作品タイトル不明
第五百四十八話 設置をしよう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 入り口事務所
「ほー、そんな装置ができたんだな」
「できたというか、造ったんだけどな」
ダンジョン入り口に造られた管理事務所の中では武装神官シーザーと会話をしながら親方がガコンと水晶制御柱にチャージボックスを入れて閉じた。
このチャージボックスというものは大型蓄魔器にチャイルドストーンの魔力を効率よくチャージさせるために親方が作り出したアイテムであった。
「セットは完了したぜカザネ」
「あいよー。そんじゃゴーレムメーカーを発動させるよー」
親方の合図に、風音がトテトテと歩いて水晶制御柱に向かいスキル『ゴーレムメーカー』を発動する。
ユッコネエとその頭に乗っているタツオが離れた位置で邪魔にならぬように見守っていたが、特に問題なく発動させた風音のピースサインに、にゃーとくわーという鳴き声をあげた。
なお現在はランクBパーティ『ホワイトフェザー』と共に地上に戻った日の昼過ぎである。チャージボックスを完成させた親方と合流した風音は、事前説明は終えている冒険者ギルドに立ち寄り再度の説明をして、そのまま 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の入り口管理事務所へと辿り着いていた。お供はタツオとユッコネエで、一緒にオルトヴァも付いてきていた。
「この横のな。メーターが満タンになったら、一応チャージ完了なんだが、移動距離によっては使う魔力量が違うからそれぞれに合わせてメモリを付けた方が良さそうだな」
親方の説明を聞きながらシーザーが感心した顔でその装置を見る。
それは以前に風音が作成した転送装置に比べて形状が変化しており、水晶制御柱を中心に四つ葉のクローバのように周囲に四つの魔法陣の刻まれた台が設置されていた。それを疑問に思ったシーザーが風音に尋ねる。
「それぞれに魔法陣が刻まれてるのは、どういうことだ?」
「一応、こっから四箇所に飛べるようには造り直したんだよね」
「つまり、階層の違う四つの場所に飛べるということですね」
その言葉はゴルディオスの街の冒険者ギルド支部長によるものであった。
冒険者ギルド事務所で設置許可を取りに行った風音たちだったが、支部長も自分の目で見て判断すると告げて一緒にやってきたのである。
事前に連絡は通してはあったが、実際に完成するかは別の話であるし、仮にできるにしてもこんなに早いとは支部長も思っていなかったし、転送装置という存在自体に対しても相当に緊張しているようである。
「まったく、色々とやるな。座標物質の固定だって簡単に出来るはずのないものなのだが」
オルトヴァが疲れた顔でぼやいていた。このメイン転送装置は各階層用転移装置に、階層用転送装置からは一番近い転移装置に転移できるように設定がされてある。
後は階層用転送装置をそれぞれの隠し部屋に設置すれば完成なのであった。
「まあ、私もビックリだけどねえ」
風音は風音で苦笑する。元々『テレポート』という魔術はゼクシアハーツではイベント用のものでプレイヤーに使用できる魔術ではなかったのだが、ウィンドウからは他の魔術と同様に設定が可能だったのである。
親方は、シーザーと支部長に向かって説明を続ける。
「こいつの動力は五十階層クラスのチャイルドストーン。階層用はそれぞれ二十階層クラスのチャイルドストーンが入ってやがる。全部国管理のものだからな。管理はしっかり頼むぜ」
その言葉には支部長もブンブンと頷いた。シーザーもひとまず頷いたが、そのまま口を開いた。
「支部長も許可を出してるんだから問題はないが……これで本当に設置完了ということで、もう転移は可能なんだなジョーンズ?」
どうやら親方と知り合いらしいシーザーが転送装置を見ながら改めて尋ねる。
人間の転移が可能になったなどシーザーは今まで聞いたことがなかったし、転移とはアストラル体だけの特殊能力であると一般常識的な理解しか持ってもいない。できると言われても不安はある。
もっとも親方と風音はにたりと笑って、シーザーの言葉に頷いた。
「外では特に動作の問題はなかったけどな」
「白の館とバトロイ工房間では普通に転移できたよね」
親方と風音がそう言い合う。テスト用に今も両建造物には設置済みで、設置場所は大浴場である。風呂掃除を条件に転送装置を介して工房の職員は浴場を利用していた。
「まあ、魔術的な理屈も間違ってはいない。動作原理の保証はしよう。それぐらいしか私にも分からんがな」
オルトヴァが疲れた顔でシーザーに言う。ここに至るまでオルトヴァも色々と調べ続けたのだが、やはり『テレポート』を憶えることはできていなかった。もっとも、それでも風音に話を聞いて研究している分、ただ解析するよりも進行は早いようであったが。
「ま、ダンジョン内でも使えるかって実験をまずはやらねえといけないけどな。そんでカザネ、早速行ってくれるか?」
