軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百四十九話 受付をしよう

ゴルディオスの街の中でも有望株として知られるランクA冒険者ギュネス・バーナー。

卒業を待たずに飛び出していった友人のギャオに続いて故郷の学び舎を出て冒険者となった彼は今、 金翅鳥(こんじちょう) 神殿攻略において同じ魔物に二度もの敗北を受けていた。

そもそも彼のパーティはその全員が拳闘士の近接戦オンリーパーティであり、それが三十五階層に出没する魔物デスソードレインとの相性は最悪ではあった。しかし、そもそもの問題としてアレを五人でさばききれるものでは……一パーティで相対できるものではないとギュネスは考えていたのだ。

(再々戦は……このままだと次は誰かが欠けるかもしれない)

そうギュネスは考える。しかし犠牲を出すつもりもない。となると手段は限られてくる。つまりは他のパーティとの協力である。

(やはり白き一団に……ギャオたちを頼るか)

すでに三十階層を越えたパーティは十を超えている。攻略本命と言われているパーティ『レイブンソウル』は未だゴルディオスの街に帰還していないが、『白き一団』を筆頭に『オーリング』や『ブレイブ』、『ロードボア』等といった面々も常駐しており、またダンジョンが 金翅鳥(こんじちょう) 神殿に変わったことに興味を持った猛者たちもこの街に徐々に集まりつつあるのをギュネスは肌で感じていた。

そして、そんなことを考えながらギュネスが酒場に入ろうとすると、隣接している冒険者ギルド事務所に人だかりができているのを見たのである。

「なんだ?」

ギュネスが思わず目を向けると、ちょうど事務所の中からギャオとジローが出てきたところであった。

「ん? よお、ギュネスじゃねえか。お前も受付にきたのか?」

いつも通りに陽気なギャオがギュネスを発見して近付いてきた。

犬族の獣人であるギャオは、他の獣人に比べても嗅覚が優れている。事務所を出てすぐさまギュネスに気付いたようだった。

「よお。ジローも久しぶりだな」

「ああ、ギュネスもこんにちは」

ギュネスはギャオとジローに挨拶を交わすと、ギャオの方を向いて質問をした。

「それで受付というのはなんの話だ? ギルドで何か始まったのか?」

ギュネスの問いにギャオが「おいおい、知らねーできたのかよ」と煽る。いつも通りの煽っていくスタイルである。

「スゲーもんできたんだぞ。ポータルだってよ、転・送・装・置!」

「何を言ってるんだお前は?」

ギュネスは最初から冗談と決めかかって眉をひそめた。日頃の行いの成果である。その反応が気に入らないギャオが口を尖らせてギュネスを睨む。

「なんでぇテメエ。おれっちの大親友であるカザネが造ったもんだぜ。カザネを嘘つき呼ばわりすんのか、あー?」

風音とギャオはなんと大親友であるそうで、またギュネスは風音を嘘つき呼ばわりしたようだった。

「ま、まあ友人なのは嘘じゃないとは思うけど、そういうのをあんま大声で言わない方が良いって言ってんだろうギャオ」

横にいるジローが周りをキョロキョロさせながらそう口にする。

この街にはアウターと天使教という二大白き一団シンパが存在しているのだ。アウターは白き一団に害がない限りは特に何も言ってこないが、しかし天使教は別であった。天使教とはチンチクリン少女を何故か崇めている変人集団であり、英雄と称されるジローは問題とされていないのだが、女好きの問題児であるギャオが風音と出会っていることを彼らは酷く警戒しているようだったのである。

「なるほど。であれば、嘘とも言えないだろうな」

「ちっ、オメエってヤツは昔からそうだぜ。少しはおれっちを信用しろってんだ」

「善処しよう」

その会話の横ではジローが(昔から駄目だったんだな)と心の中で頷いていた。駄目だったのである。幼かった分、女癖がなかったのだから相当にマシではあったのだろうが。

「それでポータルというものができたのは分かったのだが、それは何に使うんだ? 王都まで行けたりするものなのか?」

「あったりめーよ」

胸をドーンと叩いて太鼓判を押したギャオの横でジローが首を横に振る。

「いや、そこまでは距離があり過ぎて無理だって話だ」

横でギャオが首を傾げている。知らなかったようである。

「ダンジョン内をそのポータルって装置で転移して運んでくれるものってことらしい。今は十、二十、三十階まで設置してあって、そこから行ったり来たりできるんだって話だ。申請順なんで説明と順番待ちで今は事務所が混んでるんだよ」

