作品タイトル不明
第五百四十一話 転送装置を造ろう
風音が『弾力』スキルを手に入れてダンジョンの中で一夜を明かした翌日。その日は二十七階層まで進んだところでダンジョン探索を切り上げ、直樹の転移によってオーリングと揃って地上にまで戻ったのであった。
しかし、それより先はマップなしの自力探索の領域。次回からは風音たちも購入したマップ基準の探索から自力でダンジョンマップを埋める方向に探索を切り替える方針となり、ここからいよいよ本格的なダンジョン攻略へと変わるのであった。そして、風音にはもう一つ課題があった。
それは転送装置だ。
ゴーレムと転移魔術を融合させたその装置を生み出してダンジョン内に配置することで他のパーティの探索力を上げさせる。それによりダンジョンの攻略速度を加速させ、風音たちは 金翅鳥(こんじちょう) 神殿を攻略する予定であった。しかし、そのための障害を取り除くためにも風音はある人物に掛け合わなければならなかった。その人物とは 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の主、ダンジョンマスターであるカルラ王であった。
◎ゴルディオスの街 白の館 左館 浴場更衣室前
「転移装置? ふむ、そんなものも造れるのか。まあ、問題ないぞ。好きにしろ」
風音の問いに、ブルブルと震えながらカルラ王がそう答えた。
「あっさりと言うね。良いの?」
風音たちが地上に戻ってきた翌日である。また勝手に風呂に入りにきた、というよりもすでに入った後のカルラ王を見つけた風音が転移装置についての許可を取り付けようと声をかけたのである。
そして、カルラ王はあっさりと許可を出したのだった。何かしら言われると思っていた風音から出た疑問の言葉に、カルラ王が「当然だ」とブルブルと震えながら返す。
「基本的にダンジョンに探索に来る者たちの行動に対してダンジョンの主は大概のことは容認する方針となっている。ダンジョン内の転移装置……確かポータルと言ったかな。それは機能としてはそもそもダンジョンに存在するものだしな」
「え?」
風音の驚きの声に、カルラ王はブルブルと震えながら頷いた。
「まあ、初期段階のダンジョンでは設置は基本となっていたようだな」
「今はないよね?」
「ないな」
カルラ王は風音の問いに頷いて、言葉を続けた。
「ポータルを構成する素材は魔素を多量に使うし、それなりに稀少なものなのだ。そして設置したポータルの盗難が相次いだのだな。当然、盗んだのは冒険者たちだ」
うわぁ……という顔を風音がするのを見てカルラ王がブルブル震えながら笑う。
「結果として、無駄……ということになってダンジョンに設置するのは見送られるようになったそうだ」
「あーそうなんだ」
風音は知りたくなかった情報を聞いて苦い顔をする。お宝が目の前にあるのだから致し方ないとはいえ、過去の冒険者たちは自分たちの行動により自分たちどころか、未来の冒険者たちの首を絞め続ける結果を造っていたようである。
「だから、私から言えることと言えば、盗まれぬように精々気をつけよ……ということぐらいだろうな」
カルラ王の言葉には風音も素直に頷いた。
作製に必要なチャイルドストーンにマッスルクレイ。いずれも素材としては高級なものである。それを置くのだから万全のセキュリティとルール決めが必要だと改めて風音は理解したのであった。
「それよりもだ、カザネよ」
「何さ?」
ブルブルと震えながらのカルラ王の問いに風音は首を傾げる。
「このマッサージチェアというもの、もう少し強く揉ませることはできないのか? 私には少々物足りないようだ」
「ん、調整しておく」
金のガウン姿でブルブルと震えながらマッサージチェアに座っているカルラ王に風音が頷いた。実はジンライ等からもそうした要望がいくつか来ていたのだ。様々なご要望を受けて改良していくことで良いものはより良いものへと進化していくのである。それは物作りの基本であった。
続けて風音はゆっこ姉にもメールで連絡し、その翌日にはバトロイ工房からの素材提供を取り付けて、転送装置の製造に入ったのである。
◎白の館 中庭
「というわけで、ゆっこ姉の許可は得たし、蓄魔器も親方から提供してもらったので転送装置の試験制作を行うよ」
風音の言葉に全員が頷いた。なお、その場にいるメンツは、風音と、魔術師であるルイーズとオルトヴァ、ゴーレム使いであるユズ。それに親方の五名である。
「まったく、よくよく色んなもん造ろうとするよなカザネも」
親方が呆れ顔でそう口にする。とはいえ、親方も転送装置には興味津々であった。顔に早く見せろよと書いてあるようだ。
「それで、まずはどうするんだ?」
