軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百五十七話 帰還をしよう

◎東の竜の里ゼガン 大竜御殿 正面広場

その日、東の竜の里ゼーガンの中心に存在する神竜帝ナーガが住まう大竜御殿の正面広場に多くのドラゴンたちが集まっていた。

それは神竜帝ナーガの奥方である神竜皇后カザネと、ナーガと風音の御子であるタツオの帰還を歓迎するための集まりであった。

昨日に冒険者ギルド支部長と領主からの涙ながらの懇願を受けた風音はアオを通じてナーガへと素早く連絡をし、その翌日にはゼーガンへと向かうことを決定していたのである。そして、今が風音たちが竜の里へ到着する予定の時刻であった。

その移動手段は長距離転移。それは竜族にしてもほとんど冗談としか思えない手段であったが、彼らが注目していたのは風音親子や転移だけではなかった。再生体とはいえ黒岩竜ジーヴェの魂と融合し、人であり竜でもある身となったライル・バーンズ。そして神竜皇后の配下となったという伝説の鷲獅子竜ドラグリフォス。その二体の同胞にも彼らの興味は集まっていた。

特に竜族でも知性派として知られる竜たちの中には人型のドラゴンといっても過言ではないライルの姿こそが次代のドラゴンと人間の新たなる関係なのではないかと考えている者もいるようだった。

そんな彼らの前にいるのは護剣の四竜である西白候ビャク、東青候セイ、南赤候スザである。さらにはその前に普段通りに人化したままであるアオが水晶の少女の人形を広場中央に置いて立っていた。

蒼焔のアオのふたつ名を持ち、かつての大戦を超えて生きる元人間の竜族。西の竜の里ラグナの参謀でありながら、この東の竜の里ゼーガンにおいてもナンバー2として存在しているアオが虚空を見ながら(実際にはウィンドウのメールを見ていたのだが)口を開いた。

「来ますね」

そのアオの言葉に、座して待っているドラゴンたちに緊張が走る。そして、静まった広場の中央に置かれて踊り続けていたクリスタル風音ちゃん人形が勢いをつけてぱぱんがぱんと踊り狂い始めると、その身に刻まれた刻印も光り出してクリスタル風音ちゃん人形を中心に巨大な魔法陣が出現していった。

『ォォオオ、これが転移の光か』

『皇后様のお姿の人形が激しく踊り続けておられる』

ざわめくドラゴンたちの前で魔法陣は強力な光の柱を生み出し、その中に巨大な影が徐々に現れてきた。

そして光が消えるに連れて、その姿もはっきりと見えてきたのだ。それは風音たち白き一団と、この場にいるどの竜族よりも巨大なドラゴンである鷲獅子竜ドラグリフォスであった。

「おお、壮観だねえ」

光の中から現れた白き一団の真ん中にいた風音が感嘆の声をあげた。彼らを出迎えているのは人化したアオを筆頭に、護剣の四竜であるスザ、ビャク、セイ、さらには大竜御殿の神竜や成竜たちであった。

無数の国を滅ぼし尽くせるほどの強大な勢力の姿はまさに圧巻としか言いようがなかった。

「す、すげえな」

『みな父上の配下の方々なのです』

数十を超えるドラゴンの群れを見てレームがビビり、風音の頭の上にいるタツオがくわーっと誇らしげに鳴いた。

他の面々にしてもさすがにその迫力には驚き顔であったが、鷲獅子竜ドラグリフォスことグリグリは特に緊張した様子もないようだった。グリグリは「グルゥ」と鳴いて周囲を見回すと、目の前のアオだけを少し眺めた後は興味をなくしたのかその場に座り込んだ。

対して周りのドラゴンたちは威風堂々とした巨体を見て、恐れ敬っているようであった。

まるでグリフォンのような鳥顔に近い顔立ちに、鳥のような羽根と体毛を持ちながらも竜気を漲らせる巨体。それは彼らも知識の上でしか知らない伝説の存在そのものであった。

そんな状況の中で白き一団の前へとアオが進み、口を開く。

「お帰りなさい風音、タツオくん。それに白き一団の皆様方」

「うん。会うのはお久しぶりになるねアオさん」

『お久しぶりですアオさん』

風音とタツオが返事をして、他の仲間たちもそれに続く。グリグリが風音にならって頭を下げるとドラゴンたちの間で「ウォォオ」と声があがった。そのグリグリの姿を見てアオが苦笑する。

「本当にそのまま再生されたのですね」

アオの中には表にこそ出ていないが戦慄に近い思いが走っていた。目の前のグリグリは風音に従属している以外は何ひとつとして制限を受けていないのがアオにもひとめ見て分かったのだ。