「なるほどな。さすがだジロー」

ギャオから引き出せなかった情報が一発で分かったギュネスが感心して頷いていた。その感心されたジローは実にまともな冒険者へ成長を遂げつつあった。危険を感知し、己の程度を知り、周囲の状況を観察して適切な解を出す。力のない男が生きていくために知恵を絞り続けた結果、ジローはそれなりの実力を持った冒険者になっていたのである。その自分の成長を特に実感していないジローはギュネスの言葉に肩をすくめて答えた。

「何がさすがなんだか知らないけどさ。そっちもうちも三十階層突破のことはギルドに記録されているから三十階層までは使用可能のはずだぜ。有料ではあるけどな」

その言葉にギュネスは首を傾げて尋ねる。

「それは……そこまで到達してると使えるものなのか?」

「ああ。別に到達してなくても行くことはできるらしいが、ギルドからは自力到達が条件だってお達しがあったぜ。まあ、己の実力以上の場所に行くってのはそりゃあ危険だしな」

そう言ってジローは「だから俺も危険なんだけどな」とだけ口にして顔を伏せた。そのジローの葛藤の意味はギュネスには分からないが、つまるところ三十階までは受付をすませればすぐさま行けるらしいということであった。

(であれば、ここでギャオたちを誘って……行くか?)

そうギュネスが考えたときである。ギャオが匂いを察知して振り向くと、そこにチンチクリンの姿があった。弓花も一緒である。

「おお、ご盛況みたいだね」

「よお。カザネとユミカじゃねーか」

ギャオの言葉に、冒険者ギルド事務所の中からも「おおっ」と声が響く。現在の風音はポータル開発者という肩書きも追加されており、好感度が爆上げ状態であった。

「って……ユミカはなんでそんな格好してんだ? いや、可愛いし似合ってるけどよ」

そしてギャオの指摘する通り、風音と一緒にいた弓花の格好はいつもの装備でも普段着に使っている服でもなく、妙にフリフリとした、ともすればイタいかもしれないゴスロリピンクなドレスを着ていた。ファンタジー世界であるためギリギリ許容範囲であるのは幸いだった。

「え、似合ってる? 可愛いって……本当に? もーやだなー。えへへ」

そして、ギャオの言葉に顔を真っ赤にして喜んでいる弓花がそこにいた。ギャオの言葉に普通にデレている。深刻な状態であった。

「確かに愛らしいとは思うが、いつもの姿とは違うんだな。何かあったのか?」

「え、いや。カザネがねー。私はどうかなって思ったんだけど。まあ、ファーストフード店のバイト経験くらいは私にもあるしね」

そういう弓花を連れて風音は事務所に入っていく。

「そんじゃあ、ちょっと中入るから。あーそこ。売り子さんに近付かないでね。ほらほら、どいてどいて」

そういって風音は弓花と共に事務所の中へ姿を消していった。それを見ながらギュネスが呟く。

「ユミカたちは何をするつもりなんだ?」

「昨日会ったときに聞いた話だとなんでもユミカがポータルの受付係をやるとかって話をしてたみたいだけどな」

ジローの言葉にギャオとギュネスが首を傾げる。そうする理由が分からない。

「なんでだ?」

「さあ?」

そしてジローも何のためにやるのかは聞いていなかった。

それは風音による弓花改善計画『愛らしい売り子さん大作戦』であった。弓花の魅力を直に伝えるために女の子らしい格好で冒険者たちと対話をさせようという直球の計画である。上手くいくかは不明だが、今回は弓花も乗り気のようであった。

「三十階層か……」

そんな中、ギュネスが呟く。デスソードレインへの再々戦。それが思ったよりも早く訪れそうだと考えて、ギュネスの中に闘志が湧き上がっていた。