作品タイトル不明
第四百五十話 ケープをもらおう
『ところで、カザネよ』
「なに、お爺ちゃん?」
風音がクエストを終え、続いて弓花が挑みにいった後の食堂。そこでテーブルの上で座っているグリフォン幼体姿のメフィルスが風音に声をかけていた。
『何故にユミカはタツヨシ王陛下に厳しいのであろうか?』
「んーーーー」
それはタツヨシ王を崇拝するメフィルスからすれば当然の疑問ではあった。そして、その言葉に風音が唸る。どう答えるべきかと思案しているようである。
「まあ、色々あるんだけど……」
『ふむ、どういうことだろうか?』
首を傾げるメフィルスに風音が口ごもる。なんとも言い難い部分もあるのだ。
そもそものキッカケはアレだろうと風音は思い起こした。
それは以前に風音が達良と一緒に外で歩いてたら達良がいかがわしい男ではないかと逮捕されかかった件である。アレがバレて以来、弓花は達良を警戒しているのだが、それを風音と達良のふたりで説明しようとしたときに達良の目線が弓花のポニテに釘付けだったのも悪かったと言えるかもしれない。
「けど、リアルだと私よりも弓花の方が達良くんと会ってるし、それなりに話してることも多いんだよね。あのふたり」
主に弓花が達良にダメ出しして妙に達良が頷いている……という形で会話が成立しているのである。
『ふたりはよく出会っていたと?』
メフィルスの問いに風音が頷く。
「就職難の達良くんを助けたのが弓花だからね。弓花のお父さんの事務所を紹介してもらってそこで達良くんは仕事してたし、後は事務所が自宅とつながってるから夕ご飯も一緒に食べることが多かったみたいなんだよ」
「ああ、達良さんって、弓花のお父さんに気に入られてたらしいな。こっち来るまで弓花の手料理なんて達良さんぐらいしか食べたことなかったハズだぜ」
風音の言葉に直樹が付け加える。それを聞いてメフィルスが唸った。
「後は達良くんの着てるものってのも大体弓花の選んだものだし、生活環境も弓花に言われて直したところが多いし」
達良が着ている服が毎回黒の同じものだったのを弓花がブツブツ文句を言って、最終的に弓花が達良の服のコーディネートをしていたのを風音は知っている。なお、達良もその後は自分で服を買いに行くようにはしていたのだが、それらはほぼ弓花コーディネートのパチモンであったので、毎日弓花の選んだものを着ているように見えていたのであった。
『ふむ。服を選び、よく話し、仕事を探して、家族と共に食事か。まさか、ユミカはタツヨシ王の奥方だったのか?』
「いや、違うから。弓花にそういう話するとマジでブチ切れるから止めておいてね」
風音が若干焦りながらそう口にした。過去の経験から風音はそれが弓花の逆鱗ポイントであることを知っている。弓花がイケメン好きなのは事実であるし、風音とゆっこ姉もそれは理解していた。そうでなければ、ゆっこ姉は弓花にヒドいことをしていたかもしれない。
そんなことを話していると、上でガタンと音が聞こえた。
「あれ、終わったかな?」
「だな」
風音と直樹がそう言葉を交わした。もっともふたりとも弓花が勝利したとは思っていない。風音の話を聞いて直樹はすでに「無理だわー」と両手を上げて降参のポーズをしていたくらいである。しかし、降りてきた弓花はズダボロではあったが、ブイサインをしていた。
「勝った」
「嘘でしょっ!?」
その弓花の言葉にもっとも驚愕したのは殺魅オルタナティブと戦った風音本人である。どう考えても今の弓花では無理無理な話だと思っていたのだが、弓花は勝ったと言っている。そして、弓花の横にいる達良コピーに風音が視線を向けると、達良コピーは苦笑いをしながら頷いた。
「はぁ、まさか弓花ちゃんが人間を止めてるとは思わなかったんだよ」
「ええと、何したの?」
「狼に変身して口とかから炎の刀を吐き出してた」
風音の疑問に達良コピーはそう返した。弓花はまるでどこぞの神様のような女であった。
「弓花……」
その風音の若干の引いた顔に弓花は反論する。
「いいや、吐いてないわよ。あの刀って体のどっからでも出るし、たまたま、そう見えただけで」
その反論はそれでいいのだろうか……とその場の仲間たちの多くが思ったが、弓花の人間離れはもう深刻なレベルなので、誰も口にはしなかった。
「便利なんだからいいじゃない。最近は神々の種火が宿ったから妖気も消えて使ってても気分いいし。ねえ?」
必死な弓花の顔に達良コピーも苦笑いしながらひとまずは頷いた。
「まあ、そう言う面もあったけど、実際人間の反射速度を超えているとは思わなかったんだよ」
達良コピーのそのフォローに弓花は「でしょう?」と持ち直したが、他の誰もその前の言葉のフォローにはなってないなと思っていた。もちろん口には出さない。
「それにしても、風音にゴーインにやられたかと思えば、今度は弓花ちゃんに別の抜け道でやられるとは。やっぱりゲームとは違うし、僕もまだまだだね」
「ふふーん」
達良の言葉に弓花がしてやったりという顔をしていた。
「どういうこと?」
風音の問いに弓花が「んー」と考え込んだ。そして達良コピーの顔を見ながら口を開く。
