作品タイトル不明
第五百十三話 シュワシュワになろう
◎ゴルディオスの街 白の館 大浴場
風音(真っ裸)の目の前には浴場が広がっていた。
そして湯船には温泉がちゃんと入れられていた。
準備は整った。待ちに待った時が来たのだ。クリスタル風音ちゃん人形の犠牲の元に、温泉はついに成ったのだ。
「ひゃっほーい」
そして風音(AAA)は宙を舞い、錐揉み回転をしながら湯船の中へと飛び込んだ。温泉マナーが裸足で逃げ出す行為だが、この浴場の法律は作成者でオーナーでもある風音であった。遠慮などするはずもなかったのだ。
また、ここの湯船の水深は一メートルとそこそこに深い。風音(自称セクシー)が面白そうだからそのように造ったのだ。その中で風音(貧乳)は全身をシュワシュワーと泡々になりながらザバーンと顔を出した。
「はぁー。ユッコネエ、気持ちいいよぁ」
風音(子持ち)はとろけた笑顔で湯船の中から手を振るとユッコネエが「にゃー」と返事をしながら着替え室からやってきた。
しかし、ユッコネエは風音(ロリ)の入っている湯船を見ると「ふにゃあ」という顔をしてその横にある普通のお湯の湯船の方に入っていったのである。
以前の島亀の炭酸温泉のときもそうだったがユッコネエは炭酸温泉が苦手なようである。それを見て風音が肩をすくめて苦笑する。
「気持ちいいのになー」
風音(絶壁)はスイーと背泳ぎで湯船をプカプカ浮かびながら進んでいく。そこは湯船というか小さなプールのようだった。のんびりと泳ぐ程度の広さがあった。
現在、風音がいるのは白の館の正面から左の建造物に造られていた大浴場であった。風音は温泉が出てくることを想定して施設だけを先に造っていたのである。
そして風音がカルラ王と親方との話を終え、汲み上げていた温泉を確かめに行ったところ出てきたのはなんと極めて高濃度な炭酸泉であった。
この炭酸泉とは、炭酸ガスを含んだシュワシュワとする温泉のことである。水温が高いと炭酸ガスが水に含まれにくいため、火山国である日本ではあまり見かけないのだがヨーロッパではそこそこにある温泉らしいとは風音は聞いていた。その炭酸泉を、風音こうして堪能していた。
また、元クリスタル風音ちゃん人形用の『竜の心臓』を設置したことで施設としても正常に稼働している。水道もシャワーも扇風機もマッサージチェアもある。風音コテージ内の浴場ほどではないが、この世界の大浴場としては相当にオーバースペックであった。
「うわー全身銀の泡々だね」
シュワーとする泡が風音の全身を包んでいる。肌についている泡を見て、スーッと撫でるとシュワーと泡が散っていった。風音はそれを見ながら「すげー」と声をあげていた。
「にゃー」
ユッコネエがその主のはしゃぎ振りに感化されついに重い腰を上げて炭酸温泉の前までやってきた。しかし、湯船に「にゃっ」と前足を付けた途端に「ふにゃー」と変な顔で鳴いて、また無炭酸の湯船へと戻っていった。やはりダメなようである。
「さてと。明日からはのんびり出来なさそうだし、ここで英気を養っておかないとなあ」
風音は伸びをしながらも空を見る。壁は当然あるが露天仕様のため天井はない。元の世界にはない澄んだ空がそこにあった。
明日からはいよいよトゥーレ王国入りである。身内揃いのこことは違い、油断なく動かなければならない。のんびりと温泉に入るようなこともないはずだ。多分。
「そんで、まずは王都入りして、様子を見て、状況を掴まないとね」
ユズとナイラが王都にいることはメールを通してすでに弓花から聞いている。風音の『犬の嗅覚』があれば場所の特定も難しくはないはずだった。
またふたりさえ解放できれば後は反撃あるのみである。ワルギレオを倒し、さらにはレームを伴って正しく女王統治による王国を造れればゴールである。
その中でもっとも問題なのは……
「守護兵装か。あれを倒すのが一番分かりやすいんだろうけど」
風音が眉をひそめる。
