作品タイトル不明
第五百五十五話 白き刃を突き立てよう
「な、なんだとぉおおっ!?」
そんな台詞を叫びながらカルラ王が鼻血を吹き出しながら吹き飛ばされていった。
その一方ではドラグリフォスの炎を受けてもダメージを受けてない巨大なガルーダ兵たちがドラグリフォスへとハルバードを構えながら突き進んでいく。それはジェネラルガルーダという魔物である。ガルーダ族の中でも巨漢の種族で全長は3メートルあり、炎のダメージを無効化するスキルを持っていた。また一緒にいたガルーダファイターたちも半分ほどは焼き殺されたがそれでも残っている数は多かった。そして彼らは主であるカルラ王を護るべく、動き出していた。
そうした状況を見ながら風音は考える。
(確かジェネラルは戦闘タイプのガルーダの通常個体では最上位の魔物だったっけ。相性的にはドラグリフォスとは炎の効かない相手同士、肉弾戦で挑み合うしかないってところか)
風音は「よし」と頷くとドラグリフォスへと指示を出す。
「ドラグリフォス、そいつらを倒しちゃって」
ドラグリフォスが「グルゥゥォオオオ」と叫んだ。
なお、タツオがドラグリフォスを見ながら『あれって私の弟でしょうか?』と口にしていたが、ドラグリフォスは風音のスキル『魔物創造』で生まれた魔物であり、 魔力の川(ナーガライン) に蓄積された過去の魔物情報からコピーとして産み出されたモノである。そして風音との間柄は親子ではなく、ユッコネエや狂い鬼、シップーと同じ主従の関係となる。風音とナーガの竜気を得てイチから生み出されたタツオとは違うものなのだ。
それから風音は続けて視線を直樹に向けた。
「直樹、用意はできてる?」
「勿論だぜ姉貴」
ドラグリフォス創造直後の時点で風音から指示を受けていた直樹が風音に頷く。さらに風音は弓花の方を向いて、その手を差し出した。ティアラがムッとした顔をするが今は気にしてはいけない。
「弓花、チームドラゴンでぶっ飛ばすよ」
「オッケー。直樹、飛ばしちゃって」
弓花が風音の手を掴んだのを見て、直樹は 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) を取り出して、ふたりを短距離転移で転移させた。そして、転移先は風音の指示で先に飛ばしていた竜炎の魔剣の元であり、そこはカルラ王たちの上空であった。
「なん……だと?」
吹き飛ばされた後、姿勢を整えて地面に降り立ったカルラ王が声をあげて空を見る。そのカルラ王の元へはガルーダファイターが集まりつつあった。しかし、風音と弓花は止まらない。手を絡み合わせて、ともにスキルを発動させる。
「スキル『竜体化』!」
「スキル『深化』!!」
風音の竜気が吹き出し、そのまま巨大なドラゴンへと変わっていく。そして煌めく虹のオーロラを纏いながら現れたのは黄金の巨大な翼を羽ばたかせた青き水晶竜。その姿は10メートルを超え、身体中に纏った水晶が以前よりも増えて、よりいっそうの鋭さと輝きを放っていた。
実はカルラ王に呼び出される直前に風音は『竜体化』スキルをレベル4へと上げていた。そのことで風音はついに成竜へと至ったのだ。
またスキルセットがふたつできるようになったために、風音は『友情タッグ』と『二刀流』のスキルをセットしていた。
さらには右手には弓花が変化した神炎の大太刀『 焔弓花(ほむらゆみか) 』を、左手には竜種の秘宝、黄金剣『黄金の黄昏』を召喚して握って構えた。狙いは直下にいるカルラ王とその仲間たちだ。
『喰らえぇええええッ!』
そして、『友情タッグ』により力を増幅した風音ドラゴンの二刀流から放たれるのは本家『口伝オダノブナガ流バツの字斬り』である。
「グルァアアッ!?」
その攻撃にガルーダファイターたちが叫び、避けようとするがもう遅い。
