軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十九話 突貫をしよう

「ふへー生き返ったぜ」

ポーションをがぶ飲みし、外傷をヒールで癒し、さらには稀少なバンブーキノコの欠片をも食したバックスの全身は、今や湧き上がる力を抑えつけるのに必死なほどに気力が充ちていた。

「バックス、武器はこいつを使って」

「済まねえ……ってこりゃ、アダマンチウム製の斧?」

バックスはパーティメンバーのカンナから手渡された斧を見て驚いていた。造りこそ甘く大したものではないが、素材がアダマンチウム製の武器だったのである。バックスの持っていた斧に比べれば質は悪いが十分に強力な装備ではあった。

「さっきの回復アイテムは白き一団からの提供品でこれはレンタル品だからね。無くしたりしないように」

そういって肩をすくめておどけるカンナにバックスが「ヘッ」と笑いながら斧を振る。

「オルトヴァ、どうだ。大丈夫か」

「すまないな。もう、立って歩くことは出来るようだ。バンブーキノコの力のおかげだな」

アグイは拘束リングを外されたことで使用可能となった回復魔術で、オルトヴァの傷を癒していた。ただのポーションでは回復できぬほどに体力のないオルトヴァはダメージを受けていたのである。

「大丈夫かな、オルトヴァさん?」

「エミリィ、今はそっとしておいてやれ」

離れた位置で心配そうにオルトヴァを見るエミリィにライルは苦々しい顔で忠告した。オルトヴァの受けた苦痛は肉体と精神の両方に及ぶ。特に女性に気遣われるのはオルトヴァの心をさらに傷つけるだろうとライルは考えていた。

「そんでカンナよ。オーリの方は大丈夫なんだな?」

バックスがカンナに尋ねる。今一番気になるのはそこだ。ユズとナイラの所在は不明だが、オーリが監獄の奥に閉じこめられていることは分かっている。

「風音ちゃんが救出しているから問題ないよ」

カンナの言葉にバックスが「頼りになりやがるな」と笑う。採掘場で交わした約束通りに風音は動いてくれているようだった。そんな若干和やかな雰囲気のなか、弓花の視線が通路の奥へと向けられた。

「む、来たね」

現在の弓花は竜人化した状態だが、化生の巫女の『化生の加護』スキルにより、『直感』と『犬の嗅覚』も発動している。先んじて相手の動向を掴むことなどお手の物であった。

「そんじゃあ、今度は俺が行くか」

「やれる、ライル?」

気遣わしげな弓花の問いに、ライルが牙をむき出しにして笑う。

「弓花はその竜人化を維持してなきゃいけねーんだろ。戦闘なんかしたら竜気なんてすぐに尽きちまうぞ」

ライルの指摘に弓花が眉をひそめる。

実際、弓花も竜気の補充なくとも一時間以上は変化していられる程度にはコントロールが利くようにはなったが、それでも戦闘に力を使うとなれば持って精々が30分というところだろう。

「任せなって」

そう言うライルが破壊された牢屋の壁を悠々と跨ぎ、通路へと出た。バックスはその様子をジッと見ている。

「あのライルがなぁ」

バックスには目の前の少年が自分の知り合いであるライルとは正直、思えなかった。以前とは肌も目も髪の色も違う。牙が出て、何よりその身から溢れ出ている竜気が人間以外の気配を漂わせている。

「やっぱり、ライルくんって随分と変わっちゃったの?」

バックスの様子を見てカンナが尋ねる。カンナはあの姿のライルしか知らない。以前にカザネ魔法温泉街で遠目には見ていたはずだが、そのときはライルのことなど気にしてはいなかったので覚えていなかった。

