軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百話 魔王を再臨させよう

「遅かったな脱走者ども」

ミザーレは意気揚々とそう告げた。

そして、大監獄ケストラーデに侵入した愚か者たちを取り囲むのはミザーレ配下の兵の中でも選りすぐりの猛者たちだ。さらには彼らの前にアダマンゴーレムが23体並んでいる。

このアダマンゴーレムとはアダマンチウム装甲をいくつも重ね、ゴーレム使いが動かしやすく稼働するように設計されたゴーレムである。動作こそ通常のゴーレムと同じだが魔術をものともせず、アダマンチウムであるが故に物理攻撃もほとんど効かないというトゥーレ王国の主要兵器であった。

対して敵は竜人族らしき者が3人。囚人が3人。人族らしき者が2名。戦力の差は歴然と思われた。

「バックス、アグイ、オルトヴァ。貴様等は度し難い愚か者たちだな。そして、それを手引きした竜人族、お前たちも同様に咎人となったわ。おとなしく裁きを受けるべく、お縄についた方が身のためだぞ?」

監獄から出てきたライルが「ふざけんな」と叫んで返す。だがライルも他の仲間たちも動けない。こうも周囲を囲まれては逃げ出す糸口が掴めなかった。

「ならばやむを得まい。力ずくで押さえつけ、生きていることを後悔する目にあってもらおうかッ」

そのミザーレの言葉に従い、兵たちの囲いがジリジリと縮まっていく。その中心で構える脱走者たちだが、すでに決着はついたものだとミザーレは考えていた。

脱走者たちにはもはや打てる手はなく、今やミザーレの頭の中は手引きをした竜人のひとり、虹色の輝きの美しき少女をどう犯してやろうかという品のない考えにまで及んでいた。

監獄施設の一角の爆発の音を聞くまでは……

「なんだッ!?」

ミザーレは唐突に起きた光と爆発に目を丸くしていた。

何かが起きた。それは分かった。そして、その何かはすぐにやってきた。空を飛んで、彼らの前へとやってきたのだ。

「なんだ、あれは?」

「デカい。なんて禍々しいんだ!?」

兵たちがざわめいた。やってきたのはそれだけのインパクトのある存在だった。

彼らが見たものとは巨大な黄金の翼を羽ばたかせ、背に炎を背負い、また炎を纏ったマントを羽織った六本腕の巨大な黄金の巨人だった。

『控えよっ』

声が響く。それは魂の根元から恐怖を呼び覚ます声、上位存在からの抗いがたき命令そのものだ。

「ふざけるなっ! 何者だ貴様は!?」

だがミザーレは屈しなかった。屈せず叫んだ。また、彼によって選ばれた兵たちも同様にひざを折ることはなかった。いずれも震えこそあったが、彼らは弱兵ではない。唐突に現れた巨人に対抗すべく武器を構え、睨みつける。そんな兵たちを前にして黄金の巨人は告げる。

『我は魔王アスラ・カザネリアン。トゥーレ王国の女王との契約によりここに降臨した』

高らかに述べる言葉にミザーレの目がつり上がる。魔王を名乗る巨人が近づくにつれて、その腕に少女を抱えていることに気がついたのだ。そして、その人物はミザーレには当然見覚えがあった。

「れ、レーム・ゴーライアス……女王陛下。どういうおつもりですかな?」

兵たちの前だ。一応の臣下の礼を持ってミザーレは声をかける。しかし、ミザーレも内心ではかなり動揺をしていた。レームを幽閉していた塔は極めて強力な封印によって護られていたはずだ。それがミザーレにも察知されずに解除され、レームがこの場にいるという状況が分からない。

