作品タイトル不明
第五百三話 予定を告げよう
「全員揃ったみたいだね」
オーリがエレベーターを使って3階のリビングへと降りると、そこにはコテージの中にいた全員が揃って待っていた。そして、風音の言葉にその場の視線が一斉にオーリに向けられたが、オーリは特に気にせず椅子に座っているオルトヴァに声をかける。
「もういいのか」
「問題ない」
オルトヴァはそっけない返事を返す。
元より口数が少ない方ではあるが、仲間思いの男でもある。余計な心配をかけさせたくないという気配がにじみ出ているのを感じたオーリは、それ以上聞かずに席に着いた。
「オーリさんも落ち着いた?」
「ああ、なんと礼を言っていいものやらだな」
オーリの言葉に風音が眉をひそめる。
「んー、でも元々は私が渡したゴーレム人形が原因だから」
「カザネ、そりゃもういいっての」
続く風音の言葉をバックスが遮る。周りも頷いていて、風音は周囲を見回してバツの悪い顔をした。その辺りの空気を加味しながらオーリは口を開く。
「どうやら、すでに話し合いは行われたようだな」
「てめえが寝てる間にな。ま、カザネが気に病む必要はねえってのが俺らの結論だが、リーダーはどうだい?」
バックスの言葉にオーリは困った顔をしながら口を開いた。
「今回の件は人形がキッカケとしても、トゥーレに足を運んだのもハメられて投獄されたのも私たち自身の不手際の問題だ。それをカザネが気に病む必要はないし、その責任は私たちのものだ。それを奪って欲しくもない」
オーリの言葉にオルトヴァも頷く。風音は所在なさげな顔でまた周囲を見渡したが、みなオルトヴァやバックスと同意見のようであった。
そして、ひとり独り相撲の形になった風音が肩をすくめ、口を開く。
「うーん。分かったよ。それじゃあ、なしで。話を進めよう」
少しブスッとした顔をしながら風音は言って、トゥーレ王国の地図を広げた。
「とりあえずの今後の方針だけどね。オーリさんたちの目標はナイラさんとユズさんの救出。及びトゥーレ王国の脱出か、犯罪者の汚名の名誉回復ってところで良いよね?」
風音の問いにオーリが頷く。
「出来れば、連中を……いや」
オルトヴァが何かを言い掛けたが留まった。心の傷は深いようである。
「現時点でもオーリさんやレームをミンシアナに保護することは出来るよ。バックスさんたちは見てると思うけど、うちの直樹は転移が出来るからね」
風音の言葉に直樹が誇らしげに胸を張った。姉に褒められたことで気が大きくなっているようである。風音はただ事実を口にしただけなのだが。
「私たちはナイラとユズを助けずにこの国を出るつもりはないよ」
「だよね」
オーリの断定に風音も頷く。
「んじゃ、私もこのまま一緒に付いてくわ」
「レームはそれこそ一緒にいる必要はないと思うけど?」
「ミンシアナの女王にはあまり世話になりたくねえ。怖い噂しか聞かないしな」
ゆっこ姉の評価は情報統制のされていない国の外に出るほどに悪くなるのである。
「それに私は一応女王様ってやつだしな。自分の国の行く末くらいは見届けてえし、魔王様とも契約しちまったんだろ?」
ニヤリと笑うレームに風音は「しょーがないなー」と返していた。
「そういや、監獄では我が配下って言ってたようだけどさ。ありゃ、なんだったんだ?」
「ああ、それはユズさんとナイラさんのことだよ」
風音の言葉にライルが驚いた顔をする。
「俺はタツヨシくんケイローンだと思ってんだけど、違うのか?」
「愛され系冒険者の風音ちゃんと正義の魔王アスラ・カザネリアンさんは別人だから関係ないよ。ミンシアナ王族の風音ちゃんは領主様手配の馬車で王都シュバインに逃げ帰ってるしね」
風音の説明に、レームとオーリングのメンバーたちが首を傾げるが、現時点におけるワルギレオの認識はそうなっているのである。事前に行われた風音のダミー作戦と影武者イリアの配下の忍たちによる情報操作が効いていればの話ではあるが。
「そんで白き一団の目的は、私のゴーレム兵の奪還とゴーレムマスター教会の解体ってことになるね」
「でかい話だな」
オーリはそう言うが、まったく絵空事とも思ってもいないようである。そしてオーリは尋ねる。
「それはミンシアナ王国の意向ということか?」
風音がミンシアナの王族であるとオーリは聞いている。もっともよく考え直してみれば風音はプレイヤーなのだから王族であることはおかしいのだが、そうした立場にいるのは事実ではあるようだとオーリは認識している故の質問である。
「どちらかというと手を出さないように遠慮してもらってるところかなぁ。そっちの権力も使うには使うけど、私は私個人の意志で動いているよ」
しかし、風音はオーリの言葉に対しては否と答えを返した。
「悪いけどミンシアナには手を出させるつもりはないんだよね」
風音は続けてはっきりと言った。それは個人の鬱憤を晴らすためという感情面での答えでもあるが、ミンシアナ……というよりもゆっこ姉に任せた場合、ユズたちもタツヨシくんケイローンも無事ではすまなさそうだからということもあった。
「ま、俺としちゃ、あのバカどもを潰してくれるなら願ったり叶ったりだけどよ。本当にこの人数で勝算あると思ってんのか?」
風音と同サイズ同年齢のチンチクリン二号であるレームが挙手して、そう口にする。
「別に軍隊と戦うつもりはないからね。狙うのは連中の頭だけだよ」
「それでもワルギレオには守護兵装『クルミワリニンギョウ』がいるんだぜ?」
風音の言葉にレームが眉間にしわを寄せながら反論する。
守護兵装『クルミワリニンギョウ』。それはトゥーレ王国の王都イプシロンを護る、 魔力の川(ナーガライン) と接続出来る世界最大の『人形』である。
20メートルという人形としては常識外のサイズのため巨大ゴーレムとして認知されているが、その動きはまごうことなく『人形』そのもので、得た魔力を近接戦のみに特化させた掛け値なしの化け物であった。
「かつて王都にまで攻め込んだソルダードの兵5000名を拳だけで殺し尽くしたことでも知られている奴だ。あれは今、ワルギレオの手の中にあるんだ」
(思ったよりも人形って残ってるよね?)
