作品タイトル不明
第五百十四話 集結をしよう
◎トゥーレ王国 王都イプシロン セフィロの塔 教祖の間
「……ふむ」
自らの椅子に深々と座るワルギレオがそう呟いた。
ゴーレムマスター教会の象徴であるセフィロの塔。その最上階に位置する教祖の間に鳥が飛んできたのだ。
それは紙で出来た鳥だ。ゴーレム使い用の伝達魔術だった。
ワルギレオは自らの元に降り立ったその紙鳥を開いて、中に書かれている文字を読み始めた。
「どうですかな?」
控えていたゴーレムマスター教会ナンバー2のダンガーがワルギレオに尋ねる。ここに届く紙鳥は限られた者からのみ。現状では離反したと思われるミザーレを除けばナンバー4のクーロからでしかあり得ない。
また内容についてはミンシアナ王国のカザネ・ユイハマのことであるのは間違いないと思われた。
「道中の破壊された橋を修復して、今またこちらに向かっているそうだな。夕方には着くだろうと書かれている」
「橋ですか? あのルートだとザーアの街の近くのものしかないはずですな。夜盗の類ですかな?」
ダンガーは首を傾げて、そう口にした。ワルギレオがその反応を見て笑みを浮かべる。
「俺が壊させた」
「はぁ、何故にでしょう?」
実質的な統治者が、自国の整備を破壊する。どういった理由であるかダンガーには分からない。
「カザネ・ユイハマがどう出るかと思ってな。しかしあっさり修復させたか、あれを」
ワルギレオは薄く笑う。橋はほぼ半壊していたはずだ。ワルギレオがそう命令したのだから。それを修復したとある。それも大した時間もかけずにと書かれていた。
「ふむ。修復とは……ゴーレムで、ですかな?」
「だろうな」
ワルギレオの言葉にダンガーが眉をひそめる。
「モンデール様の奇跡をそのような雑事に使う。やはり、罪人は罪人ですか」
辛辣な言葉は不安の裏返しだ。ワルギレオの言葉通りにカザネ・ユイハマが籠絡されたとして、ダンガーは不審に思っている。その後、己のナンバー2の地位が果たして保たれるのかと。
「しかし、恐るべき力です」
ワルギレオを挟んで、ダンガーの反対側にいる女性がそう口にする。ゴーレムマスター教会ナンバー3のベネットである。
「ああ、そうだな。ヤツの魔力は魔術師の数倍はあるらしい。その上でゴーレムの術を恐ろしいほどに精密に使いこなす。一種の化け物と考えた方がいい」
ワルギレオの言葉に、ダンガーとベネットの表情が少しばかり強ばる。
「でなければ、俺自ら出向くこともなかったさ。油断はするなよ」
そう言ってワルギレオは嬉しそうに笑い、背後を見た。今はまだ動かぬ巨大な人形。世界樹ユグドラシルの大木より作り出されたこの国の守護兵装。
さらには巨大人形の下には、重武装されて元の姿からさらに強大となった半人半馬のゴーレム兵と、黒い人形が二体立っていた。
それらはいずれもワルギレオの力でもある。これらがあるからこそ、決してワルギレオは何者にも屈しないと信じていたし、事実としてここまではそうだった。
「さて、魔王とやらもそろそろ出向いて来て欲しいものだな」
そう言ってワルギレオは笑う。その背後で人形たちは静かに佇んでいた。
◎トゥーレ王国 王都イプシロン 宿屋デュッフェル 地下隠し部屋
「コテージ組、到着っと」
刻印より光と共に出現した直樹がそう口を開き、共に運ばれてきた者達が周囲を見回す。
「ようこそ、我がアジトへ。歓迎するっすよ」
そして目の前にはクノイチでゆっこ姉の影武者であるイリアとその部下の忍者たち、さらには先行して来ていたオーリとソワソワしている弓花がいた。
「どうしたんだユミカは?」
ユミカの様子がおかしいことに気付いたライルが直樹に尋ねる。
「いや、姉貴がな。弓花の新しい槍を持ってこっちに向かってるらしいんだよ」
風音がゴルディオスの街で、弓花専用の槍を受け取ったことは直樹もメールで聞いていた。なんでも『凄い槍』らしく、親方の『最高傑作』とのことである。ジンライも『納得』の一品だとも。
