軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百二話 リフレッシュをしよう

◎風音コテージ 6F ゲストルーム

「ここは?」

薄暗い明かりが灯る部屋の中で、オーリはひとり目を覚ました。それは今まで捕らえられていた牢獄とは違う場所で、久方ぶりの水滴の音のしない目覚めだった。

(いつものあの独房じゃない……?)

オーリは周囲の光景を見渡しながら考える。その目に映るのは白を基調とした清潔な雰囲気の部屋だ。まるで狐につままれたような気分にオーリはなっていたが、自分のいる場所が大監獄ケストラーデの最奥の独房『絶望の間』ではないことを理解出来るくらいには目も覚めてきていた。

(助かった。いや、助けられたのか?)

まだ、起き抜けで記憶がはっきりとしないオーリは考える。

(私は確か、独房を脱走しようとして……追いつめられて、カザネに救われた……のだったかな?)

徐々に記憶が蘇り、オーリはだんだんと自分の状況を思い出していく。オーリは独房を出て風音と合流した後は、監獄にエネルギー供給をしている心臓球の設置されている部屋まで入っていったのだ。

(だが、カザネが外で囲まれているバックスたちを見つけて、やむなく心臓球を破壊したんだったな)

心臓球といえば国家の重要な資源である。その破壊はどこの国でも非常に重大な罪ではあるのだが、

(トゥーレの女王様がいたのだからノーカンだと……カザネは言っていたが)

そこまで考えてから、オーリは考えるのを放棄した。それはもう、なるようにしかならないだろうと結論付けた。

それに……と、オーリは思う。あの監獄の兵たちは性格は最悪であったが、技量に関して言えば水準以上のものはあったと。また、監獄に収容されている犯罪者の中ではオーリがもっとも腕が立つとも聞いていた。であれば対処が出来ないということはないはずだ。

(風音は兵たちには手を付けなかった。あの人手がいれば監獄は大丈夫だろう)

オーリは振り返ってそう考える。

監獄の兵たちを思い出すと怒りで血が沸騰しそうな思いにかられるが、だからといって監獄都市の住人を巻き込むのはオーリの本意ではない。

幸いと言うべきか、監獄の兵の練度は高い。仮に囚人が暴れても取り押さえるのには問題はなかろうと。

(そう思いたいだけなのかもしれないがな)

オーリは苦笑する。ともあれ、オーリにとっては第一は仲間である。たとえ鬼畜とののしられようと最優先はそれなので後悔はしていなかった。

そしてオーリは、自分の横でオルトヴァが寝ているを見つけた。どうやら一番危険だと思われたオルトヴァも無事のようだとオーリは安堵すると、

(さて、どうしたものかな)

と考えた。このまま待っていれば、恐らくは誰かが来て事情も説明してくれるだろうということはオーリにも分かっている。放置されるなんてことはないだろう。

しかし、優等生であるオーリも冒険者であるには違いないのである。というよりも、優秀であるのに冒険者をしている時点で推して知るべしと言うところだろう。

つまりは溢れ出る好奇心を抑えきれずにオーリは部屋の外へと出ることにしたのであった。

(あそこから出れるか)

そしてオーリがドアの前まで進んでいき、取っ手に手をかけようとした直前にウィーンとドアが開いたのである。

「うぉっ!?」

オーリは目を丸くして、扉を見る。

「勝手に開いた。なんだ、これは? いや……確か」

初めて見る光景だが、オーリは父親から聞かされた話の中に似たようなものがあったのを思い出した。

「まさか、これがジドウドアと言うものか」

チャイルドストーン動力によるゴーレムの目との連動での開閉はオーリの聞いた自動ドアとは多少違うものだが、オーリはそれが風音たちプレイヤーの世界の技術で造られたものだと考え、胸が熱くなった。しかし、オーリの驚きは扉ひとつに留まらない。

