軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百八話 絶望を退けよう

小さな身体が宙を舞い、手に持つ鋭利なハサミが襲いかかる。

「ふんぬっ!」

その攻撃をジンライは避けて、兄人形に向けて槍を突き出す。だが兄人形はそれをハサミで受けて、そのまま勢いで飛ばされて回転して着地する。そこにジンライがもう片方の槍で突き、弾き飛ばす。兄人形がゴロゴロと転げるが、すぐさま立ち上がる。

『つぇいっ!』

そして骸骨竜騎士のジン・バハルもまた、妹人形の攻撃を受けて、たたき落とす。追い討ちをかけようとジン・バハルはグングニルをさらに突き出すが、妹人形は飛び下がって避け、その場から離れた。

『強いなぁ。おっさんたち』

『もーいい加減死んじゃってよ』

ジンライとジン・バハル。その二人から距離をとりながら、ハサミ持ちの兄人形と、鉈持ちの妹人形がまるでダメージもなさそうにそう口にする。感情の伴わないガラスの目玉がギョロリと動き、人形から発せられる乾いた笑い声はどこか薄ら寒いものがあった。

元々は愛らしく……と設計されたデザインなのだろうが、その二体の人形から感じるのは不気味さしかない。もっとも、それで意気を削がれるほどジンライもジン・バハルも繊細な人間ではなかったが、攻撃が当たっているのに倒せない苛立ちは増していた。

「まったく頑丈だな」

ジンライがそう呟く。先ほどから関節部を破壊しようと狙ってはいるが、なかなか上手くいかない。硬く、素早く、その動きは風音のタツヨシくんシリーズと違って変幻自在で実に多彩だ。確かにこの人形たちのようにタツヨシくんを動かせれば強力な戦力となるだろうとジンライは考えていた。

またジン・バハルの方はといえばジンライほど余裕があるわけではなかった。一撃こそ当てられるが、部位を狙うまでには至らない。

そして、その人形たちよりも後方には細身のひとりの男がいつの間にか立っていた。壮年らしき風貌だが、肌の色は白く、その瞳の色は赤い。そして一番の問題は男にはまるで隙がないことだった。

ジンライも目の前の人形たちを破壊するだけならば、おそらくは不可能ではないだろうと考えている。しかし、ジンライが何かしら強く出て攻撃すれば、そこを細身の男に突かれる。そんな気配が先ほどからヒシヒシと感じられて、ジンライも積極的に出ることが出来ないでいた。

(時間稼ぎではないといいながら、時間稼ぎに徹するか。やり辛い相手だ)

目の前の男はやはりギリギリまで手の内を見せようとはしないだろうとジンライは感じている。

『いっそ、『 一角獣(ユニコーン) 』で突き崩してみてはどうだ主よ?』

ジン・バハルが近づき、小声でそう尋ねてきたが、ジンライはそれに対しては首を横に振った。

「いや、『シンディ』を外した途端に、ヤツは『シンディ』だけを狙う。奪われればここに閉じこめられて終わりだろう」

そうジンライは断言する。どれだけ技量が高かろうとジンライの技は人の技だ。結界を破る手段は持ち合わせていない。

だから義手『シンディ』を用いた『 雷神砲(レールガン) 』を出させるか否かが、ジンライたちと細身の男の勝敗そのものなのだとジンライは理解していた。

『では、どうする?』

「少し待て。もう少しでなんとかなる」

ジン・バハルの問いに、ジンライはそう返す。ジンライはただひたすらに人形たちの動きを目で追い続けている。その動きのすべてを把握しようと観察している。

『おじちゃん、髑髏さんと話してないで僕と遊ぼうよ』

『あっそぼー』

そしてジンライとジン・バハルに兄妹人形が再び攻めてくる。空中跳びを行い、本体に比べて重量のある得物の重心移動で空中でも変則的な動きを可能としている。その小ささも含めてまったくもってやり辛い。

「まったく。この歳で子供の世話とはな」

『孫までいる男が何を言うかね』

そう口にして再び人形たちとの戦いに興じようとしたジンライたちだったが、それは一時中断せざるを得ない事態が発生する。

「何?」

ジンライたちの前で突然人形たちが止まって地面に落ちたのだ。そして、ジンライたちが細身の男を見ると、男の身体からは赤いオーラが発せられていた。それは上空へと昇り、赤い巨大な月と繋がっているように見えた。

「ジャッジメントボルトか。マリーめ、しくじったな」

そう細身の男が呟く。そして背後の空間がバリンッと割れた。

それにはジンライとジン・バハルの目が見開かれるが、しかし亀裂が入ったのは細身の男の後ろの空間だけではなかった。ジンライたちの周囲の空間全体が歪み、ヒビが入っていく。

