作品タイトル不明
第四百九十一話 待機をしよう
風音たちが採掘場に侵入しタツオの訓練を行っている頃、弓花たちがどうしてるかと言えばドルアージの宿屋では風音の帰りを待つべく待機に入っていた。
◎監獄都市ドルアージ 宿屋ミカミカン
「すぅっ……ハッ!」
大きく息を吸い込んだエミリィが、己の内側にある新たなる魔術の起動式を意識して発動させ、魔力の消費と共にライルとのパスを構築していく。
「ジーヴェ、来た」
『では送るぞッ』
続いて繋がったパスからライルが竜気をエミリィへと送っていく。
「くぅっ、ぅん……」
それを受けたエミリィはわずかな喘ぎ声を出しながら己の肉体へと竜気を循環させる。すると髪は赤茶から赤黒い色へ、さらには牙が生え、爪を伸ばした竜人へと変わっていく。これで竜人化が完成である。
「よし、上手くいったな」
「さすがにもう発動失敗はしないですよーだ」
満足そうなライルの言葉にエミリィはそう返した。
エミリィは一日に何度かこうして竜人化を行い、徐々にその状態を慣らしていっているのである。そうして変化が完了したエミリィは、備え付けの鏡台に自分の姿を映して眺めた。
「うーん。私も弓花みたいに綺麗なのが良かったなぁ」
「うふふふ……」
エミリィの言葉に弓花は満足そうに笑った。今は元の姿に戻ってはいるが、弓花は昼頃にチヤホヤされたことで相当に満足しているようだった。「今日から私は 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) ではなく 水晶の竜姫(クリスタルプリンセス) だから」とも口にしてルビとか付けてるのだから相当であろう。
「ま、元が元だからな。黒岩竜と水晶の青竜じゃ見栄えからして違うんだから、しゃーねえって」
『見た目で強さが変わるものでもない。十分であろうよ』
ライルの言葉にジーヴェの槍が若干不機嫌そうに答えた。ジーヴェにしてみれば見た目の美しさなどどうでも良いのだから不満を漏らされても知ったことではないのである。
「それって竜騎士契約の力でなってるんだよね?」
「そうだよ」
弓花の問いにエミリィが頷いて答える。
「それじゃあさ。私はこの竜結の腕輪を介して変化してるから分からないんだけど、エミリィとライルの交わしてる竜騎士契約って普通の契約みたいに知識とかも共有してたりするわけ?」
一般的な竜騎士契約とは、竜が人に力を貸す代わりに人が自らの知識を竜に共有させることで竜の知性を引き揚げる契約となっている。しかし、弓花に問いにはライルは首を横に振った。
「いや、わざわざ妹の知識とかいらねえよ。ナオキスキスキーとかなっても困るしな」
エミリィは「も、もう、何を馬鹿なこと言ってるのよ」と顔を赤くして抗議をしていたが、ライルの表情は真剣そのものであった。冗談の入る余地はなかった。
「だから基本は力の受け渡しだけだ。血が繋がってる分パスも繋がりやすかったし、普通の竜騎士契約よりもすんなり出来たって言われたな」
「うん。親方さんから改修してもらった弓も竜気を乗せやすくなったし、併せて随分と威力も上がったんだよ」
ライルとエミリィの言葉に弓花もなるほどと頷いた。ライルとエミリィは竜騎士契約を行うためにゴルディオスの街を離れて王城デルグーラで特訓をしていたのだが、その成果は確実に出ているようである。
と、その時である。
「あ」
いきなりの弓花の様子にライルとエミリィが首を傾げる。
種を明かせば風音からメールが届いたのを弓花が察知しただけなのだが、ふたりには当然見えていないので弓花の表情の変化の意味が分からなかったのである。
「風音ちゃん、どうやら入れたみたいだね」
そして、同じメールを受け取ったであろうカンナの言葉によってライルとエミリィはー先ほどの弓花の様子の意味を理解した。
「そうですね。オーリングの人が来てくれるといいけど」
風音のメールを読み終えた弓花はカンナに頷いた。
風音は採掘場に忍び込んだのは囚人たちと接触するためではあるが、オーリングのメンバーがいなければ別の囚人用採掘場を探す必要が出てくる。
「そういえばオーリングの人って私はまだ会ったことないんだけど、どういう人たちなんですか?」
