軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百八十九話 拒否をしよう

◎監獄都市ドルアージ モーデ酒場

「とんでもねえ連中だ。まさか、あんな岩盤をくり抜いてアダマンチウムを見つけちまうんだからよー」

風音たちが見つけた新たな採掘場の発見は夜の間には街の採掘者たちの間を駆けめぐり、その翌日にはドルアージ中の酒場でその話題がひっきりなしに飛び交っていた。

基本的に遊戯などが多いわけではないこの世界では、盛り上がる話題というのは貴重な娯楽のひとつだ。ましてやこんな鉱山街で話題になるような話など多いわけもなく、この流れは必然でもあった。

そして、そんな活気付いた酒場のひとつに風音たちはいた。

「今日の酒はカザーネサマーのおごりだとよー」

「すげーぜ。仮面の人」

「やるなカザーネサマー」

酒場の中心にいるのはカザーネサマーこと風音であった。風音はアダマンチウムを換金した金をバラまいて酒場を貸し切ってその場の全員に奢っていたのである。

また、その周囲では宿屋待機のエミリィとタツオを除いた潜入メンバーが忙しなく動いて情報収集を行っていた。

『あっはっはっは。飲んでー、食べてー』

そして風音は上機嫌であった。なぜならば調子に乗って掘りまくっていたら 魔金剛石(マナダイア) まで見つかったのである。

風音はビギナーズラックと言っていたが、それが嫉妬に繋がらないのは風音たちが早々に新しい採掘場を報告して広めたのと、こうして酒場を貸し切って奢る気風の良さを見せたためだろう。もちろん、それもこれも情報収集のための撒き餌である。泡銭が手に入って気が大きくなっているわけではない。

『飲めー飲めー』

違うはずだ。

「おめぇさんとこのリーダーは気前が良いな」

「ええ、私もそう思うわよ」

風音中心の盛り上がりの端でカンナは己の本分を忘れずに情報の収集を行っていた。弓花やライルもそれとなく周囲で話を聞いて回ってはいるようだが、弓花に関しては無駄に終わりそうだった。

弓花は風音の竜気での竜人化により髪は虹色に輝き、その肌は透き通るような白さの実に人間離れした美しさを放っていたのである。

周囲にはイケメンはおらずおっさんばかりではあるが、それでもここ最近の化け物扱いを考えればお姫様扱いされる今の状況に弓花は非常に満足していた。というか心の底から嬉しくて泣いていた。とても情報収集出来る状態ではなかったのである。

一方でライルはと言えば周囲に溶け込んで熱心に何かを話してはいて無難にこなしてはいるようであった。

そんな他のメンツの様子をチラ見しながらカンナは採掘者たちとの話を続けていく。

「へっ。今頃は役人どもも歯軋りしてやがるだろうぜ」

「いい場所は全部連中の犯罪者に持ってかれるからな」

採掘者たちの苛立ちの声にカンナが「ま、そういう連中だもんねえ」と返すと、採掘者たちから次々と同意の声があがっていった。

「特にゴーレムマスター教会は、今の代の教祖に代わってから横暴が激しくなってきてるからな」

「教祖ワルギレオだったっけ? あのいけ好かねえのは」

続いて話題にあがったのはワルギレオ・ディーア。今現在、白き一団やカンナと敵対していると言っても良い存在である。あちらが敵と言うほどにカンナたちを気に留めているかは不明ではあるが。

「俺も余所者だからよく分からねえがゴーレムという技術を信奉している連中らしいぜ。カンナちゃんは知ってるかい?」

「話ぐらいはね。ここ最近も随分と熱心に動き回ってるってのは聞いてるよ」

何しろ、教祖自らミンシアナに乗り込んでいたくらいである。アグレッシブであるのは間違いなかった。

「かといってこういう採掘作業なんかにゃゴーレム出さねえんだよな。俺らを小突くぐらいにしか使いやしねえ」

「まあ、換金所では見習いが訓練がてらに鉱物と岩を分離してくれるのは助かってるがよ」

「ゴーレムってのは彼らにとってはプライドそのものみたいだものね」

そう言いながらカンナは仲間のユズを思い出す。

基本的にトゥーレ王国のゴーレム使いは己のゴーレムを騎士の剣のような、貴きものとして認識しているらしく、雑事の手伝いには使うなど以ての外と教えられているらしいのである。

