軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百三十三話 準備をしよう

◎オーリオル海 島亀露天浴場

「おお、シュワシュワだーー」

マッパの風音がそのお湯の中に入ると、体中にシュワーとした小さな泡が出てきた。

ジンライに薦められて浴場にやってきた風音たちだったが、そこで思わぬ種類の温泉に出会ったようだった。それは高濃度炭酸の温泉水だったのである。

『おおおお、なんですか、これは』

「にゃーぉ」

一緒に入ったタツオとユッコネエも驚いている。シュワシュワである。

「ふっふぅぅう」

シュパンッと湯船から飛び出たユッコネエはその温泉を睨みつけた。何かの攻撃を受けたのかと思ったのかもしれない。

「いや、大丈夫だからねユッコネエ。健康にいいヤツだから」

「うにゃ?」

風音の説得にユッコネエは前足をピチョンと付けて確認している。いきなりのシュワシュワにかなり警戒しているようだった。毛にシュワシュワするのである。「にゃーにゃー」と鳴きながらユッコネエは目の前の温泉と格闘していた。

「あははは、知らぬ方は驚かれるでしょうが、これは炭酸温泉というものです。身体がスーッとして健康になるんですわ」

その横で共に入っているモンローがそう答える。

亀人族の男女は見分けがつきにくいのだがモンローは女性であった。年をとった後だと長い顎髭があるかないかで区別が付くのだとジンライは言っていたが、確かにモンローには髭がないようである。

「へぇ。私、初めて入ったわ。なんかスーッとする」

弓花も炭酸温泉の存在自体は知っていたが初体験のようである。風音は二度ほど、家の近くのスーパー銭湯で入ったことがあったが、ここまで濃度は高くなかったなーと思い出していた。

「こういう温泉もあるのね。知らなかったわ」

「うわっ、なんだかスーッと来る」

ルイーズとエミリィも、その温泉に入って、その奇妙な感覚に笑いあっている。

「お姉さま。なんだか怖いのですけれども」

「大丈夫よ。カザネも入っているのですし」

ユーイはまだおっかなびっくりとお湯を見ていて、ティアラはその従姉妹の警戒ぶりに苦笑している。そして、それぞれが初めての体験に、いろいろとカルチャーショックを受けているようだった。

「あー、極楽だー」

カザネは全身がシュワシュワする様子をうっとり見ながら、手を温泉から出してくっついていた小さな泡をシュワシュワと弾けさせていた。そして湯に手をつけるとまた泡がついてくる。それを繰り返して遊んでいた。

なお、風音がその温泉の水珠をアイテムボックスから出した鑑定メガネで見てみると、次のような説明が出てきた。

名称:炭酸温泉珠

レア度:A

効果:魔力を通すことにより、炭酸の温泉水が出てくる水珠。転移魔術の応用だが源泉元は不明。血液の循環が良くなり、心臓病、高血圧、リュウマチ、肩こり、神経痛、冷え性などにも効果がある。

血行が良くなるようである。健康万歳であった。

「モンローさん、こういう温泉の水珠って売り物としてはないの?」

そして、風音は自分も手には入らないかと思い、モンローに尋ねる。

「そうですねえ。これはさすがに売れませんけど、魔道大国アモリアの魔法具オークションなどではそうした珍しいものが時々出回るというのは聞いたことがありますよ」

「へぇ……」

「ああ、それなら実際に参加することも出来るわよ」

風音が関心を見せた様子を見てルイーズが口を挟んできた。

「本当に?」

「ええ。実家の近くだからコネもあるし、うちのパーティの余ってる武器とかオークションに出品すれば一発で参加OK出ると思うわ。場所もダンジョンのあるゴルディオスの街からそんなに遠くないしね」

風音の問いにルイーズがそう答える。

「うーん、余ってるって言うとなんかあったっけ?」

「ぶっちゃけアダマンチウム製の武器一点だけでも十分に出品参加あるのよね。あれは魔法具の類じゃないけど、アンチマジック的な耐性がある武器だし」

この白き一団内では、アダマンチウムの槍の使用頻度は高く、槍使いに分割して渡しているが、その他の斧や剣は倉庫に腐らせている状態だ。いくらでも出品出来る。非常に勿体ない話でもある。

「後はチャイルドストーンでも竜の心臓でもいいんだけど、どちらかというと欲しいものよね、それ?」

「そうだねえ。あれがあればゴーレム作りも捗るしね」

実はジンライの手に入れたリヴィアタンの心臓は、すでに黒炎装備のマッスルクレイミノスに使用し、状態維持に使用することに決定していた。

今まではストーンミノタウロスだけでは、チャイルドストーンなどがあっても動かせなかった。しかし、動力込みならば状態維持の可能な黒炎装備と、魔力蓄積可能なマッスルクレイ、それらに魔力供給可能な出力を持つリヴィアタンの心臓が揃ったことで、ようやく毎度ゴーレムメーカーを起動せさずにストーンミノタウロスを動かし続ける算段がついたのである。

風音たちが温泉を出てサッパリすると、続けて亀人族の扱う商品を見たり、亀の甲羅の上の森などを散策したりして過ごしていた。そして、その日の内に島亀を出て、全員でオーリオルの街の別荘に戻ったのだった。

