたのだが』
そう言いながら『六百年ではなあ……』とラインハルトが呟くと、ナーガが苛立たしげに口を開いた。
『して、その情報とやらはなんなのだ?』
『うーん。まあ、さすがにもう解決しておるだろうがな。とりあえず言っておくか』
『うむ。聞かせよ』
慎重な顔のナーガとアオにラインハルトが口を開く。
『我が輩があのドルガリア火口山で死んだのは知っておるだろう?』
『無論だ』
竜帝ガイエルと黒竜ハガスの融合体との最終決戦の地。その地でラインハルトは殺され、そしてタツヨシ王がその後に竜帝ガイエルを討ち取った場所である。
『確かに我が輩はあの場で死んだ、しかしいまわの際に我が輩は見たのだよ』
『何をだ?』
『悪魔だ』
ラインハルトの言葉に、ナーガとアオの顔が固まる。
『奴ら、あのまま死ぬはずだったガイエルと、タツヨシの壊された人形……確か 殺魅(サツミ) と言ったか……あれをな。回収しておったのよ』