作品タイトル不明
第五百一話 隠れ家に戻ろう
大監獄ケストラーデを抜けた風音たちは監獄都市ドルアージ内も悠々と通り抜けて、そのまま街の外へと出ていった。
アスラ・カザネリアンの一行は余りにも異様な姿ではあったが風音の『魔王の威圧』による『説得』で警護兵たちとも交戦することなく、無事街を抜けられたのである。そして風音たちは隠れて移動して、ジンライたちの待つ風音コテージへと向かったのであった。
◎監獄都市ドルアージ 近隣の森
「よーし、ここだよ」
救出作戦自体が夜から開始されていたため、すでに真夜中というよりはそろそろ明け方という頃合いである。そんな時間の、星々の瞬く空の下にある森の中で風音は声をあげた。
「ここってどこだ?」
「森と池だな」
後ろについてきているバックスとアグイがそう言葉を交わしあう。
なお、オーリとオルトヴァはバンブーキノコの効力が切れたことで眠りにつき、今はユッコネエの背に乗せられていた。
「ここってここか?」
レームが首を傾げて周囲を見回す。風音に案内されてたどり着いたのは森の中の小さな池の前である。周囲には木々が生えている以外は本当に何もない場所であった。
「池だよな? この中に潜れってのか?」
レームは自分の服装を見て、そして池を見た。水はあまり汚くはないようだが、それでもレームは唸ってしまう。何しろレームは着の身着のまま出たので、その服だけしか持っていないのだ。
「まさかだよな。ここでジンライさんとでも待ち合わせしてるってことか?」
過去にジンライと交流のあったらしいバックスが尋ねる。しかし、風音は首を横に振る。
「いんや。レームの想像通り、この池の下というのは正しいけど入り口はこっちからだよ」
『ここから下に入るのです』
風音と頭の上に乗っているタツオがそう言って池の横にある岩に近付くと、レームたちがギョッとした顔をした。突然、ウィーンと岩が分かれて階段が出てきたのである。そのギミックにはレームやバックス、アグイが目を丸くして見ているが、風音は気にせず「ついてきて」と言いながら階段を下りていった。
その後ろではカンナが「そりゃ驚くよねえ」と笑っていて、エミリィとライルと頷いている。初見では彼女らもレームたちと同じ反応をしていたのである。
「すげーな、こりゃ」
そして、レームが階段を下りると、そこにあったのは風音コテージ最上階のラウンジであった。吹き抜けであるはずの上にはクリスタル加工のガラス窓がはめられて、まるで天井に水槽があるような形になっていた。外にあった池はどうやらこのラウンジの上にあるようである。池を通して空に浮かぶ月が見え、池の中の魚の影も目視出来た。
レームはその天井の光景に驚き、さらにはラウンジに設置してある水晶竜の噴水などを見ても「すげーすげー」とトテトテと走りながらはしゃいでいた。落ち着きのない女王様であるが、年頃の身でずっと幽閉されていたことを考えればやむを得ないかもしれない。
「まさか、これがユズの言ってたゴーレムコテージか?」
アグイは信じられないものを見る目でラウンジを見渡しながら、もしやと思い風音に尋ねてみた。少なくとも見る限りは古い遺跡でもないようだし、風音たちが普通に建設したには時間の間隔がおかしい。
「そうだよ。穴を掘ってそこにはめ込む形でコテージを入れてあるよ。実は普段はここは最上階なんだよね」
アグイの問いに風音があっさりと答える。アグイは風音の言っていることのほとんどが理解できなかったが、ユズの語る風音のゴーレム使いとしての異常さは垣間見えた気がした。
なお、現時点での風音コテージは階層が増えており、1、2階が倉庫、3階がリビングとキッチン、4階がプライベートルーム、5階が大浴場、6階がゲストルーム、7階がフリースペースの大部屋、そして風音たちがいる屋上がラウンジという構成になっている。
それから風音たちは中で待っていたティアラたちと再会し、衰弱しているオーリとオルトヴァを客室で休ませた後は、すぐさま浴場を使って垢を流し落とすことにした。疲れを癒して次の戦いに備えることにしたのだ。
そして風呂から出た風音たちをリビングルームで鬼が待っていた。今回、まったく出番がなく血の涙を流していた鬼がじっと待っていたのであった。
◎風音コテージ リビングルーム
「ご苦労だったなカザネよ」
「えっと、うん」
言葉だけならば労っているのだが、明らかに纏う雰囲気が労をねぎらっているように見えない男がいた。それはソファーに座って風音と向かい合っているジンライである。その背後には「ナー」と前足を挙げて威嚇しているシップーがいて、風音の座っているソファーの後ろではユッコネエがヤンノカコノヤロー?的な意味合いで「にゃー」と鳴きながら前足を上げて威嚇していた。
「大監獄ケストラーデに潜入。見事、女王陛下とオーリングを救い出し、ロクテンくん阿修羅王モードで大暴れか。さぞかし爽快だったであろうな」