黄金の光と白き炎が交差し、ガルーダファイターたちに膨大なエネルギーの奔流を浴びせて消滅させていく。さらにはその力はそのまま大地へと激突し、激震とともに周囲に破壊の衝撃波を放った。
「ぬぅっ、ここまでやるか」
翼を広げて一気に飛び下がり風音ドラゴンの攻撃を辛うじて避けたカルラ王は、その威力を見て眉をひそめた。それはカルラ王の想像以上の破壊力であった。
「むっ?」
しかし、その驚きも直後には霧散する。正面から何かが迫ってくるのを感知したのだ。驚き続ける余裕など戦場にはなかった。
「ふんっ」
カルラ王が飛んでくる物体を視認し、その表情を真剣なものへと変える。それはジンライの黒の竜牙槍『悪食』を槍術『雷神槍』で放ったものであった。
「小賢しいなッ!」
カルラ王は黄金翼の高速防御で飛んできた槍を弾き飛ばすが、同時にカルラ王は気付いた。その槍は正面から飛んできたはずなのに、その槍の持ち主の気配がカルラ王の背後にあったのだ。
「ナーゴ」
「ようやくの隙だな」
そしてカルラ王がゆっくりと後ろを振り向くと、そこにはシップーに乗ったジンライがいた。
「貴様……」
カルラ王が目を細めてジンライを睨む。
「隙をついていれば私に攻撃を入れられたかもしれなかったのだぞ? 何故仕掛けなかった?」
その質問にジンライが「ふんっ」と鼻で笑う。何を言っているのかと笑い飛ばす。
「それでは面白くないであろうに。まあ、距離が離されすぎても対処に困るので、近づくための小細工はさせてもらったがな」
そうジンライが言い放った。右腕の義手シンディはすでに外されている。そしてカルラ王が気配を感じて背後にわずかに視線を向けると、少し離れた場所に骸骨の戦士がいたのである。
骸骨の竜騎士ジン・バハル。先ほど黒の竜牙槍を放ったのは召喚された彼であった。その攻撃をカルラ王が防いだ一瞬の隙をついてジンライはシップーを走らせ、カルラ王の間合いへと入っていたようだった。
「さあ、ここからが本番だ」
ジンライは、持っている白の竜牙槍を突き出した。隠されたふたつ名にして本人のみの奥義でもある『 一角獣(ユニコーン) 』はすでに解き放たれていた。
さらには持っている白の竜牙槍『神喰』も、ジンライの研ぎ澄まされた白き闘気に呼応したのか、その形状をより先鋭化した形へと変化させていた。その形状はまるで 一角獣(ユニコーン) の角のようである。
「ほぉ、槍が進化したか」
「ワシの意志に『神喰』が応えてくれたようだな」
カルラ王の言葉にジンライが笑う。どうやらジンライの気の高まりを感じた『神喰』がそれに相応しい形へと進化を行ったようである。
「結構だ。それで、宿題はちゃんとできたのか?」
「ま、それの答え合わせも……」
そしてジンライがシップーを走らせる。
「してもらわんとなッ!」
「猫による高速移動か」
シップーが風の加護を受けて走り、雷の爪が大地と接触するたびに更なる加速を行い、速度を上げていく。シップーはジンライと意識を共有し、ジンライとひとつの存在となり戦場を駆け抜けるのだ。
それこそが『疾風迅雷』。
シップーはジンライとともに闘い続けたことで、ついに『 一角獣(ユニコーン) 』となったジンライとも一体化するに至っていた。最強の一角を持つ巨大な猫と化した。
「しかしだ。我が防御は抜けんよ」
カルラ王は冷静にそう口にする。そのカルラ王の言葉通り、ジンライとシップーの高速攻撃も黄金翼の自動防御が働き、すべて受け流されていた。しかし、ジンライはその結果に気落ちもせずにシップーに声をかける。
「シップー、もっとだ。もっと速度を上げよ!」
「ナァアアアアアアッ!!」
ジンライの言葉に呼応してシップーが鳴き、更なる領域へと足を伸ばしていく。
『速い……』
『あー師匠がもっと強くなってる』
