軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百五十三話 境地に至ろう

「あーもう、タイミング遅れたッ」

「仕方あるまいよ。さすがに先ほどのは不可抗力だ」

『しかし、始まっているようであるな』

ジンライがシップーに、弓花がクロマルに乗りながら、その上をメフィルスが飛びながら洞窟の通路を進んでいく。

正面に見える状況から戦闘はすでに開始されているようだが、弓花たちも移動途中でフライングニーオークの群れと遭遇してしまってはそれらとも戦闘にならざるを得なかった。

もっとも弓花たちが遭遇したのはデスソードレインより逃げていた魔物たちで、その戦意もほとんどなかったために倒すのには大した時間はかかっていない。しかし、出遅れたのは事実。それ故に弓花は若干の焦りを持って、直樹たちとデスソードレインとの戦闘の場に割って入った。

「弓花か、姉貴がヤベエッ!」

すでに攻撃に入っていたのはガーラを中心とした、直樹、ギャオ、ライル、タツヨシくん ノーマル、ジローの前衛組である。

弓花たちとは別ルートから突撃したチームだった。そして、弓花たちが来たことに気付いた直樹から声が飛ぶ。

「やばいって何が?」

いつになく真剣な声に、弓花が風音の気配のする方へと視線を向けるとそこには異様な光景が広がっていた。

「ふむ。こりゃあ不味いか。いや、アレならば」

ともに見たジンライが驚きつつも感嘆の声をあげている。

「おいおい、上手くはやってるがヤベーのには違いねえんだ。けど助けにいこうにも、こっちも進めん」

今や『狂鬼腕』のふたつ名が完全になじむほどに鬼の力と共にあるガーラが声を荒げて返した。命の恩人ともいえる風音のピンチだ。救いに行きたい気持ちは人一倍強いが、デスソードレインの分身体の壁は厚い。

「ギュネスの野郎もやべえんだ。どうにかできねえのかよ」

「こっちも数を減らし続けるしかないぜ。ビッグマン、頼むぜ」

「ジジジ」

『ホンノージー、エンジョー』

ギャオも焦りながら飛んでくる剣たちをさばき、ジローもオダオブナガ・アシガルの鎧の危機感知能力に従って、召喚獣ビッグマンと共に戦闘を続けている。

『ともあれ、目の前を潰してくしかあるまい』

『やるぞっ、主殿』

メフィルスと喚び出されたジン・バハルも参戦し、彼らも風音たちの元へと突破しようと勢いを増していく。そんな彼らの目の前では、剣の群れに襲われ続ける風音とギュネスの姿があった。

*********

「ふッ」

汗が飛び散る。一撃必殺の赤き拳がデスソードレインの分身体のひとつを打ち砕く。それは『キックの悪魔』スキルの十五コンボ目で発生する『爆神掌』。風音は範囲攻撃である『蹴斬波』では影響範囲の計算ができぬと考え、確実に仕留められる『爆神掌』を用いて一体一体を確実に葬っていた。

風音は分身体の一体を完全に破壊すると、飛び散る破片を無視しながら次の標的へと視線を向けて再び攻撃を繰り出していく。背の黄金翼と二本の腕、二本の足を用いて、すべての斬撃に対応していく。

(右、左、こっちは)

「ギュネスさんッ」

「応ッ」

スキル『情報連携』で風音と繋がったギュネスが、意図を完全に把握し風音の死角に迫る剣を拳で弾く。

今やギュネスは完全に風音と一体化していた。そしてユッコネエの姿はすでになかった。デスソードレインの猛攻から逃げきれずに串刺しとなったために風音はユッコネエの召喚を解除していた。その時点から風音とギュネスはその場に留まり、延々と仕掛けてくる剣をさばき続けているのである。

「ふぅっ、ハッ」

風音が瞬きすらせずに攻撃を繋いでいく。無駄なく、そのすべてを受け、流し、弾き、破壊し、風音では間に合わぬ攻撃はギュネスが仕掛けて弾き、タイミングが合えば破壊した。その逆もまた然り。

また、風音はまだ気付いていないが、スキルリストに集中力の高まりを誘導するスキル『コンセントレーション』が追加されていた。それは魔物を倒して得たわけではなく『キックの悪魔』スキルから派生したものでもない。そこに至ったからスキルとして追加されたものであった。

剣が迫る。風音はそれらを確実に見る。『イーグルアイ』のスキルで周囲を見通し、空間を支配するかのようにそれらすべてを把握する。

(ここっ!)

