軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百十二話 その槍を見よう

「その鎖は蛇蝎銀て呼ばれているもんで出来ている。聖なる属性の力を吸収し抑えつける効果がある素材でな。まあ、単品で持ってると 呪いの魔法具(カースアイテム) でしかねーんだけどよ」

親方の説明を聞きながら、風音とジンライはテーブルの上に置かれている槍を見ていた。ユッコネエは「ふにゃあ」という顔をして少し離れている。ユッコネエには近寄りがたいシロモノであるらしい。

この特注品の槍だが、柄の部分は 神聖物質(ホーリークレイ) を焼いて形作って出来たものである。

弓花の希望通りに簡単な装飾だけしか施されてはいないが、そのシンプルさが銀の輝きをより美しく魅せており、また素材としても優秀でアダマンチウムにも負けぬ硬度を誇っている。本来であれば柄に使用するようなものではないのだが、弓花の神狼化の『銀の共鳴』を考慮してそこまで贅沢に素材が使用されていた。

もっとも 神聖物質(ホーリークレイ) 製の柄もその先に付けられた刃を前にしては霞んで見えるだろう。筆舌し難い、あらゆる者を魅了するような澄んだ神々しさをその刃は放っていたのだから。

それは神聖銀と呼ばれる銀系統最上位の素材で出来た究極の銀の刃である。触れるだけで己の身に宿る一切の邪悪が滅ぼし尽くされそうなほどの濃密な聖なる気配を漂わせた、穢れなき清純な淑女を思わせるような透き通る刃だった。そう、銀の輝きでありながらその刃は透き通ってもいたのだ。

「しかし、この……鎖は一体……?」

その刃に圧倒されつつ、ジンライは槍に巻かれたシロモノを見て呻く。

神聖な輝きを覆い尽くさんとばかりに黒光りする銀の鎖が槍にグルグルと巻き付いて縛っているのだ。それが純白の輝きを汚さんとする極めて背徳的な印象をその槍に与えていた。

ジンライのノドがゴクリと鳴る。

ただの槍が何故にここまでエロティックな印象を与えるのかジンライには分からない。

うら若き清純な乙女がその裸身を邪悪な獣に覆い被されて全身に舌を這いずり回されながらも喘ぐ声を抑えて耐えているような、そんな淫猥な光景をジンライに幻視させているのだ。

それは唯々その刃が澄み切ったように清らかであるが故に、黒光りする鎖がより一層禁忌を犯しているような冒涜的な衝動を呼び起こさせているのであった。

「ジンライ。あまり見るな。聖邪の入り交じった気配だ。魅せられるぞ」

親方の言葉にジンライが「あ、ああ……」と声を出して、そして視線を逸らした。ジンライの顔は若干赤くなっていたがよく見れば親方も似たような状態だった。

ジンライは己がおかしな性癖に目覚めたのではないかとも思ったが、自分一人だけの現象ではないと分かって少しだけホッとしていた。

なお、叡智のサークレットとスキル『精神攻撃完全防御』によるダブル精神防御を持つ風音には魔力によって拡大した影響までは受け付けないのでそこまでの効果はなく、槍をマジマジと見て「ホー」と声を上げていた。もっとも精神に届かぬまでもその肌にはビリビリとしたものを感じてはいたので、その強力な存在感も理解は出来ているようである。

「親方。これ、頑張りすぎたんじゃあ……」

風音のもっともな言葉に親方の口がへの字になった。

「反省はしているが後悔はしていない。こいつは俺の今までの人生の中で打ってきた中でも最高傑作だと自負できるモノだぜ」

そう答える親方は神聖銀の求めるままにほとんどトランス状態でその刃を打ち上げていた。取り憑かれていたといっても良い。完成後は精根使い果たし二日ほど意識を失っていたほどである。

「あまりにも神聖力が強過ぎて人間には扱えないもんになっちまったがな。まあ、その蛇蝎銀の鎖を巻いてどうにかバランスを取らせてるところだ。とはいえあいつの神々の炎で打ったものだし、ユミカなら多分扱えるだろう。封印は……まあ、慣れてから段階的に解いていけばいいんじゃねえかな」

親方が若干首を傾げながらそう告げた。本当に扱えるのか、そして慣れることができるのかは親方にも実のところ未知数ではあるのだ。自身が語るとおりの最高傑作ではあるが、扱えないのでは欠陥品でもある。使えて欲しいという親方の願いも透けて見えた。

