軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百五十五話 英雄を知ろう

風音たちが遺跡へと向かい、弓花たちが冒険者たちと共同戦線を張っている頃、直樹たちは当初の予定通りにビッグストーンワームへと攻撃を仕掛けていた。

「うぉぉおおおっ」

そして、西通りを直樹が駆ける。そのままビッグストーンワームへと飛びかかり、その手に持つ虹色の魔剣と炎の魔剣で魔物の表皮を切り裂いた。だが、その攻撃は芯にまで届かない。

「チッ、硬いな」

直樹が舌打ちしながら、後ろへと跳び下がった。そして、その一秒前まで直樹がいた場所に巨大な岩の尻尾が振り下ろされて石畳の地面が破壊される。

(ダメージを受けてる様子がほとんどないか)

その様子を直樹は、恐れることもなく冷静に魔物の状態を分析していた。そして、直樹は眉をひそめながらもその巨大な魔物と距離をとる。

現在、直樹たちが戦っているビッグストーンワームは、その身体の大部分が岩で出来ている上に、その本体は内部に存在している細い芯のみの魔物である。しかも表面の岩をどれだけ傷つけても本体にダメージはない上に、それもすぐさま回復してしまうという特性を持っていた。

「駄目。ぜんぜん効いてない」

エミリィも振動破壊の竜弓術『滅竜』で攻撃を加えてはいるが、岩は砕けても芯までを貫通するには至らない。もっとも強力なのはライルのジーヴェの槍だが、そちらもまだ芯まで到達できてはいないようだった。

「へっ、イケメンもさすがにお手上げかよ」

思案する直樹にそう口を開くのは、先にこのビッグストーンワームと戦っていたパーティのひとりである獣人だ。

「さてね。先達であるアンタに代わって俺らが討伐してしまうのも嫌みだと思ってたんだが、そういうのは気にしない人なのか?」

「生意気いいやがる。けど、こういうのはなっ」

獣人の男が走り出す。両手の鉄甲に赤い闘気をみなぎらせて、一気に両腕をビッグストーンワームへと打ち込んだ。

「昔から早いモノ勝ちだって相場は決まってるんだよッ」

そして、獣人の攻撃によって、かなりの量の岩が崩れ落ちる。さらにはその威力に表面に切れ目が出来ていた。

「そんじゃ、そこに便乗するか。エミリィ、狙いをあの獣人の攻撃した箇所に集中。ライルも頼んだ」

「任せてナオキッ!」

直樹に頼りにされて嬉しいのか、エミリィが気合いを入れて矢を放った。竜弓術『滅竜』により、獣人が攻撃して出来た箇所に突き刺さって、さらに割れ目を大きくする。その攻撃に、今度は本体にも響いたのかビッグストーンワームがのたうち回った。そこにドラゴンの頭部のような赤黒いエネルギー体が激突する。

「うぉっりゃああああ」

それはライルが竜気を全開にして放った突進攻撃だった。そのままライルは一気にビッグストーンワームを砕いていく。

「なんつー馬鹿力だ。こっちがチマチマやってる意味がないじゃないか」

直樹も親友の攻撃の出力に若干呆れ気味だ。しかし、直樹も続けて『魔剣解放』状態の飛竜たちをそこに突撃させる。そして、下がるライルと入れ違いに炎とオーロラの爆発が起こった。

「やったか。いや、まだ駄目か」

ビッグストーンワームはまだその活動を停止させていなかった。しかし、そこに新たなる人影が飛び出していく。

「それじゃあ先達としてここで一発決めさせてもらおうかッ」

それは半分鬼と化した大柄の戦士であった。その体躯に似合わぬ速度でビッグストーンワームへと迫り、そしてハルバードを振り下ろしたのだ。

『ジッ、ジジジジイイィィィィィ』

その攻撃を受けてビッグストーンワームの叫び声のようなものが響き渡る。ビッグストーンワームの身体が遂に分断されたのだ。そして、

「うわぁあああああッ!?」

その内側から軽甲冑姿の男が、小太刀で切り裂いて出てきたのだ。

唐突に。

「おい。なんだ、そりゃ?」

直樹が思わず叫んだ。そして軽甲冑の男が落ちて地面にゴロゴロと転がっていく様を全員が唖然として見ていた。そのまま男は10回転ほど転がり、そこで勢いが止まるとフラフラとしながら涙目で立ち上がったのだ。

「おい、ジロー。お前、そんなところにいたのかよ」

「ひ、ひでえよ。チクショー、死ぬかと思った」

そして、素で驚いている獣人にジローと呼ばれた男がそう返した。獣人の男がいつもの軽口で返したのだとでも思ったのだろう。だが、大柄の戦士も、その仲間の女性ふたりも「いつの間に」と口にしており、誰もジローが食われていたことに気付いていなかったようである。

「ま、まあ、ビッグストーンワームも無事倒せたんだ。結果良ければすべて良しだろう」

気を取り直した大柄の戦士がそう言葉を発するが、残念ながら驚きの顔はまだ崩れてはいなかった。そして、ジローが「はあ。えーと、これ」と言いながら、手に持つそれを戦士の前に出した。

