作品タイトル不明
第四百十二話 たまにはエロくなろう
炎の柱は消え去り、そこには地面の焦げ目とライルとジーヴェの槍だけが残った。
「よっしゃー、やったぜっ!」
ライルは、目の前の地面にもう完全に燃えカスも残っていない状態を見て、ようやくガッツポーズを取って安堵の声をあげた。そしてジーヴェの槍を杖代わりにしてグッタリと弛緩する。ここがライルの限界だった。新たな命を得たばかりということもあるが、全身の修復と肉体の改変、それに竜気を纏った強化の状態に炎のブレスの全力放射。そこまでやればライルがガス欠となるのも無理はなかった。
しかし、そんなライルに水をかける存在がいた。それはジーヴェの槍である。
『我よ。まだ、みたいだぞ?』
「は? んなバカな!?」
ジーヴェの言葉にライルがガバッと顔を上げて正面を見る。
そしてライルの視界に、黒い灰が周囲から集められ形をなし始めている様子が入ってきた。それは大の字のような形で集まり始め、どうやら白熊ゴーラの再生が開始されているようであった。
「くっそ。マジで化け物かよ」
ライルがそう言いながら、槍を持ち上げて再度構える。
再生速度が頭部を修復したときよりも速いようだった。ソレを見てライルは舌打ちをし、再生するならば何度でも倒すしかないと考え、であれば今の段階でダメージを与えようと、一歩前へと進もうとすると、
「ライトニングスフィア、 檻(ケイジ) になりなさい!」
急に後ろから聞こえたルイーズの言葉と共に、ライルの頭上を雷の塊が飛び抜けた。それはそのまま雷光の檻へと変わり、少しずつ再生していたゴーラを囲い込んで閉じ込める。そして再生を繰り返しても、そのたびに雷に焼かれて炭になる白熊ゴーラの欠片をみてライルがブハーーッと一息ついた。
「助かったぜルイーズさん」
「ふふ、さすがに任せっぱなしって言うのもね。せめて、これぐらいはやらせて頂戴」
ライルが後ろを向くと、そこにはルイーズと弓花、エミリィに水晶馬に引かれた不滅の馬車があった。馬車の中にはもちろんティアラとメフィルスがいたが、ティアラは現在も召喚した 炎の騎士団(フレイムナイツ) で肉塊マリーと戦闘継続中で余裕がなさそうな顔をしていた。
「後はこれはご褒美よ」
そしてルイーズがトンッと弓花をライルの方に押すと、弓花が「ヒャウッ」と声を上げてライルに抱きついた。
「え、ちょっと? ユミカ?」
そのまま弓花に抱きつかれたライルが、驚きの声を上げる。
「ええと、ライル……その、私」
ライルが弓花の顔を見る。その弓花の眼差しは熱い。とろけるような顔で、ライルの唇を見て舌なめずりをして、
(なんだ? まさか惚れたか? 俺の格好良さに参ったか?)
ここ最近育ってきている胸がギュウと潰れているが、今のライルにはその感触がとてもよく理解できていた。現在のライルは身に付けている鎧とも竜気を通じて一体化しており、凄くよくおっぱいの感触が分かったのだ。ライルはおっぱい教の一員であり、おっぱいに惹かれる者のひとりである。
というか艶っぽい表情の弓花を見ていると、ライルは生おっぱいすらも夢ではないのではないか……そんな気分になって、こりゃあチッスでも何でもしてイケるところまでイッてしまうべきなのではないかと思ったところで、
「あーもう、無理ッ!!」
「ギャウッ!?」
ライルは叩かれて、消耗した身体ではそれに抗しきれずにその場で崩れ落ちた。
「もう、ダメ。ちょっと、ルイーズさん。これ、どうにかならないの?」
ライルを張り倒したことも気にせず、顔を真っ赤にしている弓花がルイーズに叫んだ。だがルイーズは「仕方ないわねえ」という顔をしたまま、首を横に振る。
「しょうがないじゃない。今ある気付けの薬ってそれしかないんだし。カザネがいればバンブーキノコ単品も持ってたハズだけどね。今あるのはあたし用に調合したスペーシャルなのだけなのよ」
その言い争いに眼をパチクリさせているライルに、エミリィが近付いてきた。
「兄さん、大丈夫?」
「お、おう。なんなんだ、一体?」
ライルの問いに、エミリィが答え辛そうな顔でその質問に答える。
「今のユミカは、ルイーズさんが調合した媚薬を飲んでるのよ」