「ふむ。ワシには無理だな」

ジンライは多少顔をゆがめながら槍を見て呟いた。耐性がついてきたようである。

「おめえのその槍も十分にタメ張れるとは思うがよ。こいつは魅せすぎるからな」

親方の言葉にジンライがフッと笑う。

ジンライの背負うのは白の竜牙槍『神喰』と黒の竜牙槍『悪食』。聖槍グングニルと竜騎士ジン・バハルを宿した槍である。ジンライも目の前の銀の槍には圧倒されるが、決して劣っているとも思ってはいなかった。そして親方の言うとおりに目の前の槍は魅せすぎるのだ。

「ともあれ、こいつをユミカに届けてやってくれ。シルキィが壊れちまったんだろ。あいつには必要なもんだ」

「そうだね……うん。しっかりと届けるよ」

風音は親方に頷きながら槍をアイテムボックスに入れた。リストには聖者の槍(封呪の鎖付)と出ている。これでトゥーレに向けてのひとまずの準備は整った。

*********

そして親方も去り、風音が館の門から中庭に戻るとクーロがゴーレム馬セリオンハンマー号を見ているようだった。

「飽きないねえ」

風音がクーロに近づき、そう口にする。どうにもクーロの興味はこのゴーレム馬に集中しているようである。

「話は済みましたか?」

カルラ王に続き親方の話にも外されていたために、クーロはここで暇つぶしをしていたのであった。

「うん。今日はここに泊まる予定だけど、クーロはホテルとかに泊まった方が良い? だったら手配するけど」

「いえ。出来ればあなた方についていた方が良いと思いますし、問題なければご一緒させていただけますか」

クーロの言葉に風音も頷く。

「それにしてもゴーレム馬ですか」

そう言ってクーロは再度セリオンハンマー号へと視線を移した。

「我が国の主力であるアダマンゴーレムは、その製造も鋳型で型を取って造るだけですから、こうして装甲を一から造る職人がいるとは思いませんでした」

「ゴーレムだけじゃあ良いモノは出来ないよ。これには複数の技術が使われてるし、そもそもマッスルクレイにしても、ゴーレム使いよりも人形使いの分類だし、素材としては錬金術の領域のモノだしね」

「カザネ様は物知りですね」

クーロが素直に感心したように、そう口にした。

「そっちが知ろうとしてないだけだと思うけどね」

対して風音は皮肉げにクーロに言葉を返す。風音の認識する限り、ゴーレム教会が意図的にゴーレム技術を広めようとしていないのは透けて見えていた。

「そうかもしれません。僕はゴーレムをもっと広めたいんですよ。兄は今のままで十分と考えていますが」

(数は今のままでいい。ルイーズさんの言ってた通りか)

クーロの言葉に風音は以前に聞いた話を思い出した。

トゥーレのゴーレムマスター教会上層部は貴族に並ぶ特権階級となってる。同時にゴーレム使いの有用性を知らしめる為に外来にもゴーレム使いを放流もさせているようだが、その数はある程度限られている。

ゴーレム使いを生み出すのがグリモアフィールドだけであるため、その管理はどうあってもゴーレムマスター教会に握られているのでる。

「兄は十分と考えている……ね。クーロは自分で広めようとは考えないの?」

「兄が許せばそうなるでしょう」

淀みなくクーロは口にする。

「教会に、兄に従う。それが我々の行動指針です。あなたもゴーレム使いであるならばそうであるべきでしょう」

「知らないよ。私は私の意志で動くんだし」

「あなたは兄に負けている。であれば、従うべきだ」

クーロの言葉に風音は肩をすくめる。

「会ってもいない相手に負けてるって言われてもね」

「兄のゴーレムハックにはゴーレム使いは誰も勝てません。兄はモンデール様に愛されているのですから」

(それが根拠か)

風音が目を細める。クーロの言葉から、その根がかいま見えた気がした。ゴーレムを価値基準としている彼らにとってワルギレオというあらゆるゴーレムを操る存在は絶対視されているのだと。

「今や守護兵装も兄の手の中にある。ゴーレムも国も……兄のモノだ」

クーロはそう告げる。

「それらを全部ぶっ潰して勝てたとしたら……」

「はい?」

クーロが首を傾げて風音を見た。

「誰かがワルギレオのすべてを超えたと証明できればどうなるのかな?」

「そうですね」

クーロは笑う。そのようなことは不可能だとでも言うかのように。

「それを成せたならば、その時は我々はそれを成した者に従うでしょう。兄を超えると言うことはモンデール様のご意志はその者にあるということですから」

風音はクーロの言葉に「なるほど」と頷いた。ブッ倒せば良いそうである。そして(じゃあ、そうしますか)と風音は心の中で呟いた。