ドラグリフォスと風音ドラゴンがジェネラルガルーダをどつき回している前で、超高速攻撃を行うジンライとシップー、それを受け続けるカルラ王の戦闘の均衡が崩れ始めていた。ジンライの白の闘気が徐々にカルラ王の翼を破壊し始めたのだ。
「クッ、攻撃が通っているだと!?」
さらにはシップーの速度は現在の人型のままのカルラ王では捕らえられない。分身体であるが故に今のカルラ王はこの形態以上の力を出せない。
「なるほどな。確かに貴様等は強い。認めよう。しかしだ」
カルラ王は両手を振り上げた。
「それではまだ足りんぞッ!!」
直後にカルラ王を中心に黄金の炎が覆う。それは攻撃か防御か、あるいは自分を転移させようとしているのかもしれない変幻自在のカルラ王の黄金炎。それこそがジンライがカルラ王に刃を届かせられない原因だったもの。しかし、ジンライとシップーの瞳に恐れはない。
「甘いわッ!」「なーーー!」
ジンライがカッと目を見開き、同時にシップーもカッと目を見開いた。シップーが魔力を高め、その身を覆う風を大きく回転させ始める。
「何ッ?」
カルラ王が驚愕する。カルラ王が喚び出した黄金の炎がシップーの喚び出した暴風によって消し飛ばされていく。
「我が炎を、風で散らせるかッ」
「ワシとシップーは一心同体。人と猫の絆を甘く見るなよカルラ王ッ!」
ジンライの叫びに呼応してシップーが炎をかき分けながら一直線にカルラ王へと突き進み、
「喰らえぇぇえい!」
「我が防御を突き抜けるだとッ!?」
解き放たれたジンライの 一角獣(ユニコーン) の真なる一撃はカルラ王が展開した黄金翼の防御すらも易々と貫き、その白き闘気を纏った刃はカルラ王の分身体の擬似コア部分までをも一気に突き刺した。
「炎など、触らなければどうということはない。それがワシとシップーの答えだッ」
「くくっ、見事だ『ジンライ』」
ジンライの言葉にカルラ王は笑みを浮かべて、初めてその名を呼んで賞賛した。それからカルラ王は満足そうに炎の塊となって消えていったのだった。無論、死んだわけではないだろうが、今はこれ以上現れることはないとの確信がジンライにはあった。
「ふん。次こそは本体を仕留めてやるわ」
ジンライはそう悪態付いたが、その表情は晴れやかであった。
またカルラ王を倒したジンライが周囲を見回すと、すでにガルーダたちはドラグリフォスと風音ドラゴンが全滅させているようだった。そして、戦いも終わったことで風音たちは再び黄金の炎に包まれ、気が付けば周囲の闘技場のような場所から元の第三十五階層へと戻っていたのであった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第三十五階層
「終わったのか……つか、こりゃあ」
カルラ王が登場してからは何もできなかったギャオが、周囲を見回してから呟いた。
「グルゥゥウウ」
「ああ、ギリギリの大きさだったんだね。困ったねぇ」
風音がドラグリフォスの様子に、本当に困り顔でそう口にする。仲間たちも驚きと哀れみの表情で目の前の巨大なドラゴンを見ていた。
鷲獅子竜ドラグリフォス。その全長は二十メートルに届くほどの巨大なドラゴンであった。人語を介さぬものの成竜を超えて神竜の域に到達している竜種なのだが、その巨体はダンジョンの通路に入るにはやや狭かったようである。
「グルルゥ」
「えーと、ごめんね。ちょっと、このままじゃあ出れないんだよねぇ」
悲しそうな顔で風音を見るドラグリフォスをなだめながら、彼らはやむなくその場に留まり一夜を明かすこととなった。そして、その翌朝に直樹の 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) によってドラグリフォスとともに地上に帰還したのであった。