軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百八十二話 天使を呼ぼう

◎ゴルディオスの街 癒術院

「モンドリーさんッ!」

バタンッとドアが開き、息を切らせた風音が室内に入ってきた。

「おう、カザネかい」

その風音に親方が声をかける。

部屋の中ではモンドリーがベッドの上で寝ており、横には癒術師と親方、それに見知らぬ女性が沈痛そうな顔で立っていた。その三人の表情に風音も顔がこわばったが、モンドリーにまだ息があるのを確認すると意を決して親方に尋ねる。

「も、モンドリーさんの具合はどう? 大丈夫だよね?」

その言葉に親方が苦笑する。

「落ち着け。このアホは今はまだ生きてる。それより、騒ぐんじゃねえ。ここに寝てるヤツがいるんだからよ」

「あ、うん。ごめん」

もっともな言葉に風音が謝った。病院の中では騒がない。常識である。そして親方は風音の頭の上を指さした。

「ほれ、頭の上のタツオも目を回してるぞ」

「あ!?」

『母上、速すぎです』

タツオは風音の頭の上で目をぐるぐると目を回していた。

「ご、ごめん。焦っちゃって」

風音はぐったりしてるタツオをテーブルの上に降ろすと、自分の叡智のサークレットを取ってタツオの身体の上に乗せる。

『あーグルグルが消えてきますー』

安らいでいる声と共にタツオの顔色がみるみると元に戻っていく。叡智のサークレットは都合のいいことに精神系異常状態に効力のあるアイテムなのである。

「んで、他の連中はどうした?」

「急いできたから私とタツオだけだよ。もう少ししたらみんな来るとは思うけど」

風音はモンドリーが襲われて死にかけ、この癒術院に運び込まれたと聞いて文字通り飛んできたのである。

しかも空中跳びやブースト、ファイアブーストなども併用し、キリングレッグを使えばカザネバズーカになるほどの速度でやってきたのである。頭の上でしがみついているタツオが目を回すのも無理はなかった。

「そうかい。まあ、他の連中が来てからと思ったが、ありゃあおめえ個人の依頼だったからな。先に言っておく」

「え? なんのこと?」

困惑する風音に、親方が深々と頭を下げた。

「すまなかった。ウチのヤツの不注意でお前のタツヨシくんケイローンが盗まれた。すまん。どう言い繕っても俺たちのミスだ」

「え、ケイローンが? ちょっと、止めてよ親方。そんなの、違うよ。盗まれたってケイローンを……いや、それよりも」

風音の声が上擦る。 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の入り口で風音がシーザーから聞かされたのは、モンドリーが中庭で襲われて重傷を負ったということだけだった。

「モンドリーさんはケイローンのせいで怪我をしたの?」

青ざめた顔の風音に親方は、

「内臓をやられちまってな。今はどうにか抑えてもらっているが、もうどうにもならねえ」

親方の消え去りそうな声に、横にいた癒術師がうなだれて口を開く。

「すみません。この街には今は再生魔術を使える癒術師はおらんのです。私では痛みを和らげるくらいが精々で」

パーティ『レイブンソウル』も、だからこそ重傷を負った仲間を救うために王都に行ったのだ。

「しゃーねえさ。ゲアルさんはよくやってくれたさ。アンタのおかげでこいつも苦しまずに逝けるんだ」

その会話に風音が困惑しながらモンドリーを見る。その顔は青白く、生気が抜けているようだった。

「王都にいけばどうにかなるんだが……この傷じゃあ無理だしな、ハハハ、馬鹿な奴だ。こんなところで死んじまうんだからな」

顔を手で覆って親方が口にする。可愛がっていた弟子の最後が今、目の前に迫っている。であるのに、どうすることもできない自分を悔いながら親方は嗚咽する。

「だったらまだ間に合うってことだね」

その風音の言葉に親方は顔を上げる。

「何を言ってるんだカザネ?」

あまりにも今の場に似つかわしくない風音の言葉に親方が呆然とした顔を見せるが、風音は親方には不可視のウィンドウを開いてメール送信ボタンを押した。

「直樹、出てきてっ!」

そして風音が手をかざすとその掌に紋様が現れたのだ。

風音の手に刻まれていた 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の刻印が光り、そして一瞬の光と共に、室内に直樹が現れたのである。

「姉貴ぃぃぃい!ひさしぶりぃぃいい!!」

「ええい。うっとおしい」

『……あ、叔父上が潰れた』

唐突に現れた直樹が風音の絶壁に飛び込もうとしたが、それを風音は思いっきりひっぱたいて床に叩きつけた。そして、部屋の中にいた三人が唖然とした顔で床に大の字で倒れている直樹を見る。

