軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百十八話 ニッコリと笑おう

◎セフィロの塔 客室

ズシリと金属製の爪が塔の壁に食い込む。ゆっくり、ゆっくりとソレは壁を伝い、見張りの兵たちにも気付かれることなく目的の部屋へと進んでいく。

(他愛もない。まあ、兵の配置は当然分かってはおったがな)

その金属製の異形に乗った老人ダンガーはほくそ笑みながら、ゆっくりとその部屋の前へとたどり着き、窓を開けて中へと入った。このクラスの窓の開錠は彼のゴーレムマスター教会での権限ならば容易であったのだ。

(ふん。護衛も居らずか)

ダンガーはその不用心さを馬鹿にしながらムカデ型のアダマンゴーレムに乗って風音の泊まっている部屋へと侵入を果たした。

(まあ、用途を限定するのであればワシのムカデゴーレムとてあの半人半馬のゴーレム兵には負けてはおらぬさ)

ダンガーのムカデゴーレムは隠密行動を目的とし装甲と装甲がぶつかっても音を立てたりしないような静音仕様に造られていた。また戦闘に置いてもアダマンチウム製であるために高い防御力を誇り、無数の爪による手数で相手を打ち倒すことができる対人戦では無類の強さをも誇っている自信作である。

(こうして誰にも気付かずに侵入も果たした。このムカデゴーレムがあれば気付かれずに人ひとりさらうことなど容易いのだ)

自画自賛するダンガーではあるが実際、彼はここまで誰にも気付かれずに侵入を果たしていた。もちろん、塔の警備を把握しているが故に出来たことではあるが。

そして、ダンガーの前のベッドには布団にくるまって寝ている風音の姿があった。ダンガーが入ってきたことも知らぬ無防備な寝顔がそこにある。

(さて、来てもらうぞ小娘。洗礼の間を吐くまでじっくりといたぶってやろう)

嫌らしい笑みを浮かべながら、ダンガーはムカデゴーレムへと指示を出す。そして、ムカデゴーレムはシュルシュルと風音の眠るベッドの周囲へと動きだした。一気に大量の爪で押さえ込み、何をする隙も与えぬようにとベッドを包み込もうとした瞬間だった。ギンッと金属の音が響き渡ったのは。

「何?」

ダンガーの目が細まる。その音の正体はすぐに分かった。布団の中にいた風音が起きだし、武器らしきモノを手にして立ち上がり爪を弾いたのだ。

「気付かれただと? チッ!?」

ダンガーはムカデゴーレムを戦闘態勢へと変える。無数の爪から鋭い刃が飛び出し、より戦いに向けられたフォルムへとその姿を変化させる。それを風音は無言で見て、どう攻撃が来ても良い様に手に持つスコップを構えた。

「ふん。闘る気とは勇ましいな。ならば望み通りに闘ってやろう。手足の一本や二本は取られても恨むなよ」

ダンガーがそう言って被虐の笑みを浮かべながらムカデゴーレムを動かした。ギュルルとベッド周辺を取り囲み、風音から逃げ場を奪う。ムカデゴーレムのボディはアダマンチウム製だ。ここまで周りを抑えられては逃げることもできないはずだった。

「さあ、我が手に落ちろ小娘ッ」

これで詰みだと思い、ダンガーはムカデゴーレムに風音を捕らえるように命じた。そして、ムカデゴーレムが刃を突き出し牽制しながら捕らえようと飛び出すと、同時に風音がムカデの囲いを抜けようと飛んだのだ。

「何ッ?」

ダンガーは焦った。そのまさかの無謀な特攻にムカデゴーレムもとっさに攻撃に出たことが災いした。ギリギリで避けて逃げようとした風音の首があっさりとムカデゴーレムによって切り落とされたのである。

「馬鹿なことをッ!?」

ダンガーの目が丸くなり叫んだ。

「なんてことを、こいつ……まさかこんな無謀な」

ダンガーが焦るのは無理もない。ダンガーとて風音を殺す気などなかった。冒険者でもあると聞いていたからこそ、ギリギリで生かして捕らえようとしたのだ。それがこんな無謀な真似をして死んでしまうとは予想外の出来事だった。

(マズい。マズいぞ……)

ここで風音が死んだとなればあらゆる意味でダンガーは窮地に立たされる。ミンシアナ王族を名指しで呼び出しておいての暗殺など宣戦布告も同様である。また、風音が死んだということは当然、より強力な洗礼の間の手がかりも潰えたということ。マッスルクレイもミンシアナに奪われたまま、このままでは戻って来ない。

「馬鹿は貴様だ。馬鹿者がッ!」

「ぐあっ!?」

そして起きた出来事へのショックで呆然としていたダンガーに、突然現れたジンライの槍の柄が激突した。勢いよく、まるで駒のように吹き飛ばされたダンガーは壁へと激突した。

