軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百九話 代わりの馬を借りよう

◎王都シュバイン マジリア魔具工房 倉庫前

「こいつは見事な出来映えだね」

風音が「ほぉほぉ」と声をあげながらそれを見る。

現在風音がいるのは、王都にあるマジリア魔具工房の裏手倉庫前である。そこにはヒポ丸くんより一回りだけ小さいが、普通の馬に比べれば異様に大きいゴーレム馬が置かれていた。

それはマジリア魔具工房のオーナーであるアガトが所有するゴーレム馬マイティー・ウルティマス一世とは別のゴーレム馬であった。

「強襲用ゴーレム装甲馬ジョーンズカスタムです」

アガトが、ニコリと笑って、そう説明をする。

「何を強襲するつもりなの?」

「さあ?」

風音の質問にアガトが首を傾げる。

このゴーレム馬、全身の装甲はマグナ鉄と呼ばれる炎に強い金属で出来ているらしく、装甲の形状は武骨なもので人の座る場所以外の至る所からスパイクが飛び出している。実に触ると痛そうなデザインだった。

「ワシの好みだな。シップーがいなければ、これをもう一体造って欲しいくらいだ」

ジンライがそう言って笑みを浮かべたままゴーレム馬を見ている。どうも気に入ったらしい。風音は目の前のゴーレム馬の造形は嫌いではないが、武骨すぎるラインは若干自分のセンスとは離れているなと考えていたのでジンライほどの興奮はなかった。

「しっかし、趣味だねえ」

「でしょう。マイティーを羨ましがっていたジョーンズがこっそり造ってたんですよ。マッスルクレイを搭載するためにこちらに一時持ってきていたのですが、それがこうしてカザネさんたちのお役に立てるようで本当に良かった」

アガトが晴れやかな顔でそう説明する。

「親方も、言ってくれたらすぐにゴーレムメーカーを使って動かしてあげたのにねえ」

「話もせずに造っちゃったわけですからね。ジョーンズもこのことをどう切り出すか悩んでたんじゃないですか」

そう答えるアガトだが、隠していた親方のゴーレム馬がここにあるのはマイティーを貸し出すのを嫌がったアガトがこれを代わりに差し出したためである。

(50階層クラスのチャイルドストーンか。親方、本気だったんだなぁ)

馬車なしの単独走行なら時速160キロは超えるだろうと風音は計算する。馬の形をしたものが出せる速度ではなかった。

「それ、私に見せちゃっていいの?」

「マイティーを持ってかれるよりも全然いいです。後、女王陛下にもご相談をして国ですでに接収済みです。問題ありません」

アガトがまるで問題なしという風に返すが、親方にしてみれば災難以外の何物でもないだろう。アガトの言葉を聞いてさすがの風音も気後れしたが、現状では借りていくしかないだろうと考えてため息をついた。

「はぁ、後で親方には別のゴーレム馬を用意するかなあ」

レームと相談しヒヒイロカネの供給先の目処もついたところである。以前に親方に相談されていた鍛冶師用ゴーレムと共に、より完成度の高いゴーレム馬を作ろうと風音は考えていた。

そして、そんな風音の横にひとりの少年が立っていた。

「これがマッスルクレイで動くゴーレム馬ですか。素晴らしいものですね」

少年が目は輝かせてゴーレム馬を見ていた。

風音も昨日に紹介されたばかりの少年である。

「そうだよ。私や親方、アガトさんたちで造り上げたシロモノだね」

風音がそう返す。

「やはりゴーレムというのは素晴らしいものですね」

にこやかに言う少年に風音が眉をひそめる。

名をクーロ・ディーアと言うこの少年はワルギレオ・ディーアの弟であり、ゴーレムマスター教会ナンバー4でもあるとのことだった。

しかし、その笑顔からはまるで悪意を感じない。かといってワルギレオの身内となれば油断も出来ない相手であった。

そして、目の前の少年がなぜここにいるかと言えばワルギレオからトゥーレ王国への案内人を務めるように申しつけられているからだという。

元々はワルギレオ襲来の理由を問うためにミンシアナ王国がトゥーレ王国に抗議したために説明役として訪れたらしいが、会話をしてみてもまったく話にならないとディオス将軍が嘆いていたほどに癖のある少年らしかった。

「そんじゃあ行くかな」

すでにゆっこ姉とジーク王子らには挨拶もすませているし、このまま街を出てトゥーレ王国に向かう予定となっていた。

「クーロは荷物とかはいいの?」

風音の問いにクーロが頷く。

「ええ、大した荷物もありませんし。これだけで十分です」

そういって手持ちの鞄を見せる。それは不思議な袋シリーズのひとつ『不思議な鞄』である。かなりの収納力があるらしく、風音はゆっこ姉からバラされたアダマンゴーレムも入っているようだとの忠告を受けていた。