風音はため息をつきながら直樹に見下ろすと、モンドリーを指さした。

「時間がないんだからね。モンドリーさんを助けて。その後なら、ナデナデでもスリスリでもなんでもしていいから」

「マジかよ」

直樹がガバッと顔を上げて風音を見ると、風音は少し涙ぐんでいるようだった。

直樹にナデナデやスリスリされるのが嫌だからではなく(もちろん嫌ではある)、風音としても見知った相手が死にそうな状況で、それも自分が原因で起きた状況らしいということにイッパイイッパイであったのだ。

「分かったよ、姉貴」

そんな姉の顔を見れば直樹も真剣な表情にならざるをえなかった。そしてベッドで寝ているモンドリーに視線を向ける。

「確かにこりゃ、やばそうだしな」

直樹もこの世界に来てから3年以上は経っている。こうした状況も慣れてるとは言わないが、人の死を見た経験は決して少なくはない。直樹には、かつて見た者たちのようにモンドリーの顔にも死相が出てるのが分かった。

「坊主。なんとか……なりそうなのか?」

唐突に現れた直樹に、親方が半信半疑の顔で尋ねる。その問いに直樹は頷いた。

「まあ、やるのは俺ではないですけど……何とかは出来ます」

直樹は断言し、右手の指輪を前にかざす。

「英霊フーネたん、出てこい!」

その直樹のかけ声と共に指輪から光が出て、光の中から胸のサイズ以外は風音そっくりの天使の羽の少女が飛び出してきた。

「はーい直樹!それにお姉さんに息子さんも!」

「ん、頼むよ」

『母上っぽい人、久しぶりです』

風音が苛立たしげに目の前のボインボインを見たが、さすがに今この場で余計なことを口に挟むことはしなかった。

そして出てきたのは至高の癒し手『フーネ』である。

風音をモデルにした外見の、レベル126のロリ巨乳回復士であり、直樹の英霊である。

「フーネたん、そいつを頼む」

「よーし、がんばるぞー」

直樹の言葉に従ってフーネがガッツポーズで杖を振って魔術を唱えた。

そして、膨大な魔力が放たれてモンドリーを覆い、損傷していた肉体を回復させて欠損部位も再生させていく。

「おお、モンドリーの顔色が戻っていく」

「すごいですよ。なんですか、この魔術は? それになんて清らかな魔力光なんだ」

親方が喜び、癒術師が感嘆の声を上げている。

フーネが放ったのはフルヒール。今の世界では失われたとされている完全再生魔術である。

そして、落ち着いたモンドリーの顔を見て、親方も力が抜けてドッと椅子に座り込むと同時に英霊フーネが「じゃあ、私は他の人も見てくるよー」と言いながら勝手に部屋を飛び出していってしまった。

「ちょ、ちょっと待てフーネたん」

それをあわてて追いかける直樹も部屋を出て、人数が最初にいた5人に戻る。

風音(とタツオ)、親方、癒術師、モンドリー。そして、風音の知らぬ女性の5人である。

ここまではモンドリーの状況が状況だったため風音はスルーしていたのだが、落ち着いた後ではさすがに無視というわけには行かない。風音は見知らぬ女性に声をかけた。

「えーと、初めましてだよね? モンドリーさんの恋人さんかなんかですか?」

「はは、残念ながら違うよ」

風音の言葉に、その女性は笑いながら首を横に振った。先ほどとは違い、その顔は明るさを取り戻しているようだった。

「そっちの人は暴漢からモンドリーを助けてくれた方だ」

「止めてよ親方。結局さっきの鬼殺し姫の分身みたいなのがいなきゃ手遅れだったんだしさ」

女性は苦笑しながら親方にそう返した。

「あなたがモンドリーさんを助けてくれたの?」

「まあ偶然……ではないけど、その場に遭遇してね」

「偶然じゃあない?」

首を傾げる風音に、女性が頷いた。

「私の名前はカンナって言うんだ。オーリングの新メンバーって言えば、分かるかな?」

「ああ、ひとり増えたってのは聞いてたけど」

風音は続けて「こっち来てからオーリさんたちともまだ一回も会ってないしなあ」と口にした。オーリングはトゥーレ王国に出向いたまま、未だ戻ってきていないのである。

「ホントはさっさと戻ってくるつもりだったんだけどねえ。まあ、私だけが戻ってこれたってわけ」

「どゆこと?」

風音が首を傾げると、カンナはその眼差しを強くして口を開いた。

「私は鬼殺し姫たちに助けを求めに来たんだ。私の仲間、オーリたちは今、トゥーレ王国に捕らえられてるんだよ」

「トゥーレに?」

その名はゴーレム使いの王国。オーリングのユズの故郷でもあった。