「お、おおお」

部屋を出たオーリが、他の部屋もみな同じ構造だと知り、続いて階段を上がろうとして踏み出した途端に階段が動き出したのである。

ジドウドアとえすかれーたー。それはまさしく異世界の御技だと、動いている階段に乗りながらオーリは感動していた。

◎風音コテージ 7F フリールーム

「うんっ、ちゃんと動くな」

「ほ-ほー、中身はハニカムだか蛇腹だかの構造なんだね。アダマンチウム製のゴーレムを普通の操作術でも動かせるように工夫されてるってのは凄いね」

「むっ!?」

オーリが上の階に上がると、部屋の中に見覚えのあるものが立っていた。それは監獄で戦ったアダマンゴーレムであったのだ。もっともオーリもすぐにアダマンゴーレムの前にいる人物にも気が付いたし、相手もオーリのことを気が付いていた。

「あれ、オーリさん?」

『起きたんですね』

「やあ、カザネにタツオか。それに」

さらには振り向いたアダマンゴーレムの兜からレームの顔が出ているのが見えて、オーリも目の前の状況が理解できてきた。

(ああ、監獄で奪ったやつか)

オーリは監獄内で起動してなかったアダマンゴーレムを風音が鹵獲していたのを思い出したのだ。そして、ゴーレム魔術を使えるレームが手に入れたアダマンゴーレムの試運転をしているところなのだろうとも理解した。

「レーム様も一緒ですか」

しかし、続くオーリの言葉にはレームが眉をひそめた。そして、ガシャンとアダマンゴーレムの腕を動かして、オーリを指さしながら声を出した。

「様付けはいらねーよ。こう、距離が離れちまう感じがするからな。あんたもカザネと同じように呼び捨てにしてくれよなオーリ」

「しかし……」

男らしく言うチンチクリン二号にオーリは戸惑うが、続いてのレームの言葉にオーリはさらに目を丸くした。

「それにだ。それ言ったらカザネも王族だぜ。ミンシアナのだけどさ」

「え?」

オーリの視線が風音に向けられ、風音がいえーいとブイサインをする。タツオも一緒にくわーっと鳴いていた。

「まあ、ここでは身分も関係なく普通に接するようにって決まってるんだよ。だから今の私もあくまで一介の冒険者ってことでひとつよろしくお願いね」

その言葉にオーリは眉間にしわを寄せて考えるが、少し間をおいてから頷いた。

「うーん。分かった。レームにカザネ。これでいいだろ?」

その言葉にふたりは頷いた。続いての「あと、タツオもな」との言葉にタツオもくわーっと鳴いて返した。

「あー後さ」

それから風音は少し申し訳なさそうな顔でオーリに声をかけた。

「なんだ?」

オーリは首を傾げるが、どうやら風音だけではなく、レームも何か言いたいようだった。そして、続いて出てきた言葉はもっともといえばもっともなものだったのだ。

「オーリさん、臭いから風呂に入ったら?」

「だな。超くせーぜ、おめー」

ずっと閉じこめられていたオーリはひどく臭かったのである。

◎風音コテージ 5F 大浴場 着替え室

『ここがお風呂です』

パタパタと飛んで案内するタツオに連れられて、オーリは大浴場の手前に設置されている着替え室へと案内された。そこはかなり広めの部屋で、服等を置く棚と、洗面所にグルグルと回転している扇風機と、奇妙な椅子と、そこに座る……というか寝ている状態のバックスがいた。

「おおおおーオーリか。起きたんだなーー」

バックスが締まりのない顔でオーリに声をかける。

「バックス。お前も無事で何よりだが……何をしているんだ?」

「何って……まっさーじちぇあとかいうものらしいぜー。おお、効くなあ。背中とか足とかをゴリゴリモミモミしてくれて超気持ち良いんだわ」

心底、気持ち良さげなバックスを見て、オーリもその動く椅子が激しく気になったが、タツオがくわーっと鳴いたことで自分が何をしに来たのかを思い出した。

『まずはお風呂です』

「そうだったな。私は臭いんだった」

ちみっこ二人から無邪気に臭い臭いと言われてオーリは若干ヘコんでいた。そして気持ち良さげなバックスの横で着ているものを脱いで、オーリは浴場へと入ることにしたのである。

