軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百五十二話 討伐を開始しよう

「ピギィイイ」

翼の生えた豚面の魔物が悲鳴をあげる。

その悲鳴をあげた魔物の腹には無数の剣が突き刺さって背中まで突き抜け、そのまま臓物をまき散らしながら崩れ落ちていった。そして床を真っ赤に染めあげ、更なる剣の雨を浴びながら命を終えていったのだった。

その無惨な姿に仲間の豚面の魔物たちも叫び声をあげるが、彼らにしても完全に腰が引けていた。

ひと目見て勝負にならぬと魔物たちも察していたのだ。戦闘力も、防御力も、魔物としての格も、そして何よりその場にいる『数』が違う。あまりにも目の前に浮かんでいる剣の数は多かった。

『グ……ガガガアガガ』

そして、豚面たちの姿を『見て』、『口を開き』、剣が『笑った』。同時にソレの周囲の『百を超える』剣たちが一斉に飛びかかり、魔物たちを切り裂き、その血を浴びて震えていた。ソレの主食は血液だ。その身に血を浴びて吸収する魔物なのだ。

「ピギッ」

「ギャッピー」

豚面の魔物たちの悲鳴が続く。分不相応に見えるその翼もなんの役にも立たない。飛ぶ前に斬られ、突かれ、殺される。そのまま最後の一匹まで狩り尽くされていく。

『ギギギ……』

そして、獲物たちの哀れな姿を見ながらソレは笑っていた。血溜まりの中でのたうち回る豚面どもを見ながら悦に浸っているようだった。或いは血に酔っているのかもしれない。

ソレはこの洞窟にも迷宮にも見える世界の中で頂点の存在であった。ソレを殺せる存在がここにはいなかった。ソレに殺される存在だけがこの世界にはあって、つまりソレはこの世界の王であった。

途中、何度か強力な猿たちがソレを倒しにきたこともあったが、ソレはすべて追い払ってやった。もっとも殺すまでに至れた猿は少ない。豚や鳥たちとは違って彼らは逃げることがとても上手いようなのだ。

だが、苦労して殺し喰らえた猿もいたし、その猿の血の味は極上でこの世界に多くいる豚や鳥たちよりも遙かに美味でもあった。

故にソレは求めていた。あの猿たちを再び喰らえることを願っていた。その日が来ることを心待ちにして己の力を溜めていた。次こそは逃がさぬように、突き刺して、その血を浴びようと……

そして、その時が来たのだ。

匂いがした。以前に逃した芳しい血の匂いが、再びこの世界に降りてきたのをソレは感じていた。

二度も逃がした相手だからこそ、次こそは喰らおうとソレは意気込んだ。神……恐らくはソレにとってはそうした存在からも力を与えられ、ソレは以前よりももっともっと強くなっていた。今ならばあの猿も殺せるとソレは考えたが、しかし匂いの数が思ったよりも多かったのは気にかかった。

その事実自体は喜ぶべきことだが、しかしソレも油断はしなかった。今度こそは逃がさぬと、ソレは眷属であるデスダガーレインをその場で5体も創造したのだ。

魔物創造には魔素を使うし、その後は彼らの餌も必要となってくるがやむを得ない。かつて二度も逃した相手が仲間を連れてやってきたのだ。万全の体制で挑もうとソレは考え、その通りに実行したのだ。

『グ……ギャア?』

その直後である。遙か通路の奥から何かが飛んできたのだ。

『ガキャッ』

金属の弾がすさまじい速度で迫り、ソレの目の前でデスダガーレインの中心個体の一体が一瞬で破壊された。続けて周囲に浮かんでいた分身体であるダガーたちが一斉に地面へと落下し転がったのだ。

『グギャアアアアアアアア!!』

『ガァアア』『ガァアァア』『ガァアアアアア』『ガァア』

唐突な状況にソレは叫んだ。ソレの声を聞いて残りのデスダガーレインたちが一斉に飛び出していく。

ソレは明確な脅威に襲われたと感じた。大本を叩き潰さなければ危険だとソレは察知したのだ。敵がこの先にいると理解したのだ。そして、自らも飛び出そうとしてソレは気付いた。

以前に味わった匂いが『消えている』と。

否、認識から消されているのだ。そのことにソレは気付いた。類希なる知力を持つソレは、勢いに流されずに違和感を掴み、自らの『直感』に頼って自らの分身を何もない『はず』の空間へと走らせた。