「う、うるせー」

対してレームは涙目であった。理由は空を飛んでいて怖かったからである。

『女王は我と契約をした。邪悪であるワルギレオ・ディーア、そしてゴーレムマスター教会を誅せんがために正義の魔王である我はここに現れたのだ』

「正義だと?」

どういう戯れ言かとミザーレは思ったが、魔王からは戯れの空気はない。もっとも、その言葉が本気かどうかはミザーレには関係のないことではある。

「戯れ言だ。魔王を名乗るような阿呆であろうが、どうあれ貴様はここで死ぬ。撃てっ!!」

ミザーレの命令と共に、ミザーレの周囲のゴーレム使いたちが一斉に岩石弾を放った。10を越える岩の塊が高速で魔王へと放たれるが、

『笑止ッ!』

魔王の周囲に不可視の壁が発生し、岩石弾は魔王に届くことなく弾かれて崩壊した。

そして、黄金の翼をはためかせて悠然と魔王は地面に降り立った。レームが「こえーよーこえーよー」と涙目で地面に降り、弓花たちの後ろにやってきていたオーリの背中にトテトテと進んで隠れた。

『たかだか石ころ程度で我を殺せると思うてか。愚かなるゴーレム使いよ』

「黙れ。魔王気取りも大概にしろ。すでに結界強度は上げてある。故に空からだろうと抜け出すことは出来ん。門とて閉ざされている以上はお前たちが逃げ出すことは不可能だ」

ミザーレがまくし立てるが魔王はくぐもった声で笑う。

『分からぬのか? 結界ならすでに解けておるよ。先ほどの爆発が何か分からなかったのか?』

魔王の言葉にミザーレの顔が青くなる。爆発の起きた場所を思い出し、ある可能性に突き当たったのだ。

「貴様、まさか監獄の魔力供給源の心臓球をっ!?」

『破壊させてもらった』

あっさりと言う魔王にミザーレは戦慄く。大監獄ケストラーデの正しく心臓部である心臓球をあっさりと破壊したと言われたのだ。

「あそこには何重もの封印があったはずだぞッ!?」

ミザーレは驚愕して叫んだ。

心臓球のある場所は、女王の幽閉塔以上の強固な魔術の封印がかけられていたはずであるというのに、それをあっさりと解いたという。ミザーレにはとても信じられない。

『我に解けぬモノなどない。もっとも封印ではなく固定されたものであったが故に破壊するしかなかったのは確かに惜しかったがな』

魔王の言葉にミザーレがうなり声をあげる。その言葉は確かに実際に心臓球を見た者にしか言えない言葉だ。

この大監獄ケストラーデ周囲の結界や内部における大規模封印術は心臓球のエネルギーに頼っているが、永きに渡る使用により心臓球は大監獄と一体化しつつあった。すでに癒着されたものを剥がすのは容易ではなく、早急に活動停止させるならば破壊するしかない。

「だが、だがまだだ。監獄の門はここのみ。貴様は空を飛べるとしても、そこにいる連中は出れんだろう。だったら」

ミザーレが叫ぶが、魔王は『ならば』と口にすると、その手を掲げた。

『その門も破壊してやろう』

そして、ミザーレは見た。天より降り注ぐ、

「船? 戦艦だと?」

20メートルはあろう鋼鉄の戦艦が二隻、空から降ってきて門と衝突し、

『爆ぜるがいい!!』

魔王の言葉とともに大爆発を起こしたのを。

もはや、ミザーレも、その配下の兵たちも言葉が出なかった。

ガランッと門からひしゃげた扉が外れて、けたたましい音を出して、地面に転がった。

『そして、紹介しよう。我が従僕たちを!』

さらには魔王が手をかざすと、一体は瞬時に、二体は魔法陣より巨人たちが出現した。

一体は背に黒い二本角を生やした荒々しき黒い鬼、一体は骸骨の集合体、一体は巨大なミノタウロス、いずれも血管のような赤いラインの入った黒い鎧を身につけていた。

兵たちはその姿に完全に呑まれていた。さきほどの空から降ってきた巨大な船だけでも彼らは対処出来る気がしなかった。さらには目の前の巨人たち。あれにも勝てる気がしない。

そしてだ。仮に勝てたとしても、その後ろにはあの魔王がいる。不可能だと誰もが思った。この時点で目の前の黄金の巨人が魔王であることを疑う者はおらず、その心は折れていた。