「らーじゃーー」
親方の言葉に風音がビッと背筋を伸ばして敬礼をする。そのリアクションに特に理由はない。
「そんじゃあ、行ってくるよ。ユッコネエ、タツオ」
「にゃー」
『はい、母上』
そしてユッコネエに跨がった風音がタツオと共にダンジョンの中へと走って消えていった。
「あー、さっさと行っちまったな」
シーザーがそれを見送り、親方も肩をすくめる。
「それで、これって実際、どうなんです? 使い物になるんですか?」
風音が去ったのを見ると冒険者ギルド支部長が親方に向かって尋ねてきた。
仮にも王族に対して懐疑的な言葉を向けるわけにも行かず、ようやく支部長は親方に質問を投げかけられる状態になったのである。
「問題はねえよ。魔力を充填するのに時間はかかるけど、動作に関してはさっき言った通りだからな。動作チェックして大丈夫ならそのまま取り付けちまおうと思うが」
「それはまあ、正直A級ダンジョンですからね。一刻も早く攻略しきってもらいたい案件です。でなければ封印しなければなりませんし」
広がりすぎて手に負えなくなったダンジョンは封印されて二度と使用ができなくなってしまう。
ダンジョンコアを外してダンジョンを消失させてから、再度ダンジョンコアを設置してランクを落としたダンジョンを復活させる……というのが基本的なダンジョンの運用方法であり、そうすることでダンジョンに魔素を喰わせて魔物を地域から排除することが可能となるのである。しかし、封印してしまってはダンジョンコアの回収は不可能で、魔物も復活し、当然周囲に展開された農園などの運営もできなくなってしまう。それは絶対に避けたい事態だった。
「ま、後は管理だな。だいたい十階層ぐらいを目途に置いておく予定みてえだが、それぞれに置いたものをどうやって護るかってとこなんだが」
親方が唸る。何しろ転送装置にはチャイルドストーンやヒヒイロカネ、大型蓄魔器など、非常に価値の高いレア素材が使用されている。
「冒険者を募って管理をお願いするのが良いですかね。ダンジョン内とはいえ、転送装置で逃げることも可能なわけですし」
「ま、どうあってもここは通らなきゃいけないから盗んで持ち帰るってのは無理だろうしな」
シーザーの言葉に支部長も頷いた。
「ですね。素材の転送にも使えそうですし、色々とやれることは多そうです」
なんにせよ、冒険者ギルドにもメリットはかなり大きいものなのだ。いくつかのルール決めはするにしても、転送装置の設置は確定であった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第八階層
そして、支部長たちも話は終わり入り口事務所で待機している頃、風音はユッコネエを全速力で走らせてダンジョン内を進んでいた。ひとまず七階層まではつながるのを確認し、当初の予定通りの十階層へと向かっていく。
『母上ー、前方に敵ですー』
途中、タツオから声がかかる。
「了解。スライサーバットだね。ユッコネエ、速度緩めず突っ切って!」
「にゃー」
風音の言葉にユッコネエが鳴いて、止まらず進んでいく。そして風音はスライサーバットを視界に捕らえた。
(『イーグルアイ』で確認。計九匹。問題ないね)
そう考えながら風音は黄金の翼を出し、そしてスライサーバットが風音たちに気付いたと同時に黄金の羽根を翼から射出する。スキル『フェザーアタック』である。
前日に手に入れたスキル『イーグルアイ』によって完全に敵の配置を捉えた風音は黄金羽根弾を全弾命中させ、スライサーバットを全滅させた。瞬殺である。
「ゼッコーチョー」
「にゃー」
『さすが母上です』
そして風音はそのまま突き進み、予定の十階層の隠し部屋へと辿り着くと階層用転送装置を設置した。
これは二十階層クラスチャイルドストーンを使った帰還オンリーの転送装置である。入り口の転送装置で各階層用転送装置に飛ばし、帰りにはそれぞれの転送装置を経由して帰還するという方式を風音は取っていた。
そして風音はその場にひとまずの警備用ゴーレムを設置すると、そのまま転送装置を使って入り口事務所へと帰還したのである。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 入り口事務所
「やはっ」
「にゃー」
『ただいま戻りました』
風音とユッコネエとタツオが声をあげて事務所の転送装置から出現する。
「おお、本当に出てきましたね」
「つか、本当に十階まで降りたのかよ。早すぎじゃないか?」
支部長は素直に転送に驚いていたが、シーザーは風音が二時間程度で十階層まで辿り着いたことに驚いていた。親方とオルトヴァは特に驚きもせず、その結果に満足げな笑みを浮かべていた。そして、実験は成功。ダンジョン内での転送装置が使用可能であることは確定した。後は各階層への設置と運用方針を決めて動かすだけである。
そして、風音は転送装置の名をカルラ王から聞いた名であるポータルと命名した。それは再びダンジョンにポータルが姿を取り戻した瞬間でもあったのだ。