作品タイトル不明
第五百十一話 良いモノをもらおう
◎ゴルディオスの街 白の館 客室
「それで、何故お前たちはダンジョンに入ってこないのだ?」
「何故ーと言われましてもね。私たちも忙しいんだよ」
ズズ……と茶を飲みながら尋ねるカルラ王に風音がそう答える。
唐突に訪れたカルラ王を追い返すのも危険であったのでやむなく客室でもてなすことになり、こうして茶まで出したのだが出てきた言葉はダンジョンに何故入らないのかであった。まあ、当然ではあろう。
「今現在、 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の攻略は32階層まで届いている」
「おお、結構進んだんだね」
まるで他人事のように風音が頷くが、カルラ王の顔は渋い。
「パーティ『マザーズナックル』とパーティ『ブレイブ』によるものだな。どちらも我が試練を受けて生き残ってもいる」
『マザーズナックル』は弓花の知り合いであるギュネスのパーティ、『ブレイブ』はガーラやジローたちのパーティである。
「しかし『レイブンソウル』は未だ帰還せず、『オーリング』も戻らぬと聞く。その上でお前たちまでいないのではな。再度アレを行い、危機感を煽って外来より強者を呼ぶしかないかもしれんな」
カルラ王は何かしらの縛りによりダンジョンの適切な運用を求められている。そのために風音たちが必要だと考えているようだった。ともあれ、アレとは恐らく風音たちが街に来たときの襲撃のことだろうと推測した風音が慌てて口を挟んだ。
「あーいや、今はその『オーリング』の救出をしてるんだよ」
「ほぉ」
カルラ王の目が細まった。濃密な怒気を発するカルラ王に、護衛として風音の背後に控えているジンライとユッコネエが一瞬動きかけたが踏み留まる。それはカルラ王が手ではなく口を動かしたからだ。
「話を聞かせてもらおうか」
そしてやむなく風音は事情を話し始めた。
**********
「なるほど、ゴーレムの王国か。モンデールの国とは笑える話だ」
風音から事情を聞いたカルラ王は一言、そういって用意された羊羹を口に運んだ。ミンシアナ王国の王族御用達であるタイガーショップの一品である。
「知ってるの?」
「ああ、知っているとも。あれは元魔物だ。賢者の石のひとつ、 知性の金属(インテリジェンスメタル) で出来たゴーレム。高い知性を持つが故に争いを好まないヤツだった。どこかの地で勝手に朽ちているものかと思っていたが、なるほど……面白い終わりを迎えたものだ」
そういってカルラ王は笑う。
「終わりって…今は神様をやってるんだよね?」
「終わっているさ。生命としてはな」
風音の問いをカルラ王が一笑に付す。
「 魔力の川(ナーガライン) と常時接続した者は絶えずその地の 自然魔力(マナ) と同調し続け、個はその奔流の中に霧散していくのが 宿命(さだめ) だ。世界の歯車に個など無駄でしかないからな。それが神という存在になった者の当然の末路だ」
そこまで言ってからカルラ王は考えて、懐からあるモノを取り出した。
「ふむ。ならば、そうだな。これを持って行くが良い」
「なに、これ?」
風音がカルラ王の取り出したものを指さして尋ねるが、カルラ王の手にあるのは時折、青色のラインの輝きが走る緑色の金属の固まりだった。
「モンデールの『 知性の金属(インテリジェンスメタル) 』だ。ダンジョンによって私とともに再生されたものだが、コピーといえ本来のヤツの欠片と寸分違わず同じものだ。これでヤツを呼び出すことが可能だろう」
風音はそれを恐る恐る受け取る。すると青い光のラインが走り、何かを感じているようだった。
「えーと、ありがとう?」
風音は礼を言うが、カルラ王はフンッと鼻息を荒くして口を開く。
「礼などは良い。さっさと戻ってきてダンジョンへと入れ。私の存在意義を充足させろ」
そこまで言うとカルラ王の身体が、黄金の炎に変わっていく。風音がビクッとしたが周囲に燃え広がったりはしないようだった。
「また幻術の身体か。臆病なことだな」
ジンライがムスッとした顔で呟くのを見て、カルラ王が口を開いた。
「そうだな。今は休憩中だから話をしてやろう槍使い」
ジンライがカルラ王を睨みつける。
「資格なき者と私が戦うことはない。私はダンジョンの守護者であり、ボスであり、最後の砦だ。最初のデモンストレーションの時も制約が働いていたしな。もうあまり無茶も出来ない」
そう言って肩をすくめて笑う。
「それでどうだね。あれはどうにかなりそうか?」
ジンライが目を細めて無言でカルラ王を見る。その様子にカルラ王はさらに笑みを深めてジンライに告げる。
「どうやらお前は何かを勘違いしているようだな」
「どういうことだ?」
ジンライの問いにカルラ王は言葉を続ける。
「見ていて分かる。お前のその身体のスペックはあまり高くはない。狼の弟子にも遙かに劣っている」
ジンライがムスッとした顔をするが否定はしない。それは事実であり、生まれてこの方ずっと分かっていたことだった。
「手段を一つと考えている内は視野も狭まろう。そもそもお前は果たして己だけで戦えるほどに優秀な人間かね? その腕も、あの猫ももらいものだろうに?」
「それがなんだというのだッ!?」
ジンライが叫ぶ。それをカルラ王はすでに半壊しつつある炎の身体で、涼しい目をしてさらに続けた。
