軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百六話 妄想をしよう

「それはあぶねえだろ。危険だ」

直樹が声を張り上げて風音の決定に反対をする。

わざわざゴーレムマスター教会の誘いに乗るなど、直樹にしてみれば言語道断の話であった。なにしろレームに自らの子を孕ませようと企んでいたことから考えれば、あのワルギレオという男は筋金入りのロリコンかもしれないのだ。直樹にとって最も大切な姉がそんなロリコン、もとい敵陣の真っ只中に、例えるならばお腹を見せて「はっはっ」と舌を出して転がっているチワワのような無防備な状態で向かおうとしているのである。想像するだけで頭の中がハートフルな気分でいっぱいになった。

(やっべ、すごく可愛い)

お腹を出して「はっはっ」と舌を出して転がっているチワワ風音である。それを想像した直樹の頬が緩んでいく。目の前の本人を視界に納めることで妄想はさらに進む。イマジネーションが加速していく。そこにあったのはパラダイスだった。

そして風音は、なんだか気持ち悪いオーラを出し始めた直樹を放ってジンライを見る。

「ジンライさん、ボディガード役に一緒に来てくれる?」

風音の言葉にジンライがにやりと笑う。

「面倒ごとが待っていそうだな」

「待ってるだろうね」

「ならば、引き受けよう」

そのやりとりを聞いて直樹も妄想から帰還し挙手をした。

「じゃあ俺もッ!」

それには風音が呆れ顔で直樹を見た。

「いや、あんたがいなくなったら誰がみんなを王都に運ぶのさ?」

直樹が「あっ!?」という顔をする。完全に頭から抜けていたようである。

「私がお呼ばれするにしても予定自体は変える気は無いよ」

「ん、直接会って倒すのではないのか?」

ジンライの言葉に風音は「それも選択のひとつ」と返した。

「どう行動するにしてもユズさんたちの救出が第一だからね。私が正面から乗り込むのと並行して、直樹たちには予定通りに魔王側としてユズさんとナイラさんを助けるように動いてもらうことになると思う」

「なるほど。そうなるとタツヨシくんケイローンはいいのか?」

ジンライの問いに風音が唸るが、すぐさま「良いよ」と返した。

「そっちは終わってからでも取り戻せる。だから失敗したら取り戻せない方を優先することにする」

風音の言葉に全員が頷く。最優先はユズとナイラだ。彼女らの安全の確保さえ出来れば遠慮の必要はない。女王であるレームがいる以上は大義名分を持って風音たちもワルギレオを倒すことが可能となるのである。

「で、今後の予定だけど、弓花がもうじきトゥーレ王国の王都イプシロンに着く頃だからね」

「王都イプシロンには確か、イリアさんの部下の人が待機してるんだったっけか?」

ライルの言葉に風音が「そうだね」と頷いた。

「予定通り、王都で弓花はイリアさんの部下の人たちと潜伏してもらうよ。直樹は私たちを運んだら、続けてイプシロンまで飛んで弓花と合流して打ち合わせをしてね」

「んー、了解」

直樹は不満げだが、姉の言葉だから……ではなく、作戦の道理を理解し頷いた。

直樹は尻尾をフリフリしながら去って行くチワワ風音が幻視できたが、幸いなことに風音は気付いていないようだった。

「そんでイプシロンでの待機メンバーはオーリさんにもお願いするよ」

「それは了解したが、他のメンバーはどうする」

オーリの言葉にバックスたちが頷く。

「数が多くても見つかるかもしれないから、しばらくはここで待機かな。状況開始次第、直樹に運んでもらう方向で考えてるよ」

その説明にはバックスたちが項垂れたが、反論の余地はなかった。

「そんで直樹はまたコテージに戻って一旦は待機。カンナさんもここで連絡役をお願いするよ」

「分かったよ」

カンナも了承する。また、そこまで話が進んだ段階で、ティアラが挙手して発言をした。

「カザネ、わたくしたちもここで待機ですの?」

その言葉に風音は頷いた。

「うん。ティアラや他のメンバーもここで待機かな。タツオもね」

タツオが心外とばかりにくわーっと鳴いたが、風音は首を横に振る。

「今回は駄目だよタツオ。正直、相手がどんな手を使ってくるか分かんないし、何があっても確実に対応出来るように連れてくのはジンライさんだけだから」

『母上ーー』

タツオが情けない顔をするが、敵陣のまっただ中へと向かうのだ。ただの戦闘以外の搦め手もあるかもしれない。故に風音もこればかりは譲れなかった。

「あ、シップーもね」

続く風音の言葉にシップーが「なーご」と鳴いて丸くなった。いじけたようである。ジンライが「よしよし。すぐ会えるからな」と背中を撫でている。

「後は私とジンライさんだけど……」

「そういや、俺に送ってもらうって言ってたけど、行き先はイプシロンじゃないのか?」

直樹が首を傾げながら尋ねる。

「違うよ。ダミー情報で私はミンシアナの王都に逃げ帰ってることになってるからね。その通りの状況に合わせるために一旦は直樹にはミンシアナの王都シュバインに運んでもらうから。そんでそこからサンダーチャリオットとマイティーでトゥーレ王国に直行するよ」