「それは……まさかチャイルドストーンか?」

大柄の戦士の言葉にジローが頷いた。どうやらジローはビッグストーンワームのコアであるチャイルドストーンを内部で手に入れて戻ってきたようだった。直樹たちが共同でビッグストーンワームを切り裂いてジローの脱出口を作ったといえ、結果からすればその巨大な魔物に最後のトドメを与えたのはジローのようであった。

「内部に侵入して、コアを直接抜き取るだなんて。なんて常識知らずな手段で戦っているの」

「ああ。けど、ジロー……そうか。あの人があのジローさんか。親父が尊敬するだけの人だって事か」

エミリィの戦慄の言葉に、ライルもその蛮勇ぶりに思わず身震いをしていた。彼らは目の前にいるジローという男が、あの噂の英雄であることを看破したのだ。そんなふたりの尊敬の視線の前で、大柄の戦士がジローの持つチャイルドストーンをジーッと見た後に、声を上げた。

「おい、ジロー。そのチャイルドストーン、お前に従属してないか?」

「え、本当かよ?」

その言葉にはジローも驚いて持っているソレを見る。確かにそのチャイルドストーンは淡く輝いている。そしてジローもチャイルドストーンと自分に魔力のパスが繋がっているのは理解できた。ジローはヒールを覚えているので、魔術に対しても多少は覚えがあったのだ。

「本当かよ? カー、やってらんねえ」

そして大柄の戦士とジローのやりとりに、獣人が天を仰いでその幸運すぎる男のことを嘆いた。もっとも獣人も冒険者の端くれだ。己の中で、そうした気持ちはしまい込んで助っ人としてやってきた直樹たちに向き合った。共に戦ったのであれば、獣人にとってはもう戦友だ。そうした思いもあって直樹たちに向かって声をかける。

そして、声をかけた相手はイケメンの直樹である。DT属性にとってはイケメンという存在は不倶戴天の敵ではあるのだが、女を食いたい獣人にとってイケメンというものは敵ではないのだ。いうなれば女を釣るための餌である。故にイケメンとは仲良くしておくに限るというのが獣人にとっての経験則だった。

「まあ、ともかくだ。助かったぜ親友」

そうニコヤカに声をかける獣人に、しかしイケメンこと直樹の顔は暗い。そしてボソリと尋ねた。

「ジロー。あの人がジローってことは……その同じパーティにいる獣人はギャオ……まさか、あんたが鉄甲拳のギャオか?」

「おうよ、それは俺っちの事よ」

「なるほどなっ」

そうドンッ自分の胸を叩いたギャオに、直樹は躊躇わずに剣を振り下ろした。そして火花が散り、そこには直樹の魔剣を腕の鉄甲で防いだギャオがいた。

「おい、ナオキ。何してんだよッ?」

ライルが親友の突然の凶行に声を上げた。一応、剣の平で叩き付けたようだが当たれば骨の一本や二本は平気で折れてしまうほどの威力である。

「テンメェ、なんのつもりだ?」

突然の攻撃にギャオの瞳に怒りが宿るが、しかし、目の前の直樹の怒りの方が遙かに大きいようだった。

「ギャオ、てめえが人の姉貴を淫売扱いしたクソヤロウか!」

「姉貴だと……?」

直樹の言葉にギャオが疑問の声をあげた。

「あの馬鹿、また女絡みで恨み買ったのか」

「まあ、私にはもう関係ないけどね」

大柄の戦士の言葉に、家の屋根から降りてきた弓使いの女がそう言葉を返した。共にいる褐色の女性も苦笑いで見ている。全員が「またか」という顔をしていたのだ。

ライルとエミリィもギャオの名前で事情が分かったので何も言わない。いや、どちらかといえば非難の視線をギャオに向けていた。自業自得の面があるとは言え、祖父の汚名を広げた男が目の前にいるのである。

しかし、当のギャオの思考からはすでに怒りが消えていた。

(イケメンの姉だと? こいつの姉ならばさぞかし美人なのではないだろうか?)

ギャオの幸せ思考は、概ね己を幸せにする方向で動いている。目の前にいるのはクール系イケメンである。そして、ウェーブのかかった黒髪でアンニュイな表情の似合う泣きボクロのあるクール系巨乳お姉さんがギャオの頭の中では出来上がっていた。故にギャオは直樹に向き合った。それはとても紳士な表情だった。

「どうやら、何か誤解があるようだぜ」

「なんだと?」

直樹はギャオのその言葉に若干の困惑を見せた。何が誤解なのかが分からない。

「多分、お前のお姉さんはとても大きな誤解をしているに違いねえ。俺っちが直接話してみればそれも解けるかもしれねえ。だからお前のお姉さんに会わせてくれ。出来ればふたりきりで説得させて欲しい。朝までシッポリとお願いし……」

「殺すッ」

そして、ギャオの言葉を遮って、直樹のスキル『狂戦士』が強制発動したのであった。