軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百二十話 開始をしよう

◎王都イプシロン 宿屋デュッフェル 地下

風音がダンガーと対峙した晩のことである。白き一団とオーリング、そして忍者軍団に女王陛下を交えた集団は、隠れ家である宿屋の地下に待機していた。何かするわけでもなくただの待機は彼らの精神にも負担をかけていた。

有り体に言えば暇であった。

「つーか、やっぱりこの人数だと狭いよなぁ」

「後、蒸れるっす」

レームの言葉にイリアが答える。すでに何度となく行われたやりとりだが、話題のない状態では、同じ話がループするのもやむを得ない。

なお、弓花やティアラなどの他の女子組は地上の一階部屋で待機しているのだが、忍者を率いているイリアと顔バレNGのレームはこの場に残っていたのである。

「まあ、そこのアダマンチウムゴーレムも幅とってるっすけどね」

「だあなぁ。カザネが中にマッスルクレイとか仕込んでさらに厚みが増してるしな」

イリアの言葉にレームも頷く。さすがに常時着込むのも辛いのでレームのアダマンゴーレムは今は壁際に立て掛けてある。

ケストラーデ大監獄で鹵獲したそのアダマンゴーレムは現在では風音の手によって魔改造を受けていた。

具体的に言えばピンク色にコーティングされて、マッスルクレイを薄く伸ばしたものを装甲間に詰められパワーが増していた。その上に設置されたマッスルクレイはケイローン作成時に使われたパワーアシスト機能と同じように使われており、チャイルドストーンを使用したフライの魔術も付与されている。

アダマンゴーレム自体はレームの魔力で動いているため、実質チャイルドストーンと協力する体制となっていて、パワードスーツに近いシロモノと化していた。

「ま、そろそろ寝る時間っすし、レーム女王様もベッドに入る時間っすよ」

現在の時刻は22時過ぎ。地下にいると感覚が鈍るが、もう寝る時間である。

「おう、そうだな」

レームも素直な子なので、イリアの言葉に素直に頷く。そして、そのまま自分の寝床っぽい天幕へと入ろうとしたときである。

「頭領ッ」

忍者が外からやってきたのは。

「なんすか?」

眉をひそめたイリアに忍者が小走りで駆け寄るとボソボソと耳打ちする。

「なるほろ。まあ、予定通りって感じっすか」

「イリアさん、どうかしたんですか?」

直樹が尋ねる。外からということは姉からか……と直樹は考えたのだが、直樹の予想は微妙に違っていた。

「んー、塔の中の協力者から連絡っす。カザネっちにふたりを見つけ出せる手はずを整えたという報告っすね」

「協力者?」

首を傾げるレームにイリアが「そうっす。 幼気(いたいけ) な子を誑かして裏切らせたっす」と答える。

その場の全員が「うわぁ」という顔をしたが、やったのはユウコ女王である。アーティファクト『 真実の目の額飾り(ホルスアイ・サークレット) 』で相手の思考を読みながら誘導をし協力者に仕立て上げたのだ。人の心を操る、まさしく外法の業である。

(宗教にかぶれてるとコロッと転がしやすいっすね。まあ嘘もついてもいないし、実際には言った通りにはなるんだから問題ないっすけどね)

風音が絡んでいることもあって、ゆっこ姉的にはむしろ優しさに満ちた洗脳……もとい説得のようであった。

一応ゆっこ姉の話した内容は取捨選択こそしているものの事実ではあるし、事が成った後にはゆっこ姉の手の者となり、そのままトゥーレの幹部として動かせるのである。使い勝手の良い駒の完成であった。そして、宿屋の方の入り口から弓花の声も響いてきた。

「おーい、今風音から連絡あったわよっ」

「え、俺には来てないよ」

直樹が嘆きの声をあげたが、どうやら弓花に風音からも連絡が来たようである。

なお、風音は定時連絡メールの返信ついでに直樹から妙にクッサイ台詞の入ったメールを受けていて嫌気がさしていた。ネット弁慶の弟からの嫌がらせに心を痛めた風音は素でメーリングリストから直樹を外していたのである。弟から「姉貴に会いたい」とか「寂しいぜ」とか逐一送られた風音の心中の負担は察して余りあるだろう。本当に気持ちが悪かったのだ。

「ユズっちとナイラっちのことっすか?」

直樹が嘆いてる横でイリアが質問をして弓花が頷く。

「うん、そうみたい。場所は大体特定済みだって」

「私たちならすぐにでもいけますが」

オーリの言葉にオーリングのメンバーも頷く。しかし、弓花は「あー、明日らしいです」と言葉を返した。その言葉に若干の焦りの混じった視線をオーリたちは弓花に向けたが、弓花としてもリーダーである風音の決定を譲る気はない。

「ふたりは今のところ無事ってことですし、準備を整えないといけないですからね。今は我慢して明日に……明日にぶつけましょうよ」

そうつぶやく弓花の目を見て、バックスがゾクッとした。その目が充血していたのである。弓花こそが最も塔へと走り出したいのを我慢していると、バックスは理解せざるを得なかった。

決戦は明日である。槍も明日である。それまでお預けであると告げられた弓花の瞳はバックスから見ても少し怖かった。

そして、時は進み、夜も更け、日は昇り、朝となる。待ちに待った時が来て、ついに戦士たちは立ち上がったのだ。

◎セフィロの塔 三座の間

ゴーレムマスター教会ナンバー3のベネットの朝はいつも早い。彼女はいつでも忙しい。

そもそもゴーレムマスター教会の上はナンバー1がゴミのような性格の男で、ナンバー2がゴミのような性格の爺で、ナンバー4がお子さまで、ナンバー5がゴミのようないけ好かない男なのだ。

