作品タイトル不明
第五百三十二話 完成をさせよう
◎白の館 右館
「身体中に泡ができる珍妙さも含めていい湯だったぞ。褒めてやろう」
「いや、それよりもなんであんたがここにいるのさ?」
専用の黄金のガウンを着こなし、ワイングラスを片手にソファーに座って髪をかきあげるカルラ王を前に風音はツッコミを入れざるを得なかった。風呂から出たカルラ王はまるで我が物顔で家の中を歩き、そして来客用の右の館のリビングのソファーに座ってくつろいでいた。
「不思議なことを言う。私は毎日、この湯へと入りにきているが? お前たちよりもよほどあの湯に精通しているといっても良いだろうな」
「ダンジョンに帰れよ」
風音の言葉に後ろでジンライがそうだそうだと頷いていた。もっとも他の白き一団やオーリングのメンバーたちは状況が分からず首を傾げていた。
「ダンジョンは部下に任せている。冒険者たちも今のところ35階層で止まっているようだしな。今しばらくは私が動くことはないだろう」
そう言いながら、カルラ王は一緒に室内に入っているタツヨシくんドラグーンを見た。
「ふむ。モンデールとは会えたようだな」
カルラ王の問いにドラグーンが頷いた。
実は今のタツヨシくんドラグーンは、言葉を喋れはしないが僅かながら意志というモノが存在している。それはカルラ王から預けられた 知性の金属(インテリジェンスメタル) のひと欠片が内部に入れられているためであった。
風音もドラグーンの反応を見ながら口を開く。
「モンデールさんからもらったんだよね。簡単な思考とゴーレムたちを統率してくれる能力があるらしいけど」
風音の言葉にドラグーンが「ォオン」と声をあげてさらに頷いた。そうだと答えているようである。
「なるほど。覚醒した 知性の金属(インテリジェンスメタル) を渡されるとはな。モンデールには気に入られたらしい」
「んーそうみたいだけど……というか、そっちがここにいる理由を聞いてないんだけど?」
「入りたいから入っただけだ。あのジョーンズという男には断ったぞ。文句はあるまい?」
(親方ーー!)
風音が心の中で叫んでいる横でオーリが声をかけてきた。
「カザネ、それでこちらの方はどなたなんです?」
オーリングのメンバーやイリアたちは目の前の男の素性を知らない。友好的というにはトゲがあり、ジンライからも闘気が漏れ出ていた。
オーリたちも目の前の相手が誰なのかをいい加減に把握したかったのである。そのオーリの言葉を聞いて風音はオーリとカルラ王に視線を行き来させてから、ため息混じりに口を開く。
「こちら、 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の主。ようするにこの街のダンジョンの最深層を護る魔物だね」
その風音の言葉にオーリたちの顔が強ばる。
「は、マジかよ。冗談ではなくて?」
バックスの疑問の言葉に風音が「私がこんな冗談言うと思う?」と肩をすくめる。まるで「そんなことあるわけないじゃない」という顔をしている風音だが、バックスたちの疑惑はさらに深まり、そして眉をひそめながらカルラ王を見た。その様子にカルラ王は笑顔を向ける。
「ふむ。彼らがオーリングか。つまりはひとまずは問題は解決したというわけか」
「まあね。ダンジョン探索再開の目処はついたよ」
風音の言葉を聞いてカルラ王はオーリと、続けてカンナを見て、さらにはナイラを見る。そしてナイラの手に視線を強める。
「……義手か」
ナイラの欠損した右手には風音がジンライのモノの予備パーツで造られた義手がつけられていた。
ジンライのように肩部までではなく手首より先だけだがトゥーレ王国から50階層クラスのチャイルドストーンを貰い受けてはめ込んであり、異常な握力を発揮しファイアヴォーテックスも放てる優れモノである。マッスルクレイなどを含む貴重な素材で造られており、素材の稀少さからもナイラのとても手の出るものではないのだが、責任を感じていた風音がお詫びとして渡していたのだった。
「何か?」
ナイラの強い視線にカルラ王が首を横に振る。
「いや、まあ別にな。なかなかの者たちだ。明日から、それとも今日からかな。楽しめそうじゃあないか」
そう言ってカルラ王がクククッと笑った。その言葉に風音が素で首を振った。
「いや……しばらくはゆっくりしてようかと思ってたんだけど」
「すぐに入れッ!」
素の風音の言葉にカルラ王がまったくの素で返した。
そして、唐突に怒り始めたカルラ王に「じゃあ明日から行くから。ほら、明日からね」とテキトーに風音がなだめて返したのでカルラ王は渋々とダンジョンへと帰っていった。なお、この時点でオーリングのメンバー全員がカルラ王を本物だとはもう思っていなかったが、こればかりはどうしようもないことである。彼は自由過ぎた。大空を舞う鳥たちのような自由さもカルラ王の魅力であったのだ。
◎白の館 中庭
「だんだん、残念な人になってきているねえ。あの人も」
風音はさきほどのカルラ王を思い出しながらそう口にする。それを「ふーん」とピンクアダマンゴーレムに乗ったレームは呟いた。
「前は違ったのかよ?」
「まあね。中身を知るとガッカリするタイプの人なんだろうねぇ」
そう言いながら風音は目の前に立っているタツヨシくんドラグーンを見た。タツヨシくんサワンとウワンにヒポ丸くんもいる。そして親方もその場にいた。
カルラ王を帰してからオーリングや他のメンツに解散を告げた後は、風音は親方を呼びだして説教をして、それからようやくのタツヨシくんケイローンの仕上げにかかることにしたのであった。
