軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都イプシロンにて

「恐るべき……というべきでしょうな」

ゴーレムマスター教会のナンバー2であるダンガーが目の前の兵器を見てうなり声を上げている。

その場は王都の中のゴーレムマスター教会の本拠ギーレの塔にあるダンガーの研究室である。北部鎮圧を終え、ようやく王都に戻ってきたダンガーであったが、教祖ワルギレオが手に入れたという半人半馬のゴーレム兵の調査をすぐさま命じられたのだ。

そして、現状までの調査を終えて、ワルギレオに告げたのが先の言葉だった。

「どうだ。凄かろう?」

新たなる玩具の自慢をするかのようなワルギレオの笑顔にダンガーも頷く。

タツヨ・シークン・ケイローンとワルギレオの呼んでいるゴーレムをダンガーが調べてからすでに半日が経過しているが、それは調べれば調べるほどに彼の知らない技術が出てくる全く新しいゴーレムの形であったのだ。

「本当に驚くことばかりです。まずは内部のマッスルクレイですが、これはどうやら作動時には我々の中にある筋肉に近い形態を取っていますな。これならばただの土塊のごとく扱う従来のゴーレムよりも力の強弱も取りやすく、その加減も繊細に行えましょう」

「確かにこれは相当に精密な動きをするからな」

ダンガーの言葉には実際に操作したワルギレオも頷く。

「ええ、単純にマッスルクレイを動かすよりも大きな効果があるでしょう。もっとも制御し切れていない部分もあるようで、一定条件下でのみリミッターが解除されるようですな」

「一定条件?」

いぶかしげな視線を送るワルギレオにダンガーが「そうです」と答えた。

「おそらくは直線移動や、押さえつけたり組み合ったりするときでしょうな。動作として複雑ではない、それでいてパワーのいるときに使用するようです」

その言葉に頷きはするもののワルギレオはダンガーに質問をする。

「しかし、それは普段はパワーに制限があると言うことだろう。常時リミッターを外すことは出来ないのか?」

しかし、その質問にはダンガーは首を横に振った。

「使用されている魔術式が異常に複雑です。バランスの調整は我々には不可能かと」

「奪い取るのはさほど苦労しなかったのだがな」

ワルギレオの言葉にダンガーは笑う。

「でしょうな。『そういう意味では』このゴーレムは素直なものなのですよ。律儀に我々のゴーレム魔術に模して、そういう構造にしているようですので」

「ほぉ?」

ワルギレオの目が細まる。

「それに、ヒヒイロカネを細い線にしたものを全身に張り巡らせて、魔力の伝達を早くしているようです。また、装甲の素材はアダマンチウムと竜素材の複合。内部の骨格部分はアダマンチウムで出来ていました」

レア素材ばかりで構成されている贅沢な造りである。

「それと肩に入っていた光る水晶ですが、あれがどういったものなのかは皆目見当が付きません」

「あれか。まるで太陽のようでありながら、目にキツくない」

ワルギレオとダンガーの視線が、今は肩の装甲となって左右に分かれた馬の頭部へと向けられる。瞼の部分が閉じられているが、現在も内部では水晶が輝いているはずである。

「その水晶も恐ろしく精巧な魔術式が込められています。恐らくは神域の技術でしょう。どこで手に入れたのかは分かりませんが」

「出来れば聞き出したいところだな」

ワルギレオの言葉にダンガーも同意する。

「そうですな。そして問題なのは動力であるベビーコアでしょう。これはミンシアナに難癖を付けられる可能性があります」

ベビーコアは心臓球と違って民間でも使用が許されている魔法具ではあるが、カザネ・ユイハマという王族の所有物であるとなれば、状況は個人相手ではなく国が相手ということになってしまう。

「面倒な連中だな。しかし、水晶はともかくベビーコアは渡せん。あれが核となっている以上は外せばただの木偶よ」

ワルギレオが忌々しそうにそう答える。また、ここまでの会話でもわかる通り、ゴーレムの技術に関してはワルギレオもダンガーも己らに所有権があることを疑ってもいないようだった。

「ミンシアナにカザネ・ユイハマの召喚をかけますか」

「そうだな。ある程度は譲歩してもかまわん」

ダンガーの問いにワルギレオが頷く。ゴーレムの技術を他国に売り渡したカザネ・ユイハマ。現状のトゥーレの立場からすれば、彼女は大罪人だが、ふたりにしてみてばカザネ・ユイハマの持つ技術は是が非でも欲しいものでもあった。

