作品タイトル不明
第五百四十話 装置を作ろう
バストァープリンとの戦闘終了後、レームとタツオはスキル『弾力』の効力によりバインバインとなった床の上をボイーンボイーンと飛び跳ねていた。
テスト用にと風音がスキルを発動させてみたのだが石畳の床がまるでトランポリンのように弾力を帯びたのである。
「すげえな。これ」
レームの言葉にタツオがくわーっと鳴いた。楽しいようで何よりである。
そして、実際に使用して判明したことだが『弾力』は名の通りの能力で対象物に弾力を与えることができるスキルのようである。
効果は風音自身が手を触れたものに限定され効果時間は数分程度。その特性を考えれば、敵の意表を突いて攻撃を仕掛けたり、弾力を利用して攻撃の加速を行ったりもできるだろうし、かなり応用性の高いスキルであろうと思われた。
「カザネがスキルを手に入れるってのはこういうことなのか。初めて見たがすげーや。やるなぁ、カザネ」
『母上は素晴らしいです』
ふたりの言葉に対して風音がうんうんと頷いていた。
そんな風音は通路の端でハイライトのない瞳、俗に言うレイプ目で体育座りをしてレームたちの様子を眺めていた。
また、風音の座っている場所から少し離れたところではティアラが風音と同じように体育座りをして虚ろな瞳で天井のシミの数を数えているようだった。ティアラの落ち込みの原因は風音にあった。
落ち込んでいる風音を慰めようと近付いたティアラを何故か風音が威嚇をしたのである。正しく言えば風音が敵意をむき出しにしたのはティアラではなく、その胸からボイーンとでているモノに対してであったのだが、それも含めてティアラである。風音から親の仇のように睨まれては近付くこともできず、ティアラも風音に連動して落ち込んでいたのであった。
(ティアラ……ごめんね)
風音は心の中でティアラに謝罪する。しかし風音は自分の態度がティアラを傷つけていると分かってはいてもティアラの方を見ることも声をかけることもできなかった。
(私もティアラのことを親友だとは思っているけど、これだけは別なんだよ。ティアラには今だけは近付いてきて欲しくないんだ。でなければ、私はティアラの胸についている脂肪の塊をどうにかしてしまいそうなんだよ)
そう風音はギリギリと歯ぎしりをしながら苦悩していた。
得られるはずだった栄光が今は遠く、何の苦もなく勝ち取っているティアラは今の風音には眩しすぎたのだ。
ともあれ、風音は先ほどのバストァープリンから『巨乳』スキルとか『ボイン』スキルとかそんな感じのスキルが手には入らなかったことを落ち込んではいたが、まだ希望を捨てたわけではない。
(私は諦めないよ。まだ可能性はあるんだからね。モーモーミルキー、オッパルパル将軍に怨念騎士クッコロさん。他にも持ってそうな魔物はまだいるんだ。私は諦めてないよ。絶対に)
確かに風音は今回の件で気を落としていた。
しかし、まだ可能性のある魔物候補は存在している。風音はいつの日かそれらを討ち、栄光を手に入れるのだと意気込んだ。
それに風音もただスキルだけに頼るつもりはなかった。
風音は毎日のように自分で揉み揉みマッサージをしているし、牛乳もガブ飲みしているし、セクシーを実践することで女性ホルモンを高め女子力をアップさせようともしていた。そう、セクシーポーザーとはそうした涙ぐましい努力が形となって世に現れたものだったのだ。
それに……と風音は思う。
(まあ、なんの努力もなく、いきなり巨乳を手に入れちゃうってのも味気ないものだからね。お楽しみはとっておけっていう、神様からの粋な計らいってヤツなのかもしれないな)
そんな負け惜しみを心の中で呟きつつ、風音は自分の頬をパンパンと叩いて立ち上がった。落ち込み終了である。
「んー、そんじゃあ行こっか。さっさと進まないと今日分のノルマまで到達できないしね。ほら、ティアラも」
そう言って風音はティアラの前まで来て手を差し出した。その手を見たティアラの瞳に輝きが戻ってくる。
「風音、もう怒っていませんの?」
「怒ってないよ。というよりも私の方が大人げなかっただけだし、ティアラが悪いんじゃないんだよ」
それから「ごめんねティアラ」と風音が心から詫びるとティアラも頷いて、笑顔で風音の手を取って立ち上がったのであった。そして、風音たちはまた 金翅鳥(こんじちょう) 神殿を進み始めたのであった。
なお、風音がバストァープリンを倒して手に入れたものはスキルだけではなく、チャイルドストーンと魔物素材の『高級プリンの素』というものもあった。何が高級なのかは不明で本当にプリンなのかも分からないものだが、それを加工すると美味しいプリンが出来上がる不思議な素材なのだ。
そして、風音たちはその後もダンジョンを攻略していく。