その言葉にジンライが「ほぉっ」と嬉しそうな顔をする。マイティーは風音がアガト用に造ったゴーレム馬である。風音はヒッポーくんシリーズでは足りない馬力を、マイティーを借りて補おうとしていたのであった。

「せっかくの公式訪問だからね。サンダーチャリオットで自重せずに一気に駆け抜けてやろうと思うんだよね」

ぐふふと笑う風音を見て一同は嫌な予感がしたが、今回ばかりはそれを止めようという者はいなかった。やってやれという気持ちの方が強かったようである。

そして、風音が今後の予定を確定させミンシアナの王都シュバインに飛んだ日の翌日、弓花はトゥーレ王国の王都イプシロンに辿り着いていた。

◎トゥーレ王国 王都イプシロン 正門

「おんや、あんた一人旅かい?」

「……ええ」

王都イプシロンの正門の前では、外から来る人間の列が今日も出来ていた。門番のマッガイはいつも通りに中に入る者達の確認と入場料をとる仕事を行っていた。

(なんだ。随分と暗いお嬢さんだな)

そんな人の列の中でやけに元気のない少女を見たマッガイは不審に思って尋ねた。

「どうしたんだいお嬢ちゃん。なんだか随分と元気がないようだけど」

「え……?」

その言葉に驚きの声をあげる少女の瞳からは一筋の涙がこぼれた。マッガイには分からないが、少女は優しく声をかけられたことで感極まっていたのである。そして、己の心の内にある言葉を吐き出した。

「旅の途中に大切なモノを……たんです」

ボソリとした声の少女の呟き。その重い声に門番は察する。

(このお嬢ちゃん。まさか……)

見れば少女の瞳には光がなかった。外から来た人間を長く見てきたマッガイだ。長年の経験からこの少女が道中にどういった目にあってしまったのかが嫌が応にも分かってしまったのだ。

「ちょっと山脈で……ええ、それから逃げ出せはしたんですが」

(15じゃそこらか。女性の一人旅ってのは危険が多いからな)

門番は少女を見る。綺麗なそれなりに長い髪で顔もそこそこに悪くはない。であれば、逃げ出せてこれただけでも奇跡だろうと門番は考える。その場で捨てられるだけならまだしも、普通であれば殺されるか、売られるか……ろくでもない末路が待っているものなのだ。

「それは災難だったな。まあ、ここまでくりゃ安心さ」

慰みにもならない言葉であることはマッガイも重々承知である。だからといって何も言わないという選択もマッガイにはなかった。

「それでだな。どこで……その、襲われたのか分かるかい?」

嫌な役目であることは重々承知である。少女には辛い質問だろうが、第二、第三の犠牲者を出さぬ予防を行うのも自らの務めだと考えてマッガイは尋ねた。

「ここから南にあるドララー山脈の西側の麓の川で……です。あまり土地勘はないので、それ以外はあまり……」

弱々しい声だ。マッガイはその内に怒りが湧き上がったが、それを抑えて笑顔を見せる。

「いや、ありがとう。それだけ聞ければ十分だ。辛いことを思い出させてすまなかったな。さあ、行っていいぞ」

そういってマッガイは扉を開き、少女を王都の中へと入れたのだった。

**********

「はぁ……」

正門を抜けた少女。つまりはポニーテールを解いて髪を下ろし、普通のリュックサックを背負った旅人ルックの弓花が、死んだ魚の目をして王都を見回していた。

このションボリとした女旅人が 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) であるとは、どうやら誰も気付いていないようである。まあ、無理もないし、そう見込んでの旅人の変装でもあった。仲間たちにすら忘れられがちではあるが弓花は一皮むければ見た目普通の少女なのである。

なお、不思議な袋は門の探査魔術によって察知されて中を検閲されることになるのだが、プレイヤーのアイテムボックスは引っかかることはない。そのため弓花は武器などの一切をバレずに持ち運べていた。

「みんな、元気だなぁ」

弓花は周りを見てつぶやく。

ミンシアナの白を基調とした王都シュバインのような優美な外観ではないが、王都イプシロンも活気はあるようだった。大きく違うのは兵士と共に鎧を着た土の巨人、ゴーレム兵が巡回しているくらいだろうか。

そんな町中を弓花がトボトボと歩いていく。愛槍シルキィの破損は未だ弓花の心に深い傷を残していたが、弓花はやることはやる女である。懐から紙を取りだしてそこに書かれた地図を見て進路を決める。

「そんじゃ、忍者さんたちに会うためにはっと……」

弓花は、マップウィンドウと手持ちの地図を見比べながら歩いていく。地図の指す場所にイリアの手配した忍びがいるはずであった。