軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百八話 相手をしよう

「落ち着きました?」

「落ち着いたっす」

弓花の問いにイリアがバンザーイとポーズを取りながら素直に答える。どうやらここで転がっているのにも飽きたようだった。弓花はなんだかチンチクリンな親友の行動を見ているような気がして頭痛がしてきたが、努めて気にしないことにした。これ以上、頭痛の種は増やしたくなかった。

なお、弓花を襲った忍者たちは現在は部屋の端っこで各自治療を行っていた。先に襲ってきた方が悪いとはいえ哀れな姿である。思わずイリアが「お、女の子ひとりに……」と言いながらプッと笑ってしまったほどである。さきほどまで自分もビビってたはずだが喉元過ぎれば何とやらであろうか。非常に上司にしたくない女ではあった。

「そんでナオキっちはもう少しでこっちに来るんすね。もうバッチ来いって感じっすよー」

「あ、そういうのはいいんで」

そんなノリノリなイリアを弓花は手で制す。直樹関連は地雷が多いので弓花としては話題にしたくないのだ。

「ともかく現状のことを聞きたいんですが、ナイラさんとユズさんについて何か分かりましたかね? 後タツヨシくんケイローンも」

「そうっすね。一応ユズっちとナイラっちの生存は確認できたっす」

告げられた言葉に弓花がホッとするが、イリアは難しい顔をしながら話を続けた。

「ただ、ずいぶん衰弱しているみたいなんすね。なんかずっと戦ってたらしいっすけど」

「それ、大丈夫なんですか?」

弓花が心配そうな顔をする。すでに捕まってからそれなりの時間が経過している。それは人が壊れるには十分な時間でもあった。

「そうっすね。今は看病されてるみたいっすから多分問題はないっす。理由は分からんすけどどうも地下迷宮に閉じこめられていたらしいっすよ」

弓花が眉をひそめる。地下迷宮の言葉に覚えはないが、閉じこめられていたというのは穏やかではない言葉だ。

「なんですか、地下迷宮って?」

「ベビーコアを使った小さなダンジョンみたいなヤツっすね。あっしは見たことないんで詳しくは分かんないっすけど、ある程度の制御が利くダンジョンって考えてもらえば大体合ってるっすね」

イリアも詳しくは知らないという通り、ミンシアナ王国にもないものである。

「そんでタツヨシくんケイローンすね。こっちはワルギレオが研究室に運び込んで調べてるらしいっす。どっちもガードが厳しくて、正直それ以上のことは分からんっすね。連中、思ったよりも腕が立つのが多いんすよ」

「監獄でもアダマンゴーレムとか結構手強そうでしたしねえ」

弓花もアダマンゴーレムにも攻撃の通じるヒノカグツチがなければ結構苦戦したのではないかと考えている。風音も如何にロクテンくん阿修羅王モードと云えども弓花の完全刀化である神炎の大太刀『 焔(ほむら) 弓花(ゆみか) 』なしではあそこまで容易に蹴散らせていなかったはずであった。

「まあ、作戦行動に出る前にはある程度は情報を仕入れておきたいっすけどね。それでこっちも詳しい情報を聞きたいんすけどそっちの話を教えてもらってもいいっすかね?」

イリアはプレイヤーではないため、弓花達が暴れて魔王を降臨させた監獄都市の状況等の情報はまだ入手出来ていないのである。またイリアにしてみれば弓花はゆっこ姉との貴重なホットラインでもあった。

そのイリアの要求に弓花も頷き、ここまでの状況を話し始めた。

そうして弓花がイリアと合流し状況の確認を取り合い、そのまま直樹が転移してやってきた頃、ミンシアナ王国の王城では風音がジーク王子と向き合って試合を行っていた。

◎ミンシアナ王国 王城デルグーラ 訓練場

訓練場の中をカンッと音が響き渡る。

(また、いなされた!?)

『白竜王の千鬼討伐』と呼ばれるオーガの大軍団の討伐を経てジーク王子は大きく成長していた。

ジーク王子は今や『千のオーガの討伐者』『竜駆りし白竜王』『白剣の継承者』などとも呼ばれ、このミンシアナ王国では若き英雄として今では讃えられている。

無論、オーガの大群を倒したのはジーク王子単独の実力によるものではない。守護兵装としての白剣を使った結果であることも確かではあるが、それを最大限に生かして犠牲を抑えたのは紛れもなくジーク王子の力でもあった。

そして、直樹という最大の理解者(?)を得たジーク王子は今、更なる高みへと上がっていた。

(『戦士の記憶』同調率100パーセント解放ッ)