守護兵装『クルミワリニンギョウ』。トゥーレ王国の象徴にしてワルギレオの力の象徴でもある。それは王都イプシロンを護る、 魔力の川(ナーガライン) と接続した20メートルの『人形』だ。
難関であろうと考える。何しろ相手は化け物のような機動力を持った巨人だ。
ソルダードの兵5000名を拳だけで殺し尽くしたという話も嘘ではないだろう。守護兵装の強みは 魔力の川(ナーガライン) と接続し無尽蔵に魔力を使用し続けられることだ。近接戦メインということは白剣のホワイトファングのようなエネルギー波等とは違い燃費も悪くないはずである。倒されなければ延々と動き続けるのだろう。
「……ふむ」
それを倒す。もちろん、風音自身の力では敵わない。ジンライと弓花がいても勝てるとも思えない。だが、手段はある。
「久しぶりに出すかな」
風音は空を見ながらボンヤリと呟いた。今は夕暮れ時、空は赤く染めあがっていた。
◎トゥーレ・ミンシアナ国境 関所
「ここ最近は怖いことばかりだな」
その日、トゥーレ王国の兵士ヤコブソン・ハーキーは、いつも通りの配置について国境の関所を護っていた。
とはいえ、敵が攻めてくるわけでもなく、魔物もこの付近ではあまり出没もしない。そんなわけで暇を持て余し気味のヤコブソンは空を呆然と見ながらつい先日に報告を受けた恐るべき話を思い出していた。
(大監獄が襲撃されるとはな。それもミザーレ様も叛意を示したとは……一体この国はどうなってるんだか)
ヤコブソンは戦々恐々とするばかりである。
監獄都市ドルアージにある国内最大の大監獄ケストラーデが部下を取り戻しにきた魔王アスラ・カザネリアンに襲撃を受けたというのだ。それも、ゴーレムマスター教会ナンバー5のミザーレを洗脳し配下にまで置いたとのことで、監獄都市から来た人間を拘束するようにヤコブソンたちは国から指令を受けている。
「あの方が来てから、本当にここも物騒になったな」
そうヤコブソンがぼやく。あの方とは教祖ワルギレオである。教祖が隣国にちょっかいを出してから何かが変わったとヤコブソンは考えていた。
つい一昨日前まではにらみ合いの続いていたミンシアナの衛兵が、今は軽く挨拶を交わすようになったのも不気味ではあった。
ヤコブソンはアウターはこれから殺す相手に贈り物を渡す風習があるのだとか聞いたことがあった。
ヤコブソンは、やはりミンシアナとソルダードの戦争がまた始まったか、或るいは始まる前触れなのではないかとの考えをさらに強めていた。
(けど、ソルダードが関係なかったとしたら……?)
何度となく考えた想定だ。しかし、報告をあげてもトゥーレ王国軍が動く気配はなく、少なくとも急な戦闘はない……或いはこの関所は捨てられたかのどちらかだろうとヤコブソンは考えていた。
そんなヤコブソンの耳に、ミンシアナの門番たちの叫び声が聞こえてきた。
「あれはなんだッ?」
「光か。紫の?」
ざわつく声の先にヤコブソンも視線を向けた。そして、目を見開いた。
(なんだ……あれは?)
ヤコブソンも他の兵士たち同様にそれを見て衝撃を受けた。遠くから紫の光がやってきているのである。段々と雷鳴のような轟音も近づいてくる。音の出元は当然あの光だろうとヤコブソンは思った。
そして、ミンシアナの兵もトゥーレの兵たちも皆緊張した面もちでそれを見ていた。遠目であの光だ。関所程度など軽く吹き飛んでしまうのでは……という懸念と動揺が兵たちに広がっていく。
「に、逃げるか?」
「バカ野郎。俺たちがここの守りだぞ」
「つっても光の塊なんぞどうしようもねえだろぉ」
兵たちが口々に声をあげるが、しかし紫の光は止まらない。そして、ヤコブソンを含む兵たちがいもはや逃げるか否かを判断している目の前で紫の光は爆散し、そして散った光の中から厳つい装甲馬と黒く巨大な装甲馬車がやってきた。
こうして風音たちは、脅えるヤコブソンたちの目の前にミンシアナ王族の証である白き短剣とゴーレムマスター教会のアダマンチウムのメダルを見せて無事に国境を抜け、トゥーレ王国への入国を果たしたのであった。