「教えてもいいけど、直樹が自力でクリアした方がいいんじゃないの? ま、私はどうでも良いけど」
その弓花の言葉に、達良コピーの懇願するような視線が風音に向けられる。ナビゲーターの達良コピーにとっては譲渡クエスト攻略は存在意義そのものである。ゴリ押し風音の参考にならない説明ならともかく、弓花のそれは核心に迫るもののようだった。
「う、うん。まあ、切羽詰まってるわけではないし、直樹の修行にも良いんじゃないかな?」
「うへぇ」
風音の言葉に直樹がテーブルにうつ伏せに倒れる。
「ま、詰め将棋かなんかだと思えば良いのよ。抜け道はあるんだから」
「僕としては弾幕ゲーだと思って欲しいんだけどね」
弓花の言葉に達良がそう付け加える。直樹は首を傾げたが、風音はなんとなしにその意味を理解できた。
(もしかして全部の攻撃になんかしらのパターンでもあったのかなぁ)
何度でも挑戦でき、誰でもクリアできる仕様。そして直樹でも弓花の言葉を聞けば分かるかもしれないのだとすれば、本当にアクションゲームのボスのように勝てないようで攻略要素のある攻撃だったのかもしれない。それが風音が全力ではないと感じた理由であり、風音がゴリ押しで倒して達良コピーが苦笑した理由ではないかと……そう風音は考えたのだ。
(それにしても、ちょっと惜しかったかもねぇ)
風音は先の戦闘を振り返る。
戦闘中に急激にスキルレベルが上がっていたのである。高レベルの相手に使用した結果であろうが、繰り返して戦えれば他のスキルも伸びたのではないかと風音は今更ながらに考えた。
もっとも戦闘時はそんなことを考える余裕もなかったし倒したこと自体は後悔はしていない。二度目に勝てる自信があるわけではなかった。ラストの注射を止められたのは実際のところ運に近かった。
ともあれ、繰り返して戦うことになれば、本当に直樹の修行にはうってつけなのではないか……と、そこまで考えた後、風音は頭の中を切り替えて話題を変えた。
「ええと。それで、弓花がもらったのってそれなの?」
そう風音が指摘したのは弓花の羽織っているフード付きの白いケープである。不滅のマントの上から羽織っていて、白く、どことなく気品のある感じがあった。
「うん。似合う?」
弓花が少し嬉しそうに風音に見せつける。
「むう。可愛いし、似合ってる。くっ、私はジーク用なのに、これが女子力の差か。贔屓ってヤツなのか」
「いやいや、風音のアレの方が手は掛かってるし、こっちは僕の知っている女の人用に造った量産タイプだからね」
悔しがる風音に達良コピーは慌ててそう返した。
実際、達良は石碑に名前が書かれたメインパーティメンバーやごくわずかな人物らには専用のアイテムを用意していたが、他のメンツには男子組と女子組で分けた共通のアイテムを譲渡用に用意していたのである。
ちなみに達良は弓花とゼクシアハーツ内で会うことはほぼなかったため、何を渡して良いか分からず専用アイテムを用意することが出来なかったのであった。
「量産ってのはちょっと引っかかるけど、まあ可愛いからいいわ。達良のことだから場合によってはスクール水着とかそういうのを用意されるんじゃないかと、ちょっと怖かったし」
弓花がフワリとした白のケープを嬉しそうに見ながらそう言った。かなり気に入ったようである。
「うん。元々はそのつもりだったんだけどミンティアに止められたんだよ。受け狙いもやり過ぎは良くないって……あ、弓花ちゃん、槍で突こうとするのは止めてね。今の僕は本物ではないけど、そういうのを向けられるのはさすがに怖いから」
ゆっくりとアイテムボックスから槍を取り出した弓花に達良コピーはそう返した。
「それで、これって可愛いってだけではないよね」
弓花が「フンッ」とした顔でテーブルに座るのを見計らって、風音が尋ねる。
「そうだね。攻撃力はないけど、矢除けや魔術防御に、対物理性能なんかもかなり高いレベルで掛けてあるよ。フードを被ればインビジブルの効果も発動するし」
「前衛の私向けってわけね」
弓花も、そのケープの説明を聞くと再度その顔をほころばせた。その見た目も能力も気に入ったようで非常に満足そうであったのだ。もっとも、何ともいえない顔をしている人物がこの場にふたりいた。
「お爺さま、わたくし、アレ見たことありますわ」
『うむ、ツヴァーラの国宝『穢れなき聖女のケープ』であるな』
ミンティア皇后がタツヨシ王より贈られたものである。婚礼の儀などで表に出る以外は、最近戻ってきた大翼の剣リーンと共に宝物庫に保管されているのだが、所有者権限がミンティアになっているため実際には身につけても付与効果などは発生しない見かけだけの装備なのだ。
その完全なる状態のケープが目の前にあった。もっとも譲渡クエストで手に入れたものなので、所有者制限はかけられてはいる。なので『弓花の穢れなき聖女のケープ』は弓花にしか使用できない。
何よりタツヨシ王から直々にプレゼントされたものである。それを取り上げるというワケにも行かないし、そんな筋合いも当然ない。
そして、ツヴァーラの王族ふたりはその存在をどう考えたらよいのか分からないまま、周囲とは違う温度差の中で困惑していたのだった。