なお、巨大イカとドラゴンの海の大決戦はオーリオルの街からも見えていたらしく、一時大混乱だったらしいと、風音たちは先に水晶船で街に戻していた執事のベンハーに伝えられることとなる。

王族二名が海に出てすぐの事態である。それらの対処をベンハーがしてくれなかったら、救援隊が大規模編成されていたそうで、別の意味で危機一髪であったようだ。

温泉入って、買い物して、楽しんで帰ってきたら、軍人さんたちが怒号をあげながら海上で捜索してた……なんて事にならずに済んで、風音たちは心底安堵していた。

ルイーズのヒップを見ていやらしいと不興を買っていたベンハーも、これで職を追われることはなさそうだと安堵していた。

◎オーリオルの街 王族別荘中庭 翌朝

「マッスルクレイ製のストーンゴーレムを起動っと」

そして島亀から帰ってきた翌朝である。仲間たちはいつもの戦闘訓練を行っていたが、その中で風音はひとり『大型格納スペース』からマッスルクレイ製ミノタウロス像を出して、それでストーンミノタウロスを起動させていた。

「それにこのリヴィアタンの心臓を埋め込んで、それを覆いながらスキル・『武具創造:黒炎』で鎧を生成するっと」

『おお、私とお揃いですねえ』

風音の頭の上のタツオがそう口にする。黒炎装備同士なので、その形状も似た形になっているのである。お揃いという言葉は的確であった。

「武器は一体型じゃないと維持できないから、ちょっと不格好だけど、まあこれでいいよね」

両腕は巨大な斧で固定されていた。黒炎 全身甲冑(フルプレートメイル) 装備のマッスルクレイ製ストーンミノタウロスがここに完成したのである。

黒炎装備特有の、鋭利な造形に、黒地に血のように赤いラインがなぞられているデザインも相俟って非常に邪悪な感じに仕上がっているようだった。なお、風音的にはカッコいいと表現が変換されるのだから不思議である。

「ふむ、これはすぐに戦えるのか?」

そして、黒マッスルミノスが出来上がったのに気付いたジンライがやってきて、風音に尋ねてきた。その言葉に風音は首を振る。

「いんや。しばらくリヴィアタンの心臓から供給される魔力を蓄積させてからじゃないとすぐに動かなくなるよ。基本的には、マッスルクレイの魔力蓄積で状態の維持をし続けさせるだけだからね。戦闘時間は蓄積分を併せると1時間くらいかな。それ以降は休まないと止まっちゃう」

「一時間フルで戦うことなどほとんどあるまいよ」

「モンスターハウスの例もあるしねえ。油断はしたくないんだよ」

ジンライの言葉に風音がそう返す。

それはこれから先のダンジョン攻略に向けての話だ。この海の旅行を終えれば、いよいよA級ダンジョン『ゴルディ黄金遺跡』の攻略に赴くことになる。そのための継戦能力の高い戦力を風音は造っていたわけだ。

「それで、方針はある程度決まったのか?」

「うん。行けるところまでは黒い石の森みたいに私と弓花、直樹組の3組で分けようと思う。チャットと共有マップは強力だからね。他の冒険者に比べてもアドバンテージは大きいでしょ?」

「確かにな」

蜘蛛退治をした黒い石の森での探索でも、それは十分に威力を発揮したのだ。特に道のない森の中よりもダンジョンの迷宮のほうがマップ作成の効果は大きいだろうと風音は考えている。

「後は何日か潜ったら、合流して直樹の 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) で戻って休んでを繰り返していくって感じかな。ジンライさん的には何かある?」

「そうだな。30階層まではお前たちも降りたことはあるのだから、そこまでいうこともない。さらに潜れば罠なども多いし、60階層辺りを越えればこのパーティでも苦戦することは少なくないと思うな」

「そうだねえ」

限られたスペースでの戦闘になるダンジョン内では、地上とはまた勝手が違ってくる。 雷神砲(レールガン) や投擲攻撃などで対応出来る状況もグッと減ってくる筈であった。併せて罠などもあるのだから、風音たちでも油断は出来ない。

「やはりゴーレム馬でもあれで走り回るのは危険ではないかとは思うが」

「まあねえ。とりあえずは未攻略箇所は普通に徒歩の速度で行くようにするよ。安全第一で行きたいしね」

「それが良かろう」

素直にジンライの言葉を聞いて方針を決める風音にジンライは頷く。

また基本的なチーム分けは風音の中では次の通りの予定となっていた。

風音組:風音、ジンライ、タツオ、ユッコネエ、シップー、ロクテンくん、タツヨシくんドラグーン

弓花組:弓花、ティアラ、ルイーズ、メフィルス、量産型タツヨシくんA・B、ヒポ丸くん

直樹組:直樹、ライル、エミリィ、黒マッスルミノス、タツヨシくんノーマル、ヒッポーくんハイ、クリス、クリア

そのメンバーに、狂い鬼、ダークオーガ軍団×23体、クロマル、銀狼2体、ライトニングスフィア、水精霊ウィラル、ジン・バハル、 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) 10組=20体、フレアバード、ホーリースカルレギオン、旦那様……と召喚体などを含めるとさらに数が激増する。

なんでこんなに増えたのだろうか。不思議なことだ。

ともあれ、風音たちはいよいよダンジョン攻略へと足を踏み入れることとなる。目指すは最深層にあるという元の世界への入り口だ。

風音たちはようやく、ここまで来たのであった。