軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百十六話 休憩をしよう

教祖の間に緊張が高まる。

ワルギレオのいる教祖の座の横では白き翼を生やした巨大な黒鬼がダンガーを掴み上げて唸り、動きを封じられているダンガーはすでに恐怖で顔が真白くなっていた。

教会ナンバー3のベネットは正面の風音と、そして横にいるワルギレオ、ダンガーに視線を忙しなく動かしながら状況を見定めようとし、クーロは驚きの顔で自分の周りに現れた黒いオーガの軍団を見ていた。

兵とアダマンゴーレムに囲まれ、その内側でオーガ軍団に護られている風音は周囲を観察し、ジンライはスキル『武具創造:黒炎』によって造られた槍を受け取って戦闘態勢に入っている。このまま、どちらかが手を出せば一斉に戦いは開始されるだろうという状況である。

「静まれッ」

そんな中で、ただひとりまったく動かなかったワルギレオの声が教祖の間に響いた。そして風音を見る。

「戯れが過ぎるな。ミンシアナの王族というものは他国に行ってまで暴れ回るような粗暴な者たちなのか? 」

「さあ? トゥーレ王国と同じくミンシアナも王族自体が少ないんだよね。だからよくは知らないよ」

風音はそう返す。

実際、風音はゆっこ姉とジーク王子以外の王族を見たことはない。かつてゆっこ姉と前王に暗殺者を放った派閥の王族たちによってミンシアナのその他の王族は数を減らされおり、またゆっこ姉統治後には暗殺者を放った派閥も根こそぎ粛正されているため、現時点では王族の絶対数が少ないのである。

「それで、どうであれ他国の王族を呼びつけておいて無礼を働いたのはそこのお爺さんだけど、こっちの判断で処分でも良い?」

風音の言葉に狂い鬼が吠える。ダンガーは風音を「正気か」という顔をしながら見て口をパクパクとさせていた。そんなダンガーと風音を交互に見ながらワルギレオは肩をすくめて口を開いた。

「それは困るな。ダンガー、ご客人に謝罪をしろ」

「しかしッ!?」

ワルギレオの言葉にダンガーが怒りを露わにして声をあげた。

「狂い鬼」

しかし、続く風音の言葉に狂い鬼が腕の力を強め、ダンガーはその言葉を続けることが出来なかった。たかだが老人ひとり、目の前の鬼の力であれば容易に引き裂けるのだとダンガーも悟ったのだ。

「は、わ……わしが悪かった。申し訳ない」

狂い鬼の顔に殺気が宿ったのを感じたダンガーが、先ほどの言葉も忘れてすぐさま謝罪の言葉を吐き出した。

「ん、素直が一番だね。狂い鬼、もういいよ」

風音の言葉に、ダンガーを降ろした狂い鬼と、続けてダークオーガ軍団が魔力光を発しながら姿を消していく。ジンライの黒炎の槍も同時に消滅していった。

その光景にクーロとベネットが安堵のため息をつき、床に降ろされたダンガーがゴホゴホとせき込んでいる。

「なかなか面白い見せ物だったな。カザネ殿といると退屈はせぬようだ」

ワルギレオはそう言ってクーロを見た。

「クーロ。ご客人を部屋へ案内しろ」

「はいっ」

指示を受けてクーロが深く頭を下げる。

「さてカザネ殿。そちらも旅の疲れもあるのだろう。もう少し落ち着いてからゆっくりと語らいたいものだと思うが」

ワルギレオの言葉に風音が頷く。

「うん。お気遣い感謝するよ。それじゃあ、語らいの場の機会は後ほどということで今回はここでお暇させてもらおうかな」

そして、風音とジンライはクーロに連れられて教祖の間を出て行った。ダンガーの怒りの視線をずっと向けられてはいたが、特に何か口を挟まれることもなかったために風音はそれを無視した。

◎セフィロの塔 客室

「先ほどはダンガーが申し訳ありませんでした」

部屋について早々にクーロが風音に頭を下げた。それは先ほどの教祖の間での件での謝罪のようである。風音としては苦言の一つでも言われるかと思っただけに手を前に出して「いやいや」と言葉を返す。

「こちらこそ悪かったよ。少しだけカッとなってやったけど、今は反省しているからさ」

「いいえ。アレはどうも教義を理解しておらぬようです。カザネ様をアレが貶めて良いはずもないというのに。カザネ様はお優しい方ですね」

クーロの言葉に風音は「おやっ?」という顔をしたが、クーロは気にせずに笑顔で再度頭を下げた。

「夕食時にお呼びいたします。それまではどうぞごゆっくりなさってください」

そして扉が閉まり、クーロが去っていった。

「ふぅ」

クーロが部屋を出て周囲の監視もないことを確認した風音は、ようやくその場のソファーに腰をかけて息をついた。周囲はすべて敵である。油断は出来ない。そして風音はその場でユッコネエを呼び出した。ユッコネエは「にゃー」と鳴いて風音の横で丸くなる。

