作品タイトル不明
第五百四十五話 普通に探索しよう
ゴレムスキャノンの試運転終了後、風音は白の館で待っていた親方に「なんで俺も連れてかねーんだよ」とグチグチ言われたのでもう一回戻って試運転をした……というようなこともあった日の翌日。風音たちは再びダンジョンへと潜ることとなった。
本日は第三十一階層メインである。そして、前回同様に風音組と弓花組に別れての同階層探索となっていた。その方が何かあれば駆けつけやすいし、A級ダンジョンはともかく広い。二組でも当日中に回りきれそうもないほどに広大だった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第三十一階層
「やっぱり、ここいらだとそれなりの相手が出るなぁ」
そう言いながら弓花はクロマルに噛みつかれたランドイーグルへトドメの一撃を放つ。あっさりとしたものではあるが、猟犬が食いついた瞬間を狙っての一瞬の攻撃である。軽いノリで戦っているように見えて、状況を完全に掌握しているからこそできることだった。
「クェエエエッ!?」
「クエックエッ」
「クエックーー!」
そしてランドイーグルの断末魔の悲鳴が木霊し、クロマルが仕留めたランドイーグルの捕食にかかると、仲間のランドイーグルたちが怒り狂って一斉に走り出した。狙いは当然クロマルと弓花である。
「おっと、纏めて来るか」
弓花は注意深く敵の集団を見る。このランドイーグルとは大空を捨て地上で狩りをすることを選択した 鷲(ワシ) の魔物である。
強力な脚力で走り跳び、小さな翼を広げて地面ギリギリを低空移動しながら攻撃を仕掛けてくる。その速度とクチバシの鋭さ、さらには地面スレスレを移動しているという攻撃のし辛さから冒険者たちの間ではかなりの強敵と判断されている魔物であった。
「直樹ッ、こいつらあげる!」
「おうさっ!!」
近付いてくるランドイーグルを観察しながらの弓花の言葉に勢いの良い声が返ってくる。さらには弓花の真上を直樹が飛び越えた。
直樹は魔法刃を発生させた竜炎の魔剣『牙炎』と水晶竜の魔剣『虹角』を構えながら、敵の群れへと落下していく。そして、上空から地面に叩きつけるようにランドイーグルの群れへとバツの字の光が走った。
「口伝オダノブナガ流バツの字斬り」
大地に叩きつけられた衝撃波でランドイーグルたちが吹き飛ばされる。その中心に直樹は降り立ち、そのまま両手の魔剣を手放した。
「魔剣解放!」
その直後の直樹のかけ声に、二つの魔剣は二匹の小さな飛竜へと変化し、弾き飛ばしたランドイーグルたちへの攻撃を開始する。
「ナオキッ!」
そこにエミリィの声が響いた。離れた位置にいたエミリィはバツの字斬りを避けた個体が何体かいるのに気付いていた。それらが一斉に直樹に向かって突進しているのも見えていたのだ。
「問題ねえだろ」
しかし、エミリィの横に立っているライルは慌てずにそう呟いた。直樹にしてもまったく動じていない。
「ああ、問題はないさ」
親友の言葉に直樹はそう返す。スキル『察知』ですでに敵の動向は掴んでいる。直樹は流れるようにアイテムボックスから夜王の剣を取り出すと、地面にある己の影をまるで掻き出すように夜王の剣を振るった。
「ほぉ」
その次の瞬間に起こった現象を見てジンライが感嘆の声をあげる。夜王の剣に反応して影が物理現象となって地面から出現するとそのまま無数の刃となってランドイーグルへと突き刺さったのだ。
「クェエエエッ」
「クエッ!?」
下から柔い腹に向かって影の刃を突き立てられたランドイーグルたちは絶命した。そして、二匹の飛竜と共に直樹は夜王の剣を振るい続け、危なげなく残りのランドイーグルも一掃したのであった。
**********
「ふむ。見事ではあるが、魔剣の力に頼りすぎだな。もう少し己の腕を信用しても良かろうよ」
戦闘終了後、ジンライは先ほどの直樹の戦いをそう評した。その言葉には直樹も「はい。ジンライ師匠」と頷く。戦闘そのものは完全に直樹のペースであった。しかし、直樹自身がさらなる高みを望むのであれば、魔剣の能力だけではなく、己の技量をもっと積極的に磨かなければならない。安全策だけでは成長は停滞する。それは直樹にも分かっていたことだった。
「もう、お爺さま。ナオキはよくやってるじゃない」
もっとも素直に頷く直樹とは反対にエミリィは少し膨れツラだ。自分の好いている男が悪く言われていると感じたのだから仕方のないことではある。また、エミリィの言葉に一理あることはジンライにも分かっていた。直樹が上手く闘っているのは間違いない。しかし、だからこそジンライはエミリィに言わざるを得ない。
「確かにお前の言葉は正しい。だが、こやつはもっと上を目指しておる。それを考えればそのように答えるしかないのだ。エミリィ、お前はそれを理解せよ。甘やかすだけではナオキは錆び付くぞ」
「あ、甘やかすとか、そんなことないわよ」
エミリィが顔を赤くして否定する。それを微笑ましげに見るジンライの横では弓花が意地の悪い笑みを浮かべていた。
「まー、直樹はまだ私や師匠にはまったく歯が立たないしね。もっと師匠の言葉に従って強くなりなさいよ」
「うるせえ。分かってるさ」
笑う弓花に直樹が口を尖らせている。
