作品タイトル不明
第四百九十二話 再会をしよう
監獄都市ドルアージのアウター、ミゲル・シャイアンは夕方から広まっていった情報を元に仲間たちと共に目標がいるはずの宿屋の前へと来ていた。
「ミゲル、ここにその……竜人どもがいるってのか?」
仲間のひとりがミゲルに尋ねる。この場にいるのはミゲルも併せて21人、全員が冒険者で言うならばランクBからランクCに該当する腕の持ち主たちで、ミゲルの所属するアウターファミリー『ヴォーダル』の主立った戦闘員である。
「ああ、 魔金剛石(マナダイア) を持ってる上に、アダマンチウムも随分と手に入って懐も暖かいらしいからな。その上に領主様と反目中。俺らが狙っても兵隊さん等も笑って見逃すって話だ」
ミゲルが笑いながら、そう返した。
夕方からアウターに広まった情報とは 魔金剛石(マナダイア) を手に入れた採掘者がいるというものだった。換金されて保管されているならばいざ知らず、個人で所有しているのであれば無理矢理奪い取っても逃げ切れれば捕まらずに済ます方法もある。その上に 魔金剛石(マナダイア) 所有の探索者たちが領主に睨まれているとなれば、やらない理由がなかった。
「しかし、竜人ってのは強いんだろ?」
男たちの中の一人がそう呟いた。その相手にミゲルが苦笑しながら言葉を返す。
「力はな。けど、この人数で囲めば問題ねえさ」
狭い宿屋の中だ。大勢で押し掛けて取り囲んでしまえば、どうとでもなるとミゲルは考えていた。
「それに連中の仲間の一人が病弱らしくてな。宿屋に篭もりっきりだってんだ。そいつを人質にすりゃあ、案外楽にいくんじゃねえかな」
ミゲルはさらに仕入れていた情報を口にする。
情報が正しいか否かはともかくとしてミゲルも全くの考えなしというわけではなかったのだ。これまでもそうして対応して上手くもいってきた。だから、今度も同じだと考えていた。この瞬間までは……
「言質は取ったよ。勘違いってシラを切られる心配もないってことだよね」
どこからか声が響いたのだ。しかし、ミゲルはその声が聞こえているにも関わらず、声の主を捜そうとする意志が希薄であった。探したいと思えなかった。
そうして右と左の家の陰に隠れていた片方、11人いたミゲルたちの集団の真ん中にトンッと誰かが降り立った。11人が12人になったのだ。しかし、ケープを被っていて顔の見えない人物を誰も気に出来ない。
「え、あれ?」
その集団の中でミゲルだけはわずかな違和感を感じ取った。そして気づいた。
(ひとり多い?)
しかし、ミゲルがそう思ったときには意識が刈り取られた。一瞬で、何か長い棒のようなもので叩きつけられたような感触と共にミゲルの意識は完全に沈んだのであった。
◎監獄都市ドルアージ 宿屋ミカミカン
「ふうっ」
最後のひとりを槍の柄で叩き倒し、その意識を奪った弓花がケープのフードを外して一息ついた。槍術『転』を繰り返し使用した結果、『穢れなき聖女のケープ』のインビジブルの効果がほぼ消える前に弓花はその場の全員を倒していた。
「うわっ、すっごいなぁ」
弓花はもう一組の集団の方を見た。
まるで駒のように人が飛んでいる光景がそこにあった。カンナの『神速』と『空中跳び』を併用した連続蹴りである。そして、最後の一人も吹き飛んだのを見ると弓花はゆっくりとカンナの元へと歩いていった。
「お疲れさまです。凄い勢いで倒してましたね」
「そっちこそ。ほとんど一瞬で終わってるじゃないか。こっちなんて結構ギリギリだったんだからね」
カンナは苦笑いをしながら弓花の倒した男たちを見る。実際、カンナの言う通り、奇襲だからこそ成功したのであって10対1で囲まれればカンナも苦戦はしただろう。なのでカンナも手加減せずに攻撃を食らう前にカタを付けるべく最速で仕掛けたのだ。弓花からすれば斥候でここまで強いのだから十分だろうなとは思ったが、ともあれ戦闘は終了。続いて必要なのは状況の確認であった。
「それで、こっちはエミリィちゃんが病弱で人質にって話をしてるぐらいしか聞けなかったけど、そっちはどう?」
「私たちが 魔金剛石(マナダイア) を持っていて、領主と反発してるってのを知ってるっぽかったですよ」
カンナの問いに弓花がそう答える。
「なるほど。魔金剛石狙いか。ミザーレの部下? じゃなくてこいつらアウターみたいだし、嫌がらせに情報をアウターに流したってことかな」
「うわ、タチ悪い」
弓花が嫌そうな顔で周囲の男たちを見る。悪そうな顔ではあるが、実力は大したものではなかった。街の中にいるアウターには良くいる感じの連中であった。
「ま、昼間のやりとり見てれば分かることだから自然に情報が流れたのかもしれないけど、同じような連中が絡んでくる可能性は高そうだね」