「己の原点を思い出せ。強くなるために、おまえは手段を選べる立場か。凡人がそうでないものに勝つにはどうすればよいか……それをよく考えることだな。そして」
カルラ王がジンライと風音、ユッコネエを見る。
「早くダンジョンに入れ」
そう言い残して消えた。それを確認した風音はゆっくりと椅子にもたれかかる。
「ふーむ。もらっちった」
そして風音は賢者の石シリーズのひとつらしい『 知性の金属(インテリジェンスメタル) 』をジンライに見せた。
「ふん。あれのことだ。言っていることは事実ではあろうよ」
ジンライはそれを見ると若干不機嫌そうな顔をするも、そう口にした。風音はジンライは使用に反対するかと思ったが、どうやらそうではないようだった。
どうにもジンライはあのカルラ王を意識し、カルラ王もまたジンライを意識しているようである。尋ねてもどちらも認めそうにはない……とは風音は思ったが。
「ともあれ、手札がひとつ手には入ったとでも思っておけばよいだろう。ヤツがヤツの目的で渡したものだ。恩を感じる必要はあるまい」
そう言うジンライに風音は苦笑しつつも、次のお客さんを呼ぶ為に立ち上がった。
**********
「あれがカルラ王か。まったく、とんでもねえ客人を呼びやがって」
「勝手に来たんだよ。まあ、それはいいんで、どうだった親方? ちゃんと読んだ?」
続けて部屋に入ったのは親方である。やたら大きなケースを抱えてやってきて、それを横に置いてからテーブルの上に風音から渡された証書を置いた。
「本物だな。クソッ、アガトの野郎め。マイティー可愛さに俺のセリオンハンマー号を売りやがった」
ぐぬぬと憤る親方に、風音が申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんね。インパクト重視でサンダーチャリオットで行きたいなんて思っちゃって」
全くもってごめんねな話である。すでにミンシアナ王国軍の備品として確定しているので取り戻すにもいろいろと問題が発生するようだった。
「くそっ、まあいい。ヒヒイロカネの魔導線は完成したみたいだしな。もっと良いヤツを造ってやらぁ。そんときゃ、頼むぜカザネ」
「うん。任せてよ」
風音が親方に頷く。そしてそう口にした親方の腕には細い導線があった。
「アガトもまあ、悪くねえもんを造ったようだしな」
それはヒヒイロカネの魔導線である。タツヨシくんケイローンに使用したモノよりも細く、束ねて使うことも可能そうである。
「うん。それなら問題なく実用に足ることが可能だと思う。後はヒヒイロカネの供給だけどトゥーレ王国に産地があるらしいからね。秘密になってたみたいだけど、どうにかはなりそうだよ」
すでに風音はレームとは話をつけていた。ゆっこ姉との細かいやりとりをレームは風音を通して行っており、それを元に書いた契約書を風音は王城に転移した際にゆっこ姉に渡してもいた。その内容はレームをトゥーレ王国の正式な女王として扱い、同盟国として共に協力しあうというような内容である。
「そんで邪魔なのはゴーレムマスター教会ってことかい?」
「だね。クーロの反応を見る限りはやっぱりやるしかなさそうだし、初志貫徹ではあるからね。あのワルギレオにとっての最も最悪な形で仕返しを出来るとは思うよ」
風音がひとりうんうんと頷く。そして親方が扉の方を見る。
「へっ、あの小僧もとんだ相手を運んでいるわけだ」
カルラ王との会話も親方との会話もあまり聞かせたくはなかったため、クーロは外で待たせている。
「運んでるのは私だけどね。ま、そんなわけで全部片が付いたらゴーレム方面はかなり動かせそうな感じだよ」
すでに風音の中ではゴーレムマスター教会を潰すことは規定ライン。その上での次の未来も見据えている。そして、その未来のための一歩を風音はアイテムボックスから取り出した。
「そんで、そのためにこれをモンドリーさんに渡して置いてくれるかな?」
「それは……まさか、出来たのかい?」
目を見開く親方に風音が頷いた。
「ゆっこ姉がお抱えの魔術師を総動員して徹夜続きで作成させたらしくてさ。とりあえず今手元にあるのは二冊だけだけど、原本はあるから時間さえあればいくらでも作れるよ」
「へっ、これがありゃあモンドリーも喜ぶぜ」
親方はにやりと笑って、その本『グリモア』を手に取った。
「それと頼んでいたものって出来てるんだよね?」
風音は親方が抱えて持ってきた黒い箱を見る。サイズからして中には槍が納められているようである。であれば、中に入っている物は決まっていると風音は考え、親方を見た。
「出来てるぜ。衝角も弓花の装備もな。ただちと問題があってな」
「問題?」
風音と、そして後ろにいるジンライとユッコネエが、親方がテーブルの上に置いたケースを見る。
「まあ、見りゃ一目瞭然なんだが……」
そう言って親方が黒いケースを開ける。その中身を見て風音とジンライが思わずうめいた。さらにはユッコネエが「フゥゥウ」と唸った。
「ちと強力すぎてな。封印しちゃってんだよ、これ」
そのケースの中にあったもの。それは神聖銀の刃を持ち、 神聖物質(ホーリークレイ) の柄で造られた弓花専用の銀の槍。
しかし、その槍には黒光りする邪悪な気配漂う鎖が絡まっていた。それは形容するならば、淫靡な黒の下着を纏った穢れなき聖女……とでも言うような異様な姿であった。