軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百三十五話 戦友とダベろう

「どうも以前に潜ったときと違い、低階層での罠が追加されたようだな」

ジンライの言葉に一同頷く。

現在はダンジョンから白の館に戻っての反省会である。

なお、弓花たちも同じ 火蜥蜴(サラマンダー) トラップにかかったそうだが『車』と呼ばれるブレスなどを防ぐ槍術、要は槍を回転させて対処したそうで大丈夫だったとのことだった。というか押し返して 火蜥蜴(サラマンダー) が逆にダメージを食らったそうである。そこをグッサグッサと刺して楽勝だったらしい。それを聞いてレームが遠い目をしていたのは仕方のないことだろう。

またダンジョン入り口を管理している武装神官のシーザーによれば、 火蜥蜴(サラマンダー) トラップで何人かが亡き者となっているとのことだった。

「やったのはカルラ王だろうねえ」

風音の言葉にジンライが頷く。理由については緊張感のない探索をしている風音たち……というよりは冒険者全般に向けてのものだろうと思われた。

「あのスカした兄ちゃんってそんな力があんのかよ?」

首を傾げて尋ねたレームにルイーズが「あるわよ」と答える。

「あんな風に明確な意志を持っているダンジョンの主は珍しいけど、今までにもいなかったわけではないわ。そして、実際に接触した冒険者たちの話によればダンジョンの構成を彼らは自らの意志で変えることができるらしいのよね。魔素の量次第という制限はあるようだけど」

ダンジョンは魔素を吸って成長する。それを操るのがダンジョンの主なのだ。

そして、国はダンジョンを魔素を吸い取る道具として利用している。特に成長著しいA級ダンジョン周辺一帯は魔物が全く現れないほどで、田園地帯として広く利用されていた。

そうした事情故にダンジョンは必要悪として存在しているし、冒険者たちも魔物の素材や宝箱を手に入れるために探索に入り、それはダンジョン管理として国の利益にも適っている。

つまりダンジョンと国と冒険者は持ちつ持たれつの関係にあるのである。

「ま、緊張感を高めさせたいんだろうね。迷惑なことだけど、アレはそういうものとして考えるしかないっぽいね」

コメカミを押さえながら風音がそう言う。

風音としても憤りたい気持ちがあるにはあるが、ダンジョンに入る冒険者の身の安全というものは基本的に自己責任で管理するしかないし、そもそも強制されたものではないのだから嫌ならば入らなければよいのだ。

リスクとリターンを天秤に掛けてリターンを選んで冒険者は稼いでいるのだから文句を言える立場ではなかった。

「まあ、ソレは置いておいてお宝を確認しよっか」

そんなわけで風音は言葉通りにカルラ王のことは置いて、別の話題を出すことにした。そしてアイテムボックスから手に入れたアイテムをその場に取り出した。

「とりあえずこっちで手に入れたのはこれぐらいだよ」

風音がテーブルに置いたのは、アダマンチウムの直剣と黒金の盾、それに 火蜥蜴(サラマンダー) の尻尾であった。尻尾は魔物素材で、ふたつの武具は 火蜥蜴(サラマンダー) 戦以降に他の隠し部屋を回って見つけたものである。他にもスライサーバットの羽がそこそこあったが邪魔なのでそちらは出さなかった。

「アダマンチウム製に、そちらは黒金か。どちらも悪いものではないが……」

『今の余らに必要なものでもないの』

ジンライの言葉にメフィルスが続いた。低階層で入手したものとしてはかなり高額で有用なものではあるのだが風音たちの装備よりは数段落ちる。

「そんじゃあ、こっちはこれだけ見つけたよ」

続けて弓花がアイテムボックスから取り出したのはマナポーションがひとつに爆炎球が十個セットである。

「どっちもダンジョンの隠し部屋だと見つかりやすいものらしいし、レア度は低いけどね」

「けど、そっちの方が私らにはありがたいものだね」

マナポーションはこの世界では稀少な魔力回復手段であるし、爆炎球は範囲攻撃手段としては非常に優秀なものである。風音もこの世界に来た最初の攻撃手段として爆炎球を使用しゴブリンを倒していた。

「ま、低階層だとこんなもんかな。魔物素材もスライサーバットにコブリンだし。 火蜥蜴(サラマンダー) の尻尾は高額で売れるけどね」

火蜥蜴(サラマンダー) の尻尾は加工して魔力を込めるとトーチ用の炎として使えるとのことである。もっとも風音たちには不滅の水晶灯があるのでこちらも特に必要なものではなかった。

「スライサーバットにゴブリンか。あのぐらいなら私でも問題ねえしな」

そう口にするレームに風音が眉をひそめる。

「レームは調子に乗らないのー。大体はゴーレムの力で解決してるんだからレーム一人じゃお陀仏だよ」

「わ、わーってるよ」

バツの悪い顔をしたレームに対するフォローにタツオがくわーと鳴く。

『大丈夫です。レームとの連携ならば私も安心ですよ。母上』

「んー、まあタツオも頑張ったからねえ」

風音が頭の上のタツオをなでる。くわーとタツオが気持ちよさそうに鳴いている。

今回の戦闘ではまずはレームを戦わせて、その後にタツオとのコンビでやらせてみていた。タツオのクリスタルドラゴンゴーレムとの連携は確かに低階層クラスでは敵がいないほどに強力だった。