『さて、もう一度言うぞ?』

「な、何を?」

魔王の言葉にミザーレが絞り出すように声を出した。

『控えろ、そして 跪(ひざまず) くがいい』

告げられた命令はミザーレの心に鋭く突き刺さった。

「ぐっつ、ぬぁぁああああッ!!」

だが、ミザーレは堪えた。額に青筋を浮かび上がらせながら、叫び声をあげながら耐えた。強力な精神力で押さえ付けたのだ。

「あ……なんだ……と?」

もっとも他の者たちも同じかと言えば、そうではない。

ミザーレは周囲を見て今度こそ驚愕した。

己の配下であるはずの兵たちが、ゴーレム使いたちが、膝を突いて頭を垂れている。もちろん、目の前の魔王アスラ・カザネリアンに対してである。

「貴様等。何をしている。顔を上げろ、あれを殺すんだッ」

ミザーレがそう叫ぶも誰もが顔を上げることはなかった。その言葉を聞くまいと必死で耐えていた。恐怖で顔が歪んでいた。その様子を見た魔王が笑う。

『さあ、どうするミザーレ・エイモン? 我に頭を垂れるか、或いはその頭を落とされるか……』

魔王がミザーレを見る。残りはお前だけだとプレッシャーをかける。

「う、うぉおおおおおお!!!」

そして、魔王の言葉に対するミザーレの返答は、アダマンゴーレムの突撃であった。ミザーレとてゴーレムマスター協会では5番目の使い手。性根が腐っていようと並の実力ではない。恐怖をねじ伏せ、敵を倒さんと己を鼓舞したミザーレはその場の23体のすべてのアダマンゴーレムを操り、特攻させたのだ。

『 水晶の竜姫(クリスタルプリンセス) 、前へ』

対して魔王は告げる。

ミザーレは見た。脱走者たちと共にいる、まるで人間離れした幻想的な美しさを持つ竜人が前に出るのを。

『我が刃となれ』

魔王の言葉と共に美しき竜人は猛々しく燃え広がる大太刀へと変わっていく。その大きさは魔王の倍近くあり、魔王とて両手を使って持ち上げるほどのものだった。

「 水晶の竜姫(クリスタルプリンセス) の正体は魔王の所有物……まさか、 魔王の花嫁(ブライドオブサイタン) だとでもッ!?」

ミザーレは叫ぶ。そのミザーレの前でアダマンゴーレムが次々と破壊されていく。白い炎を纏った巨大な刃は恐るべき速度でアダマンゴーレムを解体していく。アダマンチウムの装甲が易々と斬り裂かれるのだ。ミザーレはもはや絶句するしかない。

「あ……あああ」

そして、先ほどよりももう20年分ほど老けたような顔のミザーレの前に魔王が立った。

殺されると思い、ミザーレが覚悟を決めて下に俯いた。生への執着はあるが、ここに至ってはもはやどうにもならないという諦めの方が強くなっていた。しかし、ミザーレに最後の瞬間は訪れなかった。その代わりにとてつもないエネルギーが発生し、爆発音が響きわたる。

何が起きたのか、俯いたミザーレには分からない。周囲の兵たちも頭を垂れたままだから分からない。ミザーレが恐る恐る爆発のした方に視線を送った。

「お……おおおおお……」

先ほど破壊された監獄の門とその周辺の壁がものの見事に消滅していた。ミザーレはもはや言葉もなかった。そして、魔王はすっかりうなだれたミザーレに告げる。

『ミザーレ・エイレン。貴様に伝言を命ずる。ワルギレオに伝えておけ。貴様に奪われた我が配下を取り戻しにいくと。故にせいぜい、大事に扱っておけ。さすれば、或いは慈悲があるやもしれんとな?』

「は、はひッ!」

その魔王の言葉にミザーレは涙を流して平伏した。もはや、心は完全に折れていた。ミザーレは魔王に屈したのだ。

そして、魔王とトゥーレの女王、魔王の従僕たちが堂々と破壊した門を抜け去っていく後ろで、ミザーレたちはまるで忠臣が如く、膝を突き、頭を垂れて見送り続けた。

魔王アスラ・カザネリアンの再臨。

それは、黒き石の森で姿を見せた魔王が再び世に出た瞬間であった。