その様子を見て頬を緩めるジンライが風音に口を開いた。

「ふむ。いきなり狂い鬼を出すから少し肝が冷えたぞ」

ジンライの言葉に風音が少し肩をすくめながら返事をする。

「んー、ちょっと手を出して様子を見てみたかったんだよね。名分はあちらが用意してくれたしね」

名分と果たして言って良いものかとジンライは思ったが、ともあれ最終的にはあの場の問題はダンガーという老人の責であるとすべてを押し付け、ワルギレオもそれを良しとしたので話としては落ちてはいる。ジンライは、あのダンガー自身にも問題があったにせよ若干の哀れみを感じていた。

「まあ、行けそうだったらワルギレオにも行くつもりだったけど、ちょっと無理っぽかったしね」

「無理というと後ろのアレか?」

思案しながらのジンライの問いに風音が頷く。教祖の座の背後にあった大幕の裏に隠された何かをジンライも感じていた。

「大きな木の匂い……多分、守護兵装の人形かな。それと何か別の匂い……モンドリーさんの血の匂いもしたよ」

風音の眉間にしわが寄る。そこから若干の怒りをジンライは感じ取り、ユッコネエの耳もピクッと動いた。

「なるほど、お前の怒りはそれか」

モンドリーの血の匂いがすると言うことは、そこにはモンドリーの血の付いた何かがあったということである。そして、それはモンドリーを突き刺したケイローンの槍であろうとジンライは考える。あの場にタツヨシくんケイローンもあったのだろうと。

「まぁ、少しカッとなったのは事実だよね」

フゥと風音はため息をついた。

つまりは先ほどの風音の怒りはダンガーの態度によるもの……ではなく、ワルギレオの背後にあったであろうタツヨシくんケイローンの存在とソレがモンドリーを傷つけたことへの怒りが再燃したものだとジンライは理解した。

「力があるからってあんまり短気を起こすもんじゃないね。ちゃんと考えないと色々と取りこぼしそうだよ」

「確かにな。しかし、あまり根を詰めるなよカザネ。お前は笑っておった方が良いぞ」

ジンライはユッコネエの背を撫でながらそう言った。

「ん、そうだね。あんま余裕がないのもどうかと思うしね」

風音がイーと両指で口元を広げて笑い、ジンライとユッコネエもそれを見て笑った。

「とはいえ、現実問題としてワルギレオの側に守護兵装があるのは厄介だな」

「ケイローンも今までのタツヨシくんとは段違いに強いしね。それに、それだけじゃあないんだよ」

風音の言葉にジンライが首を傾げる。

「あのとき、あのワルギレオを攻撃しても多分無駄だったっぽいんだよね」

「……ふむ? どういうことだ?」

ジンライはベネットという女ゴーレム使い、そしてワルギレオ本人の実力も低くはないとは思っていたが、あの大幕の後ろの存在以外に驚異と呼べるものは感じなかった。風音の警戒するものが何かがジンライには判断がつかない。

「分かんない。スキル『直感』がそう判断してた。違和感があるって。まるでアレはワルギレオではないような……んー、やっぱりちょっと分かんないな」

風音の言葉は不明瞭でジンライも首をさらに捻るが、風音としても己の『直感』に確証があるわけではなかった。

(あるとすれば影武者。ゆっこ姉にもイリアさんとかいるんだし、いてもおかしくはないか)

「ともかく、油断はしない方がいいと思う。ワルギレオには何かある。だから、やっぱり最初の予定通りに動く予定で進めようと思う」

風音の言葉にジンライも頷き、そして尋ねる。

「そうか。となるとナイラとユズは……ということになるが、ふたりについてはどうだった?」

続いてのジンライの問いには風音は首を横に振った。

「通った道には匂いはなかったよ。多分、地下だと思うけどこればかりは入ってみないと何とも。だから、とりあえず夜中に忍び込んでみるつもりだよ」

風音はそう言い、ジンライも眉をひそめつつも反対はしなかった。ナイラとユズ。ふたりの行方は未だ不明だ。風音のスキルがふたりを探し出すのに有効なのはジンライも分かっていた。

(匂いはやはり漂わない。獣人対策がされている可能性が高いかも)

そんなことを考えながら風音は弓花たちへ塔内部マップの共有データとメールの送信を開始する。プレイヤーの特権である情報の共有と連携。それが今、強く活かされようとしていた。