「にゃっ」

「バレた!?」

そして、いたのである。仕留めはできなかったが猿二匹と猫一匹が己に向かって走ってきていたのは確認ができた。

「クソッ、接近は失敗か!?」

気配と姿を隠しソレに向かって奇襲を仕掛ける気だったのだろう。しかし、もはや彼らはソレに攻撃を受けたことでその姿を晒してしまった。

彼ら、つまりは風音とギュネスとユッコネエはデスソードレインの 領域(テリトリー) に無防備な姿を投げ出してしまったのだ。それは今までになくピンチな展開であった。

**********

「ヤベエ、カザネたちバレたぞ」

鷹の目のネックレスの効果で視力が強化されているレームが、ゴレムスキャノンの 雷神砲(レールガン) モードを通常モードに戻しながら叫んだ。

デスソードレイン討伐。風音たちの立てた計画は後衛組が敵を引きつけ、前衛組が別ルートから挟撃し、本命である風音とギュネスとユッコネエが『インビジブル』と『光学迷彩』スキルで隠れて接近し、分身体の剣が減った本体を撃破する……というものであった。それが初っ端からものの見事に崩されたのだ。

『母上ッ』

タツオがクリスタルドラゴンゴーレムの中から叫ぶが、タツオからは遠すぎて状況が分からない。ただ、タツオの視線の先ではデスソードレインたちが急速に活動を開始し、動き回っているのが見えるだけだ。

「動いちゃだめよタツオ。カザネなら大丈夫だから」

一歩前に出そうになるタツオにルイーズが声をかける。今この場で勝手な動きをされるのはよろしくない。それはタツオにも分かっていた。しかし、タツオは悔しそうにくわーっと鳴いた。

「そうだ。カザネなら大丈夫だ。凄い勢いで剣を避けながら逃げ回ってるが……つか、アレやばくないか? マジで死ぬんじゃないか?」

『は、母上ーーーーー』

レームのヤバげな言葉はタツオの不安を煽るばかりであったが、彼らは彼らでこの戦いの役割を全うしなければならない。

「いい? オフェンス組は別ルートからデスソードレインを挟撃すべく動いているわ。私たちの役割はここで死なないように囮に徹することよ。それがカザネたちを助ける結果にもなるわ。さあ、行くわよ」

ルイーズの言葉に全員が声をあげる。もっとも彼らも風音たちを救いに行ける状況ではなくなっていた。なぜならば彼らにも危機が迫ってきていたのだ。

「来るわよっ」

エミリィの言葉とともに、まっすぐに飛んでくるデスダガーレインたちが一斉に後衛組へと躍り掛かる。それは五十本ほどの空飛ぶダガーの大群であった。

「ざっけんな。ケイローン行けっ」

レームの指示に従いタツヨシくんケイローンが走り出し、それにロクテンくんと黒ミノくんも続いていく。

「 炎の騎士団(フレイムナイツ) 、わたくしたちを護りなさい」

そしてティアラが 炎の騎士(フレイムナイト) 九体を呼び出し、守りを固める。いつものアダマンチウムの槍は持たせずにタワーシールド二枚持ちである。さらにはマザーズナックルの四人も構えて『盾の陣』を取り、

「来たわよ。攻撃開始ッ!」

ルイーズのかけ声とともにケイローンたちを抜けやってくる敵へとレームの 雷王砲(レールキャノン) や、エミリィとメロウの矢、さらにはルイーズのライトニングスフィアやアンナの風の魔術が一斉に放たれる。

そしてそれらが空中でデスダガーレインと激突し、その場の空間が爆発などによる衝撃で震えた。

「抜けられたっ!? タツオ、頼んだわ」

『お任せください』

十を越えるデスダガーレインが爆発の煙の中から飛び出し、そこにタツオのクリスタルドラゴンゴーレムが立ちふさがる。

『通しませんよッ』

タツオはくわーっと鳴きながら目の前にクリスタルシールドを発生させる。空中に浮かぶ無数の水晶の盾にデスダガーレインが激突し、弾き飛んだ。

「ゥゥウオオオオオッ」

さらに、そこに攻撃を仕掛けたのは『マザーズナックル』の面々である。その場で『盾の陣』を解いてアッパーを繰り出し、次々とデスダガーレインを破壊し散らせていく。

「良し、続けて油断なく行くわよ。前衛が勝負決めるまで終わらないからねッ」

ルイーズの指揮の元、後衛組は油断なく敵との抗戦に入っていく。戦いはまだ半ばだが、予想外の敵の数にもルイーズたちの戦意は衰えていない。彼女らは迫り来るデスダガーレインたちを相手に一歩も引かずに戦闘を継続していく。

そして、後衛組が当初の予定通りに囮役として動いている状況の中、いよいよ別のルートからデスソードレインへと接近していた前衛組が到着したようだった。