そのため、実質的な国の舵取りは常識人である彼女が受け持っていた。もちろん、それぞれの分野にはそれぞれの役人がいる。しかし、それらを取り仕切り振り分けるのはベネットの役割である。彼女は非常に多忙であったのだ。

しかし、その日は朝方から普段よりも相当に忙しかった。何しろ、教会ナンバー2のダンガーが事もあろうに他国から招いた王族を襲ったのである。戦争になってもおかしくはない案件であった。

ベネットはクーロから報告を受け、ワルギレオには軽く状況の説明だけはしたがもちろん対応をするのはベネットだ。

まずは筋道を立てて、双方ちゃんと矛先を収められる方向の話で纏めないといけない。

ワルギレオがそもそも風音を手込めにして言うことを聞かせる程度にしか物事を考えていないので、それを実行する前にやることをやらなければならないのである。

「ああ、くそ。なんで私はこの国の生まれなんだッ」

ベネットが叫び、彼女の副官がビクッとしたが、いつものことなので放っておいた。真っ当なゴーレム使いとして才覚もあって、この地位に上り詰めたベネットだが、トップがアレではどうしようもない。

それでも国を捨てる気もないし、かといって政変を起こすなどということもできない。王族が動き、それをワルギレオに鎮圧されてからは国内においてワルギレオに逆らえるのは命知らずのレジスタンスだけとなった。それも志もなく私怨で動いているだけのただのテロリストでしかない。

ベネット個人ではどうしようもない。その上に放っておけば無辜の民がワルギレオの悪意によって戦禍に巻き込まれる。彼女にできるのは、ともかくワルギレオと国の案件を上手く動かして血の流れぬように動かしていくだけ。

(……もう、無駄かもしれないがな)

限界に近づいているのだ。

隣接するソルダード王国とミンシアナ王国。現在においてソルダード王国はこのトゥーレ王国とは同盟国だが、それは王族との間に交わされたものだ。レーム女王がいなくなったことが知れれば、トゥーレ王家に仇なす敵を討つといった名目でソルダード王国が攻めてくる可能性は高かった。

さらに問題なのはミンシアナ王国だ。10年ほど前から王座についているユウコ女王はまさしく悪魔のごとき存在だった。国内の間者からの情報では敵対する勢力は軒並み粛正され、なおかつそれは軍部の暴走や不幸な事故として処理されていた。

その上で明らかに異常な事態ではあるのに軍にさえ気をつけていれば問題無しと『何故か』貴族たちは考えていた。

外から見れば分かる話だ。徹底した情報統制と軍部の把握が行われ、蟻の這い出る隙もないぐらいにあの国はあの女に支配されているのである。

また政敵も一掃したことでユウコ女王はいよいよその牙を国内でも隠さなくなっていたのは最近の報告で分かってきている。

そして牙はトゥーレ王国にも伸びていた。

原因はマッスルクレイという、ゴーレム使いにとっては至宝とも言えるもの。それがミンシアナ王国で製造され始めたのだ。案の定というべきか、ワルギレオとダンガーのふたりが難癖を付けて製法を手に入れたがったが、それが女王の怒りに触れているのはベネットは日に日に理解できるようになっていた。

何かがおかしくなってきていた。トゥーレ王国とミンシアナ王国のやりとりがズレてきている。

(ゴーレムマスター教会を外した前提での交易が、動きつつある……としか)

トゥーレ王国はゴーレムマスター教会の教義を中心とした宗教国家だ。それ故に内部統制は比較的取れやすく、上が馬鹿でもカリスマがあれば回るところがあった。しかし外交となると話は別だ。ベネットのように外との常識をすり合わせられる者がいなければ当然、回らない。

そしてベネットは優秀だった。ゴーレム使いとしてというよりも基本的な性能が高いのだろう。あらゆる事に対して優秀だった彼女はミンシアナ王国の描く未来も見えていた。

それはゴーレムマスター教会という存在の抜けたトゥーレ王国だ。

(このタイミングでのレーム女王陛下の強奪……魔王はミンシアナと通じている可能性は否定できないな)

カザネ・ユイハマ、カザーネサマー、カザネリアン。まさか名前だけで決めつけるわけにもいかないが、あまりにも出来すぎているのだ。

今朝方にダンガーが行方不明になった件で、ベネットはそのことをついにワルギレオに告げてしまった。状況から言えばダンガーが事を起こしたのは間違いはなさそうだったが、ダンガーもそこまでは馬鹿ではないとベネットは過信してもいた。ならばハメられたのではないかと。

「なるほど。やはり、そうだったか」

ベネットの報告にワルギレオはそう言って笑っていた。何がやはりなのだろうとベネットは考える。絶対に気付いていなかったとベネットは確信していたが、指摘しても面倒な話になるだけなので口にはしない。

生来、頭は良いし才覚もあるのだろうがワルギレオという男は唯我独尊を地で行く思い込みの激しい男である。

そして、そんな相手でもベネットはフォローに回らなければならない立場にある。でなければ苦しむのは民だ。泥沼にはまりつつあることを感じつつもベネットは働かなければならなかった。

そんな矢先に血相を変えた兵が室内へと入ってきたのである。

「大変ですベネット様。女王陛下らしき者と魔王の配下たちが塔の一階を占拠いたしました」

ベネットは白目をむいて机の上に突っ伏した。