「別にあの姿になったからってだけじゃないさ」

カンナとバックスの元に、直樹が声をかける。

「どういうことだ?」

「この旅で俺たちも成長してるってことだ。あいつだって竜になっていなくても、もう以前のライルとは別物だったはずだ」

バックスの問いに直樹はそう返す。

「そして、エミリィもな」

直樹の視線の先には、ライルと竜人化したエミリィがいた。なお、直樹は筋肉痛の痛みに耐えるために床に転がったままなので正直格好悪かった。

「そんじゃ、やりますか」

グルングルンと右肩を回すライルにエミリィの眉間にしわが寄る。

「油断しないでよ、兄さん」

「あったりめーだ」

『来るぞッ』

ここまで近付いてくれば、弓花でなくとも分かる。無数の足音に、怒気を孕んだ気配。そして、通路の角から兵たちが飛び出してくる。

「いたぞ囚人どもだ」

「武装してやがるぞ。なんだあの連中は!?」

やってきた兵たちは囚人だけでなく、謎の武装集団がそこにいたことに目を丸くしていた。

「アイツら、例の連中だ。カザーネサマーの仲間だ」

「竜人族か。ふざけやがって。トカゲどもが何しにきた?」

口々に叫びながらも、兵たちは通路に広がっていく。取り囲んで手数で攻めれば、如何に実力差があろうと捕らえるのは難しくはない……はずだった。

「行くぜぇ、ジーヴェ!!」

『任せよッ』

ライルの身体から爆発的に竜気が放出される。

「ォォォオオオオオ」

そして、解放された竜気は巨大な赤黒いドラゴンの頭部を形作り、

『行けっ』

「突貫!!」

通路いっぱいに広がった竜気と共に弾丸のようにライルが飛び出し、攻めてきた兵たちはまとめて弾き飛ばされた。

「なんてパワーだよ、畜生が」

バックスが信じられないようなものを見る目で呟いた。

そう狭くはない通路だが、それでもライルの竜気を抑えるには足りなかった。弾かれた兵たちは壁に叩きつけられ、そのまま床に転げ落ちていく。

「つぇいっ」

そして、兵の集団の中心で勢いを失ったライルはそのまま戦闘を開始する。とはいえ、竜気で吹き飛ばした時ほどの勢いはさすがに出せない。

「力は強いが、技量はそこまで高くない」

「押し切れッ」

兵たちが、口々に状況を言い合いながら進んでくる。

「よく訓練されてやがる」

「感心してる場合じゃないでしょ」

ドスッと、ライルの背後で剣を振り上げた兵の腕に矢が貫通する。さらには、続けて無数の矢が飛び交い、兵たちを倒していく。

「『見えてる』だろ。任せてんだよ」

「もうっ」

ライルの言葉にエミリィが悪態をつくが確かにエミリィは竜人化したことで、ライルの視界や感覚を離れた位置から感じることが出来るようになっていた。

エミリィは自身の目と合わせることで、ライルの周辺であればほぼ確実にヒットできるほどの精度を得ていたのだ。

「そんじゃ私たちも行こうか」

「へっ、身体が動きたくて仕方ねえって感じだ。やれるぜ」

そこにカンナとバックスも参戦する。

「直樹、飛び出ちゃ駄目だよ」

「どのみち、今は無理……」

ライルたちが兵を蹴散らしながら進むその後ろをついて歩いている弓花と直樹がそう言い合う。直樹は戦闘スタイルが独特なために、今回は戦闘は控えるように風音に指示されていた。もっとも『狂戦士化』の反動の状態異常『筋肉痛』に苦しめられて今は戦える状態ではなかったが。

「それよりも気付いてるか?」

直樹が口を開く。

「連中の練度がおかしい」

「だね」

直樹の指摘通り、弓花も今の状況が可笑しいとは気付いていた。ライルとエミリィは随分と強化されていたし、そこにカンナとバックスが加わったことで強力な布陣であるのは間違いない。しかし、簡単すぎるのだ。

「見たところ、弱そうな若手ばかり。誘われてるってこと?」

「ま、進むしかないけどな」

弓花のつぶやきに直樹が警戒しながらもそう返した。

◎大監獄ケストラーデ 正門前

「っしゃーーー!」

ライルが最後の兵を槍の柄で殴りつけて壁に叩きつける。

「こいつで最後だな」

「そして、この先が門の前よね」

エミリィがそう答えながら扉を開く。監獄の建物をエミリィたちはついに抜け出せた。その先にあるのは、監獄を護る巨大な門だ。その門を抜ければ、脱走完了である。

そして……そこでは彼らが待っていた。

「遅かったな。脱走者ども」

ミザーレ・エイモン。この監獄都市の領主と屈強な兵たち234名。さらには20を超えるアダマンゴーレムたち。

「へっ、こいつは随分と豪勢な出迎えだな」

ここまで快進撃だったライルもその光景にはさすがに額から冷たい汗が流れた。

大監獄ケストラーデを抜けた先、そこにはミザーレの最大戦力総出の出迎えが待っていたのである。