軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百話 遭遇をしよう

◎ツヴァーラ王国 ヴェッサ高原

時間は午前8時半。ジリティア山脈の麓での休憩も終えた風音たちは、ユッコネエのサンダーチャリオット2号を不思議な倉庫に仕舞っていたヒポ丸くんに引かせてヴェッサ高原を走っていた。

このサンダーチャリオット2号は、風音のスキルと同期して使用しているため、風音のサンダーチャリオットと同じ形をしていて、風音が最初に手に入れたときのサンダーチャリオットよりも大型である。

そのサンダーチャリオット2号の御者席には直樹が座っていて、中には風音とタツオが乗っていた。そして、ふたりとも今は睡眠中である。さらに馬車の上にはユッコネエが乗って丸くなって眠っていた。

風音もユッコネエも疲れを癒すと同時に 自然魔力(マナ) 吸収も兼ねて睡眠に入っている。今回の件は弓花たちに追いつけば解決するわけではない。その後に黒幕との対決も当然あるはずであり、今は力を貯める時であった。

ともあれ風音は今は就寝中で、馬車の中でクヒューと寝息を立てて寝ている姿が直樹にとっては何とも悩ましかった。しかも、現在は『竜喰らいし鬼軍の鎧』を脱いで横に置いてある状態で、風音はインナー、つまりは下着姿に不滅の布団を掛けただけの姿である。

少し寝返りをうてば布団が剥げてポロリもあるかもしれない。だが今の直樹は周囲の警戒とヒポ丸くんの制御を行わなければならなかった。

基本的にはヒポ丸くんはほぼ自動制御なのだが人が手綱を握って操る方がより良い動きをするようだとはジンライの言葉だ。それは直樹も自身の体感から理解もしていた。

(うう、見たい。ううう、だが俺は俺の役目を果たさなければ)

直樹は葛藤し続けている。それどころではない状況なのも承知だが、徹夜明けで寝てない直樹の自制心は微妙に外れていた。もしくはいつも通りだった。

「うーん」

そして直樹が葛藤している後ろから風音の寝息とともにズルッと布の音が聞こえた。

(おおおお、マジか。やべえ、でも前が)

何かが起きた。それは分かる。さらにズルズルと音が聞こえる。布団が落ちていく音だろう。つまりはどういうことか。風音が下着姿でそのまま寝ているのではないか。直樹は葛藤する。風音は直樹を信頼して眠っているのだ。その期待を裏切るわけには行かない。だがご褒美があっても良いのではないか。どうだろうか?

「あ、ヤベ。ブラの肩紐はずれてる。よいしょっと」

直樹が葛藤している後ろでそんな声がして、そのままバサッと音がした。そして「え?」と張り向いたときにはまん丸い布団の塊だけがそこにはあった。どうやら風音は布団に丸まってまた寝てしまったようだった。

(あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ)

そして直樹の心の慟哭が、直樹の脳内で木霊する。千載一遇のチャンスだったのではないだろうか。脳内にRECしておくべき光景がそこにはあったのではないか。直樹は心の中で叫んだ。

(おお、神よ。何故にあなたは俺に試練を与えようとするのか! チクショウチクショウ!!……ん?)

そして血の涙を流す直樹だったが、その視線の先に何かが映った。

「なん……だ、ありゃ?」

それは土煙であった。それが高原の先に見えていた。そして、その土煙は次第に横へ横へと広がっていくようだった。さらにはドドドドドドと何かの音が聞こえてきて、地面も振動しているようである。凄まじい数の何かが迫ってくると直樹は感じた。

「あ、姉貴ッ。ヤベエ、なんかヤベえぞ」

直樹は目の前のソレの正体に気付き、慌てながら後ろにいる風音に叫んだ。

「む、なんなのさ。いったい?」

風音はガバッと身体を起こして、目を覚ました。

「目の前に大量の土煙だ。なんかヤバいっぽいぞ。というかアレ、イッセンマンバッファローじゃないのか?」

「むう」

直樹の言葉に風音も正面をジト目で見る。そして叡智のサークレットを発動させて遠隔視でその土煙を引き起こしている存在の姿を覗き見た風音は「うん。イッセンマンバッファローだね」と答えた。さらに風音は直樹に一言呟いた。

「つか、あんたも遠隔視で見りゃいいんじゃん」

その風音の指摘に直樹が「あ」と声を上げる。

「ああ、そうだ。忘れてた」

そう言って直樹も己の耳につけている遠見のイヤリングを発動させる。

すると直樹の脳裏にも確かに巨大な鋭く突き出た角を生やした牛が向かってきている様子が見えてきた。それが横に何十頭も並んで走っている。後ろにもかなり長い列で続いているようだ。