ユズもそうした傾向はあるのだがカンナが出会った頃には風音の影響でその方面は若干緩くはなっているようだった。

「ここの監獄にゃあ、ゴーレム侮辱罪で連中に捕らえられたのが何人もいるみたいだぜ。コエー話だよ」

そう口にした採掘者にカンナの視線が向けられる。

「でも犯罪者は犯罪者でしょ。そういう人と一緒に穴を掘るって怖くはないの?」

そのカンナの問いに男たちは少し考えてから口を開いた。

「あんま、そう言う風には考えたことはねえな」

「そうだな。俺らと連中は基本的に会わねえからな」

「俺も遠目にしか見たことはねえよ。あっちが鉱山内のルートを区切って移動させるからぶつかることもないし」

「それをズラして進むのは面倒だが、連中のアダマンゴーレムにゃあ逆らえねえしよ」

口々に出てくる情報の中で、カンナは気になる単語を口ずさむ。

「アダマンゴーレム?」

カンナにはその名に聞き覚えがなかった。そしてカンナが採掘者たちにアダマンゴーレムについて尋ねようと口を開きかけたところで、バンッと酒場の扉が開いた。

「控えよっ」

突然のことに酒場の中がガヤガヤとざわめく中、開いた扉の外から妙にゴテゴテとした格好の男が入ってきて、さらには男の周囲を騎士たちが壁となって囲っていた。その様子をカンナが訝しげに見る。

「誰?」

「ミザーレ・エイレン。この街の領主でゴーレムマスター教会のナンバー5だ」

カンナの問いに採掘者のひとりが答える。そしてカンナの視線が再度ミザーレへと向けられる。さらには酒場の扉の外にいる大きな人型もカンナは視界に捉えた。

(金属製の……あの輝きはアダマンチウムのゴーレム?)

カンナは眉をひそめて考える。大きさは3メートルほど。全身がアダマンチウムであるとすれば、それを崩すのは容易なことではないのはカンナにも想像がついた。

そして、酒場の中をミザーレが突き進み、風音の前へと立ったのである。

「妙な仮面の小さな者。お前がカザーネサマーか?」

『ん、そうだけど。あんたは誰なのさ?』

風音は風音で訝しげな視線でミザーレを見る。偉そうな男ではあるが誰だかが分からない。

「この街の領主のミザーレだ。今日はお前に話がある」

『何かな?』

不躾なミザーレの言葉に風音も内心ではカチンとはキていたが、表面上は気にしない素振りで言葉を返す。大人の対応である。

「アダマンチウムの中から 魔金剛石(マナダイヤ) を手に入れたそうだな?」

『そうだね。私が買い取って今持っているよ』

風音は正直に答える。

領主ならば調べれば分かる……というよりも報告を受けてここに来たのだろうから隠し立てしても仕方がない。

「単刀直入に言おう。それを売る気はないか?」

『ないね』

ミザーレの問いに対して風音は間髪入れずに拒絶の言葉を返した。それにはミザーレも眉をひそめたが、風音も言葉を違える気はないようだった。

「貴様。なんだ、その態度はッ!?」

風音の態度に護衛騎士のひとりが声を荒げて叫んだ。しかし風音はその視線を護衛騎士に向けた。

『誰だろうと知ったことではないよ。こいつは私が掘って手に入れてちゃんと正規の代金を払ったものだからね。国の管理下でない以上は権利は私にあるし、譲る気もないよ』

その言葉は至極真っ当なものである。如何に権力の持ち主とは云え、正しく取り引きしたものであればその権利を動かすのは難しい。特に目の前の竜人たちの出自を考えれば、西であれ東であれ竜の里ともめ事となるのはよろしいとは言えないはずであった。