竜の心臓を持ち、ダンジョンの外に出ても何ら弱体化のない再生体。その異常性をこの場で理解しているのは恐らくはアオと相談に応じたスザくらいなものだろう。

かつてダンジョンで生まれた再生体のドラゴンたちはそうではなかったのだ。例えば風音たちが倒した黒岩竜ジーヴェにしても、アオとアカが葬った黒竜ハガスにしても、或いはギュネスたちが討伐したという黄牙竜ゼロモスにしても竜の心臓は再生されず、与えられたのは代用であるチャイルドストーンという出力を制限されたコアだったのだ。

チャイルドストーン持ちの魔物はダンジョンよりパスが繋がらないほどに外に出ると魔力供給も止まり、その能力も激減する。故に彼らはダンジョンを出ては長くは生きられない存在であり、その縛りを抜け出すには別の存在とのリンクを必要としている。つまりはそれがチャイルドストーン持ちの召喚者であるわけだが、風音の再生したグリグリは完全なる竜の心臓を宿している。恐らくは大本となったドラゴンの姿のままの再生体なのだ。そして、目の前のドラグリフォスは恐らく……

そこまで考えて視線を向けたアオを、グリグリは正面から睨み付けて「グルゥ」と鳴いた。それは「余計なことは喋るなよ若造」と言っているかのようであった。そのやり取りにアオは肩をすくめると、風音たちの方へと向いて口を開いた。

「それではナーガ様も首を長くしてお待ちでしょうし、このまま神竜帝の間へとご案内いたしましょうか」

「グルルゥウ」

アオが風音たちに移動を促すと、その言葉に反応してグリグリが頭を風音たちの前へと下ろして鳴いた。それを見て風音がグリグリに尋ねる。

「乗っていいのグリグリ?」

「グルゥ」

風音の問いにグリグリが嬉しそうに鳴く。

そのやり取りに周囲のドラゴンたちが「オオオッ」という声をあげて見ていた。

ドラグリフォスは彼らの王である神竜帝ナーガ、食客の蒼穹竜パイモンと並ぶ存在であり、このままゼーガンに残った場合にはその実力から言っても里の実質的なナンバー2となるであろうことは間違いないドラゴンである。それが話に聞いた通りに神竜皇后の配下となっているのだ。彼らが興奮しないわけがなかった。

そして、ドラグリフォスが神竜皇后と次代の神竜帝、さらには本人に自覚はないだろうが実は相当に注目されている新たなる同胞ライルを乗せて大竜御殿へと進んでいく。それは新たなるドラゴンたちの未来を感じさせる姿であった。そんなドラゴンたちの歓声という名の遠吠えを受けながら風音たちは、大竜御殿の中にある神竜帝の間へと進んでいったのであった。

◎東の竜の里ゼガン 大竜御殿 神竜帝の間

『ふむ。来たか』

響き渡る音が聞こえる。それは神竜クラスのドラゴンのみが出せる重みのある足音であった。

(なるほど。確かにドラグリフォスのようではあるな。まあカザネの言葉を疑っていたわけではないが)

鷲獅子竜は六百年前に起きた人竜戦争によって絶滅した竜族である。かつてナーガの親友であった鷲獅子竜も竜帝ガイエルとの最後の決戦で亡くなっていた。

(そうだな。あの頃はまだ我にも友と呼べる者が多くいた……あ奴もちょうど、このような気配を漂わせる益荒男であったな)

ナーガは眼を閉じ、今は亡き友を思い出して懐かしむ。そして、足音がもう部屋の前まで来たのを感じると再び目を開き声をあげた。

『待ちわびたぞ、我がきさ……きよ?』

しかし次の瞬間には風音たちの帰還を心待ちにしていたはずの神竜帝ナーガの表情が固まった。信じられないものを見る目をしていた。

「旦那様?」

その様子に風音と、頭の上にいるタツオがともに首を傾げる。さらには彼らを乗せているグリグリがニタリと笑って「グルゥ」とナーガに向かって鳴き、そのことに神竜帝と崇められる竜族の長は再度戦慄した。

鷲獅子竜ドラグリフォス。

その竜種の一族の中にラインハルトと名を受けた竜の勇者がいた。それはタツヨシ王とも知己であり、竜帝ガイエルとの最後の決戦の際に命を落としたナーガの盟友でもある。そのラインハルトがナーガの嫁を乗せながらペット気分で「グルゥ」と鳴きながらやってきたのだ。

それには如何に長き時を生きた老竜とて驚かずに入られなかったのである。