軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百十八話 祝いの場に失礼しよう

「間に合わなかったようだな」

戴冠式当日。

まるでアウディーンを天が祝福してくれたかのように、空はどこまでも青く澄み切っていた。その青き空の下でアウディーンはそう呟いた。

アウディーンは現在、王城グリフォニアスの中央広場を見下ろせる広いバルコニーの上に立っていた。

そのバルコニーにはアウディーンや王妃であるケイラン、弟のシェルキン。またミンシアナのユウコ女王や息子のジーク王子、ツヴァーラ王国の顧問である蒼焔のアオ、さらにはアオと共にやってきたハイヴァーン公国ライノクス大公の名代であるジライド将軍など、そのほかにも各国の重鎮たちが立ち並んでいる。

バルコニーの下には集まった民衆や兵たちからの拍手が響き渡っていた。

そして、戴冠式はすでに終わりを迎えようとしていた。

アウディーンはさきほど王となることを宣言し、王冠を受け取り、王位を正式に継承した。これで名実共にアウディーンは王として認められた。娘から王位を簒奪した……などと非難を受けることもなく、滞りなく戴冠式は進行していた。

もっともティアラ暗殺の一件についてはすでに首謀者たちは全員死んでいる。その傘下の貴族たちはそれをアウディーンの仕業だと考えて、怯えてこれ以上の動きを見せることもなかったという事情も裏には存在していた。

そしてこの席に、隣国のミンシアナの女王と王子が出席されたことは、ソルダードなどの周辺国への牽制にもなる。

西の竜の里ラグナの補佐役にしてツヴァーラ王国顧問でもある蒼焔のアオとともに、ハイヴァーンからはジライド将軍とその愛竜モルドが参加してくれたことにもアウディーンは感謝していた。悪魔の暗躍に関してはディアボを国の中枢まで入り込ませてしまったツヴァーラとしても見逃せぬ問題だ。他の国の状況が分からぬ以上は、このミンシアナとハイヴァーンとの共同で対応していく必要があった。

また、肝心のティアラと白き一団のその後だが、前日の夕方にはアオを通じて弓花から無事であるとの連絡があった。その際に風音がダウンしたために王城までの移動手段がなく戴冠式への参加は難しそうだとの連絡も受けていた。

その彼らがどこにいるかと行えば、王城グリフォニアスのバルコニーからも見えている、突然出来た白い塔の頂上だそうである。

どうも内部は正しく塔として部屋と通路と階段を備え、チャイルドストーンなどの動力石があれば昇降機も設置できるらしいのだが、その昇降機も風音が設置しなければ動かないので今は階段しか利用できないらしい。そのため、白き一団が王城グリフォニアスまで来るには高さ1600メートルの406階の塔の階段を自力で降りて、その足で馬車で二日はかかる道のりを僅か半日で踏破しなければならない……という到底不可能な話であったのだ。

故にアウディーンもその話を聞かされたときには苦笑いをするしかなかった。

「国王陛下。そのようなお顔をするモノではありませんよ」

そのアウディーンの表情に気付いた王妃のケイランが、民衆に笑顔を振りまきながら、そうたしなめる。アウディーンは僅かに肩をすくめてから、表情を戻した。

「そうだな。式は滞りなく、私たちの愛娘は無事だ。何も問題はない。ただな」

アウディーンもその顔を笑顔にしながら、呟く。それは先ほどの苦笑した内容とは別のものだが、ここ数ヶ月アウディーンを悩ませていることでもあった。

「さすがに神竜帝相手では、カザネを奪うのは難しかろうなぁ」

「まだ言いますか、貴方は」

ケイランがあきれて、アウディーンにそう返した。特にハイヴァーン出身のケイランにとっては神竜帝ナーガは神にも等しい存在だ。さすがにツヴァーラの王である夫であっても、格が違うとケイランは考えている。

そのアウディーンもメフィルスを通して、すでに風音が神竜皇后になったことは聞いていた。そして、市井の娘を后に迎え入れるどころではない難易度になったことをアウディーンも理解はしていた。

「后でなくとも良いのだ。アレがそばにいてくれるのであれば、私はそれ以上は何も言わんのだ」

故にアウディーンの考えは、后から少し離れたところまで許容できるようにはなっているようだった。元々女としてみていたわけではないので、そこらへんは柔軟である。その言葉にケイランも顔は崩さずに「難しいですわね」と返す。

「すでにそちらの方面はユウコ女王の手が回っておりますし」

そのケイランの言葉に、アウディーンは同じバルコニーの少し離れた位置にいるユウコ女王を見た。そしてユウコ女王もアウディーンの視線に気付き、ニッコリと笑ったのである。

この時点で、ユウコ女王がカザネ魔法温泉街の領主に風音をまんまと据え置いたことをアウディーンはすでに情報として掴んでいた。

(女狐め。私の可愛いカザネを手中に収めたつもりか。だが、私は負けぬぞ)

アウディーンは笑顔でありながら、心の中ではそのようにユウコ女王に敵意を燃やしていた。対するユウコ女王は、 真実の目の額飾り(ホルスアイ・サークレット) により、アウディーンの思考を読んでいたため(風音と結婚とかオジンにさせるわけねえでしょ)と心の中で罵倒していた。もちろんそれをアウディーンは気付いてはいなかったが、節々からくる敵意は感じ取っていた。

そして、ユウコ女王は、共に並んでいるジーク王子の方を見る。

(あのオジンは無視しても良いとして、こっちはこっちでちょっと不味いのよね)