風音はそう思ったがここまでに存在が判明しているのは、長命の吸血鬼の人形と達良コピーの殺魅オルタナティブだけである。どちらもかなりのレアなものであった。
「巨人があの動きをするんだよな?」
「正直、私の手には負えないね」
直樹の言葉にカンナが肩をすくめて答える。ふたりともゲームのことではあるが人形との戦闘は経験がある。ゴーレムに比べて軽い身体をフルに生かして速度を優先させた機動兵器。プレイヤースキルのないものをコンボで削り殺す悪魔である。
ジンライも以前の暗殺者の操る人形が巨大化した物をイメージして、
「それは少々、骨が折れるな」
と口にしたが、その顔の硬さは少々という言葉を遙かに超える覚悟があった。
「レーム。私はそれを出されても勝つって今朝言ったよ。どうやって勝つかは教えられないけどね」
「わーってるよ。確認だ。確認」
風音の言葉にレームが両手を上げて降参のポーズを取る。
「なるほどな。つまりは魔王アスラ・カザネリアン一派が、魔王と契約をした女王様に従って、己の使徒たちを取り戻し、ゴーレムマスター教会を潰すというのが君の筋書きだなカザネ」
オーリが今までの話の内容をそう纏めた。
「そうだね。正義の魔王様が女王様に従って戦うことが重要なんだよ」
「なんで正義にこだわるんだ?」
レームが首を傾げる。
「魔王なんて勝手に付けられた悪名をどうにかするためには必要なんだよ」
風音としては自分=魔王がバレる前に意識改革を行いたいのである。そのための悪役に利用するにはゴーレムマスター教会は、個人的な恨みも含めて考えてもうってつけであった。
「はぁ、私が魔王と契約か。まあ、間違いじゃあねーんだけどな。あったまいてえ話だな」
今後のことを考えてレームは難しい顔をする。それは魔王の配下認定のオーリングにしても同じであった。
「みんな、私と同じ思いを味わうといいんだよ」
風音は一人嬉しそうだった。苦労は分かち合うものだと実感しているようでもあった。
「まあ、今は弓花が王都に向かってるからね。作戦は弓花が到着次第ってところかな」
「転移術だな?」
オーリは直樹を見て呟いた。
「そういうこと。ミザーレが正しく伝言を伝えていれば魔王が王都に来ることはあっちも分かるはずだからね。警戒される前に忍び込んで背後から一気に仕掛けるよ」
風音はそういって天井を見た。その天井の先、同じ空の下にいる弓花を思いながら、
「そんで全部取り戻す。それで完了だよ」
そう答えた。
◎トゥーレ王国 ヴェーガー荒野
「むっ?」
『ウォンッ?』
弓花が唐突に後ろを向いたのを見て、弓花を乗せて走っていた魔狼クロマルが立ち止まった。
「いや、なんでもないよクロマル」
「ウォンッ」
弓花の言葉に従ってひとこと鳴くとクロマルはまた、荒野を走り出した。そうして進んでいく弓花とクロマルのことを気付いた人間は今のところいないようだった。魔物もまるで気付けていない。弓花は穢れなき聖女のケープをしっかりと被っていてスキル『インビジブル』が働いているし、弓花を乗せて接触しているクロマルにも効果が及んでいるためだ。
その上で弓花は『直感』と『犬の嗅覚』をスキルセットしていて、察知されてもすぐに対応が出来るようにもしていた。
実は風音達と分かれた弓花は昨日から、王都イプシロンへ向かって進んでいたのである。穢れなき聖女のケープの『インビジブル』は継続効果のため途切れることはなく、クロマルの移動は隠密に向いていた。その特性を活かして弓花は 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の刻印入りクリスタル風音ちゃん人形を王都に運ぶためにひとり、走っていたのであった。