親方の問いに風音は「そうだね」と口にして、その場に置かれている大型蓄魔器を指さした。それは親方が持ってきた、装備型蓄魔器とは違った設置型の大型蓄魔器である。その大きさ故に自ら持って使用することは困難で、今回の転送装置のようにチャイルドストーンとの連動での使用を目的とした試作品であった。
「この大型蓄魔器を使用できるものにしないといけないからね。さすがにそのまま埋め込んだらカザネちゃん人形もデブっちゃうし、姿をちゃんとした転送装置に切り替えるよ」
そう言って風音が目の前で用意してあった土塊にゴーレムメーカーをかけていく。僅かな間に土塊が動いて姿を整え、そして完成したのは中央に水晶の柱が生えている薄い円柱状の台だった。
「こんなものを一瞬で……」
ユズが 戦慄(わなな) いているが風音は「まあ水晶化との連携技だしね」と答えた。
実際のところ、コーティングはゴーレム魔術とは別の付与魔術として覚えることが出来るのでそこまでは風音と同じことは理論の上では可能であるのが『水晶化』はまた別である。
クリスタルドラゴンから入手したスキルである『水晶化』は固有スキルといっても良い特殊なものであった。
「ふむ。相変わらず凄いものね。水晶となっているのは中央の柱と、なるほど……台の上の魔法陣の部分も水晶によってできているわけね」
ルイーズが感心しながら、その姿を眺めている。
中央が水晶の柱となっているが台座の上に溝となって引かれている魔法陣にも水晶が占められていた。ガラスを溶かして流し込んだような感じで、それは中央の水晶柱と結合しているようであった。
「中央の水晶内部には空洞があるようだな?」
オルトヴァの言葉に風音が頷いた。
「うん、チャイルドストーンは下の台の中に設置して、蓄魔器はその上の水晶内部に設置するわけだよ。えーとこんな風に」
風音は水晶柱の上の蓋をガチャコンと開けて、まずはコロコロとバストァープリンから入手したチャイルドストーンを入れ、底の穴に吸い込ませた。さらに続けて大型蓄魔器を入れると蓋をまた閉じた。
それから風音が再度ゴーレムメーカーを起動させると転送装置の中に入れたチャイルドストーンを中心としたゴーレムへと変わっていき、動き出したのである。
「魔力光が…‥水晶を流れている?」
オルトヴァがその幻想的な光景を見て驚いていた。
チャイルドストーンから発せられる魔力が大型蓄魔器へと流れ、さらには円柱台の魔法陣へと流れているのが、放出されている魔力光によって見えている。
転送装置には、ゲームで時々見られるような床や壁を走る光のライン的な感じの演出がされていた。
「わかりやすいでしょ?」
「まあ、そうだな」
風音の問いにオルトヴァは驚きつつも納得の顔で頷いた。見た目の美しさよりも、実験時の確認のしやすさという面でオルトヴァは納得し、理解を示したようである。
「下に設置したチャイルドストーンからの魔力を大型蓄魔器に溜め込ませて、その魔力を使って転移魔術を発生させるわけね。後、ダンジョン内では指で魔法陣を描かせていたけどこれの魔法陣は固定なの?」
「うん。風音ちゃん人形みたいに指先で魔法陣を描いて造るよりも、固定しておいた方が省エネだからね」
そう言った風音に親方が少し唸ってから口を開いた。
「カザネよ。ゴーレム魔術もいいんだけどよ。細かい部分に関しては実際にちゃんと作った方がいいかもしれねえな」
「というと?」
首を傾げる風音に親方が転送装置に指をさして答える。
「ここのな。チャイルドストーンから蓄魔器への魔力の移動なんかはヒヒイロカネの魔導線を繋げたボックスを造って対応したらいいんじゃねえかと思うんだよ。後は盗難対策にそのボックスを開けられないように鍵とかかけて対応しておきてえ」
その言葉に風音はなるほどと頷いた。効率化と盗難防止対策も確かに行っておきたいのは確かだ。
「そんじゃあ、実際にまた設計図を起こすからどこまで制作するかを詰めよっか」
風音の言葉に親方が頷く。風音のゴーレムは確かに優れているが、それだけで造ったものが最適解というわけではない。実際にタツヨシくんシリーズも複数の技術が混じってできているのだ。
そして、風音と親方の話に続いて、オルトヴァが声をかけた。
「ところで、この転送装置はどの程度の者が運べるようになるんだろうか?」
「それはこの魔法陣の範囲内ならいくらでもという感じだね。台自体は一応十人ギリギリ入れるサイズだけど、高さは5メートルくらいじゃないかな。空間そのものを送るから、中の入っている者の重量とかは関係ないよ」
「そうか、便利なものだな」
転移とは指定空間の入れ替えである。オルトヴァはそのことに感心して頷くと、それから風音に尋ねた。
「ところで、聞きたいのだが」
「何かな?」
オルトヴァは少しだけためらってから尋ねた。
「我々にもその無属性魔術は扱えるようになるのだろうか?」