『魔導大国で杖を造る気なんだよ。これは触媒としては一級品だものね?』

そう言いながら風音が 魔金剛石(マナダイア) を出して見せる。

「デカいな」

拳よりひと回り小さいサイズの結晶体である。これを買ったことで風音の懐がまた寂しくなっていたが、自分で発掘しての購入は正規ルートの半額程度なのでお買い得なのは間違いなかった。

『まあ、諦めなよ。私は譲る気はないから』

そう言ってジロリと睨む風音に、周囲の兵たちがたじろぐ。風音は『魔王の威圧』と『怒りの波動』のどちらも発動してはしていないが、身に付けているのは王者の気配を放つ『覇王の仮面』である。

装備者にすらも影響を及ぼす呪いのアイテムの力にミザーレ以外の全員が迂闊に何かを言うことも出来なくなっていた。

「まあいい……」

ミザーレは、目の前の仮面を付けたチンチクリンをただ者ではないと把握するとその話を終えた。

「話はもうひとつある」

『何さ?』

風音の視線を受けて、ミザーレはニヤリと笑って口を開いた。

「昨日に見つかったアダマンチウムの採掘場。あれは我々ゴーレムマスター教会が接収させてもらう。光栄に思うようにな」

ミザーレはそう口にし、周囲の悔しそうな顔を見て満足そうに頷いた。

実はさすがのミザーレも新しい採掘場を発見した風音には便宜を図るつもりではあったのだが、ここでの風音の態度にその気も失せていた。故に意趣返しとばかりに笑って返したのだ。

だが、それもミザーレが笑っていられたのも僅かな時間だけであった。

『で?』

一言そう告げた風音の全身から怒りの波動が溢れ、声には恐怖を呼び起こす力が篭ってたのだ。それこそ酒場の中の空気が本当に一瞬で凍るほどの威圧が放たれた。

「ぬ……うぅ!?」

それに当てられたミザーレが後退りをする。

もっとも風音から発せられた『魔王の威圧』『怒りの波動』『フィアボイス』のトリプルに気絶をしたり膝をつかなかったのはある意味では褒めるべき事だろう。

それはミザーレという男がただ地位に護られた人物ではないという証拠ではあったが、それでもその場に立っているのもキツいようだった。

「くっ、行くぞ」

ミザーレはもはや立つのも苦しくなり、不機嫌そうに声を荒げながらきびすを返して酒場を出ていった。それに取り巻きの騎士や兵たちも慌てて付いていく。腰の抜けた者もいたが肩を担がれて出て行ったようである。

そして、全員が去ったのを確認すると酒場が一斉に沸いた。彼らもトゥーレの兵たちに煮え湯を飲まされてることも多かったのだからそれも当然の反応であろう。

「すげえな。カザーネサマー。睨んだだけで追い払いやがった」

「けど、あの野郎め。また旨いところだけ掠めとりやがって」

「おとといきやがれってんだ」

口々に交わされる言葉の中で、仲間たちは風音の元へと集まる。

「ちょっと、かなり冷や冷やしたわよ」

少し顔をひきつらせた弓花の言葉にライルが頷いた。

「カザネがこのままミザーレをぶっ飛ばしちまうんじゃないかと思ったぜ」

『それはそれで良かったのかもしれぬがな』

ライルの言葉にガーとジーヴェの槍が鳴いた。その言葉を聞いて風音が苦笑する。

『まあ、ちょっとイラッとは来たけど、別に問題はないよ。舐められないように少し脅しただけだしね』

「……少し?」

弓花が首を傾げる横でカンナが口を開く。

「それよりも良い情報が手に入ったみたいだね」

カンナの言葉に風音は頷いた。

『そうだね。『囚人が作業する場所』をわざわざ教えてくれたんだからね。あのおっさんには感謝したいぐらいだよ』

その言葉に全員がにやりと笑った。地道に情報を集める予定があちらから囚人の情報を持ってきてくれたのである。それを生かさない手はなかったのである。