「なんだ? 貴様はカザネの護衛だった……」

壁にめり込んだダンガーだが、彼の羽織っているローブはダメージ補正のある魔法具でもある。故にダンガーの意識も切れず、口元から血を垂らしながらも自分を吹き飛ばした相手を見た。

「まだ意識があるか。なるほど、装備は一流だな」

そこにジンライの槍術『雷走り』が飛ばされるが、それはムカデゴーレムが受けとめ、アダマンチウム製のボディを前に雷の属性を帯びた闘気が霧散する。ソレを見てジンライは「ふむ」と眉をひそめた。

「貴様、一体どこから?」

そう口にするダンガーだが、ジンライの後ろで光学迷彩を解いていくユッコネエの姿を目撃する。

(あの化け猫の術で隠れていたとでも? しかし、主を守りもせずに何故?)

そのダンガーの予想通りに、ジンライはユッコネエがかけた『インビジブル』と『光学迷彩』のスキルによって、その場で身を隠して待機していたのである。じっとユッコネエを抱きしめて背中を撫でながら待っていたのだ。至福であった。

しかし、ダンガーには今の状況が分からない。主が首をはねられて死んでなお、冷静にダンガーに攻撃を仕掛けるひとりと一匹の行動理由が分からなかった。まさかジンライがユッコネエを抱きつくのに夢中で攻撃するタイミングを逃していたなどとは当然ダンガーには分からない。

「こうなれば貴様を小娘の殺人犯にでも仕立て上げさせてもらおうッ!」

ダンガーが声をあげてムカデゴーレムをジンライへと特攻させるが、

「つまらん話だな」

ジンライはそう言って、白と黒のふた振りの竜牙槍でムカデゴーレムとやり合い始めた。激しく火花が散るが、無数のムカデゴーレムの刃をジンライはまるで苦もなく弾き続ける。それをダンガーは呆気にとられて見ていた。

「なんだと……十数の刃をたった二本の槍で防ぐだと」

「は、この程度では阿修羅王モードの方が何倍も速いわ」

常日頃からロクテンくん阿修羅王モードと斬り合うジンライにはムカデゴーレムの手数だけの攻撃などそよ風のようなものであった。そして、見た目一進一退の攻防かと思われたが、刃がぶつかり合うたびにムカデの爪が弾け飛ぶ。その刃は確実に数が減っていく。

「何故だ?」

うめき声をあげるが、ダンガーには理解は出来ないだろう。いかにアダマンチウム製とはいえ可動部は作りが複雑でその分脆くできている。そこをジンライはカウンターで突いているのだ。ロクテンくん阿修羅王モードとの戦いはジンライの槍の冴えを飛躍的に伸ばしてもいた。

「ジンよ。お前にも出番をくれてやろう」

『承ったッ!』

そしてジンライの言葉と共に槍が輝きだし、空中に聖槍グングニルを持ったジン・バハルが現れる。

「今度は骸骨の兵だと?」

『ふむ、そこが接合部か』

そのままジン・バハルはムカデゴーレムへとダイブする。

「馬鹿なッ!?」

そして、迷いなく突き刺さったその一撃はムカデゴーレムのちょうど半分ほどの可動部位を見事に破壊した。ふたつに分けられたムカデゴーレムをダンガーが信じられないという眼差しで見て、それから破壊した骸骨騎士を見た。

もはや、ダンガーの顔は蒼白であった。己の自信作であるムカデゴーレムが呆気なく破壊されたということは同時にダンガーが己の身を守るすべを失ったということでもあった。

『多少はやれるゴーレムではあったが、私は機械竜とも闘ったことのある身。あの程度では遅れをとることはないな』

そう言ってジン・バハルはダンガーを睨みつける。もはや形勢は逆転である。であれば、今後をどう対応するのか……と外に逃げようかとも考え視線を窓に向けたダンガーは今度こそ絶句した。

「えーと何してんの?」

窓から部屋の中に入ってきた風音の姿がそこにはあったのだ。生首が転がっているはずの風音がまったく元気に、厳つい竜喰らいし鬼軍の鎧を纏ってその場にいたのである。そして、ダンガーの足元でゴソリと音がした。ダンガーが恐る恐るそちらに視線を向けると、そこには生首を抱えて立ち上がろうとしている首なし風音の姿があった。その生首はダンガーを見ながらニコリと微笑んだのだ。

そして、ダンガーはその場で悲鳴をあげて気絶した。

崩れ落ちるダンガーを見ながら風音は首をひねり、ジンライとジン・バハルを見るがふたりとも苦笑していた。主の帰還を笑顔で迎えるというサービスプログラムされた風音ちゃん人形のリアクションは、ダンガーという老人への最後のトドメとなったようだった。