「ようやく完成かい。まったく、よく持って帰れたな。大変だったろうに」
「うん。親方が変なのをウチにあげてる間に私は頑張ったからねー」
風音のジト目に親方が「ウッ」という顔をした。弓花の槍といい、ここ最近株を落としているのはカルラ王だけではないのだ。
「うう、すまねえとは思ってるよ。けど風呂に入るだけで事を荒立てるわけにも行かねえだろう。一応、冒険者ギルドには伝えてはいるんだけどよ」
なにしろダンジョンのラスボスである。下手に拒絶して暴れられたらどれほどの被害が及ぶか分かったものではなかったので、ギルドも基本放置の立場らしかった。
「と、ともかくだ。こいつを完成させちまおうって事だな」
「そうだね。ところでモンドリーさんはいないの?」
前回来たときにモンドリーにはゴーレム魔術のグリモアを渡してある。ゴーレム魔術も既に覚えているはずだと風音は考えていたのだが、姿が見えなかった。
その風音の疑問に親方が口を開いた。
「あいつなら今は王都に行ってるよ。ゴーレム魔術は覚えられたんだが、なかなか上手く扱えないみたいでな。王都のゴーレム使いに使い方を教えて貰いにいってるんだ」
「あーそうか。あれも早々に使えるもんじゃないんだっけ」
プレイヤーでもないモンドリーがグリモアで魔術を覚えてもすぐさま使いこなせるわけではなかったのである。術を使うコツや発動のタイミングなどは知識だけでは補えないものがある。付与魔術などは使えるモンドリーだが、ゴーレム魔術となると他の魔術とはかなり勝手が違っていたのだ。
「そういうことだ。そんなわけでモンドリーは抜きでやるぞ。つってもそれを取り付けるだけだがな」
親方が視線を向けたのはピンクアダマンゴーレムが持っている黒岩竜の 衝角(ラム) である。
スザによって加工された黒岩竜の角の 衝角(ラム) を親方は神々の炎を用いてオリハルコンと併せることによりさらなる強化を施したのである。以前に比べて重厚に、より先鋭的にその形は変わっていた。
「そんじゃ、レーム。ヒポ丸くんの胸にはめ込んでくれる?」
「了解っと」
レームがピンクアダマンゴーレムを動かしてヒポ丸くんの胸部に 衝角(ラム) をはめ込んだ。カチャリとはまった様子に風音と親方は頷き、それからタツヨシくんたちに合体を指示すると、まるで曲芸のようにタツヨシくんたちは動き出した。
「おお、以前よりもスムーズに合体するようになったね」
ヒポ丸くんの頭部が左右に分かれ、ドラグーンが乗って、ウワンとサワンが両腕に繋がる一連の動作は風音の言葉通りに確かに速くなっていた。
それは、タツヨシくんドラグーン内部の 知性の金属(インテリジェンスメタル) により一個の生き物のようにゴーレムたちが連携できるようになったためである。
そして先ほどヒポ丸くんの胸にはめ込まれた 衝角(ラム) は、ケイローン状態では槍の先に付けてドラグホーンランスへと変わっていた。
「できたね」
「ガハハ、雄々しい姿じゃねえか」
風音と親方が感動してその姿を見ている。ケイローンがワルギレオに奪われてから約二十日。ついに完全版のタツヨシくんケイローンの完成となったのである。
その姿を満足そうに見た後、続けて風音は大型ゴーレムをその場で生み出した。ケイローンの性能テスト用ゴーレムである。
「そんじゃケイローン。あれを倒しちゃって」
風音の言葉に頷いたケイローンは、大型ゴーレムに対して後ろへ下がってランスを構えた。
なお、現状のタツヨシくんケイローンはセフィロの塔で持っていた大盾は外し、いくつかの追加装甲も取り外している。風音にしてみればダンガーとワルギレオの行ったケイローン強化は余計なもの以外の何物でもなかったのだ。
(まったく機動力を弱めてどうしようって言うんだろうね)
元々ケイローンの防御力は高く追加装甲は必要ないし、今以上の重い装備はせっかくの機動力を削いでしまう。風音がゴーレムメーカーのシミュレーターモードで幾度となく繰り返して手に入れた絶妙なバランスでケイローンは成り立っていた。
そしてトゥーレに比べて身軽な姿になっているケイローンがランスを握って「ォォオオオン」と声をあげながら走り出す。
「速いッ」
一歩目からの全速力にレームが驚きの目で見ている中で風音がケイローンに声をかける。
「ケイローン、ファイア・ドリル!」
風音の指示を受けてケイローンは吠え、ランスに炎が発生していく。
ふたつの螺旋状の炎が重なり合い、さらには共鳴したドラグホーンランス自体からも竜気が放たれ、巨大な炎のドリルと化したランスが目の前のゴーレムへと突き刺さる。
そして、そのたった一撃で大型ゴーレムは破砕されたのである。
「すげえ」
レームが呆気にとられてその光景を見ていた。親方も思った以上の性能に目を丸くしている。その横では風音はうんうんと頷きながら、予想以上の出来に満足しているようだった。
「うん。良い感じだね」
それはドラグホーンランスにファイア・ドリルというカスタム化したファイアを二重に纏わせた必殺技である。
瞬間的な威力は以前に付与して使用したヴォーテックス三連より大きい。ヴォーテックスのように単体での魔術使用には向かない為、中遠距離には使えなくなったがそれはロケットパンチで補う予定であった。
「ま、カルラ王にも急かされてるし、明日はこのケイローンでガッツリ倒してくるかな」
そう言って風音はタツヨシくんケイローンを見る。その風音に「ォォオオオン」と声をあげてランスを掲げるケイローンは確かに以前よりも頼もしく感じられたのであった。