そして、世界が崩れ始めた。

**********

それは光の奔流だった。シロクマに膨大な光の奔流が浴びせられている。それは圧倒的な熱量を以て、シロクマの身体を焼いていく。

「グルォオオオオ!!」

シロクマが叫んだ。全身が焼かれているのだ。その痛みにシロクマが吠えた。再生力を上回る威力にシロクマが悲痛な声を上げていた。

「ゴーラ、頑張れ。あだぢも頑張る」

そう言いながら肉塊マリーはシロクマ『ゴーラ』を光に対して盾にしている。もっとも防ぎ切れずにマリーの肉も燃えていく。

また、マリーの身体からはいくつもの触手や手足が出て、何かしらの防衛手段を講じているようだった。そして光の出元は彼らの正面にいる馬車の上。白き一団のルイーズによる魔術『ジャッジメントボルト』である。

「くぅっ!!」

そして迅雷の杖を正面に向けてジャッジメントボルトを発しながら、ルイーズは魔力の流れを読んで敵の状態を知る。

(見た目に誤魔化されてはダメね。やっぱり、あれはヤバい)

ルイーズはマリーの状態を把握し、そう判断した。シロクマも強敵には違いないが、マリーという化け物はその一つ上をいっている。

あれは様々な耐性を持った魔物を取り込んでいるのだろう。そしてそれを取捨選択して相手に抗する能力を引き出して使用しているようだった。

そもそもジャッジメントボルトは悪魔に対してのように属性ダメージが発生していないとしても、魔術の中でも最高レベルの出力だ。

そしてジャッジメントボルトの属性は『光』と『雷』だが、どうやらマリーは『雷』のエネルギーを触手で大地に流し、『光』のエネルギーは虹色の球のような何かによって吸収しているようだった。さらにはシロクマを盾にしながら、自分を護っている。

(このままだと倒しきれないか。けど、それならそれで)

「この結界の破壊だけはさせてもらうわよッ!」

ルイーズはジャッジメントボルトを馬車から斜め下へと向けて放射している。シロクマとマリーと共に焼かれていた地面がすでに崩壊しかかっていた。この仮想空間を形成している魔術構造が歪み始めていた。どうやらジャッジメントボルトの威力で、この結界を破壊することが可能だとルイーズは把握していた。

「いっけぇぇえ!」

そして、大地の歪みをジャッジメントボルトが貫いた。世界が震撼し、空間の境界が消失していく。それが吉と出るか凶と出るか。

シロクマたちの直下の地面を中心に世界に亀裂が走って、崩壊した。

**********

弓花はつい先ほどまで確かに崖の下にいたはずだった。だがジャッジメントボルトの光によって、周囲の空間がまるでガラスのようにヒビが入って破壊され、気が付けば最初に不滅の馬車で走っていた元の荒野の大地に立っていた。

上空の空の赤い月はどこか歪んで見えた。

そして目の前には不滅の馬車に水晶馬があった。御者席にはエミリィが座っており、馬車の屋根の上には、弓花に背を向けて立っているルイーズがいた。また馬車の中にはティアラとメフィルス、さらにはライルを背に乗せたシップーが馬車の横にいる。さらに少し離れた場所にはジンライとジン・バハルもいるようだった。

「チッ、邪魔が入りやがったか」

それを見てイジカは鬱陶しそうにそう口にする。しかし、悪態吐くのはそこまでだった。弓花の槍が目の前に飛び込んできたのだ。

その突きをイジカはギリギリで避けて、刀を目の前の狼女に突き出した。だがそんな中途半端な攻撃は当然弓花には届かない。

「てっんめぇ、仲間との再会とかそういうのは良いのかよ」

『合流できたってんなら、なおさら害虫退治はしないといけないでしょ』

仲間と合流できたからといって仕切り直しなどと、そんなお飯事のような話はない。イジカが隙を見せたから突いただけのこと。

『シロキバ、あんたらはルイーズさんたちを助けて!』

「ウォン」「ウォン」

二首の大型銀狼が叫んで、主から離れていく。ちなみに二頭の銀狼はそれぞれシロとキバと名があり、それ故に二頭合体はシロキバと弓花は呼んでいた。

「ああ、そうかよ」

イジカも己の甘さに苦笑する。

「で、どうするよ。ひとりで 殺(や) れるのかい嬢ちゃん?」

『必要があればッね!』

狼の顔をした銀色の女戦士はそう叫んで、刃の化身と再度激突する。

(完全狼化の残り時間は2分か。やるしかないかッ!)

ウィンドウに表示されているタイムリミットを見ながら弓花は槍を振るう。変化が解けるまでに目の前の男を倒しきれるか否か。弓花にはそれが問題だった。