二十階層を越えれば新規の魔物も出てくるし、フライオークなどといった初めて出会った魔物もいたのだが残念ながらスキルの習得はなかった。今までの傾向からいっても一度倒した魔物と同種族であるとスキルが手には入らないことが多いようだった。
また、チェックしていた隠し部屋がすべて、すでに発見されてもぬけの殻であったのは風音たちにとって痛手であった。結局、目的の隠し部屋に辿り着くまでに風音たちが手に入れたのは魔物から手に入れた素材だけであったのだ。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第二十五階層 隠し部屋
「これが、転移装置だと?」
現在は時刻にして二十一時過ぎ。
風音組、弓花組、オーリング全員が集合地点である二十五階層の隠し部屋まで辿り着いて、すでに夕食も終えた頃である。オーリングのメンバーであるオルトヴァが目の前の物を凝視しながら、そう口を開いた。
「そうだよ。転移用風音ちゃん人形だね」
あくまで風音ちゃん人形にこだわる風音である。
夕食後に各自休憩となった後、ルイーズの提案を元に新たなるゴーレムを造り上げたのである。その転移用風音ちゃん人形にもっとも食いついたのは魔術師であるオルトヴァだった。
「これが……転移魔術を使用するのか?」
オルトヴァの問いに風音は頷く。続いて風音が転移用風音ちゃん人形に指示をすると人形が指をクルクルと動かし始めた。そして、指先からは魔力光が発せられて指の動きにあわせて空中に魔法陣ができ、さらには指定の場所に置かれている石ころをその魔法陣がとり囲むと一瞬でその姿を消失させたのである。
「おおッ」
「間違いなく消えたわ」
魔術師であるオルトヴァとルイーズが興奮しながら、その様子を見ている。
「姉貴ー、来たぞーー」
そして外から直樹の声が届き、石ころを持って隠し部屋へと戻ってきたのである。どうやら部屋外へと転移指定した石ころは無事に外に出現できたようである。
「範囲指定・座標指定はオーケーで、動力はさっき手に入れたチャイルドストーン。後、距離はまだ伸ばせるけど、さすがにこのままだと階層を隔てての移動は難しいね」
風音は目の前の転送装置の仕様を説明しながら、自分の考えをまとめていく。そこにルイーズが声をかけた。
「普通に魔力を発してるだけじゃあ足りないから、蓄魔器が必要ってわけよね。そして、魔力を溜めて使用すれば移動距離も伸びる」
「そう言うことだね。今は二十階層クラスのチャイルドストーンから出力された魔力をそのまま使用したものだけど、魔力を溜めて一気に使用したものならかなり転移距離は伸びるはずだよ」
ルイーズの言葉に風音は頷いてそう返す。弓花も興味深そうに、転移用風音ちゃん人形を見た。
「それで使用する蓄魔器はゆっこ姉頼りってわけか」
「そうだね。まあ、私たちだけで使うものでもないしさ。それに実用化できたとしても管理は冒険者ギルドにお願いしようと思うんだよね」
「ええ、ルネイにはよく言って聞かせるから安心しなさい。息子の息子を握る覚悟だってあるわ」
「そんな覚悟はゴミ箱に捨ててしまえばいいよ」
風音が即答した。なおルイーズの息子にしてミンシアナ王国のギルドマスターであるルネイは同時刻にひどく悪寒がしてビクッとなったが、まさか原因がオカンにあるとは夢にも思っていなかった。どうでも良い話である。
「で、リーダー。これならどうなの?」
そんな中でカンナは少しだけ意地悪そうな顔をするとオーリが苦笑する。
カンナにしてみれば今のオーリングならば白き一団についていけると考えていたし、直樹の転移移動は魅力的であったのでオーリがそれを拒んだことには不満もあったのである。
「そういうな。まあ便利だとは思うさ。俺だって別に使用に反対したい訳じゃない」
肩をすくめてオーリがカンナに言う。
「しかし、チャイルドストーンに蓄魔器と言ったよな? それは素材としてだけで考えても相当に高価なシロモノだとは思うんだけどよ。ダンジョンに置いておいて大丈夫なのか?」
バックスの問いには風音は少し考えてから、口を開く。
「少なくとも一階に設置するなら冒険者ギルド管理でお願いできるよね。それ以外だと基本は隠し部屋設置になるだろうけど、やっぱりギルド管理でルール決めして貰うしかないかなぁ」
「その辺りは止むを得んだろうな。出入りの管理はされているのだから、罰則を決めて持ち出されぬように対応するしかあるまい」
風音の言葉にはジンライも頷いた。
「後は……アレにとりあえず聞いといた方がいいかもしれないね」
風音が眉をひそめながら、そう言った。
「アレ?」
弓花が首を傾げるが、風音の脳裏にはとある人物の顔が浮かび上がっていた。その人物の名はカルラ王。
あの男がその気になればダンジョン内に置かれたものなどすぐさま撤去されてしまうことだろう。だから、まずはその動向を伺う必要があると風音は考えたのである。