「そうですね。まったく面倒な」
カンナの推測に弓花は苦々しい顔をするが、窓から顔を覗かせるエミリィとライルを見て気を取り直して笑顔でふたりに手を振っていた。
それからアウターたちは呼びつけた警護兵によって捕まったのだが、警護兵は領主に目を付けられた弓花たちの警護を渋ったために宿屋への警護は行われなかった。
なので、その後もアウターたちは3度ほど無防備な宿屋の前へと襲撃のために訪れ、弓花たちによって撃退され続けたのだった。
そして最後にやってきたアウターも全滅させて、ひきつった顔の警護兵へと引き渡しを終えた弓花が眠りに入ったのはもう明け方で、その頃には山脈の採掘場にも動きがあったのであった。
◎ベルヴェラーザ山脈 採掘場
「寝ぼけずにさっさと進め。クズどもがッ!」
鞭で地面を叩く音が響き渡り、囚人たちがビクッとした顔をしながらツルハシを持って坑道を進んでいく。
「くっそ。眠いし、酒が飲みてえ」
そんな中をパーティ『オーリング』のバックスが眠そうな顔で進んでいく。バックスが歩いているのは先日に見つかった新しい採掘場への坑道だ。今回は特に力が強いメンツが集められ、こうして朝方から駆り出されていた。
「はぁっ」
バックスは採掘場に入って指示された場所に向かうと、言われたとおりにツルハシを振るって岩を崩し始めた。
(アダマンチウムか。俺の斧はどうなってんだろうなあ)
バックスは己の相棒とも言える斧のことを思い出す。バックスの所有していた両手斧はアダマンチウム製だった。これといって特徴があるわけではないが、アダマンチウムは硬く魔力耐性もそこそこで、ゴーストなどのアストラル体にも物理効果を出せるのだから素材としてはかなり優秀であった。
(ユズとナイラは連れて行かれたままだし、このまま岩掘って人生終了ってわけじゃあねえよな)
バックスは苦々しい顔をしながら、ツルハシに力を入れて掘り続ける。バックスたち囚人はアダマンチウムを大量に掘り出したからといって何か得るものがあるわけではない。しかし、動かなければ鞭で打たれて、最悪のたれ死ぬ。それに結果が出せなければ食事は減らされる。魔術師で体力のないオルトヴァはもう相当に参っていた。
(オーリもな。さすがにありゃ拙かったしな)
一週間前には状況の凄惨さに見かねたオーリが脱出を企てたが、結局は失敗し、現在は監獄内の奥の部屋に閉じこめられている。どうにかしたいがどうにもならない。今もオーリの仲間であるバックスたちは監視の目が強化されているのだ。嫌がらせの方も激しくなっている。
(ま、ナイラとユズが一緒じゃないだけ救いがあるか。ここじゃあ何をされるか分かったもんじゃねえからな)
今現在の二人の所在は不明だが、今のバックスたちよりも良い環境にいることを祈るしかなかった。
そしてバックスが再度ツルハシを振り下ろすと、自分の後ろに監視員が立っていることに気付いたのである。
「なんだ? 見ての通り、真面目に仕事してるぜ?」
剣呑な視線をバックスは監視員を送る。
目つきが悪いだけでも罵倒される。しかし、この時のバックスは鞭で打たれようが知ったことかと若干投げやりな気分になっていた。それに事実としてバックスは普通に採掘をこなしていただけで咎められる要素はないはずだった。
「うんうん。お仕事ご苦労様。けどそろそろ元の職に戻りたい頃じゃないかな?」
「は?」
突然子供のような声を出す監視員に思わずバックスが間の抜けた声をあげた。同時にバックスはその声に聞き覚えがあることにも気が付いた。
それほど長い時間一緒にいたわけではないが、一度会えば忘れられないインパクトの少女の声に目の前の監視員の声は酷似していたのだ。
「まさか……お前は?」
思わず名前が出そうになるバックスに対し、監視員は口元に人差し指を当てて「静かに」というポーズをとると、ボソボソとバックスに呟いた。
「遅くなってごめんね。カンナさんに聞いて助けにきたよ」
その言葉にバックスは笑みが隠しきれなかった。バックスはまさしく己が待ち望んでいた瞬間が訪れたのを感じていた。
「遅え……なんて言わねえさ。ここまでお前は来てくれたんだ。それだけで十分だ」
そう答えたバックスに監視員が首を横に振る。バックスの身体を見ればここまでの苦労が分かる。受けてきた苦痛を感じている。
「十分なんかじゃないよ。この程度じゃぜんぜん足りない」
怒りは心の奥底に封じ込める。感情に流されず、目的をなすために、笑顔でいつものペースを保たせていた。自らの意識をそらすためにここしばらく随分と集中していた。そして、それらを解放するための一歩を踏み出すために『風音』は力強くこう言った。
「それじゃあ、反撃開始と行こうか」