普段はあまりメールでやりとりしない直樹にまで「ね? ね? 最高の槍だって? 凄くない? ちょっとテンション上がってきたかも」とメールが届いたくらいである。期待度がハンパなかった。
「土の匂いがしますわね」
「まあ、地下っすからね。結構掘ったっす」
後ろで「掘ったのは僕らです」アピールをする忍者たちがいたがそれは無視された。
『母上に早く会いたいです』
「ナー」
悲しそうに呟くタツオと、そのタツオを頭に乗せながらジンライと会えない寂しさに肩を落としているシップーがいた。
「もうすぐだからねシップー叔父様」
エミリィがシップーの背を撫でて慰める。生まれてこの方、ジンライとここまで離された経験のないシップーはストレスが溜まっているようだった。
『母上ー』
風音から渡された水晶化された肉をシャリシャリと頬張りながらタツオは天井を眺める。早く母の頭の上に乗りたいものだと考えていた。
「そんじゃあ、全員集まったところで良いっすかね?」
パンパンとイリアが手を叩いて注目を集める。
「ひとまずは状況の整理っす。今作戦はあっしらミンシアナ忍者軍団、白き一団、オーリング、そしてレーム女王陛下の混成で行うっす」
「おうよッ」
アダマンゴーレムに入って参加のレームがガチャンとゴーレムの手をあげる。
「目的はナイラっちとユズっちの救出、ワルギレオの失脚、タツヨシくんケイローンの奪還っす。正直、ワルギレオの失脚の方があっしらには重要なんすけど、作戦立案者のカザネっちの顔を立ててるので優先順位はふたりの奪還が一番っすね」
オーリがすまないと頭を下げる。
「気にしないで欲しいっす」
この作戦が失敗するとゆっこ姉による無差別絨毯爆撃が実行されるとは言えないイリアであった。
「そんで残念ながらあっしらではふたりの場所は掴めなかったんすよね。役に立たない部下ですまないっす」
忍者からの「頭領も調べに行きましたよね」という視線をイリアは無視した。イリアにしてみてもどこにあるかも分からない『ゴーレムの目』を察知するのは至難の業なのである。
「なので、このまま王城に入るだろうカザネっちとジンライっちに内部の確認をお任せすることになるっすね」
そしてイリアはあっさりと風音にその役割を投げていた。出来ないことは出来ない。そうした割り切りがイリアをここまで生き永らえさせてきたのである。
『それで救出してからは塔の制圧ということで良いのかの?』
続けて幼グリフォン姿のメフィルスが尋ねる。メフィルスの言葉に横にいるティアラの顔も引き締まる。
今回は作戦達成後はミンシアナ単独ではなくツヴァーラも含めた三国同盟の形を取る予定となっていた。それは周辺国の目や、ミンシアナだけではソルダードに外交的に抗せないという事情もあった。ゆっこ姉も騒いだ各国を次々と爆撃して脅しまくるような戦法はさすがにとる気はない。覇道を歩む気もないのである。
その体裁のためもありメフィルスとティアラの参戦も確定となっていた。なお、同盟の柱は蓄魔器やマッスルクレイなどを含めたゴーレム動力の共同開発となる予定である。
「そうっす。まずはカザネっちの誘導によるナオキっちの転移でセフィロの塔に侵入するっす。その後は一斉攻撃して塔を電撃的に制圧するっすよ」
イリアが「おー」と拳を振り上げて告げる。
「そりゃ、すげぇ大雑把だな」
バックスが呆れたようにボソリと呟く。
「まあつってもこの人数じゃあそうするしかないだけっすけどね。この人数で王都全部の兵力に挑むなんて当然無理っすから頭を押さえて、すげ替える予定っす」
そう言ってイリアの視線がレームに向けられる。
「お、おう。任せとけ」
ボゴンッとレームがアダマンゴーレムの腕でアダマンゴーレムの腹を叩く。鈍い音がした。
後は風音の到着を待つだけ、魔王の降臨を待つだけである。