それを見てエミリィの胸がチクッと痛んだ。弓花は直樹よりも年下なのに時折お姉さんぶって、それでいて直樹もどこか甘えた部分を見せることがある。それはエミリィにはない直樹との関係だ。
「も、もう、ナオキも……私はナオキががんばってるところ、ちゃんと見てるんだからね」
「ああ、分かってるさ。お前のそう言うところに俺も救われてる。サンキューなエミリィ」
直樹はエミリィの頭をポンッと触って、笑みを浮かべて白い歯を見せた。
「うわぁ」
後ろで弓花が凄く気持ち悪いものを見る目で直樹を見ていたが、エミリィは気にしない。今、直樹に相手にされているのはエミリィなのだ。むしろ、優越感に近い想いに浸っていた。
「ところでよー爺さん。コイツの売れる部分ってなんだ?」
そして浸っているエミリィの横でライルがジンライにランドイーグルの素材回収について尋ねていた。ジンライはその場で落ちているランドイーグルを見ながら口を開いた。
「クチバシと羽根、後は足だな。肉は堅くて食えたものではないらしいが足は珍味なのだと聞いておる。揚げてパキンッと折って食べるらしい」
「らしいっていうと食ったことはないのかよ?」
「うむ。以前に倒したときは全部売り払った。良い金になるからな。しかし、今回は調理してみても良いかもしれんな」
ジンライはライルにそう答えて笑った。
ただの冒険者である頃とは違って、今はジンライの懐も随分と余裕がある。そもそもジンライたち白き一団のメンバーは金遣いが荒かったり大物買いをしたふたりを除いて一般的に見て相当にため込んでいた。
「それじゃあ回収するか。この階層もまだそんなに進んでないし、あまり時間もかけたくないしな」
「なーご」
直樹がそう言って全員が動き出そうとしたその直後にシップーが鳴いた。
「どうしたシップー?」
愛猫の様子にジンライが声をかけるが、それよりも速い反応をしたのは弓花だった。
「先に血の匂い?」
物騒な弓花の言葉に直樹が反応する。
「どういうことだよ弓花?」
「ん、ちょっとマズいかも。多分、囲まれてる。冒険者が2……いや3人かな」
化生の巫女の『化生の加護』スキルにより『犬の嗅覚』と『直感』をセットしている弓花はここからの先で起きている状況をその臭いで瞬時に把握した。そして、ジンライも弟子の表情から状況がよろしくないことを察して口を開いた。
「ふむ。どうやら不味い状況のようだな」
ジンライの言葉に弓花が頷いた。かなり切羽詰まっていると弓花の『直感』は告げていた。
「ならば、まだ身体も硬くはなってないだろうからふたりで行ってこい。急げ」
「はい、師匠。直樹、行くよッ!」
「おうよっ」
そして、その先にいるであろう窮地に立った冒険者たちを救うべく弓花と直樹のふたりは駆け出したのだった。
**********
金翅鳥(こんじちょう) 神殿三十一階。その通路の一角ではランクBパーティ『ホワイトフェザー』が追いつめられていた。
「ウーガル、逃げてッ」
少女の悲痛な叫びが通路を木霊する。だが、その声は届かない。フライオークの上位種であるフライングニーオークのフライングニードロップが、ウーガルと呼ばれた青年戦士の身体を吹き飛ばしたのだ。
「くそったれ。連戦じゃあなければあんな奴ら」
少女の横にいる弓兵の青年が叫んだ。しかし、肝心の矢が今は矢筒には入っていない。ここまでにすべての矢を使い果たし、さらには回収すらできないほどに彼らは長時間追いつめられていた。
「言っても仕方ないでしょリード。それよりもウーガルを助けないと」
「助けろって、どうしろってんだよミーハ。俺らが行っても一緒に殺されちまう」
リードがミーハに対して怒鳴りつける。ミーハは魔術師だがすでに魔力は尽きている。ウーガルを助ける手段がふたりにはないのだ。そんなふたりにウーガルは叫び声をあげた。
「いいから行けふたりとも」
血を吐きながらもウーガルは立ち上がった。
他の仲間たちはひとつ前の戦いの後にはぐれてしまっていた。ランドイーグルとの連戦の後に彼らはさらにフライングニーオークに襲われたのだ。血の臭いに誘われたのだろうが、運がなかったとしか言いようがなかった。
「リード、ミーハをこんな豚蠅どもの慰み者にさせる気かッ」
ウーガルの怒りの声が響く。
オーク族に捉えられた女性冒険者の末路は悲惨である。「くっ、殺せ」などと言ってもオークは構わず女騎士を弄ぶように女たちの身体を貪る。慰み者の玩具として命すり切れるまで犯される運命にある。そんな目に同郷の友であり、想い人でもあるミーハにさせていいのかとウーガルは憤ったのだ。
「嫌だよウーガル。ウーガルも逃げようよ」
目に涙を溜めたミーハが叫ぶ。それをウーガルはとても嬉しそうに見て笑った。ああ、この娘に惚れて良かったと心の底から思った。
「俺にはその言葉だけで、それだけで十分だ。リード、いけぇええ」
そのウーガルの言葉ともにフライングニーオークたちが一斉にフライングニードロップを仕掛ける。
「ウーガルッ!?」
「畜生。いくぞミーハ」
ウーガルが助からないのは明らかだった。もう、リードたちではウーガルを救えない。そしてリードはミーハの手を掴んで走り出そうとした。ウーガルの意志を継ぎ、自分たちの想い人だけは救おうと決意していた。
「良い覚悟だな」
そんな時に、後ろから声が聞こえたのだ。それはそろそろ大人に差し掛かろうかという頃合いの、少年の声だった。