軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百四十二話 遭遇をしよう

「……できなくはないけど、難しいと思うよ」

オルトヴァの問いに風音はそう答えた。オルトヴァの望みは転移魔術の習得。それは無属性魔術の習得を意味する。そして、それはこの世界においては、常識より外れた行為であるのだ。

「そもそも、この世界の魔術ってのは八つの因子を媒介に使ってるものだからね。無属性はそれを外して使う魔術なんだよ。だから因子を使わない魔術を覚えるのは、その前提を理解できないと難しいよ」

「それは……むう。なるほど」

オルトヴァが唸る。風音の言っていることはオルトヴァにも多少は理解できる。そして、その難易度もまた認識できるのだ。

この世界に存在する火・水・風・雷・土・命・光・闇の八つの因子。それは、いわば魔力を魔術にするための補助的存在であり、ゼクシアハーツにもあった『概念』であり、魔術をオートメーション化し簡易に発動させているものでもある。

対して無属性魔術は因子を使用せず、いわば完全にマニュアル操作で魔術を行使するに等しい。オルトヴァも、己の知る魔術よりも遙かに行程が複雑になるのは容易に想像がついた。いや、そもそも因子を欠いた魔術という発想がオルトヴァの常識を超えているのだ。

(ダンジョンやシグナ遺跡、ウィンドウ……あれと同じ感じがするんだよねえ。この因子ってものは)

風音は心の中でそう呟く。ともあれ、風音もそこまで口に出すことはしない。

確かに因子という存在のおかげでこの世界の魔術は容易に発動する。

しかし、まるでゲームに登場したゼクシアハーツの魔術へと誘導するかのような動作をするために、同時に魔術という可能性を狭めてもいるように風音には思えていた。

唸るオルトヴァの横でルイーズが、頭をかきながら風音に尋ねる。

「えーと、つまり因子に代わる何かを己で用意する必要があるってわけよね?」

「うん。そういう理解で良いと思うよ。この転移装置の魔術を解析していけば多分コピー的なものなら辿り着けると思うし、覚えたいんならそれは頑張ってみるしかないんじゃないかな」

風音の言葉にオルトヴァが真剣な顔で頷いた。その顔はどこか挑戦的な、男の顔であった。

「ま、そっちはオルトヴァくんに任せるわ」

対して、その難しさを理解したルイーズは肩をすくめて引くことを宣言した。

「私には何がなにやらさっぱりですよ」

一緒にいたユズはギブアップのようである。そして、続いて風音は親方と共に転送装置の改良に向けての話し合いに入ることになる。

実際の図面や魔力の流れを確認しながら、親方にそれに対応したものを造ってもらう。それはまた、時間を必要とする作業であった。

続けての翌々日。

親方との話の詰めもある程度終えた風音は仲間たちと共に再び直樹の転移で二十七階層へと赴き、弓花組は二十七階層、風音組は二十八階層へと分かれての探索とはなったのである。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 二十八階

「オルトヴァさん、ずーっと見てるんだよねえ」

ダンジョンを歩きながら風音がそう口にする。

なお、二十階層を超えた辺りでダンジョン内は当初の石造りの遺跡の内部のような姿から黄金色の石でできた洞窟へと変化していた。なお、周囲の石は金ではないようで、持ち帰っても大した金額にはならないとはすでに入り口の管理人シーザーからは聞かされていた。

なんでも大量に持ち帰ってきて換金を願い出て、二束三文どころかお引き取りとまで言われて散々ゴネて、終いにはギルドマスターに怒られて帰って行った バカ(ギャオ) がいたともシーザーはため息をついて教えてくれていた。

ともあれ、それはそれとしてオルトヴァの話である。

風音の話では一昨日から起きている間はずっと転送装置の試作品の前に立って色々と調べているらしいとのことである。

「オーリングもまずは低階層の探索から入るからって『私はまだ必要ないだろう』とか言ってオーリさんを困らしていたみたいね」

「ああ、それ、結局オーリのやつが折れて、今はオルトヴァ抜きでダンジョン探索に向かってるらしいぞ」

とはレームの言葉。レームはオーリたちオーリングのメンバーともよく話しているようである。

「まあ、一度集中しちゃうと手が離せなくなるタイプなのよね。けどなかなか見所はある男よ、彼は」

ルイーズは少しだけ誇るようにレームにそう答えた。また、そう語るルイーズからオルトヴァの匂いが漂っていることを風音はすでに把握していた。風音としてもルイーズが誰とどうしようと気にしないつもりではいるのだが、

(ああ、やってらっしゃる)

とだけはハッキリと分かっていたのである。そして風音は少しだけ顔を赤くしてルイーズから視線を離し、前を向いて歩き続けていたのであった。

「それにしても、随分と天井が高くなってきましたわね」

ティアラが周囲を見回しながら、そう口にする。

洞窟風な造りに変わってから、天井もだんだんと広くなってきていた。また、前回は蠅の羽の生えたフライオークが出てきたし、スライサーバットの大量出現もあったのである。

「警戒を怠らないようにしよう。もう、ここらへんは私たちでも危険な場所だよ」

風音の言葉に一同が頷く。

そして進んだ先でフライオークの集団と遭遇したが、風音たちの完勝は揺るがない。

風音とケイローンから分離したタツヨシくんドラグーン、それにルイーズのライトニングスフィアやティアラの 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) も空を飛べるし、タツオのメガビームも有効であったためである。空を飛べようが槍で降下突きしかできないフライオークは白き一団の敵ではなかった。そして、