「しかし、応じますかな?」

「これほど見事なゴーレムを産み出す女だ。他国に技術を流出させた罪人ではあるが、トゥーレに従わぬことはなかろう」

ワルギレオは笑う。心底そう信じているようである。

「それに腕は立つようだが所詮は女だ」

ワルギレオは遠隔視で見た、小さな少女を思い出す。食指は動かぬが、女は女だとワルギレオは笑う。

「ものにしてしまえば良いだけのことだろう」

「女をそのように口にするのはあまり感心しませぬな」

研究室の入り口から女性の声が響いた。ワルギレオとダンガーがその声の主に視線を向ける。

「気を悪くするなベネット。お前は別だ」

「まあ、よろしいですが」

ワルギレオの悪びれない言葉にベネットと呼ばれた女性は、表情のない顔で言葉を返す。そして、ワルギレオの前まで来ると口を開いた。

「厄介なことが起こりました」

「どうした?」

ベネットは元からあまり顔色を変えることのない女性だが、その表情にはわずかばかりの動揺があることにワルギレオは気付いた。

「大監獄ケストラーデが襲撃されたとのことです」

ベネットの言葉にはワルギレオとダンガーが目を丸くする。

「バカな。まさか女王は?」

「奪われました」

ワルギレオの顔が歪んだ。トゥーレ王国の女王は他国に対する名目上の支配者であり、ワルギレオが国を統治する際の保険でもあった。それが奪われたという報告にワルギレオの心が穏やかではないものに変わる。しかし、ワルギレオの表情を伺うこともなくベネットの報告はさらに続いた。

「ミザーレの報告によれば襲撃者は正義の魔王アスラ・カザネリアンと名乗ったそうです。配下の竜人や同じ仮面の形状から、同時期に街に来ていたカザーネサマーという人物が魔王だったのでは……とのことなのですが」

ベネットの報告の中に以前に聞いた名前を耳にしてワルギレオの顔が歪む。

「なんということだ。ミザーレの馬鹿者め」

アスラ・カザネリアンの名はワルギレオにも覚えがあった。それは数ヶ月前に神託で告げられた魔王の名だ。

ベネットはワルギレオが考え込むのを見ながら、言葉を続ける。

「それとミザーレからワルギレオ様に伝言です」

「なんだ?」

どうイイワケをするのかとワルギレオは眉をひそめる。しかし、ベネットの言葉はワルギレオの予想外のものだった。

「なんでも『奪われた我が配下を取り戻しにいくので大事に扱っておけば慈悲を与えることもやぶさかではありませんよ』と魔王から言付けられたとのことです」

「配下? なんのことだ!?」

ワルギレオにはその言葉の意味するところが分からない。

「どうやら、以前に捕らえた冒険者の一味が魔王の使徒だったらしく、恐らくは例のマッスルクレイの人形を持っていた女とその連れのことだろうと思われます」

「なるほどな。あれはどうしたか?」

ワルギレオも以前に捕らえてからのことは知らない。興味があったのは人形の方で、その持ち主などどうでも良かったのだ。

「ワルギレオ様のご指示通りに地下迷宮に閉じこめて、能力を調べています。まだ死んではいませんが、永久に出れぬダンジョンですからそろそろ精神に異常をきたしているかもしれません」

「ああ、まだそのままだったか。ならば、とりあえずは引き上げておけ。魔王が来ると言うならば餌に使えるだろう。それとミザーレを呼べ。詳しく話を聞きたい」

続くワルギレオの言葉にはベネットが困った顔をする。

「どうした?」

ベネットの表情にワルギレオは首を傾げる。

「それが……ミザーレは魔王に監獄の管理を指示されているそうで、それを為すまで監獄都市からは出ないし、ワルギレオ様と魔王が和解するまではお会いもしないとのことなのです」

「どういうことだ?」

ワルギレオはいよいよ状況が分からず、ベネットに問いただす。

「報告書には魔王を敬称付けで呼んでいるようですし、洗脳でもされたのではないかと?」

ベネットも推測でしかないが、連絡用召喚魔に届けられた報告書を見る限りではそうとしか思えなかったようだ。そこまでの報告にワルギレオは目を細めて唸る。

「アスラ・カザネリアン……カザーネサマーか。ふざけた奴だ。いったい何者なのやら」

名前以外の共通点はない。まったくの不明だ。

「しかし、魔王殺しとなれば冒険者ギルド協会も俺をランクSにせざるを得んだろうな」

ワルギレオはそうニヤリと笑うと目の前のタツヨ・シークン・ケイローンを見る。

「ダンガー、こいつをモノにしておけ。魔王退治に使えるかもしれん。ベネットは守護兵装の整備を急がせておけ。如何に魔王といえどあれを相手に勝てるわけもないからな」

「あれを使うと?」

ベネットは眉をひそめる。

「ああ、そうだ。カザネ・ユイハマも呼んで魔王退治の見物としゃれ込もうじゃないか」

そういってワルギレオはにたりと笑った。

このワルギレオという男は、基本的に何もかもが自分を中心に動いていると考えてはばからない男であった。ここまでもそう考え動いてきたし、今までもそれでうまく回っていた。だから彼は自分が致命的な間違いを犯していることに気付いてはいなかった。

「さあ、楽しくなるぞ」

自分が今、どれほどの速度で人生の下り坂を転げていっているのか……ワルギレオはその事実をまだ、まったく理解していなかったのである。