ジーク王子が自らの意志で剣に宿る『戦士の記憶』にアクセスすると、その動きが変わっていく。直樹の指導により、ジーク王子は短時間ならばある程度白剣に宿る『戦士の記憶』を使いこなせるようになっていた。

「むっ、これは?」

風音が眉をひそめる。攻撃の気配が変わったのが分かる。ドラグホーントンファーで受ける圧力が先ほどまでとは違う。

無論、日頃の鍛錬やスキルによる補正効果、さらにはトンファー入門書の下巻を得た風音の捌きっぷりは見事の一言に尽きたが、しかしジーク王子の攻撃の鋭さもとても10の子供のものとは思えないものがあった。

だが、急激な能力上昇は子供の身には当然負担も大きい。そのため負荷による疲労とスタミナ切れですぐにジーク王子はへばってしまった。

そして、棒立ちとなったジーク王子に風音のトンファーが突きつけられたことでジーク王子にせがまれての試合は終了となったのであった。

「はっ、ハァ、ありがとうございますカザネ」

息を切らしたジーク王子がどうにか倒れずに仁王立ちで持ちこたえて礼をする。

「ん、良きに計らえ」

対する風音はまるで涼しい顔で、トンファーをくるくる回しながらその場に立っていた。そのトンファーの回転こそがジーク王子の攻撃を受け流したキモである。風音もスキル修得が目立ちすぎてはいるが、トンファーなどの地味な方面の成長も着実に行っているのである。

「なるほど。なかなかに良い成長をしているようですなジーク王子は」

その場で見ていたジンライがジーク王子の成長ぶりを褒め称える。そしてそれはお世辞ではなかった。白剣の『戦士の記憶』と同調した後は、ジンライも目を見張るような一撃がいくつかあった。風音に防がれはしたもののそれはとても十かそこらの子供の成せるものではないと経験上ジンライは理解している。

「はいっ。ナオキ師匠の訓練のたまものです」

「あいつもたまには役に立つね」

ジーク王子の言葉に風音は笑顔で頷く。風音も弟が評価されることは素直に嬉しいのである。

直樹の気持ち悪さに忘れられがちではあるが風音は直樹を溺愛といって良いくらいに愛情を注いではいるのだ。単純に直樹の姉リスペクトが酷すぎてマイナス評価になっているだけなのである。

「あー、うん」

その風音の横で複雑そうな顔をしているのはゆっこ姉であった。息子の直樹化が止まらない上にすでに周囲は直樹シンパばかりとなっていた。泣きたい。

「母上。それでは僕は汗を流してきます。カザネもお付き合いいただきありがとうございました」

「うん。こっちも良い運動になったよ」

風音も満足げにジーク王子の頭を撫でた。

そしてその手の感触を感じながらジーク王子は(さすがナオキ師匠だ)と心の中で頷いた。

実のところ、風音がジーク王子から距離を取っていたことはジーク王子も当然気がついてはいた。それを気に病んでもいた。だからジーク王子はもっとも頼りになる『兄貴分の直樹』にそのことを相談していたのだ。

そして、その答えは下手に近づかないことだった。今のジーク王子の子供らしい部分を見せつつも、過度に構わず、適度な距離を持って接すれば風音も警戒せずに近づいてくるだろうと直樹は珍しくアドバイスをしたのである。

それは直樹にしてみれば「姉貴に近づくんじゃねーよ」という警告だったはずだが、ジーク王子は直樹リスペクトにより直樹の言葉を極めて好意的に解釈していた。また、こうした直樹リスペクトは、エミリィ等にも見られる現象だ。訓練された直樹リスペクトは普段のイケメンな直樹を骨子としてしまうために、正常な認識を歪め、直樹の気持ち悪い行動を何かしら深い意味があるのでは……と勝手に解釈させてしまうのである。恐ろしい話であった。

そして、ジーク王子が満足げな顔で訓練場を出て廊下を歩いていると、途中でひとりの少年に遭遇した。

頭を垂れるその少年にジーク王子は軽く手を挙げて挨拶を交わす。ふたりはそのまま何事もなく通り過ぎた。

だがジーク王子は見えぬ後ろにいるその人物がどこかしら笑みを浮かべてこちらを見ているような気がしてならなかった。後ろを振り向きたい衝動にも駆られたが、それは負けた気がするのでどうにか抑え込んだ。

そのジーク王子が出会った少年の名はクーロ・ディーア。若干12歳にしてゴーレムマスター教会ナンバー4の、ワルギレオ・ディーアの弟であった。