「私ってもう、いらねえんじゃないかな?」

空中戦になって途端に出番の減ったレームが落ち込んでいるようだった。トゥーレ王国の現役女王様は打たれ弱いのである。

「まあまあ、もうちょっとで新装備ができるからさ」

「そうですわよ。ほら、歩いてくる相手ならお任せいたしますし」

『レーム、諦めちゃダメです』

風音とティアラとタツオがレームを慰めているのをルイーズとメフィルスが微笑ましげに見ていると、風音が不意に通路の先へと視線を向けた。

「お、知ってる人が来るね」

と鼻をクンクンとさせた風音が口にした。スキル『犬の嗅覚』がその匂いを捉えたようである。

「どなたかしら?」

ルイーズの問いに風音が「ギュネスさんだね」と返してきた。ギュネスは五人全員が拳闘士というAランクパーティ『マザーズナックル』のリーダーで、主に弓花の知り合いでもある。

そして風音の言葉通りに彼らはやってきた。もっとも、やってきた彼らの状態は酷いモノだった。

(随分とやられたもんだね)

風音はギュネスたちの様子を見ながらそう呟く。風音の知る限り、ギュネスたちは確かにランクAにふさわしい実力を持っていたはずである。それが全員致命傷こそないものの切り傷だらけであった。包帯を巻いて手当こそしているモノの、傷を治していないところを見ると回復薬も尽きているようである。

(一体、何と戦ってああなったんだろうね)

黒岩竜の件もあるし、必ずしもダンジョン内の階層と強さが一致するわけではないが、この段階でギュネスたちがボロボロになって帰ってくることが風音には意外であった。

そして、ギュネスたちは白き一団の前まで来ると手を挙げて声をかけてきた。

「よお、白き一団。あんたらか」

「うん。私たちだよ。こんにちは」

風音が返事を返し、他のメンバーも挨拶をしあう。そしてギュネスが白き一団のメンバーを見回して尋ねる。

「ユミカたちは別行動なのか?」

「まあね。こっちは人数も多いし今は分かれて探索中だよ。そんでそっちは随分とボロボロみたいだけどどうしたのさ?」

風音の問いにギュネスは苦笑気味に言葉を返す。

「三十五階層に少しばかり相性の悪い相手がな。情けないが、こうして命辛々逃げてきた」

そうギュネスは口惜しそうに答えた。その言葉に風音の眉間にしわが寄る。

(以前にギャオたちがギュネスさんらは三十五階層まで到達したって言ってたよね)

つまり、ギュネスたちは『また』三十五階層まで行って、こうして負けて戻ってきたということになる。もしかするとギュネスたちは一度敗北した『何か』に再戦しにいって、また負けて戻ってきたのではないかと風音は考えた。

「一体、何と戦ったの?」

「デスソードレインだ」

ギュネスの言葉に風音が「なるほど」と呟いて目を細めた。

「ですそー……なんですの?」

ティアラが首を傾げ、風音以外のメンバーも知らぬようなのを察したルイーズが口を開いて補足する。

「デスソードレインは、魔物と化した数十本の剣の群体よ。厄介なのはそれが一個の魔物ということでね。倒しても倒しても本体を仕留めないと何度でも復活するのよ」

ギュネスは「その通りだ」と言って力なく頷いた。

「まあ、近接戦メインのそっちのパーティじゃあ、確かにあれは厳しいよね」

本体は他の剣たちに護られ、離れて指示をしているのである。接近戦しかできない『マザーズナックル』にとっては天敵だと言っても良い相手であった。

「いいや、本体まで届かなかったのは俺たちの未熟さ。まったく、情けない。こんな有様では母に申し訳は立たない」

そうギュネスが言うと、マザーズナックルの仲間たちはよりいっそうの厳しい顔をして俯いた。

(お母さん? ああ……)

ギュネスたちのパーティ名は『マザーズナックル』。しかし、メンバー全員が兄弟と言うことでもないようだから恐らくは母と呼ばれる尊敬する人物でもいるのだろうかと風音は考える。

そしてギュネスはギャオとも同郷であった。そのギャオの父親は故郷の国のお偉いさんで、現役の将軍であるらしいとも風音は聞いていた。

(そんな偉そうな人からどうやったらあんなドラ息子に生まれるんだろうねえ)

そんなことを考えながら、風音は回復魔術で『マザーズナックル』の治療を始めた。現状での風音の魔力量は並の魔術師の6倍はある。メガビームを連発しなければそうそう切れることもないため、『マザーズナックル』の治療程度ならば特に問題もなかった。

そして、えらく感謝しているギュネスたちとその場で別れた風音たちはまた探索を再開することとなったのである。

「ギュネスさんたち、随分苦戦したみたいだね」

「私たちも油断できませんわね」

三十五階層のデスソードレイン。ギュネスたちが苦戦するほどの相手がそこにいる。風音たちはそのことを頭に刻み、さらに気を引き締めてダンジョンの先へと進んで行くのであった。