「はあ? なんで?」
「黒い石の森でカザネが見つけたバンブーキノコをルイーズさんが買ってたでしょ。あれを調合したものなのよ。気力が落ちてるユミカを回復させるのには必要だったんだけど、ちょっと他の効果が強くて」
「ああ、あの滋養強壮の……で、なんでお前も顔真っ赤なんだ?」
「いいでしょ、なんでも」
ライルは素朴に感じた疑問をエミリィにぶつけるが、エミリィは顔を赤くしながらプイッとライルから視線を逸らした。
(ああ、エミリィはここに来るまでに、ユミカに肩を貸してたんだけど……そのついでに随分と上と下をまさぐられて、ちょっとエロい感じになってるワケよ……って言いたいけど……)
エミリィが口に出したくてうずうずしているルイーズを凄く睨むので止めておいた。玄孫に怒られたくはないのだ。
「大体、なんでエミリィにまで……いや、そりゃちょっと反応が可愛いからって……いや、そうじゃなくて」
弓花がブツブツ言ってる横でルイーズがなま暖かい眼で見ながら、声をかける。
「ねえユミカ。あなた、やっぱりどっちもイケる口なんじゃぁ……」
「ないからッ!!」
即答し、そして弓花は竜結の腕輪を握りしめる。黒い色の腕輪から黄金の輝きが放たれていく。
「ともかく身体の力も戻ってきてるようだし、私もあの肉達磨と戦ってきます。エミリィ、行くわよ」
「えーと、うん」
一歩引いて答えるエミリィに、弓花がエミリィに近付こうとするがグッと抑える。今の自分は危険だ。誰彼構わずキスをしたくなる。抱きしめたくなる。ちょっといろんなところをさわりたくなる。口には出せないことをしたくなる。こんなものをルイーズは何に使おうとしたのか。考えるだけで脳味噌がピンクになる。そんな思いを、弓花は竜結の腕輪から発せられる竜気を用いて、竜人化から、さらに化生の巫女のスキル『深化』により完全竜化にまで達することで抑える。
『ふう、これならやっぱり大丈夫ね』
弓花の姿は黄金の水晶竜の姿をしたドラゴンになっていた。スケールサイズは元々の人型とほとんど変わらないが、その顔は完全にドラゴンそのものとなり、全身は鱗で覆われ、水晶の角が生え、背には翼が広がり、ブルンッと尻尾が垂れていた。明らかにライルよりも遥かにドラゴンそのものに変わった弓花にライルが「うぉっ」という顔をしたのは無理もない。
「ああ、ユッコネエの竜気を込めてたのね」
ルイーズが弓花の姿を見て、そう口にすると、弓花もその言葉には頷いた。
『ええ、どうもユッコネエが変化するドラゴンって、うちのメンツの中では一番格が上らしいですからね』
そう口にする弓花はもう先程のエロ弓花ではなくなっていた。
ドラゴンが性的欲求をコントロール出来ることは弓花も知っていたが、まさかこういう場面で活用することになるとは思ってもみなかった。
「とりあえずあたしはここでこの熊を抑えておくから、ユミカとエミリィはあの化け物を倒してきて頂戴」
『分かってるわよ。ね、エミリィ』
「うん」
エミリィは先ほどとは違う、本当の意味でガブリと食ってきそうな弓花の顔にそう返す。しかし不思議と先ほどよりも危険な感じはなくなっていた。
「ライルは馬車の護衛をお願いね。それぐらいの余裕はあるでしょ」
「ラジャー。イケるぜ」
『任せよ』
ルイーズの指示にライルも頷く。全身がガタガタだが、まだ 腐食鬼(グール) 程度なら戦えるだろうとライルは自分の身体を把握している。それはジーヴェも同様のようであった。
そして弓花がその場から走り出す。
身体の調子はバンブーキノコの力でほどほどに回復している。もっともそれは一時的な効果しかないので、戦闘後はたいそう苦しむことになるはずだった。その上に、完全竜化が解ければ、エロい気持ちが溢れて止まらなくなるのだ。今後のことを考えると弓花の心は非常に重くなる。
ともあれ、今は戦闘だ。
ジン・バハルを中心に、シップーと 炎の騎士団(フレイムナイツ) が肉塊マリーと戦っている。弓花は爬虫類顔の獰猛な笑みを作ると、背中の翼を広げて尻尾を揺らしながら空を飛んだ。
完全狼化で大概のカタが付く弓花にとって、完全竜化での全力戦闘は実に久方ぶりのものだった。