◎風音コテージ 5F 大浴場

「これはすごいな」

スモークガラスの扉を開けてオーリが浴場の中に入ると、そこはまるでこの世のものとは思えない光景であった。

『母上の自慢の一品です』

タツオがくわーっと鳴いて自慢をする。

湯船の中心に置かれた、湯を口から出す水晶竜の像も見事なものだが、大理石と鏡、水晶などで組み合わされたような浴場全体の光景もまたオーリの見たこともないものだった。その中で特にオーリの目を引いたのが湯船の中にあった。

「なんだ、あの泡は?」

オーリの言葉にくわーとタツオが鳴いた。

『母上の力作だそうです。ジェットバス的なヤツとライブラ風呂とかいうそうですよ』

「やあオーリ、これは気持ちがいいぞ」

泡の出ている湯船には先客がいた。オーリングのメンバーの一人であるアグイである。

「アグイ。お前も大事ないようだな」

「ああ、今は命の洗濯をさせてもらってるところだ。まったく、どういう極楽なんだろうな。ここは」

その言葉にオーリは肩をすくめる。オーリもアグイと同じ感想しか出てこない。

全くもってこの建物の中はオーリの今まで見たこともないようなものばかりであったのだ。

(これが異世界。父さんの故郷の世界の技術か)

そんなことを思いながらオーリは置かれている石鹸を使い身体を洗い、ジェットバスを味わい、出てから不滅のガウンを着て冷えたフルーツ牛乳を飲み、マッサージチェアでもみほぐされた頃にはもう、完全に顔が惚けていた。

それから、どうやってたどり着いたのかも思い出せないくらいにボーッとしながらオーリはいつの間にかラウンジに置かれている椅子に座って天井の池を眺めていた。

(……もう夕方か)

水晶ガラスの先の空の赤さを見ながらオーリは自分がどうやら朝に寝て夕刻に入った辺りに起きたらしいと気が付いた。

(はーー、ここは天国か。私はもう死んでいるのかもしれないな)

オーリはテーブルに置かれている果実水を手にとって飲み干す。身体の回復はまだ完璧とはいかないが、もう動けないというほどではない。

(ここがどこだかは分からないが、監獄都市からはそう離れた場所ではないだろうし)

王都まで馬車で二週間というところだろうかとオーリは計算する。そして、今の自分のような安らぎを感じられていないはずの二人のことを考えながら、立ち上がった。

「どこかに行くつもりか?」

不意に声がかかる。

「……ナオキか」

オーリが声の方を振り向くと建物の入り口の前に直樹が立っていた。そして直樹は地上へと続く扉を指さす。

「出口はあれだ。自動で開いて上まで行ける」

続けてコテージへの入り口を指さした。

「けど、ナイラとユズを助けるんなら下だ。これからのことを話し合おうって姉貴が呼んでるぜ。それがユズたちを救う一番の近道だと俺も思う」

そう言いながら直樹は「先行ってるぜ」と口にして建物の中へと入っていった。その様子を見て、続けて空を少し見てからオーリは苦笑いをする。

自分だけの力で救うことに意味はないのだ。誰が救おうと、どう救おうと構わない。ナイラとユズを救う道があるならばオーリは何にでも手を差し出すつもりだ。それが例え魔王の手を取る結果となっても……

そこまでの決意を持ってオーリはコテージの中へと入っていく。

しかし、オーリは忘れていた。己の頭の中で考えた例えがまったく例えになっていないという事実を忘却していた。

魔王アスラ・カザネリアン。神託によって告げられた最も新しき魔王は、今まさに地の底でオーリが来るのを待っていたのである。