最近、自分の息子がよりにもよって直樹に似てきたことをユウコ女王は懸念していた。風音に懸想していながら、周囲の女性を誑し込み始めている辺りが危険な感じである。

そして息子ジークがあの気持ちが悪い直樹に似てきたこともユウコ女王にはかなりショックなことではあったが、その息子の変化は風音が確実に拒絶する方向の成長であることにも頭を痛めていた。

弟ではない直樹など風音にとってはゴミクズ以下の存在でしかない。そうなれば恋人や后どころの話ではないのだ。

(……どうにかしないとね)

そうユウコ女王は思う。その対策のひとつとして、今はジークには筋肉を付けるような鍛錬を行う方向で調整している。そして、ジークの周りも筋肉男で固めた。なお、お付きのサキューレが嫌そうな顔をしているが、あのショタコンは最近ジークに色気づいてきているようなので良い薬だとユウコ女王は思っていた。

ともあれだ。どうやら、ユウコ女王の見る限り、これから起こることをアウディーンは知らないようだった。一緒に並んでいるアオはやはり知っている風な顔であるので伝えずにサプライズにしようとでも考えているのだろう。

(あら、急に風が……)

そして、風が吹いた。

「なんだ、あれは!?」

「いつの間にッ?」

バサァッと、翼のはためく音が聞こえた。すると、突然民衆の目の前に9メートルほどの巨大なドラゴンが出現したのだ。

「ドラゴンじゃないか!?」

ドラゴンという言葉がその場に響き渡る。

そして、突如として現れたそのドラゴンの姿は青く、天使のごとき純白で大きく広がった翼をはためかせている、まるで神竜帝ナーガを思わせる水晶を身に纏ったドラゴンだった。だが、虹色の輝きを帯びたそのドラゴンからは誰もが不思議と敵意を感じなかった。

「恐ろしい。だがなんて美しい……」

「あ、あの、神々しさはなんだ?」

故に民衆も驚き、その姿に畏怖を感じつつも、逃げまどうことはなかった。さらにはそのドラゴンの手の上に立っている人物にも彼らは気付いたのだ。それはバルコニーにいるアウディーンたちの目にも入っていた。

「ティアラ……か?」

そうアウディーンが呟く。純白のドレスを纏った少女がドラゴンの手のひらに立っていたのだ。その姿はかつてに比べて威厳に満ちた雰囲気を放ち、その成長の跡を感じさせているようだった。

その少女の名はティアラ・ツルーグ・ツヴァーラ。

ここ半年ほど姿を見せなかった、ツヴァーラ王国の王女が帰ってきたのだ。それも宝石のようなドラゴンの手の平の上に乗ってである。謀殺されたという噂もあったが、その姿を見れば誰もがそんな噂が嘘であることは明らかだと理解できた。

そしてティアラが膝を突き、頭を垂れて口を開く。

「ティアラ・ツルーグ・ツヴァーラ、ただいま帰還いたしました、国王陛下」

「よくぞ戻った。我が娘、第一王女ティアラ・ツルーグ・ツヴァーラよ」

ティアラの言葉にアウディーンは応える。そしてティアラの言葉は続けられる。

「この身は修行中なれば、国王陛下と立ち並ぶことまだ叶いませぬ。ですが、この目出度き日の祝いにと、ひとたび戻って参りました」

その言葉に民衆からは歓声が響き渡る。

そして、ティアラを手に持つドラゴンからも、声が響いた。

『我は神竜帝ナーガの妻、神竜皇后なり』

その言葉に全員が固まる。自分は東の竜の里の長である神竜帝の妻であると目の前のドラゴンは名乗ったのだ。

『この度はアウディーン国王陛下を祝福すべく、我が盟友ティアラ・ツルーグ・ツヴァーラと共にこの場に降り立った』

神竜帝の妻……その言葉に人々は驚き、また目の前のドラゴンが自分たちの姫と盟友であると名乗ったことにも再度驚愕する。

そして、アウディーンの横にいるアオを見る者も多くいた。ツヴァーラではアオの本来の姿がドラゴンであることは周知の事実であり、神竜帝とも親交があることでも知られている。

そのアオが特に何も口にせずに見ていることから、事情を知る者は目の前の神竜皇后の言葉が嘘偽りのないモノだと理解する。そして、神竜皇后は続けて口を開いた。

『我ら竜族はアウディーン国王陛下の誕生を祝福する。そして我らはこの祝いの席に、国王陛下に相応しき品を贈ることにした』

その言葉にはアオが、顔には出さないまでも首を傾げた。朝方に目覚めた風音がティアラを連れて時間ギリギリで到着することはアオも、そしてユウコ女王もメールで知ってはいたのだが祝いの品というのは初耳だ。そしてその祝いの品とは……

『南方に見えるそびえ立つ塔こそ、 我(われ) が王へと贈るモノ。白き巨塔『アウディーンの塔』。あれは王がツヴァーラのすべてを見守り続けることが出来るよう我が生み出したもの。それを今、アウディーン国王陛下に贈ろう』

その言葉に一同が震えた。

昨日に突如出来た巨大な塔を不気味に考える者は多かった。戴冠式の前日に出来たそれを不吉な前兆と考える者も決して少ないわけではなかった。

しかし、民は知ったのだ。あの巨大な塔こそが、我らが王がこの国を見守るために竜族より 賜(たまわ) るものだったということを。人智を超えた力を以て、アウディーン王のために生み出された建造物なのだということを。

そして、真相を知る僅かな者はこう考えた。

あ、こいつ丸投げしやがったな……と。