滔々と口にするジンライに風音はアハハと笑いながら先ほどの状況を思い出す。
メガビームを吸収させた『光輪』爆弾で心臓球を破壊し、『魔王の威圧』で数百人の兵たちをかしずかせ、戦艦トンファーで質量攻撃をしてさらには自爆攻撃。
スキル『武具創造:黒炎』で偽装させた狂い鬼、ホーリースカルレギオン、黒ミノくんを立ち並ばせてから神炎の大太刀『 焔(ほむら) 弓花(ゆみか) 』でアダマンゴーレムをブッた斬り、最後は壊れてたけど微妙に通り辛かった門を旦那様フルバーストで破壊して悠々と監獄を出たのである。
風音はそこまでを思い出しながら頷いて、
「大丈夫。大したことはしなかったよ」
と口にした。根拠は不明である。勿論ジンライも信じてはいない。コテージに降りてきた時の呆けた表情のバックスたちを見れば、ある程度は度肝を抜かれるようなことが起きたのは間違いがないからだ。
「謙遜はいい。しかしな、カザネよ。ワシはここしばらくは外にも出ずにずっと槍をひたすらひとりで振るっているだけだったのだ。せめてサンダーチャリオットで爆走したり、 雷神砲(レールガン) をバカスカ撃てれば気持ちもリフレッシュ出来ようが」
「サンダーチャリオットは今ヒポ丸くんがいないから無理だし、 雷神砲(レールガン) はモロバレするよね」
風音のどこまでも正しい指摘にジンライがグヌヌヌと唸る。ジンライも風音の言うことは分かっているのだ。自分が理不尽なことを言っているのも遊びではないことも。つまりジンライはいじけているだけなのである。それはルイーズですら「面倒臭い」と思っているほどであった。そんなジンライの手前のテーブルに、続けて風音の前にも湯飲みが置かれた。
「たくよー、おっさん。コイツは私を救うために色々と頑張ってくれたんだぜ。何言ってんだかわかんねーけどあんまいじめんじゃねーよ?」
お茶を置いたのはレームである。ジンライは少女の仲裁にむぅと唸る。ジンライは実のところ人見知りなので初対面の相手とは上手く会話が出来ない。素っ気ないと見られるのもそれが理由である。
「その茶でも飲んで落ち着きな。カザネも熱いから気を付けろよ」
「ん、あんがと」
そして風音とジンライが茶をすする。
「ふむ。美味い」
ジンライは嘆息する。茶を差し出した少女の心が染み渡るように感じ、ジンライは己の狭量さを自覚する。自覚するのが全くもって遅すぎるとは言うまい。
そして和んだ空気を察し、シップーとユッコネエの前足が下がる。もっともユッコネエは「私にガンつけたよね。後で覚えておきにゃ」というニュアンスのメンチを切ってシップーが「ナー」と悲しい声を上げていた。獣社会は縦社会なのだ。
「それにしても、レームちゃんは女王様だっていうのに気配りの出来る子よね」
『まったくであるな』
ルイーズの言葉に幼グリフォン形態のメフィルスが頷いた。レームは仮にも一国の主ではあるが、現時点で本人が普通に接するように求めていたのでその通りの扱いとなっていた。もっともいるメンバーも驚異の王族率であるし、その点ではあまり違和感もなかった。
「んー、女王っつってもな。私は2年前まで祖父さんと暮らしてたし、仕えてるのもメイドゴーレムくらいだったからな。あれは簡単なことは出来ても客に茶も出せねーから私がやってたし、大体のことは自分でやるしかなかったからなぁ」
「えーと、王族だったのよね?」
ルイーズの問いにレームが眉をひそめた。
「祖父さんはゴーレムマスター教会も、それに従う他の王族も信用してなかったんでね。ま、結局人間が信用できなくて私を連れて田舎に引っ込んでたんだが最後は病気で死んじまって、王族のゴーレム教会へのクーデターに参加できなかったんだよ」
レームは寂しそうにそう返す。しんみりとした空気の中、風音が「ゴーレムメイドって何?」と気になった単語を声にしてレームに尋ねた。風音は興味のあることには物怖じしない子であったし、レームもしんみりして欲しいわけでもないので明るく答える。
「トゥーレ初代王ダンテ・ゴーリアスの作品だよ。ゴーレムのコアストーンを加工して動作パターンを保存してるから、動作を切り替えて色々な用途に使えるんだよな。まあ今はワルギレオに盗られちゃったけどさ」
風音は「へぇ」と感心する。コアストーンへの動作パターンの保存はゴーレムメーカーにはない機能だ。風音にとっては非常に気になる話であった。
ともあれ、そこで一区切り付いた形となりまったりとした空気となった。そして風音は周りを見渡して話を切り出すことにしたのである。
「そんじゃ、そろそろ本題のこれから先の予定のことを話そうと思うけど、いいかな?」
風音の言葉にその場の全員が頷いた。そしてこれから先のこと、つまりはゴーレムマスター教会との対立のことを風音は話し始める。
それはこの場にいない弓花のことにも関連する話であった。