「そんじゃ、出立しようか。私のケイローンを早く取り返さないと行けないしね」

その言葉にはクーロが「おやおや」という顔をする。

「タツヨ・シークン・ケイローンはお兄様を選んだのです。ゴーレム使いであれば制御を奪われた時点で格の差を理解して諦めるべきでしょうに」

風音が渋い顔をするが、クーロの笑顔は揺るがない。絶対的な兄とゴーレムへの信奉。ディオス将軍が匙を投げるほどに目の前の少年の認識は揺るぎなく歪んでいた。

「はあ、もういいや。そんじゃいくよスキル・サンダーチャリオット」

風音も言い争って無駄な時間を費やす気はなく、無視してサンダーチャリオットを召喚する。

すると紫色の放電が出ている巨大な装甲馬車がわずかな時間に出現し、アガトも思わず「おおっ」と声をあげた。

「これは見事」

クーロも大きく目を見開いて驚き、感激しているようである。

「これはゴーレムじゃないからね」

「ええ、そうですね」

これまで自分たちのものであると言われては溜まらないと風音は思ったが、一応の分別はあるようである。続けて親方のゴーレム馬にも風音は杖をかざしてスキルを発動させる。

「スキル・ゴーレムメーカー・ヒポ丸くんタイプD・付与ラピッドスピード」

すると親方用のゴーレム馬に設置されたチャイルドストーンが輝きだし、ゴーレム馬がゆっくりと動き出した。まるで生きているかのように首をブルブルと振るわすとパカラパカラとサンダーチャリオットの前へと進んでいった。ジンライが意気揚々とゴーレム馬をサンダーチャリオットと接続させていく。

「さすがに親方、良い仕事するなあ」

風音はゴーレム馬の動きを見ながらそう呟いた。動きが滑らかで引っかかっている部分もない。申し分ない出来であった。

なお、ヒポ丸くんタイプDとは速度重視タイプであり、『ラピッドスピード』は以前にアガトからゴーレム馬付与用にと覚えさせられた速度上昇スペルである。

それをクーロはうんうんと頷きながら笑顔で見ていた。素直に凄いと考えているようで、やはり悪意は感じられない。

「それじゃあ、アガトさん。これあんがとね」

「それはジョーンズに直接言ってやってください」

笑顔のアガトに風音も頷いた。一応ゴーレム馬を国が接収したという証拠の書類も預かっている。

「うん。ゴルディオスには寄るから、そんときにお礼言っておくよ」

そして馬車とゴーレム馬を繋げたジンライが御者席に乗り、風音とクーロも馬車の中へと乗り込んだ。ついでにユッコネエも呼び出して馬車の中に乗せた。

「大きな猫ですね」

「にゃー」

ユッコネエがクーロの前で丸くなっている。八人乗りの場所の真ん中を陣取っているが、乗っているのがふたりだけならばそこそこのスペースはあるのであった。

(ま、ユッコネエもいれば悪さは出来ないでしょ)

外にはジンライ、内側にはユッコネエを配置し、さらには竜喰らいし鬼軍の鎧を武装することで風音は厳重な警戒網を敷き、不測の事態に対応しようと言う気概であった。もっともクーロはそんな風音の様子を気にすることなく笑顔でユッコネエを見ている。

「……金毛の巨猫とはこれは見事な毛並みですね。なんと美しい」

「にゃーにゃー」

クーロの言葉にユッコネエが照れている。褒め殺しに弱い猫である。

「由緒正しい品種なんでしょうか?」

「さあ?」

その質問には風音も首を傾げた。

元はエルダーキャットという種類であるはずだが、今は 名付き(ネームド) である。また、太陽の属性の魔物はそう多くはなく、現時点でのユッコネエはかなりレアな存在ではあるはずだった。

「カザネ様は素晴らしいお力の持ち主ですね」

「褒めても何も出ないけどね」

そうは言うものの風音もまんざらではない感じだ。しかし。続いてのクーロの言葉には、そんな気分も一瞬で消さざるを得なかった。

「いえいえ。これからトゥーレのためのお力となっていただけるのですから、我々へのお力ともなっていただけるのでしょう」

にっこり笑うクーロに風音は憮然とした顔をする。

そして、そんな風音たちを乗せた馬車がゆっくりと動き出した。

トゥーレ王国へ向けての短い旅がここに始まったのである。