風音がトンファーを回転させ、近付いた剣を弾き、それが別の剣へと跳ねてぶつかる。その衝突角度を計算し、弾かれて無防備となった剣の腹へとスキル『ビースティング』で強化したトンファーを突き立て砕く。

自身の飛び散る汗も風音には見えていた。鼓動も聞こえていた。生粋の拳闘士であるギュネスと繋がり、その呼吸や動きをトレースし、更なる高みへと駆け上がっていた。一瞬一瞬がコマ送りのようだと風音は思った。全能感が風音を支配し、デスソードレインの剣の雨をさばいていく。

それをデスソードレインは恐怖を以て見ていた。当たらないのだ。まるですべてが見通されているかのように、デスソードレインの剣撃が通用しない。例え一瞬隙があるように見えても、そこを突こうとするとギュネスの鉄拳が粉砕する。さらには、別の通路からやってきた前衛組の猛攻も開始されている。デスダガーレインも後衛組との戦闘で戻すことができない。前後を挟まれ、デスソードレインにはもう逃げ場はなかった。

「行くか」

「うん、進もう」

ギュネスの言葉に風音が頷いて、デスソードレイン本体の元へと進んでいく。その二人の連携は未だユッコネエと狂い鬼とでは至れぬ境地。ハイレベルに纏まった近接戦のスペシャリストが相手だからこそ、さらには風音自身が追いつめられて限界の集中力でいられる今だからこその奇跡の状況であった。

後衛組がデスダガーレインを抑え、前衛組がデスソードレインの分身体を減らしつつある状況で、デスソードレインの風音たちへの攻撃にはもう先ほどまでの勢いはない。もはや風音とギュネスを止める力はデスソードレインには残されていなかった。そして、まるで十戒の海が割れる光景のように、風音とギュネスは真っ直ぐに突き進みながら剣の海を超え、そのままデスソードレインの本体の個体へと到達し……

「『爆神掌』ッ!」「覇ッ!」

「ギッガァッ」

風音の『爆神掌』とギュネスの気拳が、ともにデスソードレインの本体へと突き刺さる。その一撃でデスソードレインの刀身は破壊され、浮遊していた周囲の分身体も糸が切れた人形のように一斉に床へと落ちた。

「姉貴ぃ……」

「ギュネスの野郎。やりやがったな」

直樹とギャオが周囲のデスソードレインの分身体が床に転がっているのを見ながら、そう言い合う。戦闘が終わった。彼らはそう考えていた。

「直樹っ、油断しないで」

しかし、そこに風音が警告の言葉を告げる。自ら意識しなければ使えない直樹の『察知』スキルと違い、集中力の高まっていた風音の『直感』スキルは、明確に今はまだ『戦場』のままだと把握していた。

「ギャオッ、下だッ!」

同時にジローの声もあがる。しかし、直樹とギャオは一歩遅かった。そして落ちていた剣が急に浮かび上がり……

「なんだ?」

「ちょっと……おれっち、聞いてないぞ」

その場のデスソードレインの分身体が一斉に彼らに飛びかかる。二人の目が見開かれ、その両腕を防御に回そうとあげるがもはや遅い。

「グガァアッ」

「ジジッ」

しかし、彼らの前で無数の剣が弾き飛ばされた。ギャオの前には幼体ビッグストーンワームが、直樹の前には狂い鬼が立ちふさがって、デスソードレインを弾いていたのだ。

「つう、こえーッ!?」

『テンカフブー』

一方でジローは紅の水晶小太刀でデスソードレインの攻撃を防いでいた。鎧の危機感知能力が攻撃を感知していたのだ。さらに直樹とギャオが見回せばジンライやガーラたちもデスソードレインの攻撃を防げていた。そして、直樹が風音を見ると、

「なーるほど、二本いたわけだね」

「数が多かったわけだ。チャイルドストーンふたつ持ちとはな」

風音は己の手と黄金翼のよっつで襲ってきた『もう一体』のデスソードレイン本体を白羽取りし、それをギュネスの拳が打ち砕いていた。そう、デスソードレインはチャイルドストーン持ち二体の集まりだったのである。

そして、今度こそデスソードレイン討伐は完了したようだった。風音が大きく息をはき、その場で崩れ落ちる。

前衛組と後衛組も、風音たちの元へと集まってくる。チャイルドストーンふたつにデスソードレインの素材である剣そのものが大量にある。

さらに風音はレベルアップと、『コンセントレーション』と『ソードレイン』というふたつのスキルが手に入り、また『情報連携』もスキルレベルが3にあがっていた。だが、今の風音にとってはそれらへの喜びよりも疲れの方が大きい。

「はぁー、早くおうちに帰って、お風呂入りたい」

「ははは、同感だ」

風音の言葉にギュネスが同意する。しかし、気分は晴れやかではある。闘いは終わった。第三十五階層もこれで道が開け、更なる先へと進むことも可能となるだろう。今の彼らはそう思っていた。

**********

「ふむ……予想通りに揃ったか」

声が響いた。それは風音たちのいる場所よりもさらに奥深く、最深層と呼ばれる場所に響いた声だった。

そこで男は見ていた。餌を撒き、男は彼らが集まるのを待っていた。

「では、開始するとしよう」

男は右手を天へと突き出し、その拳を中心として立方型の複雑な魔法陣が発生する。それは己の分身体を生み出し送り込む術式であった。

「久方ぶりに試させてもらおうか、冒険者たちよ」

そして、カルラ王の試練が再び行われる。不意のボスとの連戦。それもまた『ゲームイベント』の醍醐味ではあった。