「あれ、弓花ちゃんってオーリくんたちと会ったことないんだっけ?」
弓花の問いにカンナが意外そうな顔をした。風音もライルもエミリィもオーリングのメンバーとは知り合いなので、カンナは弓花もそうだと考えていたようである。
「ええ、オーリさんがイケメンでユズさんって子がゴーレム使いなのは聞いてるんだけど、他のメンバーについては詳しくは知らないですね」
「まあ、ユミカはブルーリフォンの時にはいなかったからな」
ライルの言葉通り、風音がオーリたちと接触したのはハイヴァーンのブルーリフォン要塞という場所で、弓花はそのときは一緒にはいなかったのである。
「そうだね。なんで今のうちに聞いておこうと思って」
弓花の言葉を聞いてカンナが少し考えてから口を開いた。
「そんじゃ簡単にだけど説明するよ。まずはリーダーのオーリくんだけど『氷剣』のふたつ名を持っていて純粋な剣士だね。天才肌だけど努力家で、若手でランクAに駆け上がった実力を持ってる」
カンナの言葉にライルが続く。
「オーリは剣の腕だけならハイヴァーンでもかなり上位だぜ。3年前の大闘技会では優勝してたしな」
「へぇ、そりゃあ凄い」
三位入賞であった弓花が純粋に驚いているが、弓花の参加した前回の大闘技会では明らかに上位二名の実力が異常であったので実のところオーリの参加したものよりも難易度は随分と高かったりする。
「続いて聞いているのはユズちゃんだよね。ゴーレム使いで風音ちゃんと同類……って言っていいのかな? このトゥーレ王国出身であの年でのゴーレム使いではなかなか優秀なほうだって聞いてるよ」
「カザネと違って控えめで可愛らしいヤツだよ……主に性格的な意味で」
続くライルの言葉に弓花は「あははは」と笑った。確かに風音が控えめなのは背と胸ぐらいで、他はそうとは言い難いものがある。
「後は斧使いのバックスはドワーフで力があって、ナイラさんは弓使いでパーティのお袋さん的な人かな。神官のアグイは回復役で実直な人。魔術師のオルトヴァは少し皮肉屋だけど魔術師としての腕は確かだよ」
そこまで続けて話したカンナの説明に弓花も「なるほどね」と頷いていた。
そして、弓花がさらに詳しく話を聞こうとしたとき、脳裏にピーンッと来るモノがあった。
(『直感』が働いた? 知らない臭いが纏まってる?)
ここに来るまでに弓花の『化生の加護』スキルはレベルが上がっており、セットできるスキルが2つに増えていた。そして、弓花が現在セットしているのは『犬の嗅覚』と『直感』である。
風音も所有しているこのふたつのスキルは非常に便利なもので、組み合わせれば奇襲などを喰らう前に察知できる効果があった。
「弓花ちゃん?」
突然の弓花の反応にカンナが訝しげな目で見る。その視線に弓花が眉をひそめながら口を開いた。
「敵意があって、すぐにでも仕掛けてきそうな感じの……よく分かんないけど敵がいます」
弓花の言葉にその場の全員の顔が真剣なモノに変わる。つまりは宿屋周囲で何者かが襲撃の準備に入っているということである。
「数は分かるか?」
「全部で21。それほど強そうじゃないけど、殺る気のある臭いを出してる」
ライルの問いに弓花がそう返した。
「宿の人には迷惑かけたくないし、すぐに迎撃しよう。右側は私がやるから……左の集まりは」
「私がやるよ。マップ共有で位置を教えて」
誰を選ぼうかと仲間たちを見た弓花の前でカンナが立ち上がり、弓花もその判断に頷いて肯定した。
「じゃあここです」
弓花がマップウィンドウを広げてカンナと共有し、敵のいる場所をチェックを付けた。その様子にライルが声をかける。
「弓花。俺たちは?」
「いつでも飛び出せるようには戦闘準備はして待機しておいて。後、宿に入りそうだったら撃退しちゃって」
弓花の言葉にライルとエミリィが頷いた。
「そんじゃ行きますね」
「うん。突撃タイミングはスキルチャットでいいかな?」
弓花「了解です」
神奈「そんじゃ行こっか」
どちらもチャットウィンドウを開いて確認しあい、窓の外を見た。
弓花は穢れなき聖女のケープを被り、『インビジブル』を発動させて窓から飛び出し、カンナはスキル『神速』を使って一瞬でその場から姿を消したのであった。