「このままじゃ激突だな。どうする姉貴?」

その直樹の言葉に風音が考える。しかし、その考えた時間はわずかですぐに口を開いた。

「突破しよう」

風音はシンプルにそう答えた。それには直樹が目を丸くする。

「本気かよ?」

直樹がそう口にするのも無理はない。遠隔視で見えた光景は明らかにやばい。だが風音は直樹の言葉に頷く。

「こう正面からやってこられたんじゃ左右に避けようとしても捕まっちゃいそうだしね。一旦Uターンして離れてから竜体化で飛んでけば抜けられるだろうけど、今は時間も魔力を無駄にしたくないよ。それよりも正面から突っこんで斜めに横切る感じで行けば、抜けられると思う」

風音は状況を分析しながら直樹にそう言葉を返した。

「それにあっちはそう簡単にはUターンできないし、まあなんとかなるっしょ。というわけで直樹。前向いててね」

風音は直樹にそう言った。戦闘が始まる。鎧を着なければならない。着替えの時間なのだ。

「お、おおう」

そして直樹が前を向くが、その直樹を風音は睨みつけて、

「遠見のイヤリングはこっちに向けて起動してないよね?」

そう口にした。それには心臓を捕まれたように直樹の顔が固まる。

「お、おう」

直樹もそう言葉を返すだけで精一杯だった。まだ風音に向けたわけではなかったがチラッとその選択は頭によぎっていた。風音の『直感』に気付かれずに行動するのは容易なことではない。直樹程度のよこしまな考えなど一瞬でバレてしまうのだ。

「よしッ」

直樹の視線が消えると風音は不滅の布団をはぎ取った。そして横に置いてあった『竜喰らいし鬼軍の鎧』に「狂い鬼、お願い」と声をかける。

すると鎧がひとりでにガチガチと動きながら立ち上がると、風音の身体に覆い被さって、そのまま金具が外れて自ら風音に装着されていく。全自動装着機能付きの鎧である。便利だが見てると少し怖い。タツオも母親が鎧に喰われてしまうのではないかと少し心配そうに眺めていた。ちなみに認められていない人間が纏おうとすればタツオの想像は事実となるだろう。

そして全身を『竜喰らいし鬼軍の鎧』で固めた風音がタツオを連れて馬車の屋根に「ていやっ」と登った。そこにはすでに起きて臨戦態勢のユッコネエが正面を睨んでいたが、主が来たことで嬉しそうに鳴いた。

「にゃにゃー」

「うん。分かってるよ。今回はユッコネエの力も借りるからね」

「にゃっ」

風音の言葉にユッコネエが嬉しそうに応える。そして風音はともに屋根の上にあがったタツオにも声をかける。

「タツオの力も借りるよ」

『はいです』

タツオも風音の言葉に頷いた。そう言われることを疑ってもないようだった。

「そんで直樹は馬車に近づくのを追い払って。正面は『這い寄る稲妻』でいけるから左右を警戒。絶対にぶつけさせないでよ!」

「はいはい、了ッ解!」

直樹も風音の言葉に従って左手で手綱を握りながら、水晶竜の魔剣を抜いて右手に握る。そして虹色の魔法刃を出した。その長さは普段の2メートルよりも長い3メートル。使用するのが一本の分、直樹は出力を上昇させることに集中していた。

「さて、もうそろそろ接触だね。ヒポ丸くんも『這い寄る稲妻』を最大出力で!!」

風音の指示にヒポ丸くんがその速度を上げる。そしてヒポ丸くんの胸から突き出た黒岩竜の衝角とサンダーチャリオットが共鳴し、馬車とヒポ丸くんを紫の雷が覆い尽くしていく。

「さらに『魔王の威圧』も展開ッ!」

風音は馬車の上で両手を広げて『魔王の威圧』を最大で放つ。それに連動して目の前の大量の土煙が一瞬ぐらついた気配があった。勢いが若干ではあるが緩んだようだった。

「そんでここで旦那様の出番だよねッ!」

風音は虹竜の指輪を前に突き出すと、そこから虹色の光が放たれた。その光はまるで粘土のように質量を得て姿を変えゆき、巨大なドラゴン『神竜帝ナーガ』へと変わっていく。そして繰り出されるのは神竜帝最大の攻撃だ。

「旦那様フルバーストッ!!」

神竜帝ナーガから生えた無数の水晶から七色の光が正面の土煙に放たれ、そしてイッセンマンバッファローの群れに衝撃が走った。