「そんじゃ弓花たちの手に入れたものは持っといて、武具の方は売っちゃおうか」

風音の言葉に全員が了承する。アイテムを溜め込みたい気持ちもあるし、お金もトゥーレ王国で報奨金としてもらってるしで、実は今は潤っている。だが、街内での評判を考えても、ダンジョンで得たものを風音たちだけで溜め込んでしまうのはよろしくないだろうという見解もあり、出来る限りは換金も行うことになっていた。

今までとは違い拠点を構えている以上は世間様に対する体面というモノがある。実のところ倒した本人ではあるのだが、黒岩竜やクリスタルドラゴンにオダノブナガの素材をほとんど独占している白き一団は一部の商人たちから疎まれたりもしていた。

「後は……と」

風音が直樹を見た。隠し部屋に 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の刻印をさせたクリスタル風音ちゃん人形を置いて、次回はそこから再スタートする予定だったのだ。

「ん? ああ、クリスタル風音ちゃん人形なら今も俺のアイテムボックスの中にあるぜ。さっきもずっと見てた」

「いや、置いてこいよ駄弟」

反省会は終了した。

◎冒険者ギルド酒場

「使えない弟だねえ、まったく」

アイテムと素材の換金を引き受けて冒険者ギルドに来た風音がブツクサと言っている。既に換金は完了していて、酒場にて風音たちは夕食となっていた。

「まあ、次の隠し部屋に向かう前にタイムアップになっちゃったし、そこはちょっとフォローしとくわ」

弓花が珍しく直樹を擁護していた。風音と離れた直樹は頼りがいのある男なので、実際に弓花も助かってはいたのだ。最近は直樹のアレ具合に気付き始め次第に疑問が強くなっていたエミリィの気持ちがまた好感度マックスに戻るほどの有能ぶりであった。

「でもよぉ。おれっちはアイツ嫌い。なんか怖いし」

一緒のテーブルにいるギャオがそう言ってきた。そして目の前の枝豆を指でポンポンと取り出して一気に口の中に放り込んだ。

なお、この場にいるのは風音と頭の上に乗っているタツオ、その横に座っている弓花とレームに、テーブルを挟んで座っているギャオとジローのみである。ふたりとはギルドの事務所で偶然出会ったので、夕食がてらに酒場でダベることにしたのである。

(それにしても……)

風音は信じられない顔でギャオを見ていた。

どう見ても前とまったく同じ状態に戻っていた。恐ろしい話である。風音とジンライの 説得(洗脳) により更正されたはずのギャオはたった一ヶ月程度で再起動していたのである。そんな、驚異の回復力を持つ男はさらに枝豆を口にしてビールをグッと飲んでから、風音に視線を向ける。

「ま、おれっちに言えることはよ。あいつは普通じゃねえぜ。ヤベエ」

殺されかけた男の言葉は説得力があった。文字通りギャオは直樹に病院送りにされていたのである。

(男にも嫌われる……か。だから直樹は気持ちが悪いし友達もできないんだよねえ)

風音は悲しくなったが、それは大いなる勘違いだ。もっとも、風音が近くにいるときの直樹は姉の愛だけではフォローしきれないほどに本当に気持ちが悪いので風音が勘違いをするのも仕方がなくはあった。

「ま、そんなことよりもそっちはどうなんだ。うちらは今三十四階層まで到達はしたんだけどよ」

ギャオが「うわ、また思い出してきた。あの剣が飛んでくる光景を」などとブツブツ言っている横でジローが口を開いて尋ねてくる。

「こっちは今日再開したばかりだから八階だよ。でも三十四階層か。三十五階層までいったのがいるって聞いてたけど、ブレイブではなかったんだね」

「そりゃ、マザーズナックルだな。俺らも共同で探索したりはするんだけどな。一足先にいかれちまったよ」

「ギュネスさんのところか」

弓花が呟く。『マザーズナックル』は弓花がカルラ王襲撃の際に知り合った冒険者ギュネスのパーティであった。

「知り合いなのか?」

レームの問いに、弓花は頷いた。

「面倒見のいい人だよ。私みたいなのでも仲良くなってくれたし」

泣く子は食べると評判の『 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) 』さんと、それと知っても普通に仲良くできる者は少ない。それは弓花自身が一番理解していることであった。

「おれっちのダチでもあるな。ま、同郷のよしみで便宜を図ってやってるのさ」

ギャオが何故か自慢げに言っているので風音がジローの方を見ると、ジローは首を横にブルブルと振っていた。

「おいジロー、そりゃどういうことだ?」

「いや、どう見ても面倒見てるのギュネスさんだしなぁ」

ギャオの睨みにも動じず、ジローがそう答える。以前とは違い、二人の間に対等な関係が築かれているようだった。

「大体、ギャオさんの状態を元に戻したのもギュネスさんじゃあないっすか」

「なんだ、そりゃ?」

ギャオは首を傾げるがそれが真相である。同郷の友の有様を見かねたギュネスがリハビリを行った結果としてギャオは元に戻っていたのであった。余計なことを……と言ってはいけない。すべては善意である。なお、ギャオ自身はそのことをまったく覚えていないようであった。

そんな会話の中でレームは周りをキョロキョロ見ながら眉をひそめていた。それに気付いたタツオがレームに話しかける。

『どうかしましたかレーム?』

「んーそーだなー」

レームが気にしてるのは周囲の視線だ。

せっかく外に出れたのにレームは妙な注目を集めていた。どうにも恐れられてるようだったり、胡散臭そうに見られていたり、ところによってはキラキラしている目を向けられている。

「良くねえわなあ、こりゃあ」

そんな視線を受けながらレームはそう言って、ひとり頷いていた。